癌と化学療法

Volume 50, Issue 8, 2023
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総説
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アジアがん臨床試験ネットワーク事業(ATLAS プロジェクト)の期待と課題
50巻8号(2023);View Description
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国立がん研究センター中央病院が中心となり,2020 年9 月から政府の支援の下でアジアがん臨床試験ネットワーク構築事業が開始となった。いわゆるATLAS プロジェクトである。ATLAS プロジェクトの目的は,アジアにおける研究機関のネットワーク化と教育研修活動を通じて,アジア圏での国際共同試験の恒常的なプラットフォームを構築し,日本が主導して同時並行で多数の国際共同試験を実施することである。対象国としては従来の国際共同試験でも強力な連携先であった韓国,台湾,シンガポールに加えて,成長著しいタイ,マレーシア,フィリピン,ベトナムが参画し,各国のトップレベルの研究機関がATLAS 参加施設となっている。現在,具体的な国際共同研究としては5 課題実施しており,さらに複数の国際共同研究が準備中である。こうした多くの国際共同研究を支援する基盤はこれまでアカデミアには存在しなかったが,国立がん研究センター中央病院では2020 年11 月に国際開発部門を設置し,さらにセンター初の海外事務所となるアジア連携推進タイ事務所を2021 年12 月より稼働させ,安価,迅速,簡便なアジア共同試験を行うための研究支援機能の内製化を図っている。また,アジア各国のATLASに対するコミットメントを増すために臨床試験グループの意思決定機関としてATLASboard を設置し,各国2 名の代表によってアジア全体として意思決定できる仕組みを構築した。
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特集
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- Oligometastases 治療戦略の最前線
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放射線治療
50巻8号(2023);View Description
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近年,オリゴ転移に対する積極的な局所療法への関心が高まっており,様々な癌腫で臨床試験が行われている。この背景には画像診断および全身療法の進歩に加え,体幹部定位放射線治療や強度変調放射線治療に代表される放射線治療技術の進歩が大きく寄与していることは間違いない。オリゴ転移巣への定位放射線治療により生命予後が改善する可能性を示したランダム化比較第Ⅱ相試験SABRCOMETの結果は非常に注目された。また,2020 年には日本でもオリゴ転移に対する体幹部定位放射線治療が保険適用となり,日常臨床でも実施される機会が増えている。一方で,その手法が標準化されているとはいい難いのが現状である。本稿では,オリゴ転移に対する放射線治療と普及に向けた課題について概説する。 -
非小細胞肺癌
50巻8号(2023);View Description
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oligometastases(以下,オリゴメタ)は乳癌で初めて定義された概念であり,基準としては転移個数が少ないこと,すべての病変に局所治療が可能であることとされているが,現在でも共通の基準は定まっておらず,非小細胞肺癌においても同様に一律の基準は存在しない。オリゴメタの症例では,標準治療に局所治療を加えることで生存期間の延長が得られる可能性が指摘されており,非小細胞肺癌においても同様の可能性があるとされている。非小細胞肺癌は様々な臓器に転移を認めることから,転移臓器ごとに局所治療の選択肢も異なる。そのため非小細胞肺癌のオリゴメタの治療を行う際は,患者背景や転移部位など様々な条件を複合的に考え,様々な科とも連携し集学的な治療が必要である。また,近年の非小細胞肺癌の治療の主体は免疫チェックポイント阻害薬に移っている。オリゴメタの治療についても同薬剤との併用で行うことで,治療効果の増強を見込める可能性がある。現在,非小細胞肺癌のオリゴメタに対して免疫チェックポイント阻害薬と局所治療を組み合わせた複数の臨床試験が行われており,今後の結果に期待したい。 -
胃癌Oligometastases に対する治療方針
50巻8号(2023);View Description
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oligometastases は,一般的には転移巣が1~2 臓器に少数(2~3 個以下)である状態を指す場合が多い。胃癌においては腹膜播種を伴うことが多いためoligometastases は希少な対象であるが,胃癌の場合は特に大動脈周囲リンパ節転移,肝転移を比較的多く経験する。胃癌治療ガイドライン第6 版では,No. 16a2/b1 に限局した少数の大動脈周囲リンパ節転移,また単発の肝転移に対して,他の非治癒切除因子がない場合,薬物治療後の外科的切除が弱く推奨されている。国内では薬物治療後の外科的切除を念頭とした治療戦略が一般的であり,術後も補助化学療法を付加する場合が多い。術前の薬物治療の投与期間は3~4 か月が一般的である。外科的切除は経験のある施設であれば,比較的安全に施行可能であることが示されている。さらに高いレベルでのエビデンス構築をめざした前向き臨床試験も国内外で進行中である。 -
乳癌・前立腺癌のオリゴメタスタシス(オリゴ転移)治療の将来展望
50巻8号(2023);View Description
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オリゴメタスタシスは限局期と広範な転移を伴った遠隔転移期の病状の中間の状態を表し,通常1~5 個の限られた数の転移が画像所見で顕在化していることを特徴とする。乳癌と前立腺癌に対しては,遠隔転移を有する症例において原発巣や転移病変のいずれかまたは両方を標的とした局所治療(手術や放射線治療)の有効性が,いくつかの小規模ランダム化比較試験で検討されてきた。これらの試験から,オリゴメタスタシスに対する局所治療の有望な知見が得られており,期待されている。しかしながら,このような局所治療が全生存期間や臨床転帰に及ぼす影響という点では,その決定的な結果が得られておらず,大規模ランダム化比較試験によるさらなる検証が必要である。現在進行中のこれらの臨床試験から得られる結果は,オリゴメタスタシス乳癌および前立腺癌に対する局所介入の真の治療価値について重要な洞察を与えると考えられる。本稿は,乳癌と前立腺癌のオリゴメタスタシスに焦点を当てた過去の臨床試験データの包括的レビューを提示することを目的としている。さらにこれらの特定の癌種のオリゴメタスタシスにおける研究の将来的展望と方向性を概説する。
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Current Organ Topics:Thorax/Lung and Mediastinum, Pleura: Cancer 肺癌 肺癌診療における最新のトピックス2023―肺癌領域での緩和医療における最新の話題―
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原著
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COVID19感染拡大前後の転移性脳腫瘍患者のガンマナイフ治療の変化
50巻8号(2023);View Description
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COVID19感染拡大による健診・受診遅れは,悪性腫瘍の発見遅延の一因である。COVID19による緊急事態措置期間内と期間外で,転移性脳腫瘍の定位放射線治療への影響について後方視的に検討した。患者のKPS や原発巣制御は緊急事態措置期間内で有意に低下し,症候化した脳転移が増えていた。治療時の脳転移の個数,総体積および治療後4 か月の脳転移制御,新規病変の出現率には差がなかった。転移性脳腫瘍の定位放射線治療において,COVID19パンデミックは4 か月後の予後に影響を及ぼすほどではないが,有症状の症例が増加していた。 -
経口抗がん薬服用患者におけるHBV 再活性化予防に向けた福岡大学病院薬剤部の取り組み
50巻8号(2023);View Description
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抗がん薬・免疫抑制薬投与時のB 型肝炎ウイルス(hepatitis B virus: HBV)関連検査の重要性について,厚生労働省や製薬企業などにより注意喚起が行われている。福岡大学病院(以下,当院)薬剤部では,注射用抗がん薬による化学療法開始前にHBV スクリーニングおよびHBVDNA定量モニタリングの実施状況を確認し,未実施の検査項目についてはプロトコールに基づく薬物治療管理(protocol based pharmacotherapy management: PBPM)の一環として薬剤師がオーダ支援を行っている。しかし経口抗がん薬服用患者については,HBV 関連検査の実施状況および薬剤師による介入状況は不明である。そこで,当院において経口抗がん薬を処方された患者を対象にHBV 関連検査の実施率を調査し,PBPM に基づいた薬剤師によるHBV 再活性化対策支援の効果を検討した。なお,HBV 再活性化に対する注意が必要な薬剤としてB 型肝炎治療ガイドラインに記載されている経口抗がん薬のうち,当院で採用している18 薬剤を対象とした。2021 年8 月1 日~9 月30日の2 か月間に対象の経口抗がん薬を処方された患者は247 例であり,HBV スクリーニングまたはHBVDNA定量モニタリングが適切に実施されていなかった症例はそれぞれ32.4%,48.3% であった。これらの症例に対しオーダ支援または担当医へ通知を行った結果,スクリーニングおよびモニタリングの実施率が有意に上昇した。以上のことから,薬剤師が介入することによりHBV 再活性化リスクの低減が期待できることが示唆された。また,HBV 関連検査を確実に実施するためには薬剤師による積極的な介入だけでなく,HBV 関連検査の必要性を周知徹底するとともに,医師を含め他職種と協働してHBV 再活性化の予防に取り組む必要があると考える。 -
進行再発大腸癌を対象としたがん遺伝子パネル検査の実施時期および患者への影響に関するアンケート調査
50巻8号(2023);View Description
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背景: 2019 年6 月以降,包括的がんゲノムプロファイリング検査(以下,がん遺伝子パネル検査)が保険診療で実施可能となった。しかしながら,進行再発大腸癌におけるがん遺伝子パネル検査の位置付けは未だ明確でなく,特に実施した患者側の評価についての報告は限られる。方法: 2021 年4 月以降に当院にてがん遺伝子パネル検査(FoundationOne CDx)を実施した進行再発大腸癌患者に対し,外来でのがん遺伝子パネル検査の結果説明後に質問紙による調査を行った。質問項目は検査に対する満足度,実施時期に関する項目などを含めた計8 項目とした。結果: 2021 年8 月までに当院下部消化管外科でがん遺伝子パネル検査を実施した患者51 名中21 名(平均年齢: 59.3 歳)から回答が得られた。がん遺伝子パネル検査を受けたことに対して満足しているかの問いに対して「そう思う」と回答した患者は14 名(66.7%)であった。がん遺伝子パネル検査を主治医から提案される前から「知っている」と回答した患者は6 名(28.6%)であった。がん遺伝子パネル検査の実施時期について「適切だと思う」,「どちらかといえば適切だと思う」と回答した患者はそれぞれ10 名(47.6%),2 名(9.5%)であり,無回答の3 名を除き肯定的な意見が多くみられた。結論: 大腸癌患者は治療に結び付いた例が限られているにもかかわらず,半数の患者が満足しているという結果であった。一方で,主治医に提案される前からがん遺伝子パネル検査を知っている患者は限られており,早期から適切な情報提供ができる機会を増やす必要がある。 -
Cost‒Effectiveness Analysis of Cyclin‒Dependent Kinase 4/6 Inhibitor Palbociclib for Inoperable or Recurrent Breast Cancer
50巻8号(2023);View Description
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パルボシクリブは手術不能,再発乳癌に対して内分泌療法薬併用において承認されているが,高額であるため患者と社会の双方に経済的負担を強いる。本研究ではパルボシクリブ・フルベストラント(Pal+Ful)併用療法について,Ful 単剤療法に対する費用対効果を検討した。臨床効果はランダム化比較試験から抽出した。費用はレセプトから算出し,マルコフモデルを構築した。公的医療における支払意思額を40 万円/月とした。Pal+Ful 併用療法とFul 単剤療法の期待費用は621万円,78万円であり,期待効果はそれぞれ25.7か月,22.8か月であった。増分費用対効果比は1,847,721円/quality adjustedlife month(QALM)であった。以上より,Pal+Ful 併用療法はFul 単剤療法よりも効果は良好だが,それ以上に費用が高く,費用対効果に優れないことが示唆された。
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症例
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ESR1 遺伝子変異陽性の再発乳癌でレトロゾール+アベマシクリブが奏効した症例
50巻8号(2023);View Description
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乳癌の約70% はエストロゲン受容体(ER)陽性であり,内分泌療法の適応となる。ER 陽性転移再発乳癌の治療の第一選択は副作用の比較的少ない内分泌療法となるが,その多くは治療中に耐性を生じる。近年,耐性機序の一つに,ER をコードするESR1 遺伝子の変異が報告され,これは長期のアロマターゼ阻害剤(AI)治療後に生じることもわかっている。今回われわれは,がん遺伝子パネル検査にてESR1 変異陽性が判明したにもかかわらず,AI(レトロゾール)+アベマシクリブにより長期PR を得られている症例を経験したので文献的考察を踏まえて報告する。 -
乳房切除を要した乳腺コレステロール肉芽腫の1 例
50巻8号(2023);View Description
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症例は85 歳,女性。3 年前より近医で右乳房の囊胞性病変を経過観察されており,緩徐増大傾向につき,度々穿刺排液処置を受けていた。某日同様に穿刺排液処置を受けて帰宅した後,同部位からの断続的な出血を自覚し,当院救急外来を受診した。当院受診時右乳房C 区域を中心に位置する緊満した手拳大の腫瘤を認め,穿刺痕から噴出性の出血を伴っていた。可及的に穿刺排液処置を行ったところ,150 cc 程度の血性排液が得られた。その後,沈子,胸帯による圧迫を行い,入院加療とした。翌日圧迫を解除すると乳房は昨日と同程度までに緊満し,周囲には紫斑が拡大していた。また,血液学的検査所見で貧血の進行を認めたため囊胞内腫瘍からの断続的な出血を疑い,入院後3 日目に右乳房切除を施行した。病理組織学的検査では比較的まれな乳腺コレステロール肉芽腫の診断であり,文献的考察を加えて報告する。 -
中縦隔および腹腔内Bulky リンパ節転移を伴う進行食道胃接合部癌に対して術前SOX 療法により組織学的完全奏効を得た1 例
50巻8号(2023);View Description
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症例は79 歳,男性。胸やけ,心窩部痛を主訴に受診し,気管分岐部および左胃動脈周囲にBulky リンパ節転移(BulkyN)を伴うSiewert Type Ⅱ,cT3N3M0,cStage Ⅲの進行食道胃接合部腺癌と診断された。術前化学療法としてSOX 療法を2 サイクル施行したところ,原発巣およびリンパ節転移は著明な縮小を認めた。化学療法開始後10 週目で,胸腔鏡下食道亜全摘,後縦隔胃管再建術,2 領域リンパ節郭清(D2 郭清とNo. 105 の中縦隔郭清まで)を施行した。病理組織学的に摘出胃,食道およびリンパ節に癌細胞の遺残を認めず,組織学的完全奏効(pCR)を確認した。Bulky N を伴う進行食道胃接合部癌に対する術前化学療法におけるSOX 療法は有効な治療戦略の一つになり得ると考えられた。 -
無治療経過観察10 年後に肝転移・リンパ節転移を来した十二指腸腫瘍の1 例
50巻8号(2023);View Description
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症例は67 歳,女性。心窩部痛と体重減少を主訴に受診となった。10 年前に他院の上部消化管内視鏡検査で,十二指腸球部に15 mm の隆起性病変を認めていたが,無治療経過観察となっていた。当院の上部消化管内視鏡検査では,病変は増大のため全体像の把握が困難となっていた。生検では,高分化型腺癌の診断となった。造影CT 検査では,リンパ節転移,肝転移を伴う40 mm の多血性十二指腸腫瘍を認めた。切除不能十二指腸癌に対し,カペシタビンとオキサリプラチンの併用療法を2 コース行ったもののリンパ節転移が著明に増加し,化学療法開始後3 か月で死亡となった。非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍は頻度が少ないため自然史は明らかにされていないが,本症例は非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の悪性化リスクを示している。 -
切除不能大腸癌に対する抗EGFR 抗体薬のリチャレンジ例―腫瘍マーカーによる検討―
50巻8号(2023);View Description
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大腸癌治療ガイドライン2022年版において,切除不能大腸癌に対する後方治療としてリチャレンジ療法が記載されたが,現時点では有用性のエビデンスはない。今回当科において,腫瘍マーカーの推移が追えたリチャレンジ症例6 例を検討した。2 例は腫瘍マーカーが急激に低下し7~8 か月間維持されている。3 例で画像上のPR も確認できた。一方でまったく腫瘍マーカーの低下を認めない症例も存在した。リチャレンジ前のRAS が野生型である症例や,初回抗EGFR 抗体薬の効果が認められた症例がリチャレンジの効果に関与している可能性が考えられた。
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特別寄稿
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- 第55 回 制癌剤適応研究会
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当院における上部消化管領域での免疫チェックポイント阻害薬+化学療法の使用経験
50巻8号(2023);View Description
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当科で胃癌および食道癌に対し免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法を施行した症例について検討を行った。胃癌17 例の治療内容はnivolumab(Nivo)+S1/oxaliplatin(SOX)9 例,Nivo+5fluorouracil/Leucovorin/oxaliplatin(FOLFOX)5 例,Nivo+capecitabine/oxaliplatin(CapeOX)3 例であり,奏効率は35.3% であった。食道癌3例の治療内容はNivo+cisplatin/5fluorouracil(CF)2 例,pembrolizumab(Pembro)+CF 1 例であり,奏効率は33.3% であった。Grade 3 以上の有害事象発生率は胃癌で29.4%,食道癌で33.3% であり,重篤な免疫関連有害事象は認めなかった。日常診療における有効性や有害事象の評価には,さらなる症例集積と長期的な検討が必要である。 -
十二指腸部分切除術および術後補助化学療法を施行した原発性十二指腸水平部癌の1 例
50巻8号(2023);View Description
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症例は69 歳,男性。嘔吐を主訴に当科を紹介受診した。CT,上部消化管内視鏡で十二指腸水平部に全周性狭窄病変があり,十二指腸癌の診断で十二指腸部分切除術およびリンパ節郭清を行った。病理組織学的診断は高分化型管状腺癌,pT3,pN0,pStage ⅡA(UICC 第8 版)であった。術後補助化学療法としてFOLFOX 療法を施行し,術後2 年4 か月無再発生存中である。十二指腸水平部癌はまれな疾患であり,術式選択や補助療法の是非に関し,さらなる症例の蓄積が望まれる。 -
SMA 浸潤を伴う局所進行切除不能膵癌に対してFOLFIRINOX+放射線療法施行後にConversion Surgery を施行した1 例
50巻8号(2023);View Description
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局所進行切除不能膵癌に対してFOLFIRINOX+放射線療法を行った後,conversion surgery を施行した1 例について報告する。症例は70 歳台,女性。食後の腹痛を主訴に近医を受診し,腹部造影CT を撮影したところ,膵鉤部に上腸間膜動脈,第1 空腸動脈,第2 空腸動脈浸潤(>180°)を伴う不整形腫瘤を認めた。画像上,URLA(sm),cT4N0M0,cStageⅢの膵癌と診断され,mFOLFIRINOX 5 コース施行した。その後,局所制御を目的として,放射線療法50.4 Gy(三次元原体照射)を追加した。CA199は394.1 U/mL から10.5 U/mL へ低下した。治療効果はRECIST: partial response と判定した。この後,根治術可能と判断し,初回治療から8 か月後に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。腫瘍は3×2 mm 相当とごくわずかな範囲に認められ,pStage ⅠA,R0,術前化学療法の治療効果判定はEvans Grade Ⅲであった。患者は術後5 か月無再発生存中である。 -
S 状結腸癌肝転移に対して肝切除を行い組織学的完全寛解が得られたにもかかわらず肝局所再発を来し再肝切除を施行した1 例
50巻8号(2023);View Description
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S 状結腸癌および多発肝転移に対して化学療法後,肝切除術を施行し病理結果で完全寛解を得たが,化学療法中止後肝局所再発を来したため再肝切除を行った1 例を報告する。下腹部痛で当院救急外来を受診した。大腸内視鏡では全周性のⅡ型腫瘍を認め生検にて高分化型腺癌と診断された。根治目的にて腹腔鏡下S 状結腸切除+D3 リンパ節郭清を施行した。術後CT にてS5,S7,S8 に肝転移を認め,Bev+modified FOLFOX(mFOLFOX)を11 サイクル施行した。肝転移はいずれの部位でも縮小し肝右葉切除術を施行した。切除標本からはviable な癌組織は認めず完全寛解と考えられた。術後Bev+mFOLFOX を6 サイクル再開し寛解を維持していたが,化学療法を中止した3 か月後,肝切除後1 年6 か月後のフォローアップCT にて肝断端の局所再発を認め,肝転移局所再発と診断し開腹肝部分切除を行った。患者は術後9 か月現在,無再発生存中でありmFOLFOX を再開している。