癌と化学療法
Volume 50, Issue 9, 2023
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総説
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Onco‒cardiology ガイドライン―国内ガイドライン動向―
50巻9号(2023);View Description Hide Descriptionがん治療の進歩によりがん患者の生存率は改善しているが,がん薬物療法に伴って発症する心筋症,高血圧,不整脈,虚血性心疾患,弁膜症,血栓塞栓症などの心血管毒性が患者の予後に影響を与える。腫瘍循環器学は,がん治療を最適化するために循環器医とがん治療医が一緒に行う新しい領域である。腫瘍循環器学は急速に発展し,本邦でも2017 年に日本腫瘍循環器学会が設立された。腫瘍循環器領域の診療指針となるガイドラインの作成が海外の学会で取り組まれるようになってきており,日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会は2019 年に本邦のOncocardiology ガイドライン作成部会を組閣した。ガイドラインは,日本医療機能評価機構のEBM 普及推進事業のMinds ガイドライン作成マニュアルに準拠して作成に取り組んだ。まず,重要臨床課題10 項目を選定し,構成要素(PICO)に従って16 のclinical question(CQ)を抽出した。システマティックレビューにてエビデンスの評価できるCQ は五つにとどまり,他のquestion はbackground question またはfuture research question としてステートメントを記載した。そして2023 年3 月に本邦初のOncocardiology ガイドラインが刊行された。本稿では推奨文を記載した五つのCQ を中心に概説する。
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特集
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- 免疫療法を支える基礎研究
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cGAS‒STING 経路を標的とした大腸癌の新規治療戦略の可能性
50巻9号(2023);View Description Hide Descriptioncyclic GMPAMP synthase(cGAS)stimulatorof interferon genes(STING)経路は,外来DNA を感知しⅠ型インターフェロン応答を誘導する重要な細胞内シグナルの一つであるが,近年,抗腫瘍免疫応答の活性化におけるcGASSTING経路の重要性が注目されている。大腸癌をはじめとした種々の癌において腫瘍細胞内cGASSTING発現低下が報告されており,cGASSTING発現低下が抗腫瘍免疫応答の活性化抑制に関与することが明らかとなってきた。著者らは,大腸癌の代表的なサブタイプであるミスマッチ修復機能欠損/高頻度マイクロサテライト不安定性(dMMR/MSIH)大腸癌とミスマッチ修復機能正常/マイクロサテライト安定性(pMMR/MSS)大腸癌に着目し,pMMR/MSS 大腸癌ではdMMR/MSIH大腸癌と比較し腫瘍細胞内cGASSTING発現が減少しており,細胞傷害性T 細胞浸潤の低下に関与していることを明らかにした。本稿では,著者らの知見を含め最近の報告を基に腫瘍細胞内cGASSTING経路を標的とした大腸癌の新たな治療戦略の可能性について検討する。 -
深層学習アルゴリズムを基盤としたイメージングサイトメトリーによる大腸癌腫瘍免疫微小環境の解析
50巻9号(2023);View Description Hide Description大腸癌の腫瘍免疫微小環境(tumor immune microenvironment: TIME)には,各癌患者固有の治療転帰の指標を含んでいる。この指標を明らかにする解析手法として,組織切片における客観的で再現性の高い細胞関連情報を取得する目的で,深層学習アルゴリズムを基盤としたイメージングサイトメトリー(deep learningbased imaging cytometry: DLIC)が注目されている。本研究はDLIC の一つであるCuCyto の細胞識別精度の検証過程を示す。DLIC によるTIME の「空間的構造」情報を取得することはバイオマーカー検索に有用であり,がん精密医療の実現に貢献する。 -
腫瘍免疫に影響を及ぼす大腸癌関連線維芽細胞亜集団の機能と役割
50巻9号(2023);View Description Hide Description癌関連線維芽細胞(cancerassociated fibroblasts: CAFs)は腫瘍微小環境を構成する主要な細胞の一つであり,様々な機序を介して腫瘍の進展や転移,さらには抗癌剤耐性に関与すると報告されている。さらに近年,CAF と腫瘍免疫微小環境(tumor immunemicroenvironment: TIME)の相互作用が腫瘍進展にかかわる重要な因子であることが明らかとなっており,その機序の解明が癌免疫療法の治療戦略に大きく影響すると考えられている。われわれは,singlecell RNA sequencing解析を用いて大腸癌におけるCAF が免疫細胞との相互作用を介し,腫瘍免疫を制御することにより腫瘍進展に関与していることを報告したことから,近年報告されている腫瘍免疫にかかわる文献を加えて総説する。 -
腸内細菌代謝産物A は免疫修飾を介して抗PD‒1 抗体療法の抗腫瘍効果を増強する
50巻9号(2023);View Description Hide Description腸内細菌はヒトの重要なパートナーであり,その乱れが炎症性腸疾患やがんの発症などと関連している。また,腸内細菌は免疫チェックポイント阻害剤の治療効果にも関与しており,腸内細菌の制御によってがん免疫療法の効果が向上する可能性がある。現在,腸内細菌を制御する治療法として,便移植に加え,整腸剤など生菌製剤を示すプロバイオティクス,食物繊維などの細菌代謝基質を示すプレバイオティクス,細菌代謝産物や菌体成分を示すポストバイオティクスの開発が進んでいる。本稿では,腸内細菌代謝産物である短鎖脂肪酸(SCFA)の1 種であるSCFAAがT 細胞の活性化とM1 マクロファージ誘導に関与し,抗PD1抗体療法の抗腫瘍効果を増強することを紹介する。SCFAAがポストバイオティクスとしてがん免疫療法の新たな治療法として期待される。
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Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃 癌
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原著
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当院における古典的ホジキンリンパ腫に対するBrentuximab Vedotin,Doxorubicin,Vinblastine,Dacarbazine(A+AVD)療法の治療成績
50巻9号(2023);View Description Hide Description造血器腫瘍診療ガイドライン(2018 年版補訂版)では,進行期古典的Hodgkin リンパ腫(CHL)の標準治療としてbrentuximab vedotin,doxorubicin,vinblastine,dacarbazine(A+AVD)療法が新たに加えられた。そこでわれわれは,2015 年4 月~2022 年6 月に新規にCHL と診断し,当院で治療を導入したA+AVD 療法施行15 例とdoxorubicin,bleomycin,vinblastine,dacarbazine(ABVD)療法施行21 例を後方視的に解析した。A+AVD 群は1 例を除きすべて進行期であり,年齢中央値63(23~85)歳であった。clinical stage Ⅲ以上のABVD 群6 例との比較では,推定2 年全生存率はA+AVD 群で良好であった(A+AVD vs ABVD: 100% vs 66.7%,p=0.047)。一方,初回治療後の完全寛解率(53.8% vs 100%,p=0.109),全奏効率(69.2% vs 100%,p=0.255),推定2 年無増悪生存率(70.1% vs 66.7%,p=0.321)は差を認めなかった。
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症例
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A Case of Immune Thrombocytopenia Occurring after Radiotherapy plus Atezolizumab Treatment for Bladder Cancer
50巻9号(2023);View Description Hide Description症例は84 歳,女性。肉眼的血尿が出現。膀胱癌と診断。atezolizumab と膀胱への放射線照射を開始した(atezolizumab 併用放射線療法に関する第Ⅱ相医師主導多施設共同治験)(jRCT2031180060)。8 サイクル終了後に完全寛解を確認した。維持期のatezolizumab を開始した。血小板数が減少したため2 サイクル目以降は中止した。骨髄検査では異常はなかった。血小板数は一時自然に回復したが,再度減少した。IL‒6 が上昇していた。免疫性血小板減少症と診断した。prednisolone(PSL)20 mg/day を開始した。血小板数は増加した。 -
Direct Oral Anticoagulants(DOAC)で治療したCV ポート関連上肢深部静脈血栓症の2 例
50巻9号(2023);View Description Hide DescriptionCV ポートの留置は静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)のリスク因子の一つである。欧米のガイドラインではカテーテル関連血栓症(catheterrelated thrombosis: CRT)の治療においては,一定の条件を満たせばカテーテル留置のままでの抗凝固療法を推奨している。われわれは,乳癌術後補助薬物療法目的に左鎖骨下静脈からのCV ポートを留置後に上肢深部静脈血栓症(upper extremity deep vein thrombosis: UEDVT)を発症した2 例を経験したが,2 例ともCVポートを留置したままで直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants: DOAC)の投与を行い,Ddimer値のモニタリングを含め注意深く経過観察することで症状改善を維持して補助療法を完遂することができた。乳癌術後補助薬物療法患者に発症したCRT へのDOAC 投与は,出血などの有害事象の可能性も低く比較的安全に行える可能性がある。 -
食道ステント留置後に化学療法にて多発肺転移が消失し根治切除を施行した胸部食道癌の1 例
50巻9号(2023);View Description Hide Description症例は70 歳,男性。食事通過障害にて当院を紹介受診し,EGD で胸部中下部食道に亜全周性2 型病変を認め生検で扁平上皮癌と診断された。CT 検査で多発肺転移を認め,cT3,cN1,cM1(肺),cStage Ⅳb と判明した。狭窄症状が強かったため食道ステント留置を行った後,CDDP/5FU療法を導入し8 コース施行し,その後腎障害のため5FU単剤に変更し4 コース施行,肺転移巣は消失した。初回治療から約1 年後に胸腔鏡下食道切除,3 領域リンパ節郭清,胸骨後胃管再建術を施行した。術後は無治療経過観察とし,1 年4 か月再発なく外来通院中である。 -
外科的切除により30 か月の生存が得られた十二指腸原発未分化癌の1 例
50巻9号(2023);View Description Hide Description症例は80 歳台前半,男性。黒色便,貧血の精査の上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に潰瘍性病変を認め,生検で低分化型腺癌が疑われた。リンパ節転移,遠隔転移は認めず,根治目的に膵頭十二指腸切除術を施行した。組織学的には腫瘍は十二指腸下行脚を主座とし,主膵管や胆管,乳頭部への直接浸潤を認めなかった。腫瘍細胞は高度核異型を有し,細胞接着性が乏しかった。免疫組織化学染色で,腫瘍細胞はcytokeratin(CK)AE1/AE3 弱陽性,CK7 陰性,CK20 弱陽性であり,大部分がvimentin 陽性であったことから十二指腸原発未分化癌(pT4N0M0,pStage ⅡB)と診断した。術後補助化学療法は施行せず術後27 か月間,無再発で経過していたが,術後28 か月目に肺転移,リンパ節転移を認め,術後30 か月目に死亡した。十二指腸原発未分化癌は非常にまれであり,一定の治療方針のない予後不良な疾患だが外科的切除により比較的良好な予後が得られた症例を経験したので報告する。 -
肝硬変既往がある乳癌術後難治性乳糜漏の1 例
50巻9号(2023);View Description Hide Description症例は75 歳,女性。嘔気精査目的に施行したCT で左乳房腫瘤の指摘があり受診した。精査にて左乳癌,左腋窩リンパ節腫大を認めた。腋窩リンパ節FNA はリンパ節細胞由来成分が認められず検体不適であった。cT2N1M0,Stage ⅡB の評価で左乳房切除術+腋窩リンパ節郭清を施行した。術後3 日目からドレーンから白濁色の排液があり乳糜漏の診断となった。術後4 日目から脂肪制限食+末梢点滴で管理。ドレーン排液の乳糜は軽減したがTG 257 mg/dL,細胞数は525/mm3(リンパ球70%),排液量は500 mL 以上継続した。術後8 日目からオクトレオチド皮下注を開始し減少傾向となる。さらに術後12 日目と17 日目にピシバニール溶解液をドレーンから局所注入し,排液が20 mL/day まで減少してからドレーン抜去し,術後22 日目に退院となった。肝硬変で遠肝性側副路が発達し,領域リンパ節やリンパ管の発達,リンパ流の流圧が高まったことで乳糜漏が発症しやすくなることが懸念された。 -
乳癌術後化学療法中にCOVID‒19 に感染し抗体カクテル療法により重症化を防げた1 例
50巻9号(2023);View Description Hide DescriptionCOVID19の発生は世界的流行を引き起こした。また,癌患者がCOVID19関連の合併症を発症するリスクが高いことも示唆されてきた。しかしCOVID19の治療長期化による化学療法の長期中断は癌治療の強度を考慮すると望ましくない。今回われわれは,乳癌術後化学療法中にCOVID19に感染し抗体カクテル療法により重症化を防ぎ,乳癌治療の遅れを防ぐことのできた症例を経験したので報告する。症例は45 歳,女性。右乳癌,cT2N1M0,stage ⅡA,invasive ductal carcinoma,ER 0%,PR 0%,HER2 1+,Ki67 90% に対して,術前化学療法を施行後,右乳房全切除術ならびに腋窩郭清術を施行した。術後病理結果はnonpCRであった。術後補助療法としてcapecitabine 投与を開始した。3 サイクル目day 8 に39℃台の発熱が生じ,翌日,COVID19POC 遺伝子検査にて感染陽性が確認された。同日,抗体カクテル療法として中和抗体薬(casirivimab,imdevimab)を投与した。投与2 日後(day 11)にGrade 3 の好中球減少を認めたが,症状は増悪することなく投与10 日後(day 19)に退院となった。2 週間後にcapecitabine 投与を再開し,その後は大きな合併症なく8 サイクル完遂することができた。
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短報
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入院化学療法中の肺癌患者における認知機能障害に対する調査 第29 回日本がんチーム医療研究会
50巻9号(2023);View Description Hide DescriptionNineteen non‒small cell lung cancer patients admitted for chemotherapy were investigated for cognitive dysfunction and factors affecting cognitive function. The results showed that the patients experienced some decline in cognitive function, and fatigue affected cognitive function and quality of life. Cognitive function in cancer patients affects their treatment choices, employment, and social life. We need to be aware of the cognitive dysfunction of cancer patients, and at the same time, we need to intervene with consideration for cognitive function, as fatigue can easily lead to a sense of cognitive decline. Key words: Non‒small cell lung cancer, Chemotherapy, Cognitive function(Received Nov. 21, 2022/Accepted Feb. 16, 2023)
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