癌と化学療法

Volume 50, Issue 5, 2023
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総説
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即納型T 細胞製剤を用いたがん免疫療法の開発
50巻5号(2023);View Description
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がん免疫療法の領域では,患者由来のT 細胞を体外で遺伝子改変して患者に投与する方法の有効性が示されている。しかし,この「自家」のT 細胞を用いる方法ではコストや時間がかかる,品質が不安定などの課題が残されている。時間がかかるという課題に対しては「他家」のT 細胞をあらかじめ用意しておくことで解決できる。他家T 細胞の材料として末梢血が検討されており,拒絶される可能性やGVHD を起こすリスクを回避する方法が模索されているが,なおコストや品質の安定性という課題は残る。一方で,多能性幹細胞を材料とすれば,量産によりコストが下げられ均質性も達成できると期待できる。筆者らは,特定のT 細胞受容体遺伝子をiPS 細胞に導入し,そのiPS 細胞からT 細胞を作製する方法の開発を進めてきており,現在臨床試験に向けて準備中である。この戦略により,汎用性の高い均質なT 細胞製剤を,必要に応じて即納できるようになると考えている。
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特集
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- 癌に対する細胞治療の新展開
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個別化がん免疫療法の確立へ向けた取り組み
50巻5号(2023);View Description
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免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が抗悪性腫瘍薬として一般的になり,B 細胞系悪性血液疾患に対するCART療法が本邦においても普及しつつある。このような免疫療法の革新的な進展と相まって抗腫瘍免疫応答に対する認知と理解がさらに加速し,固形がんを対象としたがん免疫療法の開発がますます盛んに行われるようになってきた。そのなかで,個々の腫瘍ゲノムの遺伝子変異に起因する変異抗原あるいはその変異抗原を特異的に認識する腫瘍反応性T 細胞を利用した「個別化がん免疫療法」の開発が大きく進展しており,革新的な治療が現実になりつつある。本稿では「個別化がん免疫療法」への期待の背景と実現に向けた取り組み,そしてその課題と展望について概説したい。 -
iPS 細胞を利用した免疫再生治療の基礎と臨床
50巻5号(2023);View Description
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"近年,キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法などの免疫細胞療法によって,一部の難治性血液悪性腫瘍の治療は大幅に進歩した。しかし,患者末梢血液の免疫細胞を用いたCART細胞療法には,高コスト,患者ごとの個別製造の煩雑さや品質の不安定さ,あるいは患者自身のT 細胞の疲弊により長期治療効果が得られにくいといった問題点も存在する。人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は,ほぼ無限の増殖能と初期化による細胞の若返りによってこれらの問題点を解決できる可能性を有している。また,iPS 細胞は遺伝子改変や様々なタイプの免疫細胞への分化誘導が可能であり,""offtheshelf""の同種細胞療法を開発するための理想的な細胞供給源である。ここでは主に著者らが進めているiPS 細胞由来のキラーT 細胞,NK細胞を用いた免疫再生治療の臨床開発状況に関して概説し,またiPS 細胞由来の他の細胞傷害性を有するT 細胞サブセット(NKT 細胞,γδT 細胞,MAIT 細胞)およびマクロファージを用いた免疫再生治療の概略を述べる。" -
固形がんに対して有効性を発揮するCAR-T細胞の開発
50巻5号(2023);View Description
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がんの治療には従来,三大標準治療と呼ばれる外科療法・化学療法・放射線療法が適用され,多くの命を救ってきた。しかし,わが国ではがんが1981 年以降40 年以上にわたり死亡原因の1 位であり続け,その傾向には歯止めがかかっていない。厚生労働省の統計によれば2021 年の全死亡者に占める割合は26.5% であり,これはわが国のこの年の全死亡者のうち約3.5 人に1 人ががんで死亡した計算になる。また,がん患者の診断や治療に費やされる医療費は著しく増大し,日本経済を圧迫する一因にもなっており,がんに対する優れた診断技術の確立および効果的な治療法・再発予防法の開発が求められている。2018 年のノーベル生理学・医学賞の対象となった免疫チェックポイント阻害療法に続く次世代のがん免疫療法として,キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)T細胞療法に高い注目が集まっている。CART細胞療法はB 細胞性の血液悪性腫瘍に対して極めて高い治療効果を示し,2017 年に米国において承認されたのを皮切りに,2018 年には欧州,2019 年3 月にはわが国でも承認された。その一方で,現在のCART細胞療法は悪性腫瘍の大部分を占める固形がんに対して効果が乏しく,克服すべき大きな課題となっている。本稿では固形がんに対して有効に機能するCART細胞療法の確立に向けた技術開発を中心に概説する。 -
他家NKT 細胞を用いた免疫細胞療法の開発
50巻5号(2023);View Description
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千葉大学ではこれまで肺癌,頭頸部癌に対して自己NKT 細胞をターゲットにした免疫細胞療法の開発を行ってきた。肺癌に対しては自己末梢血を採取し,ex vivo で誘導したαgalactosylceramide(αGalCer)添加抗原提示細胞を投与することで体内のNKT 細胞を活性化させ,生存期間を延長できる可能性を明らかにした。また,頭頸部癌に対してはαGalCer 添加抗原提示細胞に加えて,自己末梢血からex vivo で増幅,活性化させたNKT 細胞を合わせて投与することで治療奏効率は向上した。しかし,NKT 細胞はヒトにおいて末梢血中には通常0.01~0.1% 程度しか存在せず,その安定的な細胞の確保は容易ではない。安定した治療効果を期待するには均一な性質をもつNKT 細胞の安定供給が不可欠であり,世界的にもNKT細胞を用いた免疫細胞療法の開発は他家NKT 細胞を用いたものへとシフトしつつある。そのような環境のなかで,われわれはiPS 細胞技術を用いて製造した他家iPS 細胞由来NKT 細胞療法の臨床開発を行っており,現在頭頸部癌に対して他家iPS 細胞由来NKT 細胞単剤療法の第Ⅰ相臨床試験中である。
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Current Organ Topics:Hematologic Malignancies/Pediatric Malignancies 血液・リンパ系腫瘍 特殊なB 細胞性リンパ腫の治療指針
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特別寄稿
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甲状腺癌におけるRET 遺伝子異常―選択的RET 阻害薬による治療に向けて―
50巻5号(2023);View Description
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甲状腺癌のドライバー遺伝子の一つに,チロシンキナーゼ受容体をコードするrearranged during transfection(RET)遺伝子がある。甲状腺癌でみられるRET の遺伝子異常には二つのタイプがあり,乳頭癌ではRET 遺伝子のチロシンキナーゼ領域と他のパートナー遺伝子との融合遺伝子が,遺伝性および散発性の髄様癌では遺伝子変異が検出され,これらの異常により下流シグナル経路の恒常的活性化を介して腫瘍形成が促進される。最近,選択的RET 阻害薬が開発され,海外および本邦においてRET 遺伝子異常を有する甲状腺癌および肺癌に対して承認された。今後はコンパニオン診断などによりRET 遺伝子異常の有無を検査することが重要になると考えられる。
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原著
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トラスツズマブバイオ後続品とペルツズマブの併用における有効性と安全性
50巻5号(2023);View Description
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トラスツズマブバイオ後続品は単剤または化学療法との併用による臨床試験によって承認されたが,ペルツズマブとの併用では臨床試験は行われておらず,有効性,安全性のデータが不足している。本研究ではトラスツズマブバイオ後続品とペルツズマブの併用における有効性と安全性を評価した。無増悪生存期間は先行バイオ医薬品10.5 か月(95%CI: 3.3‒16.3),バイオ後続品8.7 か月(2.1‒NA),ハザード比0.96(95%CI: 0.29‒3.13,p=0.94)となり,統計学的有意差はなかった。有害事象の発現は先行バイオ医薬品とバイオ後続品の間に統計学的な有意差はみられず,バイオ後続品への切り替えによって増加した有害事象も認められなかった。本研究の結果,ペルツズマブ併用におけるトラスツズマブバイオ後続品は,臨床においても十分な有効性,安全性が担保されていた。 -
緩和ケア病棟から退院した患者の検討
50巻5号(2023);View Description
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癌終末期患者の自宅への退院はしばしば困難である。この理由を検討するため,当院緩和ケア病棟から生存退院した患者と死亡退院した患者を比較した。生存退院群は診断から入院までの経過が長く,進行の緩徐な癌症例は生存退院する可能性が高いと考えられた。頭頸部癌の比率は死亡退院群に高く,子宮体癌は生存退院群における比率が高かった。これらには診断から入院までの期間,症状の多さとの関連がみられた。 -
大学病院における進行大腸がん患者に対する看護師主導CV ポート自己抜針指導の取り組み
50巻5号(2023);View Description
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背景: 進行大腸がんに対して頻用されるmFOLFOX6,FOLFIRI,FOLFOXIRI などの薬物療法レジメンはCV ポートから46±5 時間の持続点滴を要し,終了後に患者側での抜針が必要となる。当院では外来で患者に対しCV ポートの自己抜針指導を行っていたが,その成果は十分とはいい難かった。そのような背景の下,薬物療法導入目的での2 泊3 日間入院の機会を利用し,2019 年4 月から当科で病棟看護師主体のCV ポート自己抜針指導を開始した。方法: 2018 年1 月~2021 年12月までの間に当院でCV ポートを留置し薬物療法を実施した進行再発大腸がん患者を対象に,病棟にてCV ポート自己抜針指導を受けた患者集団が,外来で自己抜針指導を受けた患者集団と比較して抜針が可能となった割合が改善したか後ろ向きに検討した。また,抜針が不可能であった患者側のリスク因子ついても検討を行った。結果: 外来にてCV ポート自己抜針指導を受けた患者21 例(2018 年1 月~2019 年6 月: 外来群)と病棟にてCV ポート自己抜針指導を受けた患者67 例(2019 年7 月~2021 年12 月: 病棟群)で比較検討を行った。患者の年齢中央値は,外来群58.3 歳,病棟群66.0 歳であった。患者本人のみでCV ポート自己抜針が可能であった患者の割合は,外来群47%(10/21),病棟群52%(35/67)と両群で変わりはなかったが(p=0.80),家族を呼んで複数回指導を行った結果,外来群76.1%(16/21),病棟群97.0%(65/67)と病棟群で抜針達成割合が有意に向上した(p=0.005)。患者本人のみでCV ポートの自己抜針が可能であった患者の割合を年齢別に分けると,75 歳以上/75 歳未満で0%(0/16)/61.1%(44/72),65 歳以上/65 歳未満で35.4%(17/48)/67.5%(27/40)と65 歳以上,特に75 歳以上ではCV ポートの自己抜針割合が低い傾向にあった。また,ロジスティック回帰分析では家族の協力を得てもCV ポートの抜針が達成できなかったリスク因子として,「病棟/外来」が抽出された[オッズ比: 11.19(95%信頼区間: 1.8667.30)]。結語: 入院中に家族も交えて繰り返しCV ポート自己抜針指導を行うことにより,有意に患者側での抜針達成割合は改善した。高齢大腸がん患者に対しては患者本人のみに指導しただけでは自己抜針割合は低く,最初から家族も交えた指導が有効である可能性がある。
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症例
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Pembrolizumab+化学療法により食道気管瘻が閉鎖した切除不能進行食道癌の1 例
50巻5号(2023);View Description
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患者は73 歳,男性。咽頭痛,湿性咳嗽を主訴に当科を受診した。初診時CT,上部消化管内視鏡検査で頸部胸部上部食道癌と食道気管瘻を認めた。pembrolizumab+シスプラチン+5FU(FP)療法を開始し,4 サイクル施行時点で瘻孔の閉鎖を認め,経口摂取可能となった。初診時から6 か月経過し,pembrolizumab+FP 療法を継続中である。食道気管瘻は極めて予後不良で瘻孔閉鎖法を含め,確立した治療法はない。近年適応となった免疫チェックポイント阻害薬を含む化学療法は局所制御のみならず長期生存が期待できると考えられた。 -
肺癌術後多発脳転移に対してオシメルチニブが奏効し長期生存した高齢者腺癌の1 例
50巻5号(2023);View Description
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症例は85 歳,男性。78 歳時に右肺腺癌に対し,右上葉切除+ND2a を施行,pT1aN0M0,Stage ⅠA1 epidermal growth factor receptor(EGFR)陽性であった。術後2 年で縦隔リンパ節転移を認め,縦隔に放射線治療を施行した。照射後の放射線肺臓炎を危惧しEGFRtyrosinekinase inhibitor(TKI)ではなく,細胞傷害性抗癌薬治療を先行した。9 か月後に両側肺内と肋骨に転移を認めたため,gefitinib(第一世代TKI)に変更し奏効が得られた。しかし1 年9 か月後左肺門部リンパ節と肺内に転移を認めた。このため次の細胞傷害性抗癌薬を施行した。しかし4 か月後に腫瘍内出血を伴う多発脳転移を認め急激にperformance status(PS)が低下した。このため侵襲の伴う再生検は困難と判断し,liquid biopsy 検査(LB)を施行した。結果はT790M 遺伝子変異(T790M)陽性で,osimertinib(第三世代TKI)を投与した。脳転移は縮小しPSの改善を認め独歩で退院した。脳転移は消失していたが1 年6 か月後に肝転移が出現し,最終的に術後9 年で癌死となった。結論: 肺癌術後に多発脳転移を認めた症例の予後は不良であるが,第一世代TKI 治療後のEGFR 遺伝子陽性肺腺癌でPS 3 となった多発脳転移症例であっても適切な時期にLB を行い,T790M を確認できればosimertinib 治療で長期生存が期待できる。 -
薬剤性肺障害治癒後の乳癌治療が功を奏した症例の検討
50巻5号(2023);View Description
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乳癌治療中に薬剤性肺障害(DILD)を来すと,その後の治療薬の選択に難渋することが多い。症例1 は術前治療中にDILD を来した症例で,dosedense AC(ddAC)療法中にDILD(grade 2)を来したが,ステロイドパルス療法にて軽快し,その後病勢の進行なく手術が可能であった。症例2 は再発治療の抗HER2 療法中にDILD を来した症例で,docetaxel+trastuzumab+pertuzumab がprogressive disease(PD)後TDM1 が原因のDILD(grade 1)を来したが,eribulin+trastuzumab+pertuzumab に変更し病勢の進行も認めずに治療を継続できた。今回,DILD を来したが,その後の治療が功を奏し,病勢の悪化を来さずに経過できた症例を2 例経験したので報告する。 -
成人肝未分化肉腫の1 例
50巻5号(2023);View Description
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症例は20 歳,女性。右季肋部痛で前医を受診し,肝右葉の巨大腫瘍があり当院紹介となった。造影computed tomography( CT),magic resonance imaging(MRI)検査では乏血性充実性腫瘤であり,positron emission tomography(PET)CT 検査にて18Ffluorodeoxyglucose( FDG)集積を認めたため悪性腫瘍として肝右葉切除を施行した。病理検査から肝未分化肉腫と診断された。補助化学療法は希望されず経過観察を行っているが,術後30 か月経過しているが再発なく経過している。成人発症の肝未分化肉腫は極めてまれで予後不良であり報告する。 -
内視鏡的治癒切除後の局所再発に対して術前化学放射線療法を行い腹腔鏡下に切除した直腸癌の1 例
50巻5号(2023);View Description
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症例は70 歳台,男性。直腸癌に対して内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行し,病理組織学的検査で治癒切除と診断された。3 年後の下部消化管内視鏡検査でEMR 瘢痕部に粘膜下腫瘍様の所見を認めた。造影CT 検査で直腸後壁に腫瘍を認め,仙骨前面への浸潤が疑われた。生検で腺癌が検出され,直腸癌の局所再発と診断した。術前化学放射線療法(CRT)施行後に,腹腔鏡下低位前方切除術・回腸人工肛門造設術を行った。病理組織学的検査で腫瘍は固有筋層から外膜に認められ,剝離面は線維化のみで癌細胞は認めなかった。術前治療効果判定はGrade 1b(大腸癌取扱い規約第9 版)と診断された。補助化学療法としてUFT/LV 療法を6 か月間施行し,現在術後4 年が経過したが無再発生存中である。EMR 後局所再発に対して術前CRT は治療戦略の一つとして有効である可能性が考えられた。 -
虹彩転移を来した直腸神経内分泌癌の1 例
50巻5号(2023);View Description
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症例は62 歳,男性。肛門痛を主訴に受診し,精査で直腸神経内分泌癌(小細胞型)と診断された。多発肝転移,肺転移,傍大動脈リンパ節転移,骨転移を認めた。人工肛門造設術を施行後,イリノテカン(IRI)+シスプラチン(CDDP)を2 コース投与しpartial response(PR)が得られ,肛門痛が改善した。8 コース投与後に背部に多発皮膚転移が出現した。また,同時期に右眼の発赤と眼痛,視力低下を訴え,眼底所見および造影MRI 所見より臨床的に虹彩転移と診断された。右虹彩転移に対して4 Gy×5 回放射線照射を行い,右眼の発赤,眼痛症状,視力低下が改善した。初診後13 か月で原病死されたが,集学的な緩和治療が有効であったと考えられた。 -
上腸間膜動脈症候群を呈した小腸癌の1 例
50巻5号(2023);View Description
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今回,上腸間膜動脈症候群の症状を呈した原発性小腸癌の症例を報告する。症例は70 代,女性。10 日間継続する腹部不快感を主訴に他院より上腸間膜症候群の診断で紹介となった。当院での超音波,CT 検査でも上腸間膜症候群を呈しているが,原因として小腸腫瘍が考えられた。上部内視鏡検査を行ったところ空腸上部にⅡ型腫瘍を認め,生検にてadenocarcinoma,papillary type の診断となり,小腸切除術を行った。小腸腫瘍は比較的まれな疾患でもあり診断も難しく,病歴聴取や多覚的な検査を工夫し行うことで診断に至ることができ,今回教育的な症例と思われたため報告とした。
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