Volume 50,
Issue 10,
2023
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総説
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癌と化学療法 50巻10号, 1021-1026 (2023);
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ARCAD データベースプロジェクトは,大腸がん薬物療法の分野で59 研究43,488 例のデータを所持する国際的データベースをすでに構築している。本邦においても,国立がん研究センター東病院が中心となり,アジア地域の大腸がん臨床試験データを収集・統合するARCAD アジアが発足し,アジア地域の臨床試験データをすでにARCAD 本体のデータと統合し,日仏米三極で共有することを実現した。この真の意味でのグローバルデータベースを用いてプラセボのない新規薬剤の臨床試験(no placebo initiative)を基として,新しいエビデンスの創出や薬剤開発のあり方に対する政策提言などがん薬物療法の発展のために様々な活動を続けている。さらに本活動を大腸がんにとどまらず,胃がんをはじめとして固形がん全体に拡張する試みも始めている。
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特集
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CAR‒T 療法の進展
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癌と化学療法 50巻10号, 1027-1031 (2023);
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CART細胞療法は,白血病,骨髄腫,非ホジキンB 細胞リンパ腫などの造血器腫瘍において,化学療法抵抗性の患者に対する有効性を示している。しかし固形癌の場合,腫瘍細胞への移動と浸潤の制限,免疫抑制性の腫瘍微小環境の存在,さらにこのような治療に伴う有害事象など,いくつかの障害によって未だ制約されている。近年,次世代CAR 免疫細胞技術が拡大し,免疫細胞の増強,内因性免疫の活性化,腫瘍微小環境による抑制に抵抗する細胞の武装化など進展がみられている。
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癌と化学療法 50巻10号, 1032-1037 (2023);
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近年,細胞免疫療法(養子免疫療法)が開発されている。がんを抗原特異的に認識し攻撃するエフェクターT 細胞を体外で大量に調整してから患者に輸注して戻す治療方法である。2000 年代に入り,キメラ抗原受容体(chimeric antigenreceptor: CAR)遺伝子導入(改変)T 細胞療法(CART),がん抗原特異的なT 細胞受容体を遺伝子導入(改変)T 細胞療法(TCRT)の開発が積極的に進められてきた。2017 年以降,CD19 陽性B 細胞リンパ腫/白血病の一部に対して複数のCD19CART細胞療法が承認され,さらに多発性骨髄腫に対してB 細胞成熟抗原(BCMA)を標的とするCART療法も承認されてきた。しかしながら,固形がんに対するCART細胞療法の開発も進められているが,現時点で承認されているものはない。さらに最近,MHC とがん抗原由来ペプチドの複合体を認識するCART細胞療法も開発されている。本稿では固形がんに対する遺伝子改変T 細胞療法の開発状況,今後の課題について概説する。
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癌と化学療法 50巻10号, 1038-1042 (2023);
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前立腺癌は比較的進行が遅く,外科的治療の適応とならない転移性癌でもホルモン治療で病勢を抑えられることも多い。しかし一部の前立腺癌は,ホルモン治療に応答しない去勢抵抗性前立腺癌となり抗癌剤,第二世代ホルモン治療薬なども無効となり治療に難渋する。CART細胞療法は血液腫瘍の分野で目覚ましい成果をあげている。前立腺特異的膜抗原(PSMA)などを標識として前立腺癌に対する研究も進められているが,固形癌への浸潤の効率の問題など課題は多い。前立腺癌におけるCART細胞療法の研究の現状や海外での臨床研究の最新の成果について解説する。
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原著
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癌と化学療法 50巻10号, 1061-1067 (2023);
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ALK 融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌患者を対象とした,ジカディア® の特定使用成績調査を実施した。安全性解析対象症例573 例の患者背景は女性が54.62%,平均年齢は59.9 歳であった。副作用は82.55% に発現し,主なものは下痢43.46%,悪心34.38%,嘔吐18.67%,肝機能異常16.40% であった。投与中止に至った副作用の発現率は24.78% であった。有効性解析対象症例455 例における奏効率は30.99% であった。無増悪生存期間は約4 か月であった。安全性と有効性は既存の報告と同様であり,新たな問題点は認められなかった。
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癌と化学療法 50巻10号, 1069-1072 (2023);
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マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability: MSI)検査は癌患者に対して免疫チェックポイント阻害剤の治療適応判定のために実施されるが,固形癌では数% でMSIhighの結果が得られ,うち約6 人に1 人がLynch 症候群であるとされる。MSIhigh症例へLynch 症候群の遺伝カウンセリングや遺伝学的検査の機会を確実に提供するための当院での取り組みを報告する。2019 年2 月~2021 年11 月に208 例(男性107 例,女性101 例,20~87 歳,平均63.3 歳)の癌患者が当院でMSI 検査を受けた。2019 年2 月~2020 年12 月の間はLynch 症候群の解説を含めた同意説明文書でMSI 検査を実施し,癌診療主科担当医のみで結果説明が行われていた。136 件のうち11 例(8.6%)にMSIhighが得られたが,遺伝診療科受診へつながった症例はなかった。2020 年4 月よりゲノムセンターが稼働し,多職種による情報共有を開始,癌診療主科担当医へ適切なサポートを提供する体制を整えた結果,2021 年1~11 月に実施された72 件のMSI 検査では,MSIhighを認めた2 例(子宮体癌1 例,大腸癌1 例)とも遺伝診療科へ紹介受診となった。遺伝学的検査を実施しLynch 症候群の確定診断に至り,今後のサーベイランスや血縁者の健康管理についての情報提供が行えた。
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癌と化学療法 50巻10号, 1073-1076 (2023);
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オビヌツズマブはinfusion reaction(IR)を高頻度に発現する。GALLIUM 試験ではIR 予防として副腎皮質ホルモン剤,解熱鎮痛剤,抗ヒスタミン剤を使用していたにもかかわらず,全Grade 68.2%,Grade 3 以上12.4% と高頻度で認められた。メチルプレドニゾロンをGALLIUM 試験で投与した80 mg から125 mg へ増量し,初回オビヌツズマブの投与を行った濾胞性リンパ腫患者30 名を対象にIR の発現状況を調査した。IR の発現率は全Grade 43.3%,Grade 3 以上で0% であり,重篤なIR はみられなかった。また,感染症の発現頻度においても影響を与えなかった。副腎皮質ホルモン剤の増量は忍容性も高く,IR の発現頻度を低下させる有効な方法であると示唆された。
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症例
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癌と化学療法 50巻10号, 1077-1079 (2023);
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症例は69 歳,男性。X 年11 月から咽喉頭異常感があり,12 月に近医で両側肺炎を指摘され当院へ紹介された。肺炎は主に抗菌薬で改善した。X+1 年2 月にも肺炎を繰り返し抗菌薬加療で改善したが,咽喉頭異常感は残存した。内視鏡検査では下咽頭癌を認め,腫瘍により滞留した唾液が閉鎖不全を起こした声門へ流入していた。化学放射線療法後,誤嚥性肺炎の頻度は減少した。結論: 誤嚥性肺炎の診療時には,喉頭癌・下咽頭癌が発症契機となっている症例があることを想起すべきことが示唆された1 例である。
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癌と化学療法 50巻10号, 1081-1084 (2023);
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症例は78 歳,男性。10 年前に胃原発性B 細胞性悪性リンパ腫および転移性肺腫瘍と診断され他院で化学療法を施行し,完全寛解と判断され経過観察となっていた。1 か月前から右下腹部の腫瘤を自覚し来院した。CT で上行結腸に壁肥厚および口側腸管の拡張を認め,生検結果はadenocarcinoma であった。上行結腸癌の診断で右半結腸切除術を施行し,最終病理結果はびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫と高分化型腺癌の衝突腫瘍であった。術後31 か月を経過し間質性肺炎のため死亡した。今回,長期生存が得られた上行結腸癌と悪性リンパ腫の衝突腫瘍の1 切除例を経験したので報告する。
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癌と化学療法 50巻10号, 1085-1087 (2023);
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症例は81 歳,女性。2019 年2 月,直腸癌(Rsa)に対しXELOX+Bmab を2 コース施行後,腹腔鏡下低位前方切除術とD3 郭清を施行した。病理組織学的にリンパ管侵襲を認めたためXELOX による術後補助化学療法を4 コース施行し,間質性肺炎を発症したため中止し,その後は経過観察となった。2 年後に右肺S9 の10 mm 大の転移巣を認め,これを切除した。さらに1 年後にCT で右第5 肋間に経時的に拡大する結節影を認め,胸壁転移を疑って当科に紹介された。直腸粘液癌胸壁転移と考え,第5,6 肋骨切除を伴う右胸壁腫瘍切除術を施行した。病理組織学的に原発巣の転移と診断された。術後経過は良好で第10 病日で退院した。直腸粘液癌の胸壁転移というまれな症例を経験したため報告する。
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癌と化学療法 50巻10号, 1089-1091 (2023);
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若年・異時性の両側乳がん症例に対して,遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の診断のためにBRCA1/2 の遺伝学的検査を行い,生殖細胞系列のBRCA2 遺伝子に2 か所の病的バリアントを認めた。BRCA2 遺伝子の病的バリアントがtrans 型に配座する場合には,骨髄機能不全,悪性腫瘍の易罹患性を特徴とするFanconi 貧血と診断されることから,その鑑別のために血縁者の遺伝学的検査を追加した。これにより,これらのバリアントがcis 型に配座することが確認できた。これまで本邦で報告のない極めてまれなバリアントであるが,適切な遺伝カウンセリングの下,血縁者の遺伝学的検査を追加してBRCA2 遺伝子のcis/trans 型を確認することを考慮しなければならない。
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癌と化学療法 50巻10号, 1093-1096 (2023);
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外来がん薬物療法において薬剤師外来はがん薬物療法の初回導入時の指導だけではなく,副作用の重篤度評価に基づく支持療法薬の提案や経口抗がん薬の服薬アドヒアランス向上など,質の高いがん薬物療法に重要な位置付けになっている。当院ではimmune related adverse event(irAE)の早期発見とimmune checkpoint inhibitor(ICI)治療を安全に継続投与するために薬剤師外来を開設した。症例は56 歳,女性。子宮内膜がんFIGO Ⅰb 期に対してパクリタキセル/カルボプラチン(TC)療法を合計11 コース施行した。その後,microsatellite instability(MSI)検査陽性のためpembrolizumab を投与した。1 コース目は入院で施行した後,Grade 2 のaspartate aminotransferase(AST),alanine aminotransferase(ALT)の増加が認められた。2 コース目以降は薬剤師外来で面談を行い,肝機能が改善したことを確認した後に化学療法を施行した。再びGrade 2 のAST,ALT の増加が認められたため投与間隔を延長し3 コース施行後,腫瘍の縮小効果,症状緩和,腫瘍マーカーが低下した。4 コース開始前に下肢静脈血栓症が認められたためエドキサバン30 mg/日が投与となった。その後てんかん発作を起こしBSC となった。薬剤師による副作用モニタリングを行い,致死的な副作用をたどることなく治療効果を認めたため薬剤師外来の有用性を報告する。
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特別寄稿
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第44回 癌免疫外科研究会
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癌と化学療法 50巻10号, 1099-1101 (2023);
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近年,cyclic GMPAMPsynthase(cGAS)stimulatorof interferon genes(STING)経路は放射線治療による抗腫瘍免疫応答の活性化に重要であるとの報告がなされているが,食道扁平上皮癌(ESCC)において放射線治療による腫瘍微小環境の変化に及ぼすcGASSTING経路の影響はほとんど明らかにされていない。われわれは,腫瘍細胞内cGASSTING経路が放射線治療によるESCC 微小環境の活性化に重要である一方,IL34の産生を介して免疫抑制性マクロファージ(CD163+TAM)の蓄積にも関与することを明らかにした。本研究成果は,IL34を標的としCD163+TAM への分化・分極を抑制することで,放射線治療により抗腫瘍免疫応答をより効率的に活性化する新規治療戦略の開発につながる可能性を示唆している。
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癌と化学療法 50巻10号, 1102-1103 (2023);
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膵臓癌は豊富な間質を有する予後不良な悪性疾患である。膵臓癌の間質環境にはがん関連線維芽細胞(CAFs)が存在し,悪性化の進展,治療抵抗性や再発に寄与している。しかし膵臓癌間質を制御する有効な治療法は未だ確立していない。著者らは,癌抑制遺伝子p53 を搭載した腫瘍融解アデノウイルス製剤(OBP702)を開発し,膵臓癌に対する治療効果を明らかにしてきた。本研究では,膵臓癌CAF に対するOBP702の治療効果を検討する。
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癌と化学療法 50巻10号, 1104-1106 (2023);
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症例は27 歳,男性。腹部に腫瘤を自覚し,腹部超音波検査で70 mm 大の腫瘤性病変を認め,当科紹介となった。造影CT 検査では十二指腸および空腸近位部に70 mm 大の境界明瞭で,内部は不均一に造影される腫瘤を認めた。十二指腸もしくは小腸原発の粘膜下腫瘍の疑いと診断し,診断を兼ねた治療目的に手術の方針とした。腫瘍は上位空腸間膜内に存在し,腫瘍摘出・小腸部分切除術を施行した。病理組織学的検査では,核分裂像を認めない紡錘形細胞の増殖を認め,組織内に膠原線維の混在を認めた。免疫組織染色では,βcatenin(+),SMA(+),AE1/AE3(-),KIT(-),CD34(-),S100(-)であった。以上より,小腸間膜原発desmoid fibromatosis と診断した。今回われわれは,小腸間膜原発desmoid fibromatosisの1 例を経験したので文献的考察を加え報告する。
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癌と化学療法 50巻10号, 1107-1110 (2023);
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5FU/LOHP/CPT11治療後に急性増悪を来したMSIhigh再発結腸癌に対し,nivolumab+ipilimumab 併用療法が著効した1 例を経験した。併用療法の4 サイクルを終えたところで,画像診断上CR が得られた。併用療法から単剤療法に移行し2 サイクルを終えたところで,指数関数的に好酸球増多を認めるとともに皮膚障害の増悪を認めた。治療中断後速やかに好酸球数は正常化し,緩やかに皮膚障害が軽快した。治療中断から2 か月半後,治療を再開したが再び好酸球の増多傾向と皮膚症状の悪化を認めたため再度治療を中断した。好酸球数と皮膚症状をメルクマールに治療のonoffを行うirAE のマネジメントにより,皮膚障害の重篤化を未然に防ぎ,中断しながらも免疫チェックポイント阻害剤治療を続けることで癌の寛解維持が得られている興味深い1 例を経験したので報告する。
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癌と化学療法 50巻10号, 1111-1113 (2023);
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症例は47 歳,女性。肝転移,腹膜播種,遠隔リンパ節転移を伴う横行結腸癌と診断した。mFOLFOX6 を1 コース投与後,原発巣の検査で高頻度マイクロサテライト不安定性を認めたため,pembrolizumab に変更し著効した。pembrolizumab投与後に原発巣の縮小による結腸閉塞のため腹腔鏡下結腸右半切除術を行ったところ腹膜播種は消失し,横行結腸および領域リンパ節には組織学的に癌細胞遺残を認めなかった。免疫組織化学ではMSH2 とMSH6 の発現消失を認めた。遺伝学的検査にてMSH2 の病的バリアントを認め,リンチ症候群と診断した。本症例は進行大腸癌治療開始前にミスマッチ修復機能欠損の有無を念頭に入れた治療戦略を考慮すべきという点で,示唆に富んでいるため報告する。
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癌と化学療法 50巻10号, 1114-1116 (2023);
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症例は72 歳,男性。左上葉肺腺癌,cStage ⅣB,横行結腸癌,cStage Ⅳc の重複癌と診断された。肺癌の進行による無気肺,食道狭窄の症状を認めたため,肺腺癌に対する免疫化学療法(CBDCA+PEM+pembrolizumab)を先行する方針とした。治療開始後,肺癌,大腸癌ともに縮小傾向であったが,3 コース施行後に横行結腸癌腫瘍閉塞による腸閉塞を発症した。腸閉塞に対し内視鏡下ステント留置術を施行したが,ステントによる結腸穿孔,汎発性腹膜炎を来したため緊急手術(横行結腸部分切除術,人工肛門造設術)を施行した。切除した横行結腸病変は腫瘍細胞が消失し,病理学的完全奏効と診断した。また,肺癌に関しても臨床的完全奏効と診断された。術後ICU 管理が長期化し,ADL の低下が著しかったため免疫化学療法を再導入せずに経過観察中であるが,最終投与から14 か月経過した現在,肺癌,大腸癌ともに再発所見なく経過している。本症例はMLH1・PMS2 免疫染色陰性のdMMR 大腸癌であり,pembrolizumab が奏効したと考えられる。
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癌と化学療法 50巻10号, 1117-1119 (2023);
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症例は63 歳,女性。精神発達遅滞で施設入所中,血便と貧血を主訴に当科を受診し,精査でcStage Ⅱa(大腸癌取扱い規約第9 版)のS 状結腸癌と直腸S 状部腺腫を認めた。術前CT で内臓逆位を認めたため,事前のシミュレーションを経て手術スタッフやモニター配置を通常と逆にして手術を行った。手術時間4 時間3 分,出血量は少量であった。術後経過は良好であり,合併症なく術後第7 病日に軽快退院した。上腹部操作の際は鏡面像を意識した手術操作を行う必要があるが骨盤内は左右対称であり,通常の手術と同様に術者は患者右側から直腸授動が可能であった。内臓逆位を有する患者に対しても,術前シミュレーションを行い,手術操作を工夫することで安全に腹腔鏡手術を行うことができた。
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癌と化学療法 50巻10号, 1120-1122 (2023);
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症例は65 歳,女性。腰痛を主訴に2020 年に当院を受診し,精査にて多発性骨髄腫と診断した。化学療法や放射線療法を行っていた。治療開始後より貧血がみられていたが,2022 年4 月ごろより貧血の進行が急激となった。2022 年5 月の採血でHb 4.9 mg/dL と著明に進行しており,黒色便も認めた。上部消化管内視鏡では胃体中部に易出血性の1 型腫瘍を認めた。CT では胃体中部の腫瘍の他に膵臓にも腫瘍を認めた。輸血を施行したが貧血の改善が乏しく,止血のため緊急的に胃全摘術を施行した。術後合併症なく経過し,引き続き化学療法を行った。その後多臓器に髄外病変を認め化学療法抵抗性となり,術後1 年で死亡した。多発性骨髄腫における髄外病変は肝臓や脾臓,リンパ節に多くみられるが,胃にみられることはまれである。手術を施行した多発性骨髄腫胃浸潤の1 例を文献的考察とともに報告する。
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癌と化学療法 50巻10号, 1123-1125 (2023);
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治癒切除不能進行・再発胃癌の治療薬として免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されている。当科ではこれまで約70 例のICI 治療を施行しており,そのなかで二次化学療法以降に完全奏効を認めた5 例を経験した。症例は1 例にpembrolizumab が,4 例にnivolumab が投与されていた。非治癒切除因子としては2 例が肝転移,2 例が腹膜播種,1 例が肺転移であった。また,1 例で原発巣の横隔膜浸潤を認め,1 例で膵臓および肝臓への浸潤を認めた。いずれの症例も一次治療では病変の増大を認めたが,二次治療以降でICI を投与し完全奏効に至った。
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癌と化学療法 50巻10号, 1126-1129 (2023);
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症例は66 歳,男性。食道通過障害を主訴に受診した。食道胃接合部癌に対して胃全摘術および経裂孔的腹部食道切除と下縦隔を含むリンパ節郭清を施行した。術後病理結果は低分化型腺癌のT4aN2,Stage ⅢA,HER2 陰性であり,術後補助療法のS1内服を開始した。術後4 か月後のCT で肝転移再発および傍大動脈リンパ節転移を認めた。firstlineのXELOX療法,secondlineのweekly PTX 療法がPD となり,thirdlineでnivolumab 投与を開始した。3 か月後の評価でPR,6 か月後の評価でCR となった。同時期に急性胆管炎となり,開腹砕石ドレナージを施行したため同時に肝転移に対するmicrowave焼灼をした。術後は患者の希望により治療を終了した。現在まで初回手術から約5 年,nivolumab による寛解からも3年6 か月再発を認めず外来経過観察中である。胃癌に対するsalvage ラインでの免疫療法奏効症例に対するconversion 手術,あるいは治療中止のタイミングに対するエビデンスは乏しい。
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癌と化学療法 50巻10号, 1130-1132 (2023);
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目的: 大腸悪性狭窄に対する大腸ステント留置後の手術(bridge to surgery: BTS)における栄養管理の現状と術後経過を評価する。対象と方法: 大腸癌242 例を対象とし,大腸悪性狭窄例でBTS 群を施行した27 例,大腸悪性狭窄例で手術日まで絶食で飲水・エレンタール® 配合内容剤摂取の症例(食止め群)24 例,非狭窄大腸癌症例(食事群)191 例に分けて比較検討した。検討項目は大腸癌切除前の栄養管理方法,栄養評価,手術因子,術後経過を選択した。結果: BTS 群,食止め群,食事群で比較した食事摂取は27 例,0 例,191 例,エレンタール® 配合内容剤摂取は4 例,20 例,5 例,中心静脈栄養法は3 例,15 例,1 例であった。入院中の栄養充足率に差はなかった。小野寺式栄養指数(PNI)は外来初診時に食事群に対してBTS 群と食止め群が有意に低値であったが,手術直前では食事群に対して食止め群だけが低値であった(p≦0.05)。出血量は食事群に対してBTS 群,食止群で多かったが(p≦0.05),手術時間は差がなかった。術後経過(食事開始日,術後在院日数)は食事群に対して食止め群で不良であったが(p≦0.05),食事群とBTS 群に差はなかった。術後合併症発症は3 群間で差がみられた。結語: 閉塞性大腸癌においてBTS を実施する症例では,手術前に腸管を使用した充足率の高い栄養管理を行うことで,非狭窄症例と同等の術後経過となる可能性が示唆された。