癌と化学療法
Volume 50, Issue 4, 2023
Volumes & issues:
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投稿規程
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INSTRUCTIONS FOR AUTHORS OF JAPANESE JOURNAL OF CANCER AND CHEMOTHERAPY
50巻4号(2023);View Description Hide Description
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総説
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命とオカネ?命かオカネ?―がん高額薬剤の費用対効果とは―
50巻4号(2023);View Description Hide Description医療経済学の基礎は,「限りある医療資源の最適配分」である。コロナ禍が長期化するとともに,「医療に使えるリソースにも限りがある」ことのみならず,医療や公衆衛生を無条件で優先すれば,他の分野にしわ寄せが来ることがほぼ全国民に認識された。本来の国民皆保険(UHC)は,すべての治療を同じ条件でカバーすることまでは要求しておらず,公的医療システムでの給付に何らかの制限をかけることはUHC 下でも妥当なものである。医療経済評価・費用対効果評価は,介入の費用と効果の両面を評価するものであり,「オカネに見合った効き目があるかどうか?」の指針となり得る。基準となるのは,既存介入と比較したコストの増分を,効果の増分で割り算した増分費用効果比(ICER)である。効果のものさしとしては,様々な疾患領域の介入を横断的に評価できる質調整生存年(QALY, 生存年にQOL で重み付けをした指標)が繁用される。もっとも費用対効果のデータ・cost やQALY のデータは,それのみで意思決定が完結するものではない。治療の価値(value)はcost やQALY のみで評価できるものではなく,たとえば生産性損失や家族介助者への影響など多くの要素が含まれることが提言されている。費用対効果の評価と価値の評価は「違う」ものであることを認識しつつ,治療の多面的な価値を意思決定に組み込むことが肝要である。
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特集
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- ロボット手術の新展開
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胃癌に対するロボット支援手術の現況と展望
50巻4号(2023);View Description Hide Description世界に先駆けてわが国でロボット支援胃切除が施行された。わが国で初めての症例報告は2011 年に藤田医科大学のUyama によってなされ,その時点ですでにわが国の標準術式であるダブルバイポーラー法が確立されていた。その後,ロボット胃切除のエビデンスを確立する目的で,腹腔鏡下胃切除をヒストリカルコントロールとした前向きのコホート試験が先進医療下で実施された。その結果,ロボット胃切除は腹腔鏡下胃切除よりも安全性が高いことが証明され,保険収載されるに至った。さらにその後実施された生存解析において腹腔鏡下胃切除に比べ,ロボット支援胃切除で有意に生存期間の延長が得られたことからロボット手術の加算も認められるようになった。日本胃癌学会,日本内視鏡外科学会のガイドラインにおいてもロボット支援手術は行うことが弱く推奨されている。現在,ロボット支援手術の有用性を検証する目的で無作為化比較試験が実施されている。今後はロボット手術のエビデンスの構築と,新規ロボットの安全な導入が課題と思われる。 -
結腸癌におけるロボット支援下手術
50巻4号(2023);View Description Hide Description2018 年に直腸癌に対するロボット支援下手術が保険適用となり,直腸癌に対するロボット支援下手術は増加している。また,結腸癌に対するロボット支援下手術は有用性を示すエビデンスが少なく,これまで保険収載に至っていなかったが,2022 年4 月にロボット支援下結腸悪性腫瘍手術も保険収載となった。同時にロボット手術導入のための術者条件も緩和され,よりいっそうの普及が予想される。ロボット支援下手術は鮮明な三次元ハイビジョン,モーションスケーリングや手振れ防止機能を有した自由な多関節鉗子による安定した鉗子操作により腹腔鏡下手術の欠点を補い,結腸癌においてもその有用性を発揮することが期待されている。現時点でロボット支援下結腸癌手術のエビデンスは確立されていないが,コホート研究やデータベース研究によるとロボット支援下結腸手術でも開腹移行率や出血量,合併症率が低いというメリットが報告されている。本稿では主に結腸癌に対するロボット支援下手術の現在までのエビデンスおよび実際を概説し,今後の展望について述べる。 -
肝悪性腫瘍に対するロボット支援肝切除術
50巻4号(2023);View Description Hide Descriptionロボット肝切除は低侵襲肝切除の新しいプラットフォームで,その機能的利点を活用することにより,動作制限や視野の不安定性などの腹腔鏡肝切除の困難性を低減・克服することが期待されている。肝悪性腫瘍に対する低侵襲肝切除,特に解剖学的肝切除は技術的難度が高いが,肝門部脈管剝離・処理,肝実質切離における安定した視野展開,結紮操作,縫合止血操作などにおいてロボット機能の有用性が示唆される。解剖学的肝切除例の解析において腹腔鏡手術に比して,ロボット手術では出血量,術後合併症,開腹移行率,在院日数などの短期成績が有意に優れているという報告が最近散見される。また,ロボット肝切除例での腫瘍学的長期成績は,開腹あるいは腹腔鏡のそれに遜色ないとする報告も多い。さらには脈管再建を伴う肝切除におけるロボット機能の有用性も示唆されている。肝悪性腫瘍におけるロボット肝切除は正確性,安全性,根治性の観点から,特に難度の高い解剖学的肝切除において十分な実効性があると考えられる。ロボット肝切除は今後,肝悪性腫瘍に対する低侵襲肝切除の主軸となり得る。 -
腎癌および腎盂・尿管癌に対するロボット手術
50巻4号(2023);View Description Hide Description近年,泌尿器科領域の手術においても低侵襲化が進んでおり,腹腔鏡手術,ミニマム創手術,単孔式手術,そしてロボット支援手術へと日進月歩に目まぐるしい発展を遂げている。腎癌および腎盂・尿管癌に対してもロボット支援手術の適応が拡大され,本邦では2016 年よりロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術(RAPN),2022 年よりロボット支援根治的腎摘除術(RARN)およびロボット支援腎尿管全摘除術(RANU)が保険収載された。従来の腹腔鏡手術と比較して,ロボット支援手術では三次元拡大明視野,自由度の高い手ぶれ防止機能のある鉗子操作および巧緻性の向上などの多くの利点がある。RAPN はすでに本邦でも標準術式の一つとなっているが,RANU およびRARN もそのようになっていくことが予想され,さらに安心で安全な低侵襲治療の普及が期待されている。 -
頭頸部癌に対するロボット手術―経口的ロボット支援手術―
50巻4号(2023);View Description Hide Description頭頸部領域におけるロボット手術は,本邦では2022 年に保険収載され,実施施設も徐々に増加している。適応としては,中咽頭癌,声門上癌,下咽頭癌の転移リンパ節に節外浸潤を認めない,Tis,T1,T2 症例が対象となっている。本手術では実際のロボット操作技術の習得に加え,内腔側からの解剖の知識,開口器による展開やロボットアームのドッキングなどのセッティングへの習熟,そして腫瘍の浸潤範囲の正確な把握が重要なポイントであると考える。今後,シングルポートのロボットの導入により,さらなる適応の拡大が期待される。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non‒Melanoma Skin Cancers メラノーマ・皮膚癌 皮膚がんの薬物療法はどのように進化しているのか?
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医事
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アントラサイクリン系抗がん剤の血管外漏出にデクスラゾキサンを使用した4 例の検討
50巻4号(2023);View Description Hide Descriptionアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出に対してデクスラゾキサンを使用した当院の4 例について検討した。漏出薬剤はADR 2 例,AMR 2 例で全例に対してステロイド軟膏処置が行われ,潰瘍形成など重篤化した症例はみられなかった。有害事象としては抗悪性腫瘍薬の骨髄抑制を増強することが知られ,当院症例でも好中球減少と血小板減少の経時的変化からはday 10~17 付近にnadir が確認された。当院では院内マニュアルを作成して多職種で運用しており,本薬剤は骨髄抑制をしっかり管理すれば血管外漏出に伴う皮膚障害の軽減に寄与するものと思われた。
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症例
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化学療法Progressive Disease(PD)後にOlaparib の再投与が可能であった症例の検討
50巻4号(2023);View Description Hide DescriptionPARP 阻害剤であるolaparib は,化学療法治療歴のあるBRCA1/2 遺伝子変異陽性かつHER2 陰性の手術不能または再発乳癌に対し,2018 年に承認された。olaparib は化学療法と比較すると有害事象が比較的軽微とされ,またその特徴からBRCA 変異陽性乳癌に対して高い治療効果が期待できる重要な薬剤である。今回,BRCA2 遺伝子変異陽性患者に対しolaparibを開始したところ,強い嘔気が出現したため一度継続を断念したが,化学療法がprogressive disease となった後,olaparibを400 mg に減量し,あらかじめ制吐剤や抗不安薬など多剤を併用することと心理療法を加えることで,治療の継続が可能であった症例を経験したので報告する。 -
化学療法抵抗性でアベマシクリブ+レトロゾール療法が奏効した乳癌癌性胸膜炎の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は78 歳,女性。左乳房腫脹を主訴に外来を受診した。左乳房に10 cm 大の腫瘤と皮膚の浮腫および発赤を認め,生検にて浸潤性微小乳頭癌と診断された。CT 検査では,左胸壁浸潤,多発腋窩リンパ節転移および左癌性胸膜炎を認め,進行乳癌としてベバシズマブ+パクリタキセルによる治療を開始した。8 か月で病勢進行にてエリブリンへ変更した。エリブリンは4 か月で病勢進行を認めた。三次治療としてアベマシクリブ+レトロゾール療法を開始し腫瘍縮小と胸水の減少,腫瘍マーカーの低下を認め,特に重篤な有害事象はなく病勢進行まで11 か月間治療を継続した。化学療法抵抗性でアベマシクリブ+レトロゾール療法が有効であった高齢の乳癌癌性胸膜炎の症例を経験したので報告する。 -
右側大動脈弓を伴った再発肺腺癌に対しPembrolizumab を投与した1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description右側大動脈弓を伴った原発性肺癌の報告例は少なく,再発症例に対する治療報告は希少である。症例は70 歳台後半,女性。膝関節手術前精査目的のCT で右側大動脈弓と右肺中葉に径3.4 cm の腫瘤が指摘され,原発性肺腺癌,cT2aN0M0,cStage ⅠB と診断し,右中葉切除術を施行した。切除標本の病理組織検査でpT1cN1M0,pStage ⅡB と診断し,PD‒L1 TPSが85% であった。術後1 年目に縦隔リンパ節再発と多発肺転移を認め,pembrolizumab を投与後,リンパ節転移の縮小と肺転移の消失を認め,partial response と判定した。手術後から2 年経過した現在も生存中である。
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特別寄稿
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- 第44回 日本癌局所療法研究会
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Pagetoid Spread を伴う肛門管腺癌に対しTpTME 併用腹腔鏡下直腸切断術を施行した1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は80 代,男性。会陰部びらんを主訴に当院に紹介となった。下部消化管内視鏡検査では肛門管に全周性の発赤調平坦型病変を認めた。生検では高分化管状腺癌,免疫組織学的検査にてCK20 陽性,GCDFP15 陰性であり,Pagetoid spreadを伴った肛門管癌,cT1bN0M0,cStage Ⅰ(TNM 分類第8 版)と診断した。手術の方針となり術前に肛門周囲皮膚,肛門管口側のnegative biopsy を行い病変の進展範囲を明らかにした。さらに術中に肛門周囲皮膚の断端陰性を迅速病理診断で確認し,transperineal total mesorectal excision(TpTME)を併用した腹腔鏡下直腸切断術,D3 郭清を施行した。手術時間6 時間55 分,出血量は60 mL であった。術後経過は排尿障害などなく良好で,術後15 日目に退院した。病理組織診断では断端陰性であり,ypT1aN0M0,ypStage Ⅰであった。術後1 年無再発生存中である。Pagetoid spread を伴った肛門管腺癌はまれであり,その皮膚病変は原発性Paget 病と臨床・病理学的に酷似しているが,治療方針が異なることからその鑑別が重要となる。腫瘍進展範囲の詳細な検討とTpTME を併用することにより,断端の確保と排尿機能の温存を両立した手術が可能であった。 -
鏡視下胃内手術にて切除し得た食道胃接合部胃粘膜下腫瘍の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description今回,食道胃接合部(EGJ)に存在する胃粘膜下腫瘍に対して,鏡視下胃内手術にて低侵襲かつ機能を温存し切除し得た1 例を経験した。症例は30 歳台,男性。健診のバリウム検査にて異常を指摘された。上部消化管内視鏡検査にて胃噴門部後壁に約25 mm 大の粘膜下腫瘍を認め,精査加療目的に当院紹介となった。超音波内視鏡穿刺吸引法検査(EUS‒FNA)にてleiomyoma と診断された。腫瘍は食道背側から噴門部へかけての管内管外発育型腫瘍であったが,若年であり機能温存を考慮した鏡視下胃内手術を行う方針とした。臍頭側の3 cm 正中切開にて開腹し,胃体中部前壁を切開し,double protector method にて手術を開始した。腫瘍の粘膜面は胃内に存在したが,腫瘍は下部食道筋層の背側に巻き込むように進展していた。丁寧に剝離し,胃内操作にて腫瘍を切除し得た。術後経口造影検査にて明らかな狭窄,逆流も認めず,胃の蠕動も正常であった。 -
食道癌FP 療法中に高アンモニア血症による意識障害を来した1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description5-fluorouracil(5-FU)による高アンモニア血症は重篤な副作用だが,食道癌に対する5-FU+CDDP(FP)療法中に発症した報告は非常に少ない。食道癌FP 療法中に高アンモニア血症による意識障害を来した1 例を経験したため報告する。症例は70 歳台,男性。食道癌に対してFP 療法を開始後,4 日目未明に意識障害を生じた。血中アンモニア値が427μg/dLと高値であり,高アンモニア血症による意識障害と診断した。化学療法中止と補液・分枝鎖アミノ酸製剤など投与により軽快し,3 か月後に食道癌根治術を施行した。5-FUを含む化学療法施行時の意識障害では,高アンモニア血症を鑑別にあげ対処すべきと考えられる。 -
大腸癌薬物療法の先発後発医薬品の安全性に関する検討
50巻4号(2023);View Description Hide Description背景: 大腸癌薬物療法のオキサリプラチンは後発医薬品が普及しているが,その有害事象に関する検討は少ない。大腸癌薬物療法カペシタビン+オキサリプラチン(CAPOX)で使用するオキサリプラチンの先発品と後発品の安全性について検討した。対象と方法: 2018 年1 月~2022 年1 月までに新規にCAPOX(+ベバシズマブ)を開始した症例のうち,途中で後発品から先発品に変更した症例を除外した86 例を対象として後方視的に検討した。結果: 後発品(GE)群は47 例(54.6%)で,先発品(EP)群は39 例(45.4%)であった。両群間で患者背景に有意差はなく,オキサリプラチン投与回数はGE 群4回でEP 群5 回であった。Grade 2 以上の好中球減少症はGE 群51.1%(24 例),EP 群で33.3%(13 例),過敏症はGE 群14.9%(7 例),EP 群で7.7%(3 例)であり,有意差は認めなかった。総括: 大腸癌薬物療法CAPOX においてオキサリプラチン後発品は先発品と有害事象に有意差はなく安全に使用できる。 -
虫垂粘液腺癌(MACA)に対し腹腔鏡下盲腸部分切除術を施行し根治切除した1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。排便時の右下腹部痛を主訴に受診した。造影CT 検査にて虫垂が高度に拡張しており,虫垂粘液産生腫瘍が疑われたが,明らかに癌を示唆する所見が乏しく,腹腔鏡下手術の方針とした。術中所見から盲腸部分切除にて根治切除が可能と判断し施行した。術後病理診断では虫垂粘液腺癌(mucinous adenocarcinoma: MACA)であった。しかし組織型がG1(高分化粘液癌)であること,領域リンパ節(No. 201)への転移も認めないことから,リンパ節郭清を目的とした追加切除術は行わないこととした。術後経過良好で術後4 日目に退院した。現在,術後9 か月無再発生存中である。 -
膵頭十二指腸切除術後に膵管ロストステントが肝内胆管へ迷入し肝内結石を生じた1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。乳頭部癌に対し幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy: PD)を施行した。術後3 か月のCT にて膵管ロストステントが胆管内に迷入していた。胆管炎の兆候を認めないため経過観察とし,一時的にγ-GTPの上昇を認めたが胆管炎を発症することなく経過した。術後2 年のCT にてロストステントは自然脱落していたが,肝内結石を認めたためERCP 下に採石を施行した。PD 後の膵液漏は非常に重要な合併症の一つであるが,膵液漏予防策として膵空腸吻合部に膵管ステントを留置することが多い。最近では内瘻化しロストステントを用いる施設が増えているが,ロストステントによる合併症の報告も散見される。今回われわれは,PD 後に膵管ロストステントが胆管内に迷入し,肝内結石を生じた症例を経験したので文献的考察を加え報告する。 -
肝動脈塞栓後に胆道出血を来した肝細胞癌の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。肝細胞癌破裂に対するTAE 後に肝切除を予定していた。手術の2 週間前に背部痛を主訴に来院し,腫瘍からの胆道出血と診断された。胆管内血腫による閉塞性黄疸を認めたため,ENBD による胆道ドレナージを行った。状態が安定したところで肝前区域切除を施行した。胆管浸潤を認める肝細胞癌のTAE 後には,胆道出血を来す可能性があることを念頭に置き,出血の際には適切な方針の下に治療を行う必要がある。 -
下部直腸に発生した扁平上皮癌の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は61 歳,男性。排便困難を主訴に近医を受診し,精査にて直腸Rb に扁平上皮癌を認め,膀胱および精囊への浸潤を認めた。直腸扁平上皮癌,cT4b(膀胱,精囊)N0M0,cStage Ⅱc と診断し,化学放射線療法(FOLFOX,RT 50.4 Gy/28 Fr)を施行した後に手術の方針とした。腫瘍縮小を認め,化学放射線療法施行3 か月後に腹腔鏡下骨盤内臓全摘術(TaTME 併用),回腸導管造設術,横行結腸人工肛門造設術を施行した。術後合併症は認めず,術後5 日目より食事を開始し,術後26 日目に退院した。病理組織検査では組織学的治療効果はGrade 1a で,扁平上皮癌成分のみを認めた。ypT4b(膀胱,精囊)ypN0cM0,ypStage Ⅱc と診断した。術後6 か月時点で無再発生存中である。 -
大腸髄様癌の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は79 歳,女性。腹痛を主訴に近医を受診した。腹部エコーにて横行結腸の壁肥厚,リンパ節腫大を指摘され当科紹介受診となった。下部消化管内視鏡検査にて横行結腸に全周性3 型腫瘤を認めた。狭窄著明であったため入院管理とした。横行結腸癌(cT3N0M0,cStage Ⅱa)の診断で,待機的に腹腔鏡下横行結腸切除術(D3 郭清)を施行した。術後経過は極めて良好で,POD9 で自宅退院した。病理結果は髄様癌(pT3N0M0,pStage Ⅱa)の診断で,B‒RAF 変異あり,また高頻度マイクロサテライト不安定性を示した。術後補助化学療法として,UFT/UZEL 療法を6 か月間施行した。術後1 年6 か月無再発で,外来経過観察中である。髄様癌は全大腸癌における比率は2~3% と推定されるまれな組織型であり,高齢者,女性,右側結腸に好発し,比較的予後が良好であるのが特徴である。今回われわれは,横行結腸切除,術後補助化学療法を施行した横行結腸髄様癌の症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。 -
上行結腸神経鞘腫の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は69 歳,男性。X-7 年に下部消化管内視鏡検査で上行結腸に15 mm 大の粘膜下腫瘍を指摘されていたが,生検で悪性所見を認めず,経過観察を継続していた。X 年に施行した腹部造影CT 検査で同腫瘍の増大(25 mm 大)を認め,また周囲のリンパ節腫大も伴っていた。PET‒CT 検査では同腫瘍に一致してFDG の集積を認めた。以上の所見から,悪性腫瘍である可能性を疑い手術の方針となった。手術は腹腔鏡下右半結腸切除術(D2 郭清)を施行した。病理組織学的検査の結果,神経鞘腫と診断した。消化管に発生する神経鞘腫はまれであり,通常は良性腫瘍である。しかし粘膜下腫瘍という形態的特徴以外に特異的な症状や画像所見はなく,他の粘膜下腫瘍との鑑別は困難である。近年,粘膜下腫瘍の診断については超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS‒FNA)の有用性が報告されており,今後さらなる普及が待たれる。 -
切除不能膵癌に対し化学療法が奏効し術後病理学的完全奏効を認めた3 症例
50巻4号(2023);View Description Hide Description切除不能膵癌に対し抗癌剤治療が奏効し,切除可能となったconversion surgery(CS)の報告が増えている。CS が予後改善に寄与するかどうかのエビデンスレベルはまだ低く,手術適応についてコンセンサスはないが,有用な治療選択肢の一つと考えられる。当院において近年CS を施行し,病理学的完全奏効を認めた3 症例を報告する。 -
外科的切除術を行った成人輪状膵に合併した進行胆囊癌の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は81 歳,男性。心窩部痛で前医を受診し,血液検査でCEA 高値および腹部エコー検査で肝左葉に占拠性病変を指摘され当院へ紹介となった。腹部造影CT 検査で肝と結腸へ浸潤を伴う進行胆囊癌と,偶発的に十二指腸下降脚を囲む輪状膵を認めた。手術適応と判断し,肝S4a+S5 切除術,肝外胆管切除術,横行結腸部分切除術および胆道再建術を施行した。病理所見は胆囊癌,pT3aN1M0,pStage ⅢB であった。成人輪状膵に対する悪性腫瘍の合併頻度は不明であるが,胆道系腫瘍の合併報告例は散見する。本症例は成人輪状膵に合併した進行胆囊癌の1 例であり,文献的考察を含めて報告する。 -
盲腸癌の外鼠径ヘルニア囊転移をTAPP アプローチで切除した1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description鼠径部に発生する悪性腫瘍は比較的少なく,さらに転移性腫瘍は極めてまれな病態である。今回われわれは,盲腸癌鼠径ヘルニア囊転移を腹膜腔(transabdominal preperitoneal: TAPP)アプローチで切除した症例を経験したので報告する。症例は80 歳台,男性。術後1 年6 か月の造影CT で右鼠径管内に腫瘤を認め,孤立性鼠径管転移と診断し,手術を施行した。病理学的検査では,盲腸癌の腹膜転移として矛盾しなかった。転移巣術後2 年現在,無再発生存中である。悪性疾患の既往がある症例では,鼠径ヘルニア囊転移を来すことも念頭に置き,診療を行うことが必要である。 -
食道癌に対するニボルマブ治療中にPeritumoral Infiltration と診断した特異的な肺炎を来した1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は54 歳,男性。根治切除不能進行食道癌を指摘された。化学放射線療法を行いPR,その後FP 療法を3 コース施行後に経過観察とした。治療開始後2 年1 か月で右肺下葉に肺転移が出現し,FP 療法するも新規肺転移を左上葉に認めた。Second-line 化学療法としてネダプラチン+ドセタキセル療法を導入するも肺転移は増悪し,third-line としてニボルマブを導入した。ニボルマブ投与3 コース後に肺転移に重なる浸潤影を認めたが投与継続し,6 コース後に右肺下葉の転移巣は肺炎像とともに消失し,この肺炎像をperitumoral infiltration(PTI)と診断した。PTI は薬剤性肺障害との鑑別に苦慮するが望ましい抗腫瘍効果を反映する画像所見であり,慎重に診断する必要がある。 -
集学的治療により根治切除し得た膀胱浸潤を伴う直腸S 状部癌の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は68 歳,男性。膀胱浸潤を伴う直腸S 状部癌と診断されたが,低左心機能のため耐術不可能と判断され当院に紹介された。横行結腸人工肛門を造設し,mFOLFOX+Pmab を7 コース施行した。有害事象なく経過し,治療効果判定はPR であった。栄養状態および心機能の改善を認め,高位前方切除術+D3 リンパ節郭清術+膀胱部分切除術を施行した。病理検査結果は,ypT4b(膀胱)N0M0,Stage Ⅱc であり,組織学的治療効果判定はGrade 2 であった。術後尿路感染症と表層創部感染を認め治療を行った。第40 病日に転院した。術後9 か月間,無再発生存中である。 -
術前診断に難渋した4 型直腸癌の1 切除例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。BMI 25.6。健康診断で便潜血反応陽性を指摘されるも放置していたが,約1 年後に繰り返す下痢と便秘を認めた。下部内視鏡で直腸癌が疑われ生検を行うも悪性所見は得られず,二度目の生検検査で直腸癌(RS)の診断となった。明らかな遠隔転移は認めない4 型直腸癌の診断で,腹腔鏡下高位前方切除術+D3 リンパ節郭清術を施行した。4 型大腸癌は粘膜下進展が特徴であり,口側・肛門側断端は肉眼的確認に加えて迅速病理検査で陰性を確認し,手術を終了した。病理組織診断はRS,Type 4,6.0×4.5 cm,pT4a(SE),por2>muc>>sig,pN3(18/19),INF b,Ly1c,V1c,Pn1b,pEX1,pPM0,pDM0,pRM0,pStage Ⅲc であった。術後補助化学療法はcapecitabine+oxaliplatin(CapeOX)療法を4 コース+capecitabine 療法を3 コース施行した。術後8 か月目のCT 検査で骨・リンパ節転移を認め,FOLFIRI+panitumumab 療法を8 コース施行するも術後18 か月で死亡となった。びまん浸潤増殖する4 型大腸癌は全大腸癌の0.5~1.3% とまれであり,粘膜下を広がる特性のため早期診断が困難で進行癌で発見されることが多い特徴があり,本症例も一致していた。今回われわれは,術前診断に難渋した4 型直腸癌の1 切除例を経験したので報告する。 -
放射線治療後に横行結腸浸潤を伴う臍転移(Sister Mary Joseph’s Nodule)を来した子宮頸癌の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description内臓悪性疾患の臍転移はSister Mary Joseph’s nodule(SMJN)といわれ,予後不良の兆候とされている。今回われわれは,子宮頸癌の臍転移症例を経験したので報告する。症例は80 歳台の女性で子宮頸癌(cT3bN0M0,cStage ⅢB,扁平上皮癌)に対して放射線療法を施行され,画像上,完全寛解となった。初回治療の2 年9 か月後に臍部の疼痛が出現した。単純CT を撮像したところ,臍ヘルニアおよびその周囲の結節影を認めた。PET‒CT 検査にて同部位にFDG 集積を認め,子宮頸癌のSMJN が疑われた。根治切除を施行されたが,術後8 か月に死亡した。 -
傍大動脈リンパ節転移陽性胆囊癌に対してConversion 手術を施行した1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は71 歳,女性。体重減少,心窩部痛で近医を受診し,CT で胆囊腫瘍を認め,CEA 高値であったため胆囊癌の疑いで当科受診となった。EUS‒FNA を施行し,傍大動脈リンパ節転移を伴う胆囊癌の確定診断となった。切除不能と判断しgemcitabine+cisplatin(GC)を開始,10 コース施行後のCT で傍大動脈リンパ節の顕著な縮小,MRI およびPET‒CTでは傍大動脈リンパ節の拡散制限の低下,FDG 集積の消失が確認された。conversion 手術の適応と判断し,胆囊床切除術+リンパ節郭清術を施行した。病理学的診断ではリンパ節転移の陰転化が確認された。傍大動脈転移陽性胆囊癌におけるconversion手術を経験したため,その1 例を報告する。 -
当科におけるロボット支援下直腸切除術の短期および長期成績
50巻4号(2023);View Description Hide Description背景: 当院は2006 年に本邦でダヴィンチを初導入し,当科では2009 年に院内倫理審査委員会の承認を経て2010 年よりロボット支援下直腸癌手術を施行している。2021 年は50 例以上を施行し,これまでに165 例を経験してきた。本邦では直腸癌に対して2018 年に保険収載となったため,長期成績(5 年)をだせる施設は少ない。当科におけるロボット支援下直腸癌手術の長期・短期成績を報告する。方法: 対象は短期(2010~2021 年)165 例,長期(2010~2016 年)49 例とした。直腸癌に対してロボット支援下直腸根治切除術を施行した症例である。解析は後方視的解析で,生存分析にはKaplan‒Meier曲線を使用した。結果: 短期成績をTable 1 にまとめた。長期成績は5 年全生存率90.8%,5 年無再発生存率90.6%,5 年累積局所再発率7.3%,5 年累積遠隔転移率9.4%。結語: 2018 年のロボット直腸切除術保険収載に伴って,腹腔鏡下手術からロボット支援下手術が主流となったが,特にその長期成績についての本邦の報告はまだ少ない。当科ではロボット直腸手術開始から11 年経過し,短期および長期成績は概して受容可能であった。 -
腹腔鏡補助下結腸部分切除を施行した胃癌大腸転移の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は81 歳,男性。3 年前に胃癌に対し幽門側胃切除,D2 リンパ節郭清,Billroth Ⅰ法再建を施行され,最終診断は胃癌,L,Post,Type 2,sig/por2,pT4a(SE),pN3b(30/56),H0,P0,M0,pStage ⅢC であった。術後3 年目のCTで横行結腸に隆起性病変を指摘され,精査にて大腸転移が疑われた。横行結腸以外に転移病変を認めなかったため,腹腔鏡補助下横行結腸切除術の方針とした。臍部に小切開を置き,単孔式で手術を行い,病変周囲の癒着を剝離後に横行結腸を臍部から引きだした。体腔外で病変を含む結腸を部分切除後,機能的端々吻合で再建した。病理組織学的検査所見で粘膜下層以深が優勢で,一部印環細胞癌の形態を示す腫瘍細胞であり,胃癌の横行結腸転移と診断された。術後経過良好で第8 病日に退院し,外来でS‒1+オキサリプラチン併用化学療法施行中である。比較的まれな胃癌大腸転移に対し,腹腔鏡補助下結腸部分切除を施行した。 -
S‒1 単独療法により長期生存が得られた再発食道癌の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は66 歳,男性。1 年前に食道癌に対しDCF 療法2 コース後に食道亜全摘,二領域リンパ節郭清,胸骨後経路胃管再建を施行した。最終診断は食道癌,Lt,CT‒Type 2,ypT3,ypN0(0/62),M0,ypStage Ⅲであった。術後6 か月目のCT で縦隔リンパ節転移,胸膜播種を指摘されパクリタキセル単独療法を施行したが,術後12 か月目のCT でリンパ節再増大を認めた。S‒1 単独療法による化学療法を開始したところ,S‒1 単独療法開始後3 か月目のCT でリンパ節転移は縮小し,胸膜播種も縮小を維持していた。有害事象はCTCAE v5.0 Grade 2 の血小板減少と下痢があったが,Grade 3 以上の有害事象は認められなかった。S‒1 単独療法を開始後2.5 年以上病変悪化なく経過し,長期生存が得られている。 -
術前化学放射線療法により病理学的完全奏効が得られた直腸肛門管癌の1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は79 歳,男性。リンパ節転移を伴う直腸肛門管癌に対して術前化学放射線療法を施行した。化学放射線療法後に開腹直腸切断術を施行し,術後病理検査にて病理学的完全奏効を確認した。術後,臀部手術創感染,骨盤内膿瘍を認めドレナージ術および抗生剤治療を行った。局所再発リスクの高い切除可能な下部直腸癌に対する術前化学放射線療法が著効した症例は,watch and wait approach を含めた治療選択が必要である。 -
上腸間膜静脈浸潤を伴うリンパ節転移を認めた盲腸癌に対しSMV 合併切除,再建術を施行した1 例
50巻4号(2023);View Description Hide Description症例は77 歳,女性。血便を主訴に近医を受診し,大腸内視鏡検査で盲腸に3 型大腸癌を指摘された。CT 検査では,横行結腸への直接浸潤も疑われた。また,上腸間膜静脈(superior mesenteric vein: SMV)の右側に腫大したリンパ節(#203)を認めた。腹腔鏡下に手術を開始し,血管処理に移行したところSMV 右側にリンパ節(#203)の強固な癒着を認めた。小開腹創より,SMV の一部を合併切除することでen bloc に回盲部切除術を完遂した。病理組織学的所見では,T4b(横行結腸)N3M0,pStage Ⅲc であり,#203 の転移リンパ節はSMV に浸潤していた。術後補助化学療法を行ったが,術後4 か月で肺転移が出現した。術後29 か月で肝転移を認め,34 か月でbest supportive care(BSC)の方針で転医となった。