Volume 50,
Issue 11,
2023
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総説
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癌と化学療法 50巻11号, 1137-1143 (2023);
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本稿では,個人情報保護法と生命・医学系指針の関係とそれぞれの改正内容について解説をする。近年,日本の研究力低下が叫ばれている。臨床研究におけるレギュレーション(規制)の複雑さおよび頻回の改正により,研究者,そしてそれを支援する研究支援者も困惑しており,研究者が研究に専念できるようなレギュレーションのあり方について,検討・整備されることを期待する。
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特集
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希少がんの薬剤開発の現状と未来
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癌と化学療法 50巻11号, 1144-1149 (2023);
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2011~2022 年までの10 年間に罹患したがん患者や家族らを対象にアンメットニーズ調査を行い,がん患者の視点から情報のアクセス,治療選択,毎日の生活の質,心理社会的支援について実情を明らかにし,一般的ながん,希少がん,小児がんという分類でも特徴や問題点,課題を探った。がん種が異なっていても奏効する治療そのものを望む気持ちは同様である。ただ経済的,心理的負担は,年齢,ライフステージに密接に関係しており,セカンドオピニオンや必要な情報などはがん種によっても違いがある。毎日の生活での困りごとや通院,経済的な負担の側面もみえてきた。さらに2018 年に希少がん患者のみでとった臨床試験の調査との比較についても考察した。このような違いに着目することが,だれ一人取り残さないアンメットニーズ対策につながるものと考える。
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癌と化学療法 50巻11号, 1150-1154 (2023);
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日本での希少疾病用医薬品に対する国の開発支援として,「希少疾病用医薬品・希少疾病用医療機器等の研究開発促進制度」が1993 年より運用されている。対象患者数が5 万人未満で,医療上の必要性が高く,開発の可能性が高いものに対し,種々の支援措置が設けられている。しかし最近では承認取得の可能性を重視され,開発後期の臨床試験成績が求められるため,開発後期に指定される傾向が見受けられていた。厚生労働省は希少疾病用医薬品の指定の拡充に取り組むとし,2023 年度予算に関連経費を盛り込むこととなった。希少疾病用医薬品の指定拡充が開発促進につながることを期待したい。一方,当該制度の建付けについては抜本的な改革が必要と考える。抗悪性腫瘍剤でみると,2020 年時点で米国・欧州で希少疾病用医薬品に指定され,承認された品目のうち日本で未承認となる薬剤は24 品目,このうち中国,台湾,韓国のいずれかで承認されている品目は少なくとも16 品目ある。希少疾病用医薬品では国際共同試験への参加は有用なpathway であるが,希少疾病用医薬品であっても日本人データを求められるなどで開発のタイミングが間に合わずに断念することもある。国内に数~数十例のウルトラオーファンでは国内で臨床試験を実施することは不可である。より早期に患者アクセスを可能とする審査システムが望まれる。
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癌と化学療法 50巻11号, 1155-1159 (2023);
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がん全体の15% を占めるとされる希少がんには多くのアンメットメディカルニーズが残されている一方,治療開発には困難が伴う。希少がんに対する開発を促進・支援するためのPMDA の取り組みとして新興バイオ医薬品企業(EBP)のニーズに対応した開発相談,国際共同治験による開発の推進,医師主導治験に対する開発支援などを行っている。その他,臨床評価ガイドラインの改訂,RWD の活用に向けた相談制度の整備・ガイダンスの発信,がん種横断的な承認事例の蓄積などから,希少がん・希少なサブタイプに対する開発環境が整備されつつある。希少疾病用医薬品指定制度について,2004~2018 年度の15 年間に指定された267 品目の医薬品の約1/3 が抗悪性腫瘍薬であり,また過去10 年間(2013~2022 年)の抗悪性腫瘍薬の承認をみると,固形腫瘍の治療薬の26%(53/203),血液腫瘍の治療薬の60%(62/104)が希少疾病用医薬品の指定を受けていた。希少疾病用医薬品指定制度のみならず,条件付き早期承認制度,先駆け審査指定制度なども希少がんに対する開発において重要である。PMDA では,環境の変化およびニーズに応じた開発促進に継続して取り組むとともに,国内外へのいっそうの情報発信に努めていく。
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原著
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癌と化学療法 50巻11号, 1185-1189 (2023);
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アミノレブリン酸塩酸塩は経尿道的膀胱腫瘍切除術での腫瘍残存減少に有用性が高い薬剤であるが,重大な副作用に低血圧があり,臨床上問題となることがある。この低血圧を回避するため,薬剤師は医師との協議により降圧薬を中止する介入を行い,この薬学的介入効果について後方視的に検討した。岐阜市民病院においてアミノレブリン酸塩酸塩が投与された患者のうち,持参した降圧薬が手術日も服用継続指示である患者を対象とした。薬学的介入より前を対照群17 人とし,薬学的介入以降を介入群18 人とした。アミノレブリン酸塩酸塩投与前後における収縮期血圧の差は,対照群-19.4±22.5 mmHg,介入群-2.8±16.0 mmHg であり,介入群では有意に血圧の低下幅が小さかった(p=0.019)。医師および薬剤師の協働による低血圧への薬学的介入は,血圧低下を抑制することでアミノレブリン酸塩酸塩の安全性向上に有効であると考えられる。
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症例
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癌と化学療法 50巻11号, 1191-1194 (2023);
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Barrett’s esophagus(BE)is a precursor to adenocarcinoma of the esophagogastric transition. Thus, endoscopic surveillance is essential for the early diagnosis of dysplasia and neoplasm, allowing proper therapeutic. However, during the COVID‒19 pandemic, surveillance frequently failed. We present a case of a male, caucasian, 65 years old, patient with early adenocarcinoma in BE. Submitted an endoscopic resection, but due to the COVID‒19 pandemic patient lost the follow‒up endoscopic exams. Returned with a T3N1 adenocarcinoma esophagus in resection area. The present report illustrates the consequences of the failure in follow‒up after submucosal resection in COVID‒19 pandemic context.
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癌と化学療法 50巻11号, 1195-1197 (2023);
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症例は74 歳,男性。経口摂取不良で上部消化管内視鏡検査を受け,胃癌(低分化型腺癌)による幽門狭窄と診断され紹介となった。諸検査にて胃癌,cT4aN(+)M0,Stage Ⅲと診断し,幽門側胃切除術を予定した。手術所見で多発腹膜播種を認めたため(迅速病理で印環細胞癌),胃空腸バイパス+Braun 吻合(Devine 変法),腹腔内ポート留置術に変更した。術後にS1+LOHP(SOX 療法)を4 コース施行し,主病巣・リンパ節はSD であったが,腹水の出現を認めたため播種の増悪と診断した。化学療法をS1+paclitaxel 経静脈・腹腔内投与に変更した。full dose でGrade 3 の白血球減少を認め治療継続ができなかったため,各々の投与量を減量し調整した。以後,Grade 3 以上の副作用は認めず,レジメン変更後5 年8 か月にわたり治療を継続しているが,癌の再発およびQOL の低下なく元気に過ごしている。paclitaxel の腹腔内投与が奏効した症例を経験したので報告する。
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癌と化学療法 50巻11号, 1199-1202 (2023);
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症例は79 歳,男性。胃体部進行胃癌(術前診断: MU,4 型,cT4b,cN+,cM1,CY1,cStage ⅣB)に対し,標準的一次治療(SP 療法6 コース),二次治療(PTX±RAM 2+6 コース)を行ったがPD となった。三次治療nivolumab 9コース施行後,画像上PR となり審査腹腔鏡にてP0,CY0 を確認,根治切除可能と判断した。初回治療導入から23 か月後にconversion surgery(胃全摘(D2),RouxenY再建)施行,R0 切除であった。術後補助療法は行わず18 か月無再発生存中である。
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癌と化学療法 50巻11号, 1203-1205 (2023);
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症例は66 歳,女性。咳嗽を主訴に開業医を受診した。胸部X 線検査で異常陰影を認めたため当院内科を紹介受診となった。CT 検査で転移性肺腫瘍が疑われ,原発巣検索で胃癌の診断となりGSOX療法を開始した。2 コース施行後に大量吐血で搬送され,CT 検査で胃内への動脈性出血を認めた。その直後心停止となり心肺蘇生を開始し心拍再開後,interventionalradiology(IVR)により止血を得られた。止血後に施行した上部消化管内視鏡で腫瘍は壊死脱落,縮小していた。進行胃癌から出血を来すことはまれではないが,化学療法の効果による出血の報告は少ない。今回われわれは,化学療法施行中に大量出血,心肺停止まで至った症例を経験したので報告する。
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癌と化学療法 50巻11号, 1207-1210 (2023);
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症例は79 歳,男性。右上腹部痛,嘔吐を主訴に前医を受診した。膵頭部病変による閉塞性胆管炎および膵炎の診断で保存的に加療後,精査加療目的に当院を紹介受診した。膵頭部癌ないし十二指腸乳頭部癌の術前診断の下,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した。十二指腸乳頭を主座に分化型腺癌60%,神経内分泌癌40% の病変を認め,mixed neuroendocrinenonneuroendocrine neoplasm と診断した。領域リンパ節に腺癌成分の転移を伴っていた。術後13 か月で多発肺転移再発を来した。以降S1による化学療法を行い,術後17 か月時点でPR を得ている。
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癌と化学療法 50巻11号, 1211-1213 (2023);
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ガイドラインに沿った化学療法において継続が不可能もしくは効果不良になった状況で,温熱療法併用による化学療法により病勢の制御が可能になった切除不能の結腸・直腸癌3 症例を経験したので報告した。
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癌と化学療法 50巻11号, 1215-1218 (2023);
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症例は56 歳,女性。仙骨および肛門挙筋浸潤を伴う局所進行直腸癌,多発リンパ節転移の診断で,人工肛門造設後に化学療法を開始した。治療継続するも腫瘍の浸潤が進行し,疼痛の増強を認め入院となった。オピオイドのみでは除痛困難な状態であり,麻酔科医と相談し疼痛緩和のため硬膜外カテーテル留置を行う方針とした。L5/S1 より硬膜外カテーテルを留置し,0.2% ropivacaine の持続投与を開始した。硬膜外カテーテル留置後より疼痛は速やかに改善した。長期管理目的のため硬膜外アクセス用皮下ポートシステムを留置し,術後10 日で自宅退院となった。退院後は外来での疼痛管理を継続し自宅で生活を行うことが可能であったが,原疾患の進行によりポート造設術後約3 か月後に死亡した。局所進行直腸癌においてはオピオイドの増量や放射線治療を行っても十分な除痛効果が得られず,治療に難渋する場合がある。今回,局所進行直腸癌に対して硬膜外アクセス用皮下ポートシステムによる疼痛管理が有効であった1 例を経験したため報告する。
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癌と化学療法 50巻11号, 1219-1221 (2023);
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転移性脊髄髄内転移(intramedullary spinal cord metastasis: ISCM)は,不可逆的な麻痺につながるため早急な治療介入が必要である。さらに治療後も再発することが多く,予後不良な病態である。今回,緊急照射と高線量の放射線治療が奏効し,その後も治療効果を維持しているISCM の1 例を報告する。症例は53 歳,女性。卵巣癌術後2 年で,ISCM により両上肢・下肢の脱力が出現し自立歩行が困難となった。緊急放射線治療を行い,50 Gy/25 回の放射線治療後3 週間で歩行可能となった。放射線治療から5 年経過した時点でも画像上制御されており,緊急照射と高線量の放射線治療が有効であったと考えられた。
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癌と化学療法 50巻11号, 1223-1225 (2023);
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症例は60 歳,女性。triple negative 乳癌,多発肝転移にて化学療法中であった。治療開始から1 年3 か月,血液検査にて肝機能増悪と血小板数の減少が出現した。CT にて多発肝転移は縮小傾向であるが,肝右葉が萎縮し辺縁の凹凸が目立ち偽性肝硬変が疑われた。脾機能亢進により血小板数が減少し化学療法の継続が困難であった。内科で脾動脈塞栓術を行い,血小板数が回復したため化学療法を再開した。偽性肝硬変とは,典型的な肝硬変の病理組織像を伴わない肝硬変に類似した画像所見とされる。乳癌での報告は比較的多く,肝転移に対する化学療法の際には偽性肝硬変の出現に注意し,出現した際には内科と連携し肝硬変のコントロールと化学療法の継続を行うことが必要と考えられる。
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癌と化学療法 50巻11号, 1227-1229 (2023);
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症例は84 歳,男性。全身倦怠感があり病院を受診した。血液検査で高ビリルビン血症,肝機能障害が認められ入院して各種検査を受けた。骨髄穿刺でびまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫の診断となり,当院へ転院となった。転院時に総ビリルビンが8.4 mg/dL と著明な高値を呈し,また高齢であることから抗癌剤治療はリスクが高いと考えられた。治療を行う方針となり初発時の標準治療ではないgemcitabine,carboplatin,dexamethasone(GCD)療法とrituximab による治療を開始した。幸い効果がみられ速やかに高ビリルビン血症,肝機能障害が改善した。2 コース行った後,高齢者で標準的治療とされるpirarubicin,cyclophosphamide,vincristine,prednisolone(THPCOP)療法とrituximab を併用した治療に切り替え6 コース行い寛解となった。高ビリルビン血症,肝機能障害がある場合,標準治療を減量して行うよりgemcitabine を主とした治療で予後を改善できる可能性がある。
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癌と化学療法 50巻11号, 1231-1233 (2023);
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症例は81 歳,女性。前医で胸部異常陰影を指摘され,当医療センターを受診した。精査で左下葉肺腺癌,cT3N3M1a,Stage ⅣA と診断された。PDL1 発現はTPS 100% で高発現であった。患者はPS 1 であったため,pembrolizumab 単剤療法を施行する方針となった。4 コース施行後に主病変はpartial response(PR)となったが,Grade 3 の皮膚障害が認め,pembrolizumab 単剤療法を中断した。中止後6 か月で腫瘍の再増大を認めたため,atezolizumab 単剤療法を行いcompleteresponse(CR)を得た。3 コース終了時点で再度Grade 3 の皮膚障害が出現したため治療を中断した。しかし治療中断後2年6 か月経過してもCR を維持している。