癌と化学療法

Volume 50, Issue 7, 2023
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INSTRUCTIONS FOR AUTHORS OF JAPANESE JOURNAL OF CANCER AND CHEMOTHERAPY
50巻7号(2023);View Description
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総説
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第4 期がん対策推進基本計画の概要
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わが国のがん政策の根本をなす第4 期のがん対策推進基本計画(以下,基本計画)が2023 年3 月の閣議で決定された。国民の死亡の30%を超えるがんはある意味巨大なマーケットであり,大都市や大企業の注目するところは自発的な進歩・発展を遂げている。一方で,市場原理に頼っていては,地方や希少がん,小児がん,社会的弱者,経済的困窮者などに十分な医療やケアが行き届かない。人口減少,少子高齢化に伴い,がんにおいても格差は広がっていると感じられることが多くなっている。そこで第4 期基本計画では,「誰一人取り残さないがん対策を推進し,全ての国民とがんの克服を目指す。」を全体目標とした。一方で,基本計画の終わりには,医療者と患者家族などが良好な信頼関係を築くこと,患者家族などが適切な情報を受け理解するように努力すること,厳しい財政のなか施策の選択と集中,官民の役割と負担分などの協力と理解を求めており,国民一丸となったがんの克服であることを改めて強調している。
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特集
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- HER2 を標的とした治療戦略
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HER2 陽性乳癌の治療戦略
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Human epidermal growth factor receptor 2(HER2)陽性乳癌は予後不良な乳癌として位置付けられてきたが,トラスツズマブの登場以降,様々な抗HER2 薬の開発に伴い予後が著しく改善した。また,HER2 陽性早期乳癌は抗HER2 薬と化学療法を併用する術前療法により,病理学的完全奏効(pathological complete response: pCR)となる率が高く,pCR はHER2 陽性乳癌において予後予測因子となっている。そのためHER2 陽性乳癌の周術期治療においては術前化学療法への効果に応じ,術後治療を選択するresidual diseaseguided approach(残存病変に基づく治療)という治療戦略が主流になってきた。さらにこれまでHER2 陽性転移・再発乳癌にのみ保険適用となっていたトラスツズマブ デルクステカン(TDXd)が, HER2 低発現乳癌にも有用であると新たに示され,2023 年3 月末に保険償還された。今後の動向に注目が寄せられている。 -
HER2 を標的とした胃癌の治療戦略
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HER2 陽性胃癌は胃癌患者の30~40% を占め,ToGA 試験以降トラスツズマブが一次治療のキードラッグである。ToGA 試験後10 年を経て,トラスツズマブとペイロードによる抗体薬物複合体(ADC)の登場により,新しい治療選択肢が生まれた。トラスツズマブおよびそのADC と,近年開発された免疫チェックポイント阻害薬との最適な併用および治療シーケンスは有望な組み合わせであることが示唆されているが,まだ確立されていない。本稿では,HER2 陽性胃癌に関するこれまでの主な臨床試験や前臨床研究をレビューし,来るべきHER2 陽性胃癌に対する治療の展望と課題について考察する。 -
HER2 を標的とした治療戦略―大腸癌―
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HER2 陽性大腸癌は大腸癌全体の2~4% 程度を占めており,RAS 野生型に限れば約5% であるが,RAS 変異型では0.2~1.4% と少ない。HER2 陽性は,RAS 野生型大腸癌においてBRAF 変異やMET 増幅などとともに抗EGFR 抗体薬抵抗性を示すことが知られている。本邦ではHER2 陽性大腸癌患者に対するTRIUMPH 試験が行われ,その結果を基に2022年3 月に「がん化学療法に増悪したHER2 陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対してペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法が薬事承認された。大腸癌領域においても抗体薬物複合体や二重特異性抗体などHER2 を標的とした新規薬剤の治療開発が行われており,今後の展開が注目されている。 -
HER2 を標的とした治療戦略―肺がん―
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HER2 遺伝子異常は遺伝子変異,遺伝子増幅,蛋白過剰発現の三つに分けられる。乳がんや胃がんでは遺伝子増幅や蛋白過剰発現が治療標的になるのと異なり,NSCLC では遺伝子変異が治療標的となりやすいことがわかってきた。これまでHER2 遺伝子異常を有するNSCLC に対して有効な治療方法は乏しい状況であったが,pyrotinib やpoziotinib といったTKI,trastuzumabderuxtecan(TDxd)といったADC 製剤などで有効性が報告され開発が進んでいる。特にTDxdは2022 年8 月にHER2 遺伝子に特定の種類の変異を有するNSCLC 患者に対してFDA の迅速承認を得ており,今後は新たな治療選択肢が増えていくことが期待される。
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Current Organ Topics:Head and Neck Tumor 頭頸部腫瘍 頭頸部癌の光免疫療法(アルミノックス治療)
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特別寄稿
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切除不能進行肝細胞癌に対するラムシルマブ療法―臨床試験および日本のリアルワールドエビデンスからの考察―
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ラムシルマブ(RAM)は,日本では2019 年6 月に,「がん化学療法後に増悪した血清alphafetoprotein(AFP)値が400 ng/mL 以上の切除不能な肝細胞癌(HCC)」を適応として承認され,2021 年改訂の肝癌診療ガイドラインでは,ソラフェニブでの治療後に画像進行または副作用のため中止し,ChildPugh分類A,血清AFP 値が400 ng/mL 以上の患者に対する二次以降の薬物療法として推奨されている。本稿では,日本の実臨床下での切除不能進行HCC 患者に対するRAM 治療の有効性・安全性を確認する目的で,RAM がHCC の適応を取得した2019 年以降に公表された原著論文から,日本の実臨床下でのRAM のエビデンスを要約した。併せて,切除不能進行HCC 患者で,ソラフェニブ治療後の二次薬物療法としてRAM が投与された国際共同第3 相の2 試験(REACH 試験とREACH2試験)の併合解析,ならびにソラフェニブ以外の全身療法後にRAM を投与したREACH2試験拡大コホートの結果を紹介する。
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原著
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虫垂粘液産生腫瘍16 例の検討
50巻7号(2023);View Description
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虫垂粘液産生腫瘍(AMN)は比較的まれな疾患で,明らかな異型を伴う粘液癌(MACA)と低異型度虫垂粘液性腫瘍(LAMN)に分類されている。今回われわれは,2010 年1 月~2021 年7 月までに当科で外科的切除されたAMN 16 例(LAMN: 13 例,MACA: 3 例)について検討した。男性7 例,女性9 例で,年齢中央値は61(27~85)歳であった。主訴は腹痛が12 例と最多で,3 例では主訴なく,検診や他疾患経過観察中に偶発的に発見された。大腸内視鏡検査は9 例で施行され,うち5 例で異常所見を認めた。術前診断は7 例が虫垂炎,8 例が虫垂腫瘍であった。術式(予定: 8 例,緊急: 8 例)は腹腔鏡手術6 例,開腹10 例で,切除範囲は虫垂切除9 例,盲腸部分切除4 例,回盲部切除3 例であった。切除断端は全例で陰性で,リンパ節郭清を行った3 例(MACA: 2 例,LAMN: 1 例)に転移は認めなかった。観察期間中央値は17(1~43)か月で,全例で腹膜偽粘液腫を含めて再発を認めていない。
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症例
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トラスツズマブ デルクステカンが奏効し経口摂取可能となったAFP 産生胃噴門部癌の1 例
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症例は55 歳,男性。HER2 陽性AFP 産生胃噴門部癌,多発肝転移に対し,SOX+トラスツズマブ療法7 コース,weekly PTX+ラムシルマブ療法3 コース,ニボルマブ療法3 コース施行したが,いずれもPD となった。初回治療開始後9か月経過し腫瘍増大による通過障害が顕著となり,経口摂取不能による低栄養,全身浮腫を認めるようになった。これに対してトラスツズマブ デルクステカン(TDXd)療法を開始したところ初回投与で著明な腫瘍縮小効果が得られ,経口摂取可能となり,浮腫の改善を認めた。全身状態不良なAFP 産生胃噴門部癌患者に対してTDXdが奏効し,迅速に通過障害の改善を得た1 例を経験したので報告する。 -
化学療法後に切除可能となった膵浸潤を伴う切除不能進行胃癌の1 例
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症例は80 歳,男性。高度貧血精査目的に施行した上部消化管内視鏡検査で,胃幽門部に通過障害を伴う全周性3 型病変を認めた。腹部造影CT 検査にて膵頭部への高度浸潤および幽門下リンパ節への転移を認め,胃癌,L,Circ,cType 3,tub2,cT4b,N(+),M0,cStage ⅣA と診断した。通過障害に対して腹腔鏡下胃空腸吻合術を施行後に全身化学療法としてSOX 療法を4 コース施行した。化学療法後に膵頭部への浸潤所見が不明瞭化し,審査腹腔鏡で膵浸潤および腹膜播種を認めず,根治切除可能と評価し幽門側胃切除およびリンパ節郭清を施行した。再建は前回手術の胃空腸吻合を利用した。術後18 か月現在,無再発生存中である。本症例では全身状態不良な膵浸潤・幽門狭窄を伴う切除不能高度進行胃癌に対し,胃空腸バイパス術後に経口抗癌剤を併用した化学療法が奏効し,全身状態も改善したため胃切除術を施行し得た。 -
再発卵巣癌に対する化学療法中に骨髄異形成症候群を発症しその後急性骨髄性白血病に移行した1 例
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婦人科悪性腫瘍は化学療法の治療成績向上に伴い,良好な治療成績や長期生存が得られる症例がある。抗腫瘍薬を長期投与することもあり,二次性白血病の発症には注意が必要である。今回われわれは,再発卵巣癌に対する化学療法中に骨髄異形成症候群を発症し急性骨髄性白血病へ移行したが,血小板値が保たれているなどの一定の条件下ではあるが,血液内科医との連携の下で通院での卵巣癌に対する化学療法を一定期間継続し,QOL の維持が可能であった症例を経験したので報告する。症例は69 歳,3 妊2 産で54 歳で閉経している。腹部膨満感を主訴に前医を受診し,当科で卵巣癌,stage ⅢCと診断した。術前化学療法としてpaclitaxel+carboplatin+bevacizumab(TC+Bev)療法を6 サイクル投与後,腹式単純子宮全摘出術,両側付属器摘出術,大網切除術,そして追加でS 状結腸切除,低位前方切除術を施行し,肉眼的に残存病変はなかった。その後TC+Bev 療法を3 サイクル,Bev 単剤療法を6 サイクル投与するもプラチナ製剤最終投与から5 か月後に再発し,gemcitabine+Bev 療法を3 サイクル,liposomal doxorubicin+Bev 療法を3 サイクル投与した。好中球減少の遷延と芽球を認め精査にて骨髄異形成症候群と診断し,1 か月後に急性骨髄性白血病へ移行した。好中球数は自然回復し,対症療法を行いながらweekly paclitaxel+Bev 療法を7 サイクルまで投与後,急性骨髄性白血病を背景とした敗血症性ショックにより死亡した。今回の症例のような,化学療法中に出現した治療関連骨髄異形成症候群の早期発見には芽球の出現に注意することが重要である。また,その上で原疾患に対する化学療法を継続するには血小板数が保たれていることが重要となると考えられた。 -
薬物療法後に扁平上皮成分が顕在化しサブタイプが変化した乳癌の1 例
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化生癌はまれな組織型で,トリプルネガティブが多く予後不良なことが知られている。浸潤性乳管癌(Luminal)の薬物療法後に原発巣が扁平上皮癌(triple negative)に変性した乳癌症例を経験したので報告する。患者は41 歳,女性。他院で左乳癌,T2N2bM1(HEP),Stage Ⅳ,ER 90%,PR 70%,HER2 2+,FISH-と診断されPATHWAY 試験(タモキシフェン+ゴセレリン+パルボシクリブ/プラセボ)に参加した。原発巣,肝転移が増大したため8 週で中止となり以後当院で治療した。カペシタビン+シクロホスファミド,フルベストラント+リュープロレリン+パルボシクリブ,パクリタキセル+ベバシズマブ,エリブリン,EC 療法,ドセタキセルで治療したが,原発巣,肝転移とも増大した。特に原発巣の増大は著しく,出血,悪臭でQOL は著しく低下した。ドセタキセル治療中に施行した生検では化生癌/扁平上皮癌,ER-,PR-,HER2-(0),Ki6790~100% の病理組織学的検査所見であった。BRCA 検査陰性,マイクロサテライト不安定性検査陰性,PDL1 1% 未満であった。モーズ軟膏を使用したが腫瘍からの出血,滲出液,悪臭のコントロールは不良で,腫瘍の重みによる苦痛症状もあったため,左乳房全摘+大胸筋合併切除を施行した。患者は術後1 か月で死亡した。 -
デノスマブ投与による骨吸収抑制薬関連壊死のため上顎骨の広範囲にわたる脱落を来した乳癌患者の1 例
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症例は74 歳,女性。201X 年に乳癌に対して右乳房切除術を施行された。201X+8 年に出現した多発骨転移に対して前医でデノスマブの投与が開始され,約1 年間投与された後に骨吸収抑制薬関連顎骨壊死を発症し保存加療がなされていた。201X+11 年に歩行困難となり当院緩和ケア病棟へ入院となった。その1 か月後,上顎骨が広範囲に自然脱落した。前医歯科口腔外科や当院訪問歯科との連携の下,感染予防対策を講じることで本人の希望である食事摂取を継続しながら感染を起こすことなく過ごされ,上顎骨の広範囲脱落から5 か月後肝転移による肝機能不全により死亡した。
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