癌と化学療法
Volume 51, Issue 2, 2024
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総説
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がん治療とがん疼痛治療の融合
51巻2号(2024);View Description Hide Descriptionがん治療とがん疼痛治療は患者のQOL を向上させるための両輪であり,その関係性は相補的でなければならない。がん治療の進歩は目覚ましく,多くのがん腫において生存率が向上している。一方で,痛みを抱えながら生きる患者が増えることも懸念される。がん治療の躍進に比べると,がん疼痛治療の発展は緩徐である。その根拠として,利用可能なオピオイド鎮痛薬や鎮痛補助薬は数年前と比較しても増えてはおらず,画期的な治療方法もまったく登場していない。国内外のガイドラインを見渡しても,がん疼痛治療に関する推奨は非常に曖昧である。しかし近年,オピオイド鎮痛薬は「諸刃の剣」であることがわかってきた。がん疼痛治療においてオピオイド鎮痛薬は主役であるが,細胞学的には腫瘍増殖または腫瘍抑制のいずれにも影響を与えている。このことは,がん腫によっても反応が異なる。さらに細胞障害性抗がん薬,分子標的薬,免疫チェックポイント阻害剤など,がん治療の内容によっても影響が異なる可能性がある。がん疼痛治療は,がん治療そのものに影響を与えていることを再認識する時期にきているのではないだろうか。そのためには,がん治療とがん疼痛治療の専門家がより密に連携し,臨床や研究の場において共創していくという姿勢が欠かせない。がん治療とがん疼痛治療の統合(integration)を越えて融合(fusion)を実現させるためには,interdisciplinary team を越えたチーム形態transdisciplinary team が必要である。
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特集
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- がん経験者のサバイバーシップ
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本邦におけるがんサバイバーシップ研究の現状と課題
51巻2号(2024);View Description Hide Descriptionがんの早期診断・治療技術の向上に伴い,がんと診断されてから長期に生存が可能となった。一方,治療の長期化や費用負担の増加,それに伴う多様な側面での晩期合併症が起こり得る。本稿では本邦におけるがんサバイバーシップ研究に関し,その統計指標や身体的・精神的・社会的晩期合併症に関しての研究を紹介し,今後本邦で実施していくべきサバイバーシップ研究の課題について整理する。まず,がんサバイバーにとって,これまで予後の指標として用いられてきた5 年生存率だが,将来の見通しを立てやすいサバイバー生存率について紹介する。また,がん患者の晩期合併症について身体的合併症では二次がん発症,精神的合併症では自殺,社会的合併症では就労継続や経済毒性についての研究を紹介する。最後に,「誰一人取り残さないがん対策」を実現する上で,今後必要な研究やデータ基盤について整理する。 -
二次がんスクリーニングの重要性―小児がんを例として―
51巻2号(2024);View Description Hide Description小児がん経験者の治療後20 年間の二次がん累積発症割合は2~5% で,一般集団よりも3~20 倍高く,そのリスク因子として放射線治療,アルキル化剤,白金製剤,トポイソメラーゼⅡ阻害剤の使用があげられる。本邦の小児がん病院15 施設の後ろ向きコホート研究で二次がん発症までの期間は,血液腫瘍5 年以内,骨軟部組織腫瘍10 年以内,脳腫瘍は約10 年,甲状腺がんや成人型がん15~20 年と発症時期は異なり,予後不良なものがあることが明らかにされた。二次がんの一次予防は一般人と同じであり,早期発見と早期治療が重要である。北米Childrenʼs Oncology Group ガイドラインと国際ガイドラインハーモナイゼーショングループの二次がんに関するコンセンサスの要点を紹介した。今後,小児がん治療後の二次がんについて,検診の利益・不利益を小児がん経験者や家族と情報共有しながら実施することが重要である。 -
がん治療医とプライマリケア医のタスクシェア・タスクシフト
51巻2号(2024);View Description Hide Descriptionがんを持つ人が歩む人生をcancer journey と呼ぶ。がん診療が進歩し専門分化が進むなか,cancer journey の視点から各専門領域を統合する流れが生まれてきている。本稿では,がん診療とプライマリケアの統合という視点から,タスクシェア・タスクシフトを考える。がん治療医とプライマリケア医は,それぞれ専門性は異なるものの,がんを持つ人にかかわる医療者としてそれぞれの特徴を活かしつつ,連携強化と知識・経験の共有を行うことでタスクシェア・タスクシフトが可能となり,スムーズな移行期医療につながると考えている。そのためにはがん治療医もプライマリケア医もそれぞれの専門性を追求することを目的化せずに,がんを持つ人のQOL 向上に向けて高い視座と広い視野を持って協働してもらいたい。
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Current Organ Topics:Gynecologic Cancer 婦人科腫瘍
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原著
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乳癌周術期化学療法時のペグフィルグラスチムの投与タイミングとFN 発症予防効果の検討
51巻2号(2024);View Description Hide Description発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)は化学療法時において治療スケジュールの遷延や相対用量強度(relative dose intensity: RDI)の低下を惹起し,予後に悪影響を与える。近年,予後改善効果を示したメタ解析の結果から,乳癌周術期化学療法においてdosedense 療法が広く行われるようになり,またHER2 陽性乳癌に対する術前化学療法ではタキサン系薬剤とトラスツズマブの2 剤にペルツズマブを加えた3 剤併用療法でより高い病理学的完全奏効率が示された。dosedense 療法ないしは3 剤併用療法時はFN 発症率が高いとされ,一次予防でのペグフィルグラスチム(pegfilgrastim:PEG)の使用頻度が高まっている。対象は2011 年1 月~2023 年1 月までにPEG 投与を行った176 例で,2019 年まではPEG投与日の中央値がday 4(day 2: 11 例,day 3: 3 例,day 4: 41 例,day 5: 8 例)でFN に対する抗生剤予防投与を58 例(92%)で行い,FN 発症は19 例(30%)であった。また,RDI は96.0~96.8% であった。一方,2020 年以降はPEG 投与日の中央値がday 2(day 2: 60 例,day 3: 48 例,day 4: 4 例,day 5: 1 例)で抗生剤予防投与はなく,FN 発症は0 例であった。また,RDI は99.7% であった。様々な乳癌周術期化学療法のレジメンにおける検討ではあるが,PEG の投与タイミングをより早期(特に化学療法終了後24~48 時間後)にすることでFN 発症率が減少し,またRDI が高まることが示された。
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特別寄稿
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山間部の中核病院,がん治療センター開設365 日
51巻2号(2024);View Description Hide Description福島県会津地域では少子高齢化と過疎化が大きな問題となっている。この地域の中核病院が高度な癌治療を切れ目なく,移動することなく提供できることを目的として2022 年7 月にがん治療センターを開設した。高精度の放射線治療機器を導入し,化学療法では様々な支持療法やアピアランスケアを行えるようになった。また,様々な面での整備を行ってきた。開設1 年を迎える今,これまでの経過を報告する。 -
第2 回がん悪液質に関するWeb アンケート調査 Japanese Evidence for Patients Of Cancer Cachexia Ⅱ(J‒EPOCCⅡ)① がん治療中の食欲不振や体重減少に対する早期発見・早期介入への課題
51巻2号(2024);View Description Hide Description2019 年に本邦のがん患者,患者の家族,医療従事者を対象に実施したがん悪液質に関するWeb アンケート調査(JEPOCC)から,がん治療中に食欲不振や体重減少を経験した患者の半数近くがその症状を医療従事者に相談しておらず,医学的介入を受ける機会を逸していることが明らかとなった。2021 年にアナモレリンが「非小細胞肺癌,胃癌,膵癌,大腸癌におけるがん悪液質」に対して承認され,がん悪液質の治療環境が大きく変化した。そこで本研究では,患者や家族,医療従事者のがんに伴う食欲不振・体重減少に対する問題意識やがん悪液質についての疾患認知度の変化を調査することを目的に,2022 年6 月に第2 回がん悪液質に関するWeb アンケート調査(JEPOCCⅡ)を実施した。その結果,患者や家族の食欲不振や体重減少への意識に大きな変化はなく,依然として治療機会を逸している可能性が示唆された。今後はがん悪液質の早期発見・早期介入の実現に向け,患者や家族もがん悪液質に対する医学的介入の意義を理解し,がん治療中の食欲不振や体重減少にも意識が向けられるように,さらなる疾患啓発が求められる。
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症例
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予後不良群の原発不明癌に対し良好な治療経過を得た1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description症例は47 歳,女性。全身倦怠感と腹痛を主訴に精査したところ,肝腫瘍と多発リンパ節転移を認めた。リンパ節生検で小細胞癌と診断されたが原発巣は特定できず,予後不良群の原発不明癌と診断した。全身状態は不良であったが肺小細胞癌に準じた治療を行い,良好な経過を得たので報告する。 -
根治切除後12 年目に胸膜播種,傍大動脈リンパ節転移を来した胃癌の1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description症例は72 歳,女性。直腸癌,卵巣癌の重複癌に対し低位前方切除術,D3 リンパ節郭清および子宮全摘,両側付属器切除術を施行した。病理診断は直腸が中分化型管状腺癌,pT3N0M0,Stage Ⅱで,一部に低分化や印環細胞癌成分を含んでいた。卵巣は粘液性腺癌pStage Ⅰで直腸と同様の所見であった。術中所見で直腸と卵巣の間に直接浸潤を認めず,腹膜播種もなかったことから同時性二重癌と診断した。直腸癌ハイリスクStage Ⅱに対しカペシタビンによる補助化学療法を行った。術後3.5 年目にCA199の高値を示し,胸腹部CT で胸膜播種,傍大動脈リンパ節転移を認めた。既往に12 年前に胃癌に対し胃切除術を施行されており,当時の胃の病理組織と今回の病理組織との対比から,直腸,卵巣腫瘍は各々胃癌の転移と考えられ,今回の再発も胃癌の晩期再発と診断した。胃切除後の晩期再発,特に術後10 年目以降の再発は非常にまれである。 -
化学療法にて長期奏効を得られた多発遠隔転移を伴う十二指腸粘液癌の1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description原発性十二指腸癌は消化器癌のなかではまれな癌であるが,そのなかでも粘液癌の頻度は非常に少ない。今回,化学療法により長期奏効を得られた多発遠隔転移を伴う切除不能十二指腸粘液癌の1 例を経験したので報告する。症例は60 歳,男性。心窩部痛と黄疸を主訴に当院を受診した。CT 検査にて十二指腸の壁肥厚,膵頭部周囲を中心に傍大動脈領域や縦隔など広範囲にわたるリンパ節腫大,腹膜播種・肺転移・骨転移を疑う所見を認めた。上部消化管内視鏡検査にて粘膜不整を伴う十二指腸狭窄がみられ,病理組織検査の結果は粘液癌であった。切除不能十二指腸原発粘液癌と診断し,十二指腸および総胆管の通過障害に対し胃空腸バイパス・胆管空腸バイパス術を施行した。術後FOLFOXIRI 療法を開始したところ,いずれの病変も著明に縮小した。計28 コース施行し,それ以降は患者の希望により休薬し経過観察のみとしているが,治療開始より10 年経過し病変の再増大は認めていない。
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特別寄稿
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- 第45 回 日本癌局所療法研究会
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腫瘍内出血を伴い空腸に穿通した横行結腸間膜由来の巨大GIST の1 切除例
51巻2号(2024);View Description Hide Description症例は38 歳,女性。下血にて前医を受診し,重度の貧血を認めた。右上腹部腫瘤の診断にて当科紹介となり,腹部CT で右上腹部に空腸との境界が不明瞭で,壁が造影され内部にair を伴う13 cm 大の腫瘍を認めた。腹腔内GIST,空腸浸潤の診断にて手術の方針となった。術中所見では13 cm 大の腫瘤が横行結腸間膜に存在し,空腸への浸潤を認めた。横行結腸切除,空腸部分切除とともに腫瘍切除を施行した。摘出標本では,横行結腸間膜を主座とする13×11 cm 大の腫瘍内出血を伴う充実性腫瘤を認め,空腸への穿通を認めた。切除標本の免疫組織学的所見ではckit,DOG1陽性,MIB1陽性率は10% であり,high risk の横行結腸間膜由来GIST の診断となった。術後3 週目に横行結腸吻合部狭窄にて再吻合術を施行し,第45 病日目に退院となった。現在,イマチニブ内服中で,術後9 か月無再発生存中である。 -
横行結腸癌多臓器浸潤に対して左上腹部内臓全摘を施行した1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。2 週間持続する腹痛・嘔吐・下痢・下血のため前医を受診した。炎症反応上昇とCT で左上腹部に一塊となった腫瘤を認めたため,当科に紹介受診となった。造影CT で横行結腸脾弯曲部を中心とする腫瘍性病変が胃大弯側と膵尾部・脾門部を巻き込み,膿瘍形成も伴っていた。多臓器浸潤を伴う高度進行大腸癌を疑ったが,膿瘍形成による高度炎症所見を伴っていたため一期的手術療法を選択した。抗生剤治療後,第6 病日に開腹手術を施行した。播種病変は認めず,洗浄細胞診は陰性であった。脾弯曲部を中心に胃大弯後壁・膵尾部・脾門部に浸潤した腫瘤の可動性が確認できたため,結腸脾弯曲部・胃・膵尾部・脾臓を切除する形で左上腹部内臓全摘術を施行した。術後第9 病日に退院し,病理診断では膵・脾・後腹膜への大腸癌の浸潤が確認された。今回,多臓器浸潤を伴う大腸癌に対して左上腹部内臓全摘を施行した1例を経験したため,文献的考察を加え報告する。 -
化学療法が奏効した原発不明癌の1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description原発不明癌とは十分な検索にもかかわらず原発巣が不明で組織学的に転移巣が判明している悪性腫瘍のことである。一般的に原発不明癌は予後不良であるが,化学療法が奏効した症例を経験したため報告する。症例は78 歳,女性。既往歴として76 歳時に胃癌。X-1 年6 月胃癌(tub1>tub2,pT1bN0M0,pStage Ⅰa)の診断で,幽門側胃切除術を施行した。術後1 年のCT 検査で右鎖骨上リンパ節の腫大を指摘され,頸部リンパ節摘出術を施行した。病理診断ではcomedo necrosisを伴う腺管形成型と低分化型充実性腺癌で乳癌の転移を示唆されたが,乳腺の精査で腫瘤は指摘されなかった。画像検査から原発不明癌と診断し,免疫染色,腫瘍マーカーなどから膵癌に準じた化学療法の方針とした。4 コース終了後の評価判定はPR で奏効した。病理組織像や腫瘍マーカーなどから原発巣を推定することが,有効なレジメンを決定する手段の候補になり得ると考えられた。 -
右卵巣静脈から発生したと考えられた平滑筋肉腫の1 切除例
51巻2号(2024);View Description Hide Description症例は58 歳,女性。1 か月前からの下腹部痛を主訴に受診した。臍部右側に可動性不良な弾性硬な腫瘤を触知した。腹部超音波検査では十二指腸尾側に57 mm 大の分葉状,境界明瞭な多血性の腫瘤を認め,造影CT 検査ではほぼ均一な造影効果を伴う腫瘤を認めた。MRI 検査ではT1 強調画像で等信号,T2 強調画像で高信号であり,拡散低下を伴っていた。また,腫瘍を取り巻くように右卵巣静脈が走行しており,右卵巣静脈原発平滑筋肉腫を疑い手術を施行した。周囲組織との剝離は容易であったが,右卵巣静脈が腫瘤と強固に固着しており,合併切除した。病理組織学的には,腫瘍は束状に増殖した紡錘形細胞で構成され,一部多角形の核分裂像や異型分裂像を伴っていた。免疫染色では,α‒SMA(+),caldesmon(+),calponin(+),desmin(-),CD34(-),CKA1/AE3(-),S100(-)であり,平滑筋への分化が示唆された。術中所見と合わせ,右卵巣静脈原発平滑筋肉腫と診断した。 -
局所進行直腸癌に対する化学放射線療法後のWatch and Wait の当科の成績
51巻2号(2024);View Description Hide Description背景: 直腸癌に対する化学放射線療法(chemoradiotherapy: CRT)後に経過観察するwatch and wait(W & W)が近年注目されている。目的: 当科でW & W を行っている症例のフォローアップの結果から,レジメンや適応について検討する。対象と方法: 2016~2020 年の4 年間に治療開始した下部直腸癌に対し,CRT(SOX 療法2~5 サイクル,45 Gy)を行い,clinical complete response(cCR)を得られた7 例をフォローアップした。結果: 観察期間の中央値は33(10~74)か月,7 例中4 例(57.1%)がcCR を維持していた。2 例に治療開始後1 年以降に局所の再燃があったが,salvage 手術を行うことができた。CRT 前に側方リンパ節転移があった症例は,8 か月で大動脈周囲リンパ節の転移を認めた。結語: cCR を維持している症例は,局所限局,リンパ節転移陰性の症例であった。一方,側方リンパ節転移を含むリンパ節転移例では経過中に遠隔転移を来したためsalvage 手術を行うことができなかった。今後,慎重な症例選択とフォローアップが必要と考える。 -
膀胱浸潤を伴う局所進行大腸癌に対し術前化学療法(FOLFOXIRI+Bevacizumab)後に膀胱部分切除術が可能であった3 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description膀胱浸潤を伴う局所進行大腸癌に対する膀胱全摘術は,根治性と引き換えにQOL が著しく低下する。膀胱全摘術を回避し膀胱温存をめざした局所制御を目的として,膀胱浸潤を伴う局所進行大腸癌3 例に対しFOLFOXIRI 療法にbevacizumabを併用した術前化学療法を行った。術前化学療法の有害事象としてはGrade 3 の好中球減少を2 例に認めたが,3 例とも良好な腫瘍縮小効果を認めた。3 例とも腹腔鏡下直腸高位前方切除術と膀胱部分切除術を行い,全例R0 切除と膀胱温存が可能であった。術後合併症として1 例に縫合不全を認めた。術後経過で1 例に膀胱局所再発を,2 例に腹膜播種再発を認めたが再発巣切除後に化学療法を行い生存中である。膀胱浸潤を伴う局所進行大腸癌に対する術前FOLFOXIRI+bevacizumab療法は腫瘍縮小効果が期待でき,膀胱温存が可能であったことから有用な治療法の一つであると考えられる。 -
横行結腸癌術後腹膜播種に対し一次治療のみで2 年6 か月の長期安定を維持した1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description症例は72 歳,男性。横行結腸癌に対して結腸右半切除術を施行され,tub2,pStage Ⅲb にて術後補助療法としてカペシタビン+オキサリプラチン(CAPOX)を8 コース施行した。術後2 年10 か月のPETCTにて骨盤内に腹膜播種を認め,腫瘍切除し,CAPOX+ベバシズマブ(BV)を8 コース施行した。腫瘍切除後2 年1 か月のCT にて2 か所の腹膜播種を認め,フルオロウラシル+ロイコボリン+イリノテカン(FOLFIRI)+BV 療法を開始とした。49 コース終了後,皮下埋没型中心静脈ポート(CV ポート)感染を認め,CV ポートを抜去し化学療法再開としたが,突然の腰痛が出現し化膿性脊椎炎の診断となった。化学療法を中断し手術を施行したが,CT にて多発肝転移,腹膜播種の増悪を認めた。腹膜播種に対しFOLFIRI+BV による長期安定を維持できたが,長期化学療法時の感染対策が必要と考えられたため文献的考察を加えて報告する。 -
超高齢者進行胃癌に対して化学療法後にコンバージョン手術を施行した1 症例
51巻2号(2024);View Description Hide Description症例は81 歳,女性。肝転移を有する進行胃癌症例に対し,一次化学療法にオキサリプラチン+S1療法,二次化学療法にパクリタキセル+ラムシルマブ療法を施行した。二次化学療法が著効し,コンバージョン手術(幽門側胃切除,リンパ節郭清と肝部分切除)を施行した。その結果,5 年無再発生存が得られた。80 歳以上の高齢者でもperformance status や栄養状態を慎重に評価し,状態が良好であれば化学療法,コンバージョン手術を有望な治療として選択できる可能性が示唆された。 -
皮膚浸潤を伴う局所進行乳癌に対しCadexomer Iodine を用い局所制御を行った3 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description乳癌は体表に近い悪性腫瘍であり,手術時の整容性だけでなく,皮膚浸潤乳癌の場合でも外見的な問題にも医療者が留意することで患者のQOL を改善することができる。今回われわれは,皮膚浸潤を伴う局所進行乳癌に対しcadexomer iodine を用いることによって良好な局所コントロールが得られた3 例を経験したので報告する。 -
緩和目的の大腸ステント閉塞によりステント再留置後,根治切除した上行結腸癌の1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description2012 年に閉塞性大腸癌に対して大腸ステントが保険収載されて以降,緩和目的での大腸ステント留置は急速に普及している。緩和目的に大腸ステント留置後,閉塞を来しステントを再留置し,その後根治切除を行った上行結腸癌の1 例を経験したので報告する。症例は92 歳,女性。90 歳時,繰り返す嘔吐と腹痛を主訴に救急搬送され,上行結腸癌による腸閉塞と診断,大腸ステントが挿入された。外科的切除は行わない方針となり,1 年3 か月間無症状で経過していたが,ステント留置部位の狭窄で再度腸閉塞となり救急搬送,ステントを再留置された。経過良好であったが二度目のステント留置から4か月後,再狭窄を懸念し外科を受診された。術前診断はcT4bN1aM0,cStage Ⅲc で根治切除を行った。緩和目的の大腸ステントの適応についてはADL や病期,予後など個々の症例に応じて検討する必要があると考えられた。 -
悪性門脈狭窄に対して門脈ステント留置を行った2 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description門脈圧亢進症症状を伴う悪性門脈狭窄に対し門脈ステント留置術を行った2 例を報告する。症例1 は68 歳,女性。5年前に残膵癌に対して残膵全摘術を施行後,CT で大動脈周囲に腫瘤を認めリンパ節再発と診断し,S‒1 療法を開始した。しかし腫瘍増大により門脈の圧排と挙上空腸周囲の静脈うっ血所見を認め,貧血と黒色便も出現したため門脈ステントを留置した。門脈血流の改善と側副血行路の消失を認め,貧血・黒色便は改善した。症例2 は75 歳,女性。膵頭部癌に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行,術後6 か月のCT で門脈を圧排する腫瘤が出現し局所再発と診断した。血小板減少を認めたため,化学療法導入前に門脈ステントを留置した。門脈血流は改善し,血小板数も改善した。門脈ステント留置術は悪性門脈狭窄に対して,門脈血流と臨床症状の改善を得られる有効な手技である。 -
大量腹水・腹膜播種に対してCDK4/6 阻害薬(Palbociclib)が著効した転移性乳癌の1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Descriptionはじめに: 腹膜転移にて大量腹水を伴う転移性乳癌の症例にCDK4/6 阻害薬(PAL)の薬物療法が著効した1 例を報告する。症例: 52 歳,女性。2~3 年前より左乳房の潰瘍形成を認めていた。急激な腹部膨満が認められ近医を受診となった。胸腹部CT にて左乳房腫瘤,腹膜播種,大量腹水,両側卵巣腫大を認めた。腹水穿刺にてClass Ⅴの診断となった。腹水コントロール不良のため当院受診となった。乳房腫瘤の組織診では,浸潤性乳管癌,Luminal A type と診断された。初期治療としてフルベストラントを開始したが,PD であったためCDK4/6 阻害薬(PAL)を追加した。治療開始1 か月後には大量腹水は減少した。胸腹部CT において,すべての病変は縮小を認めた。また,組織診でサイクリンD1 は高発現,p16 は低発現であった。現在50 か月経過したが,良好なADL とPR 状態を継続している。結語: 大量腹水・腹膜転移を伴う転移性乳癌に対してCDK4/6 阻害薬(PAL)が著効し,長期生存を得た症例を経験した。 -
食道裂孔ヘルニアを合併した早期胃癌に対して腹腔鏡下胃切除とヘルニア修復術を行った1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Descriptionリンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術および食道裂孔ヘルニア修復術を腹腔鏡で同時に施行した症例を報告する。ヘルニア修復ではメッシュを使用せず,食道裂孔を一次縫合縫縮とした。現時点で胃癌およびヘルニアの再発はみられない。 -
甲状腺乳頭癌と浸潤性乳管癌の重複癌の1 例
51巻2号(2024);View Description Hide Description甲状腺癌と乳癌を同時または異時性に発症する症例が女性で増加している。両者の関連性については,検出バイアス,共通のホルモン危険因子,遺伝的感受性などで説明されることもあるが,その病因は十分に解明されていない。われわれは,甲状腺癌と乳癌を同時に治療した症例を経験したので報告する。今後,甲状腺癌と乳癌の関連性の詳細が徐々に明らかにされていくと思われるが,甲状腺癌と乳癌術後患者のケアにおいて両者の診療に携わる医師はこの関連性を認識しておく必要がある。