癌と化学療法

Volume 50, Issue 6, 2023
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投稿規程
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INSTRUCTIONS FOR AUTHORS OF JAPANESE JOURNAL OF CANCER AND CHEMOTHERAPY
50巻6号(2023);View Description
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総説
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臓器横断的がん薬物療法の現状と課題
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特定の遺伝子異常に基づく臓器横断的な治療の開発が近年活発になっている。日本では高頻度マイクロサテライト不安定性(MSIhigh)に対するペムブロリズマブ,NTRK 融合遺伝子に対するエヌトレクチニブとラロトレクチニブ,高い腫瘍遺伝子変異量(TMBhigh)に対するペムブロリズマブ,米国ではそれらに加えミスマッチ修復機能欠損に対するdostarlimab,BRAF V600E に対するダブラフェニブ+トラメチニブ,RET 融合遺伝子に対するセルペルカチニブが臓器横断的なバイオマーカーとその治療として承認された。臓器横断的な治療開発は希少なサブタイプを対象とするため,臨床試験を効率的に実施することが重要である。レジストリの活用やdecentralized clinical trial の導入など多様な取り組みが行われている。KRAS G12C 阻害薬の治験のように,他の分子標的薬との併用による治療効果の増強や耐性の克服を目的として,数多くの併用レジメンを並行して評価する手法も用いられる。
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特集
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- がんの診断・治療のDx 化の動向
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医療AI プラットフォーム構想について
50巻6号(2023);View Description
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急速に高度化・細分化する医療分野において医療従事者の負担を軽減し,高度な医療を実現するためには医療AI の普及・発展が必要不可欠である。しかしながら,様々な医療データなどの利活用や次世代規格を見据えた共通の接続手順への対応,近年問題となっているランサムウェアなどの脅威に対する高度なセキュリティ環境の提供方法,HL7 FHIR などの国際標準化の動きへの対応など,個々の企業のみでは対応し得ない業界共通の基盤技術への課題が残っている。これらの課題に対処し,業界共通の基盤技術としての医療AI プラットフォーム(医療AIPF)の研究開発を促進するために,医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)が厚生労働大臣および経済産業大臣の認可を得て設立された。HAIP が研究開発を推進する医療AIPF は,臨床情報や健診情報などのデータを活用した医療AI のモデリング支援など,医療AI の開発を可能にする“AI 開発基盤”,複数の専門家によるAI 評価を支援する“ラボ基盤”,医療AI サービスを実装するための機能を有する“サービス事業基盤”の三つの基盤から構成され,医療AI の開発~評価~実装までを一気通貫で担う統合プラットフォームとなることを構想している。 -
がんを薬物療法で治療中の外来患者向け副作用AI 問診システム―医療従事者の働き方改革と患者QoL 向上に向けた取り組み―
50巻6号(2023);View Description
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日本の2021 年がん登録数は110 万件に上る。がんの罹患率や死亡率は高齢化を主な要因として増加しており,2 人に1 人が一生に一度はがんと診断される時代である。化学療法は単独の治療法として用いられるだけではなく,外科療法や放射線療法との併用で数多く実施されており,初回治療全体の30.5% で適用されている。本稿では,2018 年より内閣府第2 期戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つである「AI ホスピタルによる高度診断・治療システム(AI ホスピタル)」の下で研究開発を進めてきたデジタル技術のなかで,がん研有明病院と共同で研究開発を行った「がんを薬物療法で治療中の外来患者向け副作用AI 問診システム(副作用AI 問診システム)」を中心に述べる。結果としては,今まで薬物療法専門薬剤師が患者1 人当たりにかかっていた時間を最大10 分から1 分に短縮でき,かつ問診が必要な患者に対する問診実施の抜け・漏れを防ぐことができた。また,医療機関で検査,治療,入院など様々なシーンで必要となる患者からの同意取得プロセスをデジタル化(eConsent)する臨床研究や医療AI プラットフォームを活用してAI を用いた画像診断サービスなどを複数の医療機関へ安全・安心に届ける研究開発も行っている。これらのデジタル技術を組み合わせることで,医療従事者の働き方改革や患者QoL 向上に寄与する医療のデジタルトランスフォーメーション(医療DX)に貢献していきたい。 -
がん薬物治療のDx 化―がん治療のReal World Evidence(RWE)創出のためのプラットフォーム構築―
50巻6号(2023);View Description
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2020 年4 月,京都大学はがん診療にかかわるリアルワールドデータ(RWD)の利活用を推進し,社会に対してより安全で効率的な医療を提供するとともに,わが国の医療産業の活性化に寄与する目的で,産学共同講座「リアルワールドデータ研究開発講座」を開設した。本プロジェクトのミッションは,CyberOncology をプラットフォームとして様々なシステムを相互に連携させることで,患者を取り巻く健康・医療情報をリアルタイムに「見える化」し,多方向性の利活用を可能にすることである。さらに今後は,診断・治療だけでなく予防においても個別化が促進され,医療の質および患者満足度の向上をめざす。本稿では,京都大学病院RWD プロジェクトについて現状と課題を解説する。 -
内視鏡検査のDx 化
50巻6号(2023);View Description
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近年,内視鏡検査においても人工知能(AI)技術や情報通信技術(ICT)の活用によるDx 化が始まりつつある。本邦では,いくつかの消化器内視鏡向けのAI がプログラム医療機器として承認され,臨床現場へ導入されつつある。消化器領域以外の臓器を対象とした内視鏡検査においても診断精度や診断効率の向上が期待されているが,実用化に向けた研究開発は未だ途上である。本稿では,内視鏡検査のDx 化について消化器内視鏡向けのAI および筆者らの膀胱内視鏡検査における研究開発事例を中心に概観する。
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Current Organ Topics:Central Nervous System Tumor 脳腫瘍 脳腫瘍と免疫システムUpdate
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原著
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(R-)EPOCH 療法を受けた悪性リンパ腫患者のGeriatric Nutritional Risk Index と副作用発現および治療成功期間との関連性の検討
50巻6号(2023);View Description
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悪性リンパ腫の化学療法開始時のgeriatric nutritional risk index(GNRI)と副作用発現の関連性について検討した報告はない。そこで再発・難治悪性リンパ腫の(R)EPOCH 療法施行患者における治療開始時のGNRI と,副作用発現状況および治療成功期間(time to treatment failure: TTF)の関連性を検討した。GNRI のカットオフ値を93.7 としhigh GNRI群とlow GNRI 群で比較した結果,Grade 3 以上の血小板減少の発現に有意な差が認められた(p=0.043)。GNRI は(R)EPOCH 療法を受けた悪性リンパ腫患者における血小板減少発現の指標となる可能性が示唆された。さらにhigh GNRI群とlow GNRI 群のTTF には統計学的有意差が認められ(p=0.025),レジメン開始時の栄養状態が治療継続に影響することが示唆された。 -
Melphalan Febrile Neutropenia Risk Factors
50巻6号(2023);View Description
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本研究はメルファラン(L‒PAM)療法に伴う発熱性好中球減少症(FN)発症の危険因子を明らかにすることを目的とした。2011 年4 月~2022 年2 月まで,岐阜市民病院血液内科で多発性骨髄腫(MM)に対して,L‒PAM が静脈内投与された患者39 名(男性21 名,女性18 名)を対象とした。患者をFN(Grade 3 以上)の有無に分類し,治療開始直前に全血球数および肝機能検査を実施した。フィッシャーの正確確率検定にて単変量解析を行った。p<0.2 の因子を独立変数とし,多重ロジスティック回帰分析で多変量解析を行った。結果は,単変量解析にて乳酸脱水素酵(LD)値>222 U/L(施設基準値上限)および白血球数3.3×103/μL(施設基準値下限)の二つの因子を独立変数とし,FN 発症(Grade 3 以上)を従属変数とした多変量解析では,LD 値>222 U/L(odds ratio: 6.33,95% confidence interval: 1.12‒35.8,p=0.037)が有意な因子であった。結論として,治療開始直前のLD 値>222 U/L の患者ではL‒PAM 投与後のFN 発症に対して十分なモニタリングが必要である。 -
大腸がんベバシズマブ併用化学療法における皮下埋没型中心静脈ポート留置後合併症とDdimer値との関連性
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皮下埋没型中心静脈ポート(CVP)留置下の大腸がんベバシズマブ(BV)併用化学療法では,一定の割合でCVP 留置後合併症が発生する。Ddimerの測定は血栓塞栓症などの予測のために推奨されているが,CVP 留置後合併症との関連性については明らかではない。本研究では,CVP 留置下でBV 併用化学療法を適用された大腸がん症例93 例を対象とし,CVP留置後合併症とDdimerとの関連性について検討した。CVP 留置後合併症は26 例(28%)で発症した。このうち,静脈血栓塞栓症(VTE)を呈した症例では発症時のDdimerが高値を示した。症例ごとのDdimer値の経時変化をみた結果,VTE症例では発症時に急激な上昇を認める特徴があり,CVP 留置部位異常症例では経過が一様でなく変動幅が大きかった。Ddimerのモニタリングは大腸がんBV 併用化学療法のCVP 留置後合併症において,特にVTE とCVP 留置部位異常の発症を推測する上で有用と思われた。また,定量値のみでなく経時変化を注視することが重要である。
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症例
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HER2 陽性乳癌の脊髄転移に対してトラスツズマブデルクステカンが奏効した1 例
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目的: 乳癌の髄内脊髄転移(intramedullary spinal cord metastases: ISCM)は非常にまれで,治療法も確立しておらず予後不良である。HER2 陽性乳癌のISCM に対して,新規抗HER2 薬トラスツズマブデルクステカン(TDXd・エンハーツ®)を使用し,奏効した症例を経験したので報告する。症例: 44 歳,女性。右乳癌術後,多発肝転移・骨転移・下垂体転移・多発脳転移・脊髄転移に対して転移再発後四次治療としてTDXdを使用した。血液毒性・非血液毒性なく経過している。左下肢のしびれを含め症状の増悪なく,画像上脳転移・脊髄転移の増悪なく,間質性肺炎の出現なく経過しており,25サイクルまで継続して治療を行っている。考察: ISCM はまれな転移巣であり,血液脊髄関門(bloodbrainbarrier: BBB)のため化学療法による治療は難渋し,未だ確立された治療はない。予後は非常に短く平均4 か月と報告されている。TDXdは臨床試験においてcentral nerve system(CNS)転移のある患者に対しても良好な結果を示しており,実臨床においてもCNS への効果が期待されている。結論: TDXdをISCM に対して使用し奏効した1 例を経験した。TDXdがISCM を含むCNS に対して有効であることが示唆された。 -
高悪性度胎児型肺腺癌成分を有する肺癌に化学療法を施行した1 例
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症例は70 代,女性。2 週間前から咳と息切れを主訴に当院を受診した。胸部CT で左大量胸水,胸膜に多発腫瘤,縦隔に多発リンパ節腫大を認めた。左胸腔ドレナージを行い,胸水セルブロックの免疫染色で高悪性度胎児型肺腺癌が疑われた。CT ガイド下生検の病理標本で高悪性度胎児型肺腺癌成分を有する肺癌と診断した。腫瘍は急速に増大したが,アテゾリズマブ/ベバシズマブ/カルボプラチン/パクリタキセルによる化学療法で腫瘍は著明に縮小した。しかし,その後のアテゾリズマブ/ベバシズマブによる維持療法で病勢が進行した。 -
当院で経験した虫垂杯細胞腺癌の3 例
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虫垂杯細胞腺癌(appendiceal goblet cell adenocarcinoma: AGCA)はWHO 分類第5 版で採用された疾患概念で,腺癌の1 亜型に分類される杯細胞カルチノイド(goblet cell carcinoid)と同義であり,比較的まれな腫瘍である。2018 年以降,当院で経験した3 例のAGCA のうち2 例は急性虫垂炎の診断で緊急虫垂切除術後の病理診断で判明し,リンパ節郭清を伴う追加切除を行った。もう1 例は術前に卵巣腫瘍と虫垂腫瘍を指摘され,審査腹腔鏡で腹膜播種を認めたため虫垂切除と右卵巣摘出のみを行い,病理診断で卵巣転移を伴うAGCA と診断された。全身化学療法を導入し,術後2 年完全奏効を得ている。3 例とも現在までに再発を認めないが,AGCA は悪性度が高いとされるため追加治療を含めた慎重な治療方針の策定が重要と考える。 -
切除不能胃癌からの急性出血に対しTAE が成功した1 例
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症例は78 歳,女性。膵浸潤を伴う幽門部胃癌,cT4bN2M0,cStage ⅣA に対する外来化学療法中にHb 7.0 g/dL と貧血の進行を認めた。腫瘍出血が疑われたが,上部消化管内視鏡検査を行うも出血点は同定できなかった。入院3 日目に出血性ショックに至り,緊急経皮的動脈塞栓術(TAE)を施行した。血管造影で活動性出血は認めなかったが,右胃大網動脈および左胃動脈下行枝をゼラチンスポンジで塞栓した。TAE 後循環動態は安定し貧血の進行もなく,9 日目に軽快退院となった。化学療法を再開し外来通院していたが,TAE から6.5 か月後,原病死された。切除不能進行胃癌からの出血に対するTAE は有用な治療選択肢であると考えられた。 -
集学的治療が奏効して長期生存を得ている大腸癌多発性肝転移の1 例
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症例は60 歳,男性。近医よりS 状結腸癌にて紹介された。S 状結腸に2 型の腫瘍を認めた。また,腹部CT にて多発性肝転移を認めた。通過障害はなく,FOLFIRI およびFOLFIRI+セツキシマブ(Cmab)を合計45 コース施行後肝転移は消失し,原発巣に対して腹腔鏡下S 状結腸切除術,D3 郭清を施行した。しかし術後2 か月後には,造影CT 上,肝S1 に再度LDA が出現しCEA も再上昇した。肝再発と診断して再度FOLFIRI+Cmab を施行した。5 コース終了後CEA は著明に低下したが画像上はSD であり,単発であったことから肝部分切除を施行した。その後はCmab に対してアレルギーを発症したこともあり,FOLFIRI を18 コース施行後患者の希望もあり中止した。しかし約1 年後の2016 年3 月に造影CT 上,肝S6 に再度LDA が出現し,CEA も再度上昇した。PET では肝S5 の表面にも集積部位を認め,肝再発と診断した。2 病変に対して肝右葉切除を施行した。その後FOLFIRI を1 年間施行し,患者の希望により化学療法を中止した。その後は外来にて経過観察しているが,再発はなく経過観察中である。大腸癌多発性肝転移に対して集学的治療を施行し,初発から約10 年間の長期生存している症例を経験したので報告する。
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