癌と化学療法
Volume 51, Issue 3, 2024
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投稿規定
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INSTRUCTIONS FOR AUTHORS OF JAPANESE JOURNAL OF CANCER AND CHEMOTHERAPY
51巻3号(2024);View Description Hide Description
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総説
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一般住民に対する遺伝性腫瘍の生殖細胞系列変異の情報開示
51巻3号(2024);View Description Hide Description研究目的で収集した一般住民のゲノム情報は,研究参加者(参加者)に返却している事例が世界的にも十分ではなく,諸外国の実施例も社会的背景が異なることなどから本邦に直ちに取り入れるのが難しい。個別化ゲノム医療の基盤構築を企図して2012 年に開始した東北メディカル・メガバンク計画では,同意取得時に将来ゲノム情報を返却する可能性があることを参加者に説明した。その後,疾患との関連が明確で,医療上の対策がある生殖細胞系列の病的変異について参加者に返却(回付)する方法について検討を重ね,2022 年度に5 万人の全ゲノム解析情報から遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)とリンチ症候群(LS)の病的変異保有者111 人にゲノム情報を回付した。未発症者を含む医療機関受診前のゲノム情報回付であることを踏まえて,参加者の知らないでいる権利に配慮し,病的であることが明らかな変異を対象とし,ゲノム情報の正確性を担保するため新たに採血してシングルサイト検査を実施した。結果説明時には医療機関受診を勧奨し,医療上の対策について説明した。参加者は30~40 代が最も多く,HBOC 78 人,LS 33 人であった。このうち,LS の12 人が全ゲノム解析での難読領域に位置する変異などの理由で,確認検査で病的変異を保有していないことが判明した。癌罹患歴がある人は28人(HBOC 20 人,LS 8 人)で,HBOC のうち乳癌罹患歴のある6 人はすでに遺伝学的に診断され予防的手術を受けていた。自費診療の継続や通院の負担を理由に,18 人の参加者が医療機関受診を希望しなかった。ゲノム情報の提供者に生殖細胞系列の病的変異情報を返却し,医療上の対策が受けられるように支援をすることはゲノム医療法の基本的施策にも記載されており,個別化ゲノム医療の基盤を広げるためにさらに推進すべき課題である。
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特集
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- 切除不能進行・再発がんの治療成績の向上
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切除不能進行・再発肺癌の治療成績の向上
51巻3号(2024);View Description Hide Description細胞障害性抗がん剤はAACR において古典的化学療法であると定義され,永らくがん治療の主要な柱である。これらの治療薬の多くは,自然界の物質のスクリーニングにより開発された。非小細胞肺癌に対するこれらの薬の有効性は,1995年のメタ解析によってシスプラチンによって生存期間の延長がみられた。多くの治療薬が開発されたが,カルボプラチンとパクリタキセルやシスプラチンとゲムシタビンの組み合わせが標準治療であった。分子標的治療薬の開発は肺癌治療における大きな進歩であり,EGFR 阻害薬は日本で初めて承認された。治療効果予測因子はEGFR 遺伝子の特定の異常であることが判明し,ゲートキーパー部における二次変異への耐性が発生すること,遺伝子異常への特異性が高まると治療薬の有効性は向上することなどがわかった。その後は,複数のがんの原因となる遺伝子異常が同定され治療薬が開発された。免疫療法は,免疫チェックポイント阻害薬が唯一有効である。肺癌ではPD1/PDL1阻害薬による治療効果が早期に示された。現在は,免疫療法が効きやすい患者群に対しては初回治療から,そうでない患者でも化学療法との併用が標準治療となっている。さらに根治的治療の補助療法として,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせによって生存期間が延長する。これは複合的なアプローチが患者の予後に有益である。 -
切除不能進行・再発食道がんにおける薬物療法の歴史と展望
51巻3号(2024);View Description Hide Description切除不能進行・再発食道がんは予後不良な疾患の一つである。CF(シスプラチン+5FU)療法およびタキサン系薬剤はランダム化比較試験が行われたわけではないが,第Ⅱ相試験の結果をもって再発食道がんの一次治療および二次治療として標準治療とみなされた。その後,頭頸部がんや大腸がんで有効性を示していた抗EGFR 阻害薬の開発が進んだが,一次治療および二次治療のいずれでも生存期間を延長するには至らなかった。免疫チェックポイント阻害薬は様々ながん腫において単剤もしくは化学療法との併用で有効性を示しており,食道がんにおいても有効性を示してきた。KEYNOTE181試験およびATTRACTION3試験で,それぞれペムブロリズマブとニボルマブ単剤療法が化学療法に対して生存期間を延長した。また,KEYNOTE590試験とCheckMate 648 試験では未治療の切除不能進行・再発食道がんにおいてペムブロリズマブとCF 療法の併用がCF 療法に,ニボルマブとCF 療法の併用とニボルマブとイピリムマブの併用療法がCF 療法に対して優越性を示し,進行食道がんの一次治療の標準治療となった。免疫チェックポイント阻害薬の登場により生存期間は延長されたがまだ十分に満足のいく結果ではなく,CF 療法に免疫チェックポイント阻害薬および新規薬剤を組み合わせた治療法が研究されている。本稿では,進行・再発食道がんにおけるこれまでの薬物療法の歴史をたどっていくとともに,今後の展望についても触れていく。 -
切除不能進行・再発大腸癌の治療成績の向上
51巻3号(2024);View Description Hide Description切除不能進行・再発大腸癌は根治が難しく,腫瘍の進行を遅延させ,生存期間を延長することを目的に薬物療法による治療が行われる。殺細胞性抗癌薬や分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療開発が行われ,切除不能進行・再発大腸癌における生存期間の延長が得られてきている。本稿ではこれまでの報告を基に,切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法の変遷や標準治療の最近の進歩,今後の展望について述べる。近年は特定の遺伝子異常に対する個別化をめざした治療開発も進められており,今後のさらなる治療の発展が期待される。 -
進行・再発乳癌に対する治療成績の向上について
51巻3号(2024);View Description Hide Description診断時に遠隔転移を有するⅣ期進行乳癌や根治的治療後に時間を経てから遠隔転移などで診断される再発乳癌は,その治療目的は生存期間の延長とその期間内におけるquality of life(QOL)の向上・維持となる。治療の主体は全身の病変をコントロールすることであり,この目的において年代ごとの新規薬物療法の導入は予後改善に寄与しているはずである。しかし,たとえば2008~2016 年の診断年代別の進行再発乳癌におけるフランスのコホートデータでは,HER2 陽性乳癌でのみ年代を経ての生存期間の改善がみられ,それ以外のサブタイプでは認められなかった。これは生存期間の明確な延長をもたらす抗HER2 療法薬の導入タイミング前後で変化しており,年代別の予後の改善には明確な全生存期間の延長を示すことのできる薬剤の導入が必須のようである。他のサブタイプにおいても2017 年以降に大きな影響をもつ薬剤が導入されており,今後のデータをみていくことでそれらの反映を確認できるかもしれない。もちろん薬剤開発のみならず,がん/ホストのゲノム解析や分子診断の発展により,より適確な治療選択と治療変更が可能になりつつある。手術や放射線治療といった局所治療を含めた治療戦略の向上も重要な課題である。
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Current Organ Topics:Musculoskeletal Tumor 骨・軟部腫瘍 明日の骨・軟部腫瘍医療を変える基礎研究の最先端
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原著
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肥満症例に対する十分な郭清度・安全性を担保した腹腔鏡下直腸切除術のコツと成績
51巻3号(2024);View Description Hide Descriptionはじめに: 今回,肥満症例に対する腹腔鏡下直腸切除術の当科の手術手技・工夫,短期成績を報告する。対象と方法:2013~2018 年に当科で施行した腹腔鏡下直腸切除術194 例を対象とし,非肥満群161 例と肥満群33 例に分けて短期成績を比較検討した。結果: 肥満群で手術時間が長かったが(225 vs 266 分,p=0.003),両群とも開腹移行はなく,出血量(1 vs5 mL,p=0.582),郭清リンパ節個数(20 vs 17 個,p=0.356),術後合併症発症率(9.3 vs 6.1%,p=0.547)に差はなかった。おわりに: 視野展開の工夫,メルクマールの明確化,手術手順の定型化により,肥満症例でも郭清度を担保した安全な腹腔鏡下手術が可能である。
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特別寄稿
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第2 回がん悪液質に関するWeb アンケート調査Japanese Evidence for Patients Of Cancer Cachexia Ⅱ(J‒EPOCCⅡ)② 医療従事者のがん悪液質に関する疾患認知度と課題
51巻3号(2024);View Description Hide Description2019 年に本邦のがん患者,患者の家族,医療従事者を対象に実施したがん悪液質に関するWeb アンケート調査(JEPOCC)では,医療従事者の「がん悪液質」という言葉の認知度が高い一方,EPCRC による「がん悪液質の進行ステージとその判断基準」の認知度は低いことが明らかになった。また,多くの医療従事者は「がん悪液質」という言葉からがん患者の終末期の状態を連想しており,「早期から発症し得る合併症」という認識に欠けることも明らかとなった。2021 年にアナモレリンが「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌,胃癌,膵癌,大腸癌におけるがん悪液質」に対して承認され,がん悪液質の治療環境が大きく変化した。そこで我々は,患者や家族,医療従事者のがんに伴う食欲不振・体重減少に対する問題意識や,がん悪液質についての疾患認知度の変化を調査することを目的に,2022 年6 月に第2 回がん悪液質に関するWebアンケート調査(JEPOCCⅡ)を実施した1)。その結果,医師の「がん悪液質の進行ステージとその判断基準」の認知度は2019 年と比べると高いことが明らかとなった。また,「がん悪液質」という言葉から,早期から起こる筋肉量や総体重の減少,食欲不振および全身炎症を連想する医師が増加していた。一方,メディカルスタッフにおいては,「がん悪液質の進行ステージとその判断基準」の認知度に2019 年から大きな変化はなく,職種による認知度の違いがみられた。本研究結果から,今後,医師のみならずメディカルスタッフにもがん悪液質の病態や診断,治療に関する情報に触れる機会を増やし,がん悪液質に関する認識を深めることにより,がん悪液質の早期発見・早期介入の実現につなげることが必要と考えられた。
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症例
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術後補助療法中に肺動脈微小腫瘍塞栓症を発症した乳癌の1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description症例は68 歳,女性。左乳癌(triple negative type),cT2N3cM0,cStage ⅢC に対し術前化学療法を施行した。その後,手術の方針としLt. Bt+Ax(Ⅲ)を施行,病理結果はypT1aN2aM0,ypStage ⅢA,ER-,PgR-,HER2 score 1+,Ki67 25% の診断となり,術後放射線療法(50 Gy/25 Fr)施行後にcapecitabine 内服の方針とした。capecitabine 内服経過中に呼吸苦が出現し,CT と血液検査にて薬剤性間質性肺炎,DIC を疑い入院,ステロイドパルス療法,抗凝固療法,抗生剤投与とするも治療効果は乏しく入院3 日後に死亡した。病理解剖を行い,最終的に肺動脈微小腫瘍塞栓症(pulmonary tumor thrombotic microangiopathy: PTTM)の診断となった。PTTM の治療は確立したものはなく,抗凝固療法と化学療法が行われるも予後不良な病態である。PTTM の確定診断は病理診断だが,呼吸不全の状態では肺生検など侵襲的検査を行えない。そのため本症例のような急激に悪化する呼吸障害を発症した場合,PTTM を疑い早期に化学療法を考慮することが望まれる。 -
Bevacizumab により創傷治癒遅延を発症した再発乳癌の1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description再発乳癌治療としてのbevacizumab+paclitaxel 療法は,臨床試験の結果,overall survival(OS)の延長効果こそ認められなかったものの,その有効性から特にlifethreatening な状態と考えられるhuman epidermal growth factor receptor 2(HER2)陰性再発乳癌に対し,われわれ乳腺外科医が日常臨床で使用することの多いレジメンである。しかしながら,bevacizumab には特異な有害事象も存在する。そのなかで,蛋白尿や高血圧は日常診療で比較的多く経験するが,減量や休薬することにより症状が改善することが多く,血圧のコントロールも投薬により可能である。今回われわれは,bevacizumab に特異な有害事象である創傷治癒遅延を来し,そのため以降の抗癌剤治療が困難な状況に陥り,結果的に延命できなかった症例を経験したので報告する。 -
A Case of Relapsed/Refractory CD56‒Positive Acute Promyelocytic Leukemia, in Which Complete Molecular Remission Was Achieved Following Combination Therapy with Venetoclax and Azacitidine
51巻3号(2024);View Description Hide Description症例は84 歳,女性。X‒3 年7 月急性前骨髄球性白血病(APL)と診断した。PML‒RARA mRNA を認めた。CD56は陰性であった。白血球<3,000/μL かつAPL 細胞<1,000/μL のため,全トランス型レチノイン酸(ATRA)の単剤投与を開始した。X‒3 年9 月血液学的完全寛解(CHR)を確認した。地固め療法を拒否したため経過観察となった。X‒2 年2 月血液学的再発を来した。亜ヒ酸(ATO)による再寛解導入療法を施行した。X‒2 年6 月分子生物学的完全寛解(CMR)となった。ATO による寛解後療法を施行した。X‒1 年8 月分子生物学的再発を来したため,タミバロテン(Am80)を開始した。X‒1 年10 月血液学的再発を認めた。CD56 が陽性であった。venetoclax(VEN)とazacitidine(AZA)(VEN+AZA)の併用療法を開始した。1 コース終了後にCMR となった。5 コース施行後に血液学的再発を来した。消化管出血のため死亡した。ATRA,ATO に抵抗性でかつCD56 陽性APL の治療を検討する上で貴重な症例と考えられた。
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特別寄稿
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- 第45 回 日本癌局所療法研究会
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早期十二指腸癌に対し内視鏡併用・腹腔鏡補助下にて切除治療を行ったPeutz‒Jeghers 症候群の1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description症例は28 歳,女性。口唇に特徴的な色素斑と小腸ポリープの治療歴を有し,臨床的にPeutzJeghers 症候群(PJS)と診断されていた。姉が遺伝学的検査によりSTK11 の病的バリアントが同定されていた。PJS の定期的な消化管サーベイランス中,十二指腸下行脚に20 mm 大のポリープを認め,生検の結果,高分化型腺癌が検出された。腹腔鏡・内視鏡併用下での十二指腸部分切除の方針となった。内視鏡で腫瘍の位置を確認し,腹腔鏡を用い十二指腸を授動した後,直視下に粘膜切除を行った。病理組織学的には上皮内癌であり,遺残なく切除した。PJS は悪性腫瘍の発生頻度が高く,生涯にわたる消化管および消化管外病変に対するサーベイランスが必要である。十二指腸癌の発生頻度はPJS に発生する悪性腫瘍のなかでは高くはない。しかし進行癌の手術は侵襲が高く,早期癌の段階で発見し,内視鏡的切除や腹腔鏡・内視鏡合同手術など低侵襲による切除が望まれる。 -
85 歳以上の高齢者胃癌に対する外科治療成績
51巻3号(2024);View Description Hide Description高齢化社会に伴い高齢者胃癌は増加しているが,外科治療の適応は個々の症例や医師の判断によるところが大きい。当院で行われた85 歳以上の高齢者に対する胃切除症例の治療成績について検討した。2014~2022 年までに85 歳以上の胃癌患者に対して72 例の胃切除術が行われた。開腹28 例,腹腔鏡42 例,ロボット支援下2 例であり,幽門側切除57 例,噴門側切除7 例,全摘8 例であった。手術時間中央値200 分,術後在院日数は14 日であった。Clavien‒Dindo 分類Grade Ⅱ以上の合併症を14 例に認め,腹腔内合併症は少ないものの呼吸器・循環器合併症が散見された。観察期間中に他病死10 例を認めた。他病死リスク因子として,開腹手術,術後合併症,自宅退院以外の転帰があげられた。高齢者においても安全な胃切除は可能であるが,高齢者特有の病態に注意を払い,手術の計画・周術期管理を行うことが重要である。 -
胃癌抗がん剤患者に対する口腔ケア,口腔内トラブルについてのアンケート調査
51巻3号(2024);View Description Hide Description目的: 抗がん剤治療中の口腔ケア,口腔内トラブルの実状を明らかにする。対象と方法: 対象は,2021 年12 月~2022年2 月に胃癌に対して抗がん剤治療を実施した症例。方法は,口頭質問形式でのアンケート調査。結果: 症例36 例。化学療法開始前の歯科受診の有/無:29/7 例,歯科受診継続率48%,継続例のうち65 歳以上は64%,中断例のうち65 歳以上は93%で,高齢者で歯科受診の継続性が低かった。歯磨き以外のセルフケアの有/無:9/27 例,セルフケアを取り入れていた9 例のうち78%,取れ入れていない27 例のうち30% に味覚異常があり,味覚異常のある症例が有意にセルフケアを行っていた。症状の出現頻度は,味覚異常47%,口内炎42%,口腔乾燥36% であった。症状の辛さの程度が重いのは,味覚異常,口腔乾燥,口腔内の痛みの順であった。摂食量減少の原因となる最も頻度の高い副作用は味覚異常であった。 -
進行・再発胃癌薬物療法におけるNarrative Approach による治療選択―PTX or nab‒PTX?―
51巻3号(2024);View Description Hide Descriptionパクリタキセル(PTX)既治療胃癌患者に対し,narrative approach として質問表を用いた対話形式の調査を実施し,条件付き推奨であるナブパクリタキセル(nab‒PTX)の選択基準を検討した。患者は36 例。抗ヒスタミン剤を治療当日持参することに,65 歳未満あるいは抗ヒスタミン薬以外の併存薬がない症例が有意に不満を訴えた。抗ヒスタミン剤による眠気は,女性あるいは65 歳未満が有意に困っていた。従来は車を運転し通院していた11 例のうち8 例がPTX の点滴当日,車を運転できないことを困っていた。nab‒PTX により点滴時間が30 分短縮することに83% がメリットを感じていた。nab‒PTX の治療対象例は,抗ヒスタミン剤以外の処方薬の有無,眠気が日常生活に不利益を与える可能性,通院に車を運転する必要性,点滴時間の短縮が有益かなどを患者に確認することで適切に選択できる可能性が示唆された。 -
超高齢者に対する大腸癌の切除意義
51巻3号(2024);View Description Hide Descriptionはじめに: 本邦では手術治療を要する高齢者は増加傾向にあり,超高齢者でも手術治療の効果は期待される一方で,周術期管理や耐術能などの問題もあり外科切除の安全性と有効性のエビデンスは乏しい。そこで当院における超高齢者に対する大腸癌手術の短期成績および長期成績について後方視的に検討した。対象: 2010 年1 月~2020 年3 月までに当院で根治切除を施行した超高齢者大腸癌症例の14 例。結果: 男性/女性=3/11,年齢平均値92 歳,PS; 1/2=8/6,ASA‒PS; 2/3/4=8/4/2。また,原発部位はC/A/T/S/R=2/5/2/2/3,pStage; 1/2/3=1/9/4。術前治療症例は閉塞症状でイレウス管での減圧症例1 例のみで,全例が待機的根治手術を施行していた。アプローチ法は開腹/腹腔鏡/ロボット=5/8/1,郭清はD3/D2/D1=10/3/1。出血量中央値61 mL,手術時間中央値190.5 min,術後在院日数中央値は16 day であった。Clavien‒Dindo(CD)≧2 の合併症は5 例認めた。術後補助化学療法は全例未実施で3 例に再発を認めた。結語: 超高齢者への外科的治療は,適切な患者選択の下では許容できると思われた。 -
腹腔鏡下肝切除におけるICG 蛍光ナビゲーションの現状
51巻3号(2024);View Description Hide Description令和2 年度診療報酬改定で「K939‒2 術中血管等描出撮影加算」適応術式に肝切除術が追加され,内視鏡システムにもICG 蛍光画像をフルカラー画像にオーバーレイする技術が搭載されたことでリアルタイムナビゲーションが可能となった。これまでにわれわれが腹腔鏡下肝切除で標準化してきた術式は,肝癌に対する非系統的肝切除(部分切除)と系統的肝切除,胆囊癌に対する拡大胆囊摘出術である。肝部分切除においては腫瘍周囲が蛍光発光する性質を利用して切除マージン確保を,系統的肝切除においては肝離断中に切離ラインを確認するリアルタイムナビゲーションが可能となり精緻な手術に寄与している。拡大胆囊摘出術においては開腹手術で行っていた胆囊動脈からのICG 注入が困難であるため,胆囊頸部でPringle 用テープを引き抜いて,胆囊動脈以外の肝門遮断後にICG を静脈注射することでリアルタイムナビゲーション肝切除が可能となった。 -
悪性との鑑別が困難であった膵リンパ上皮囊胞の1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description膵リンパ上皮囊胞[lymphoepithelial cyst(LEC)of the pancreas]は,比較的まれな膵の良性囊胞性疾患である。今回われわれは,術前診断にて悪性腫瘍を否定できず,手術を施行したLEC の1 例を経験したので報告する。症例は72 歳,男性。他疾患フォローの胸腹部単純CT で偶発的に膵尾部腫瘤が指摘された。腹部造影CT では膵尾部に約3 cm の腫瘍を認め,造影にてあまり増強されず。MRCP では,T2WI で中等度信号,T1WI で高信号を示し,内部に一部囊胞状のT2WI 高信号を認めた。PET‒CT では淡いFDG の集積亢進のみであった。腫瘍マーカーCEA,CA19‒9 ともに正常値であった。以上より,膵浸潤性膵管内乳頭粘液癌(IPMC)などの悪性疾患を否定できず,腹腔鏡下膵尾側切除+脾臓合併切除術を施行した。病理結果にてわずかな脂腺への分化を伴う膵リンパ上皮囊胞と診断された。 -
ロボット支援下膵頭十二指腸切除術後にロボット支援下脾温存膵尾部切除術を施行し得た1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Descriptionはじめに: 腹腔鏡下膵頭十二指腸切除(LPD)は2016 年に保険収載され,2020 年にはリンパ節・神経叢郭清などを伴う腫瘍切除術にも適応が拡大され,ロボット支援下手術(RPD)も保険収載された。当院でも2020 年よりロボット支援下膵切除術を導入した。今回,膵頭部膵管内乳頭粘液性腺腫(IPMA)にロボット支援下膵頭十二指腸切除術を施行した後に,残膵尾部IPMA に対してロボット支援下脾温存膵尾部切除術を施行し得た1 例を経験したので報告する。症例: 患者は70 歳台,女性。近医より健診発見の膵頭部囊胞性病変の精査加療目的に当院を紹介受診した。腹部超音波検査で膵頭部に2 cm 大の囊胞と内部に造影効果を伴う1 cm 大結節を認め,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)のhigh risk stigmata と診断された。2020 年にロボット支援下膵頭十二指腸切除術を施行した。手術時間9 時間54 分,出血量は200 mL で,術後経過良好であった。術後病理診断はIPMA であった。術後,外来通院の上,画像経過観察を行っていたところ,膵尾部に4 cm 大の囊胞と内部に造影効果を伴う1 cm 大結節を認め,IPMN のhigh risk stigmata と診断された。2023 年にロボット支援下脾温存膵尾部切除術(RSPDP)を施行した。手術時間6 時間47 分,出血量は少量で,術後経過は良好であった。術後病理診断はIPMA であった。現在,外来通院中である。考察: 腹腔鏡下膵切除術においては術後の腹腔内の癒着が少なく,繰り返しの腹腔鏡手術が可能であるとの報告はあるものの,ロボット支援下膵切除術での報告はまだない。今回,ロボット支援下膵頭十二指腸切除術後であっても腹腔内の癒着が少なく,再度ロボット支援下に脾動静脈を温存した脾温存膵尾部切除術を検討し得ることが示唆された。 -
胃癌術後再発に対してCapeOX+ニボルマブにて長期CR 継続中の1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。検診での上部消化管内視鏡にて胃体中部前壁に2 型病変を認め,生検にてtub2 を認めた。造影CT 検査では胃体中部に限局性の壁肥厚,リンパ節腫大を認めた。胃癌,M,ante,Type 2,T4aN1M0,cStage ⅢA と診断された。開腹胃全摘術,D2 郭清,Roux‒en‒Y 再建を施行した。病理結果はtub1,int,INF b,ly0,v1,pT4aN0M0,pStage ⅡB であった。術後補助化学療法としてS‒1(100 mg/日)を開始した。しかし食欲不振(Grade 2)が出現し,最終的に3 コースで中止,以降は経過観察していた。術後9 か月のCT 検査で多発肺転移(両肺,5 個)を認めた。胃癌再発と診断し,一次化学療法としてCapeOX+ニボルマブを開始した。2 コース後に肺転移は縮小傾向を認め,3 か月後には病変はCR となった。以降,CapeOX+ニボルマブ継続も15 コース目に末梢神経障害(Grade 2)を認め,オキサリプラチンを中止し,カペシタビン単剤+ニボルマブに変更した。カペシタビン単剤+ニボルマブ継続にて[irAE に関しては肝機能異常(Grade 3)],CR 維持も肝機能の上昇を繰り返し,最終的に患者希望にて化学療法中止となった。現在,再発後5 年6 か月CR を維持している。 -
遠隔転移を有するStage Ⅳ ATP 産生胃癌に対してConversion Surgery を行った1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description肝転移,bulky N を有する進行胃癌に対し化学療法にて著明に腫瘍縮小を認め,conversion surgery を施行した1 例を経験したので報告する。症例77 歳,男性。貧血の進行精査にて近医を受診し,進行胃体部癌にて当科紹介となる。上部消化管内視鏡検査では,胃体部後壁に2 型進行癌を認めた。腹部CT では同部位の胃壁肥厚を認め,胃背側にbulky なリンパ節腫大と傍大動脈リンパ節腫大を認めた。審査腹腔鏡では原発巣とbulky リンパ節が一塊となって,膵,空腸への浸潤を認め,肝S3 に単発腫瘤を認めた。生検病理ではadenocarcinoma であった。進行胃癌,cT4b(panc,jejunum),N2M1(LYM,HEP),P0CY0,Stage ⅣB と診断した。全身化学療法FOLFOX/nivolumab 3 コース施行した後,開腹胃全摘術,D2 郭清,膵体尾部脾合併切除術,胆摘,肝部分切除術,横行結腸部分切除術,小腸部分切除術,Roux‒en‒Y 再建,R0 を施行した。手術時間620 分,出血量は1,025 mL であった。病理学的にはhepatoid adenocarcinoma,ypT4bN1M1(LYM,HEP),ypStage Ⅳであった。組織学的治療効果判定は原発巣Grade 1a であった。初診から9 か月,現在無再発経過観察中である。 -
術前化学療法にて病理学的完全奏効を得た局所進行直腸癌の1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description症例は78 歳,男性。下血と体重減少を主訴に受診した。精査にて進行直腸癌の診断で,術前化学療法としてカペシタビン+オキサリプラチン療法を3 コース施行した。術前化学療法施行後,ロボット支援腹腔鏡下直腸切除術+D3 リンパ節郭清+側方リンパ節郭清術+一時的人工肛門造設術を施行し,第15 病日に退院した。術後の病理診断では直腸内に潰瘍性病変を認めるのみで,悪性細胞は確認できなかった。術後補助化学療法施行後,外来にて無再発生存中である。 -
小腸間膜内に発生したデスモイド型線維腫症の1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Descriptionデスモイド型線維腫症は比較的まれな疾患で,家族性大腸ポリポーシスや腹部手術歴に関連することが多い。症例は43 歳,男性。腹痛を契機に造影CT で下腹部に腫瘤性病変があり,デスモイド型線維腫症などの間質系腫瘍を疑い,手術を施行した。腫瘤は4×4×3 cm 大の白色充実性腫瘍で,好酸性の紡錘形細胞の花筵状配列を認めた。免疫染色ではKIT(-),CD34(-),desmin(-),β-catenin(+),SMA(少数+)であり,デスモイド型線維腫症と診断された。術後6 か月で明らかな再発所見を認めていない。 -
家族性大腸腺腫症に対するIPAA/IRA 後の残存直腸/肛門管癌発生状況
51巻3号(2024);View Description Hide Description目的: 大腸切除術を受けた家族性大腸腺腫症(FAP)患者を対象に,IPAA/IRA 後の残存直腸の癌発生に関する最近の傾向を調査し,後方視研究を行った。患者と方法: 対象は,2005~2022 年の間にIPAA またはIRA を受けたFAP 患者で,臨床病理学的データを診療録から抽出し解析した。残存結腸・直腸癌の累積発生率と治療後の全生存率はKaplanMeier法により算出した。結果: 男性45 例,女性56 例。IPAA は49 例(handsewn:n=33,stapled: n=16),IRA は52 例に施行されていた。大腸手術時の年齢中央値は32(13~66)歳であった。術後経過観察の中央値は11 年[1~48 年(術後48 年の症例は他院で1974 年に手術している症例で適応としている)]であった。81 例が遺伝学的検査によりAPC の病的バリアントを保持していることが確認された。残存結腸・直腸癌の累積発生率は,IPAA を受けた患者とIRA を受けた患者で有意差がなかった(10 年の発生率: 4.1 vs 1.9%,p=0.73)。残存結腸・直腸癌に対する追加手術後の累積5 年全生存率は82% であった。結論: 本研究は,症例数が少ない単一施設の後方視的研究であり,術後の内視鏡サーベイランスが標準化されていないなどの限界がある。しかし本研究の結果は大腸切除の種類にかかわらず,術後の定期的なサーベイランスにおける残存直腸癌の制御という点で,FAP 患者の満足のいく腫瘍学的転帰を示していると思われる。 -
左腎盂癌術後に結腸転移再発を認めた1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description症例は73 歳,男性。69 歳時に左腎盂癌(乳頭状尿路上皮癌,pT3aN0M0,Stage Ⅱ)の診断で,左腎尿管全摘術と膀胱部分切除術を当院で施行された。71 歳で再発性膀胱腫瘍を認め,膀胱全摘術と尿管腸瘻造設術を他院で施行された。以降,他院で術後経過観察中であり,再々発の所見なく経過していた。73 歳時に腹痛を主訴に当院を受診した。CT で下行結腸の壁肥厚および口側腸管の拡張を認め,下行結腸癌の腸閉塞の疑いで緊急下部内視鏡検査を施行された。内視鏡では下行結腸に全周性の2 型腫瘍を認め,完全狭窄を来していたため大腸ステントを留置した。生検で微小乳頭型腺癌と診断した。下行結腸癌,cT4aN2aM0,Stage Ⅲc の診断で,大腸ステント留置の1 か月後に開腹下行結腸部分切除術,D2 郭清を施行した。術後診断においても術前と同様に微小乳頭型腺癌を認めたが,免疫染色でCK7(+),CK20(-)となり,左腎盂癌の下行結腸転移の診断となった。腎盂癌の初回手術から4 年後に下行結腸転移を来したまれな症例を経験したため報告する。 -
再発上顎歯肉癌に対してペムブロリズマブ投与中に重度皮膚障害を生じた1 例
51巻3号(2024);View Description Hide Description免疫チェックポイント阻害薬の有害事象の一つとして免疫関連有害事象(immunerelated adverse events: irAE)が知られている。pembrolizumab(PEMBRO)での加療を行った患者において,irAE としてCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)ver. 4.0 Grade 3 の皮膚障害を認め,PEMBRO 投与を中断したが再開できた症例を経験したので報告する。患者は67 歳,女性。右上顎歯肉扁平上皮癌,cT4aN0M0,Stage ⅣA と診断し,右上顎部分切除術・右拡大肩甲舌骨筋上頸部郭清術・前腕皮弁による上顎再建術を施行した。病理組織検査にてpT4aN0M0,Stage ⅣA と診断された。術後6 か月で右頬リンパ節・左頸部に節外浸潤を伴う後発多発リンパ節転移を認め,右頬リンパ節摘出術・左全頸部郭清術変法を施行した。術後化学放射線療法(cisplatin+IMRT)を施行し,cetuximab+paclitaxel を投与(13 コース)後に右頬部に再発病変を認めた。再発病変に対してPEMBRO 単剤投与を導入した。8 コース投与後より前腕から前胸部・背部の皮疹が出現し,CTCAE Grade 3 のirAE と診断し,皮膚科専門医による入院加療を要した。皮膚障害の改善を待ってPEMBRO(75% 減量レジメン)にて再開を行った。現在,外来にて経過観察を継続している。