癌と化学療法

Volume 51, Issue 4, 2024
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投稿規定
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INSTRUCTIONS FOR AUTHORS OF JAPANESE JOURNAL OF CANCER AND CHEMOTHERAPY
51巻4号(2024);View Description
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総説
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電子患者報告アウトカムモニタリングによるがん治療の有効性と期待
51巻4号(2024);View Description
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がん領域における有害事象の評価にはCommon Terminology Criteria for Adverse Events が用いられてきた。しかし有害事象を評価する医療者は,実際に発現している患者自身よりも症状を過小評価する傾向があることが示されており,患者中心の医療を実現するためには患者報告アウトカム(patientreported outcome: PRO)のモニタリングが必須と考えられている。PRO とは,「臨床家その他の誰の解釈も介さず,患者から直接得られた患者の健康状態に関するあらゆる報告」のことである。PRO は紙の質問票を用い日常的に臨床現場で収集されているが,タブレットやスマートフォンを使ったelectronic PRO(ePRO)という形でより簡便に,かつ効率的にPRO を収集できるようになってきている。ePRO は患者が入力したPRO を非対面でも医療者は共有できるため,遠隔での症状モニタリングや必要時の介入も可能となり,患者の生活の質を改善するだけでなく,全生存期間を延長した報告もある。本邦でもすでに日常診療において使用可能なePRO が登場しているが,広く普及するには至っていない。本稿ではがん患者の治療において,ePRO モニタリングの必要性や有用性,導入や普及のための問題点と解決策,日常診療における現状と展望について概説する。
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特集
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- コンパニオン診断薬の現状と課題
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日本におけるコンパニオン診断薬の現状と規制上の課題
51巻4号(2024);View Description
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コンパニオン診断薬(companion diagnostics)は特定の治療薬の有効性や副作用を投与前に予測するために使用される体外診断用医薬品であり,治療薬との同時開発・同時承認が原則となっている。国内では2024 年1 月までに40 品目のコンパニオン診断薬が承認されており,そのうち39 品目はがん治療薬の適応を判定するための製品である。多くのコンパニオン診断薬は,PCR 法,免疫組織染色(immunohistochemistry: IHC)法,in situ ハイブリダイゼーション(in situ hybridization:ISH)法などの技術を検出原理として,がん関連遺伝子に生じた変異(点変異,挿入欠失,融合など)やがん関連分子の発現量を解析することで特定の治療薬の適応の可否を判定する。また,最近では次世代シークエンス(nextgeneration sequencing: NGS)法を検出原理とするコンパニオン診断薬が複数承認されており,がんゲノム医療に活用されている。NGS診断の台頭により,1 回の検査で多数のがん関連遺伝子の変異を同時に解析し,多種の治療薬についてその適応の可否を同時に判定することが可能になりつつある。一方で,コンパニオン診断薬の開発品目の増加に伴い,治療薬とコンパニオン診断薬の同時開発に関連する課題や検出対象が共通するコンパニオン診断薬の互換使用に関する課題などが生じており,これに応じた規制の見直しが国内外で進められている。 -
肺癌診療におけるコンパニオン診断薬の現状と課題
51巻4号(2024);View Description
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非小細胞肺癌では多くのdriver 遺伝子異常が同定され,治療薬の開発と臨床導入が進んでおり,それに伴いコンパニオン診断薬(CDx)を取り巻く状況が複雑化している。肺癌診療ガイドラインでは,進行肺癌の初回治療前のCDx には多くの遺伝子異常を一度に検査可能なマルチ遺伝子検査が推奨されている。しかし保険診療においてマルチ遺伝子検査が保険償還されるのは1 回・1 種類のみであること,特定のコンパニオン診断薬と特定の分子標的薬が紐付いていること,現在使用可能なマルチ遺伝子検査はどれも承認薬が存在するすべての遺伝子変異のCDx となっていないことなどから,規制上の問題点に直面することが少なくない。進行期の非小細胞肺癌では,マルチ遺伝子検査で正しい結果を得るのに十分な組織検体を採取するのが難しいという問題点もある。検査に偽陰性があり得ることにも注意が必要で,患者にキードラッグが届かない可能性につながる。本稿では,臨床医の立場から日常臨床で直面するCDx にまつわる問題点について記載する。 -
コンパニオン診断としての分子病理診断
51巻4号(2024);View Description
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ゲノム医療が進むにつれて,病理医による分子病理診断がコンパニオン診断として用いられる機会も増えている。病理標本が病理診断のみならず,ゲノム解析,分子病理診断に資するものでなくてはならない。病理医が行うコンパニオン診断は免疫組織化学的染色やfluorescence in situ hybridization(FISH)を用いて,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の患者適格性を判断する。多種多様な判定基準を正確に守り,精度高く行うことにより,病理診断学が治療病理学に近づくことになる。 -
がんゲノム医療にかかわるコンパニオン診断の現状と課題
51巻4号(2024);View Description
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2023 年12 月現在,保険診療で実施できるがん遺伝子パネル検査は5 種類存在する。そのうち4 種類についてはコンパニオン診断機能も有しているが,がん遺伝子パネル検査をがんゲノムプロファイリング検査として実施した場合は,検査実施料の44,000 点とがんゲノムプロファイリング評価提供料12,000 点の合計56,000 点を請求できるのに対し,コンパニオン診断目的で使用した場合は,この56,000 点より低いコンパニオン診断としての診療報酬しか算定できない。このため臨床現場においてがん遺伝子パネル検査がコンパニオン診断目的で使われることはほとんどない。がんゲノムプロファイリング検査として用いられる場合でも,その適応が標準治療終了または終了見込みの患者に限定されているため,保険適用薬と紐付くバイオマーカーについてはがん遺伝子パネル検査申込時にすでに単独のコンパニオン診断薬で評価されていることが多い。一方,TMBHに対するペムブロリズマブやNTRK 融合遺伝子に対するエヌトレクチニブ,ラロトレクチニブのように,単独のコンパニオン診断薬が存在せず,がん遺伝子パネル検査を実施しなければ薬剤適応の有無を判定できない抗がん薬も存在する。本稿では,がんゲノム医療にかかわるコンパニオン診断の現状と課題について述べる。
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Current Organ Topics:Melanoma and Non—Melanoma Skin Cancersメラノーマ・皮膚癌
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原著
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緩和ケア認定教育施設に勤務する外来看護師の倫理的悩みと看護師の問題解決行動との関連―第31回日本がんチーム医療研究会―
51巻4号(2024);View Description
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本研究では,外来看護師のがん緩和ケアにおける倫理的悩みと看護師の問題解決行動の関連を明らかにすることを目的に,1,241 名の回答者のうち外来看護師284 名(22.9%)を分析対象とした。結果として,がん緩和ケアを行う外来看護師は急性期病院に勤務する看護師と比較して倫理的悩みが高く,倫理的悩みがあるほど個別的な状況に応じて援助を工夫している。今後は,人生の最終段階にある患者と家族によりよい最期の時を過ごしてもらえるよう,外来看護師の倫理的悩みや看護師の問題解決行動の対処能力についての教育を行っていく必要がある。
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症例
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Nivolumab併用化学療法後にConversion手術を施行した進行胃癌の1例
51巻4号(2024);View Description
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切除不能進行胃癌に一次治療でのnivolumab 使用が保険適応となり,その治療効果が明らかになりつつある。今回われわれは,一次治療でのnivolumab 併用化学療法後にconversion 手術を施行した進行胃癌の症例を経験したので報告する。症例は58 歳,女性。既往歴は高血圧,脂質異常症。左鎖骨上窩,腹部大動脈周囲など広範囲にリンパ節転移を伴う進行胃癌に対し,HER2 陰性,PDL1CPS 5 以上を確認後にnivolumab を含めた化学療法を施行した。施行後,リンパ節の著明な縮小を認め,conversion 手術として胃全摘術D2 郭清,癒着に対する脾臓・膵尾部合併切除および傍大動脈リンパ節サンプリングを施行した。切除検体に明らかな癌遺残はなく病理学的奏効度はGrade 3 と著効していた。術後4 か月で無再発生存している。 -
トリプルネガティブタイプの潜在性乳癌の1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は61 歳,女性。右腋窩腫瘤を自覚し,前医を受診した。マンモグラフィおよび超音波検査で明らかな乳房内病変は指摘できず,右腋窩に23 mm 大の腫大リンパ節を認めた。穿刺吸引細胞診で悪性の診断となり,針生検を施行された。浸潤性乳管癌の転移として矛盾しない所見であったが,原発巣は確定し得ないとの診断であった。ER,PgR,HER2 は陰性であり,乳癌であればトリプルネガティブ(TN)タイプに該当する所見であった。乳房MRI を施行したが,乳房内に明らかな病変を指摘できなかった。全身検索を行うも右腋窩リンパ節以外には明らかな病変を指摘できず,原発巣は不明と判断した。治療目的に当科紹介となった。潜在性乳癌に該当する右腋窩リンパ節転移と診断し,手術の方針とした。右腋窩リンパ節郭清を行い,術前に診断が付いていたリンパ節のみに転移が認められた。臨床所見を踏まえて右潜在性乳癌と診断し,術後はTN タイプ乳癌に対する化学療法および放射線療法を行う方針とした。
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特別寄稿
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- 第45回 日本癌局所療法研究会
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長期生存しているStage Ⅳ局所進行乳癌の1例
51巻4号(2024);View Description
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術前局所動注療法を行い,15 年間の長期生存を得ているStage Ⅳ局所進行乳癌の1 例を経験したので報告する。症例は66 歳,女性。2007 年6 月外科生検にてIDC(硬性型),ER(-),PgR(+),HER2(1+)と診断した,皮膚浸潤を伴う右乳癌,cT4bN1M1(PUL),Stage Ⅳに対して,局所動注化学療法を2 週間施行(総投与量5FU4,735 mg+アドリアマイシン 180 mg)した。同年7 月に右下肢DVT から両側肺動脈血栓症となった。抗凝固療法,人工呼吸管理とIVC filter留置を行い,軽快退院した。同年9 月多発肺転移はPR となり,Bt+Ax を施行した。術後ドセタキセル6 コースとアナストロゾール内服にて治療し,2008 年10 月CT 検査で肺転移は消失しCR と判断した。2015 年11 月CT 検査で肺転移が再燃(術後8 年)し,タモキシフェンに変更した。1 年後のCT 検査で肺転移は消失し,2023 年現在までCR を維持(術後15 年)している。 -
地方中規模病院でのロボット支援下大腸がん手術導入経験
51巻4号(2024);View Description
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当院は2022 年4 月より大腸悪性腫瘍に対して手術支援ロボットda Vinci Xi Surgical System を導入した。ロボット支援手術導入と同時に腹腔鏡手術も取り入れ,日本内視鏡外科学会技術認定医の教育を行った。日本外科学会修練医のための開腹手術も従来どおり継続し,若手医師には常にモチベーションを高く保つよう指導した。手術動画を用いた定期的な勉強会は,研修医やメディカルスタッフが気軽に参加できるよう心掛けた。ロボット支援手術導入後で若手外科医の大腸悪性腫瘍手術執刀数は減少したが,術後在院日数は短縮した。当院のような地方中規模病院は若手外科医が実際に執刀して外科修練を行う場でもあり,がん手術治療を完全にロボット支援手術にシフトすることは現実的ではない。様々な教育段階の外科医がお互いにwinwinになるために行ったロボット手術導入の工夫と実際を報告する。 -
多発肝転移を伴うStage Ⅳ胃癌に対し化学療法後,原発巣を切除し3年6か月無再発生存中の1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は67 歳,男性。心窩部痛を主訴に来院し,上部消化管内視鏡検査(EGD)で噴門から胃角にtype 2 胃癌を指摘された。生検は高分化型腺癌でHER2 陽性であった。CT 検査では胃体部後壁を中心とした壁肥厚像,主病巣と一塊となったリンパ節腫大,肝両葉に8 個の転移を疑う低吸収域を認めた。多発肝転移を伴うStage Ⅳ胃癌と診断し,カペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブ(XP+Tmab)療法を6 コース,カペシタビン+トラスツズマブ(X+Tmab)療法を17 コース施行した。化学療法後のCT・MRI 検査で肝転移,リンパ節転移は消失したがEGD では主病巣が遺残しており,原発巣切除の方針とした。腹腔鏡下胃全摘,D2 リンパ節郭清術を施行し,病理結果は深達度がT1b(SM)でリンパ節転移なく,組織学的治療効果はGrade 2a であった。術後補助化学療法としてX+Tmab を6 コース施行した後,本人希望で中止となった。現在初回化学療法から5 年,術後3 年6 か月経過しているが無再発生存中であり,conversion surgery が生存期間の延長に寄与した可能性が示唆された。 -
腹腔鏡下横行結腸切除後の腸間膜欠損部の内ヘルニアによる腸閉塞を生じた1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は72 歳,男性。横行結腸癌,cT3N1aM0,Stage Ⅲb の診断で,腹腔鏡補助下横行結腸切除+D3 郭清を施行した。術後,腸管のうっ血が遷延したために麻痺性イレウスや腹腔内膿瘍を合併した結果,術後24 日に自宅退院となった。退院後の経過は良好であったが,術後91 日に自宅で腹痛・嘔吐を発症し,同日当院へ救急搬送された。腹部CT にて,横行結腸切除後の横行結腸間膜欠損部の内ヘルニアによる小腸腸閉塞を来している可能性が考えられた。腸管虚血を疑う所見に乏しかったため,術前に十分な腸管の減圧を行った後,第9 病日に腹腔鏡下腸閉塞解除術を施行した。手術所見は,横行結腸間膜欠損部に空腸(Treitz 靱帯から100~160 cm 部)が迷入し,内ヘルニア状態となっていた。腹腔鏡操作にて内ヘルニアを整復後に間膜欠損部を3‒0 V‒Loc(非吸収)にて閉鎖し,手術を終了した。術後経過は良好で,術後6 日で自宅退院となった。現在,腹腔鏡下大腸手術において腸間膜欠損部を閉鎖すべきかどうかについては十分なコンセンサスが得られていない。この欠損部による内ヘルニアはまれな合併症であるが,症例によっては腸間膜欠損部を閉鎖して内ヘルニア発症の予防を検討すべきと考える。 -
肺癌同時性脳転移,異時性小腸転移に対して集学的治療が奏効し無再発5年生存している1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は初診時54 歳,男性。左半身の痺れ,脱力を自覚し受診した。肺癌脳転移の診断となり治療を開始した。頭部病変に対してγ-ナイフを施行,肺野病変に対しては免疫チェックポイント阻害薬を施行した。集学的治療が奏効し病変縮小したが,小腸転移にて再発した。小腸部分切除および再度免疫チェックポイント阻害薬を導入し,完全奏効した。現在,無再発生存中である。今回われわれは,肺癌脳転移後5 年10 か月,小腸転移加療後4 年無再発生存中の非常にまれと思われる症例を経験した。 -
90歳以上の超高齢者大腸癌における手術成績の検討
51巻4号(2024);View Description
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高齢化社会が急速に進むにつれて,超高齢者(90 歳以上)の手術も増加すると考えられる。超高齢者における大腸癌手術成績を比較検討した。2013~2022 年の間に当院で手術を施行したstage Ⅰ~Ⅳの大腸癌切除症例1,043 例を後方視的に解析し,90 歳以上の超高齢者20 例と80~89 歳の高齢者243 例の短期成績を比較検討した。術前BMI,ASAPSに差はなかったが,90 歳以上で術前アルブミン値は有意に低値(p=0.03)で,術前減圧治療を行った症例が有意に多かった(p=0.02)。腫瘍の局在や進行度,手術アプローチ,手術時間および出血量に差はなかった。ClavienDindo 分類Grade 3 以上の合併症(5.0 vs 3.7%),縫合不全の発症率(0 vs 0.8%)および術後在院日数中央値(14 vs 12 日)に差はなかった。90 歳以上の超高齢者において安全に大腸癌手術を施行できると考えられた。 -
大腸癌術後15年目に出現した孤立性鼠径部リンパ節転移の1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は69 歳,男性。17 年前,他院で横行結腸癌に対し横行結腸切除を施行され,術中に播種結節を認めたため,播種結節切除も行われている。病理検査で播種結節の断端陽性が判明し根治度B 手術と判断され,術後FOLFOX4 を12 コース施行し再発なく経過した。大腸癌手術から12 年後に肝細胞癌を認め,当院で肝切除を施行した。その後,肝細胞癌の再発を認めたため化学療法を開始した。定期的な画像評価を行っていたが,大腸癌手術から15 年目のCT で右鼠径部に腫瘤陰影が出現し,肝細胞癌もしくは大腸癌の鼠径部リンパ節転移が疑われた。同年鼠径部腫瘍切除を施行し,病理組織で大腸癌鼠径部リンパ節転移の診断となった。リンパ節切除後2 年が経過しているが,大腸癌の再発は認められていない。術後10 年を超えての再発報告はそれほど多くなく,報告の大部分は肝転移や局所再発である。術後15 年で孤立性鼠径部リンパ節再発を呈す症例は非常にまれといえる。 -
膵頭十二指腸切除術後に肝機能障害を来し正中弓状靱帯切離術を施行した膵頭部癌の1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は70 歳台,男性。前立腺癌の精査目的の腹部造影CT にて膵頭部に2 cm 大の低濃度腫瘤を認め,膵頭部癌と診断され当科を紹介受診した。術前治療としてGS 療法を2 コース施行し,膵頭十二指腸切除術を施行した。術中の胃十二指腸動脈のクランプテストでは,総肝動脈や固有肝動脈の拍動はやや微弱であったが十分に認めたため,胃十二指腸動脈を切離し予定どおり手術を終了した。術後1 日目の血液検査にてAST 537 U/L,ALT 616 U/L と肝酵素の上昇を認め,その7時間後にはAST 1,455 U/L,ALT 1,314 U/L と肝酵素のさらなる上昇を認めた。術前のCT を詳細に見直したところ,弓状靱帯圧迫による腹腔動脈の狭窄の所見を疑い,同日緊急で開腹弓状靱帯切離術を施行した。弓状靱帯を切離すると,総肝動脈や固有肝動脈の拍動は著明に改善した。術後,肝酵素は改善しISGPS でGrade B の膵液瘻を認めたが,その他は合併症なく術後49 日目で退院となった。術後補助化学療法としてS‒1 を内服し,術後9 か月が経過した。現在,再発の所見は認めていない。 -
リンパ節転移を伴った胃GISTの1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は87 歳,女性。甲状腺乳頭癌術後の経過観察中に貧血を指摘された。原因精査のCT で胃体上部大弯に腫瘤様の壁肥厚を指摘され,精査を行った。腫瘤は造影効果を伴い,一部は壁外に突出しており周囲リンパ節の腫大も認めた。上部消化管内視鏡検査では胃体上部大弯後壁に粘膜下にvolume のある不整な潰瘍性病変を認め,生検でGIST と診断された。以上より,周囲リンパ節腫大を伴う胃原発GIST と診断し手術を施行した。開腹すると腫瘍は膵尾部に浸潤しており,噴門側胃切除,D1 郭清,脾合併膵尾部切除を施行した。摘出標本では,胃体上部大弯後壁に95×78×65 mm 大の深掘れ潰瘍を伴う腫瘤を認めた。病理組織所見では紡錘形細胞の束状の増生を認め,免疫組織学的にはc‒kit,α‒SMA,CD34 が陽性,S‒100,desmin が陰性で,GIST と診断された。核分裂像は38/50HPF であり,リスク分類(modified Fletcher 分類)は高リスクであった。また,膵浸潤および腫瘍周囲のリンパ節転移を認めた。術後,膵液瘻を認めたが,術後27 日目に軽快に退院した。高齢であり,術後補助化学療法は行わず経過観察を継続し,術後6 か月無再発生存中である。 -
TAPP法で修復を行った胃癌異時性鼠径部転移の切除例
51巻4号(2024);View Description
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症例は68 歳,男性。2015 年10 月,胃体下部小弯の胃癌に対して腹腔鏡下幽門側胃切除術(D2)を施行し,pStageⅠB であった。2017 年8 月,左側腹部3 cm 大の腹壁転移を摘出した。2019 年9 月,左鼠径部に2 cm 大の腫瘍を認めた。左鼠径部は内鼠径輪を中心に腹壁欠損が大きいため,TAPP 法に準じてメッシュを用いて修復した。摘出術後3 年6 か月,nivolumab 療法を施行しCR を継続している。 -
胃癌肝浸潤に対して幽門側胃切除術,肝外側区域切除術を施行した1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は66 歳,男性。便潜血陽性,貧血の精査目的に受診した。胃癌,ML/Less,type 2,tub2,cT4b(肝臓),cN+,cM0,cStage Ⅳ,HER2 陰性,切除不能進行胃癌と診断しfirstlineとしてオキサリプラチン+S1療法による化学療法の方針とした。化学療法3 コース目に貧血が高度に進行しており,上部消化管内視鏡検査で腫瘍からの活動性出血と幽門狭窄を認めたため,出血コントロール目的に幽門側胃切除術,D2 郭清,RouxenY再建,肝外側区域切除,S4 部分切除を行った。術後はドセタキセル+S1療法による術後補助化学療法を施行した。術後3 か月でリンパ節再発を認めsecondlineのパクリタキセル+ラムシルマブ療法を4 コース施行し,治療効果判定でリンパ節転移の増大がありthirdlineのニボルマブに変更し,現在術後12 か月経過している。肝臓へ直接浸潤している胃癌に対しての化学療法中に高度貧血が出現したため出血コントロール目的の手術を施行し,術後12 か月生存を得られている症例を経験したため報告する。 -
豊胸後症例を診断する際の注意点と当院での豊胸後乳癌症例に対するシリコンバッグ一次一期再建の考え方について
51巻4号(2024);View Description
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美容目的による豊胸術が普及する昨今では,豊胸歴を有する症例を診察する機会は以前よりも増加している。当院では豊胸後乳癌症例においても積極的にシリコンバッグを用いた一次一期再建を行っているが,診断および治療においては豊胸術の状態や種類に応じて治療方針を考慮することが肝心である。 -
馬蹄腎を伴うS状結腸癌に対して腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は79 歳,男性。BMI 24.4。下腹部痛を認めたため救急外来を受診した。精査の結果,馬蹄腎を伴うS 状結腸癌の診断であった。明らかな遠隔転移は認めなかったため,腹腔鏡下S 状結腸切除術を施行した。術後経過は良好で13 日目に退院となり,病理組織診断はS,type 2,50×45 mm,tub1,pT3(SS),pN0(0/16),INF b,Ly1a,V0,pEX0,pPM0,pDM0,pRM0,pStage Ⅱa であった。術後22 か月再発は認めず,外来経過観察中である。尿路系先天性異常を伴う大腸癌手術は術中の副損傷に注意する必要がある。3DCT検査で術前に血管走行を含めた評価を行い,通常の手術剝離層を守れば安全に腹腔鏡下S 状結腸切除術を施行することは可能であった。 -
新型コロナウイルス感染症下での胃癌に対する免疫チェックポイント阻害剤により間質性肺炎を呈した1例
51巻4号(2024);View Description
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背景: 新型コロナウイルス感染症(corona virus disease 2019: COVID‒19)が変異株の出現で感染者数が波状の経過をたどるなか,COVID‒19 罹患後に免疫チェックポイント阻害剤を含めた化学療法を行った胃癌症例を経験したため報告する。症例: 患者は71 歳,男性。胃の不快感を主訴に受診し,上部消化管内視鏡検査にて4 型進行胃癌所見を認めた。病理組織検査で低分化型腺癌であった。胸腹部造影CT 検査では近傍所属リンパ節腫大と周囲脂肪織濃度の上昇を伴っており,明らかな遠隔転移は認められなかった。審査腹腔鏡手術を行い,胃後壁が腹腔動脈と膵臓前面に浸潤しており根治切除は困難と判断した。局所進行胃癌として化学療法を計画したところ,COVID‒19 罹患となった。重症化はせずに軽快し,罹患から2 週間後より化学療法(FOLFOX+Nivo)を開始した。9 コースまで終了し,治療効果判定はSD であり二次化学療法(wPTX+RAM)を行った。1 コース終了後に薬剤性間質性肺炎となり,集中治療管理とステロイドパルス治療を行い改善した。胃内腔の狭窄進行があり,内視鏡的ステント留置術を施行した。その後,急速に癌性腹水の増大とADL の低下に至り緩和的治療となり,診断から10 か月後に癌死となった。考察: 本症例では,COVID‒19 の抗体価推移からも多剤併用化学療法が維持的に効果を示していた。治療経過からはPTX/RAM による薬剤性間質性肺炎が疑わしいが,長期画像経過からは免疫チェックポイント阻害剤が原因である可能性が示唆された。 -
肝内結石症に対し長期経過観察中に発生した肝門部領域胆管癌の1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は91 歳,男性。胆囊結石症,総胆管結石症に対して胆囊摘出術および総胆管切開切石術の既往あり。11 年前に後区域胆管枝に肝内結石を認め,治療を勧めるも希望されず経過観察となっていた。経時的に肝内結石の増悪および肝内胆管の拡張を認め,91 歳時に腹部造影CT で肝門部胆管の壁肥厚およびMRCP で肝門部胆管の狭窄を認めた。内視鏡的逆行性胆管造影にて右肝内胆管は造影されず,左肝内胆管の著明な拡張を認めた。胆管擦過細胞診にて腺癌を検出し,肝門部領域胆管癌の診断で開腹肝右葉尾状葉切除術,胆道再建術を施行した。病理組織学的検査では左右肝管合流部を主座とする肝門部領域胆管癌,T3N1M0,Stage Ⅲc であった。本症例は肝内結石症と肝門部領域胆管癌の関連性を示唆するものであり,定期画像検査によって外科的切除が可能であった。肝内結石症に対しては早期に肝切除を含む治療介入が望まれる。 -
化学療法により奏効が得られた切除不能進行胃癌に対して5年後に原発巣の増大を認めConversion手術を施行した1例
51巻4号(2024);View Description
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症例は77 歳,男性。切除不能進行胃癌,cT3,N+,M1(LYM,HEP,OSS),Stage ⅣB に対して,一次治療SOX 療法を開始した。遠隔リンパ節転移消失,肝転移縮小を得たが腎機能障害が悪化したため,二次治療PTX+Ram 療法,さらに三次治療nivolumab 療法へ移行した。原発腫瘍,肝,リンパ節転移とも奏効を維持しnivolumab 投与を継続したが,化学療法開始5 年後の上部消化管内視鏡検査で原発腫瘍の再増大を認めた。遠隔転移は消失を維持できていると判断しconversion 手術を施行した。術後nivolumab 療法を再開したが,6 か月後に投与を終了した。現在術後1 年が経過し,無再発生存中である。 -
当院におけるロボット支援胃切除導入後の短期成績
51巻4号(2024);View Description
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背景: 胃癌に対し2018 年からロボット支援胃切除が保険適用となった。今回,当院での胃癌に対するロボット支援胃切除の導入初期の成績を検討した。対象と方法: 2022 年8 月~2023 年5 月までに,胃癌に対するロボット支援胃切除を施行した最初の9 例を対象とし,手術成績と術後短期成績を後方視的に検討した。結果: 年齢は77(67~82)歳,性別は男性4例,女性5 例,全例幽門側胃切除であった。手術時間410(323~486)分,出血量は5(1~140)mL,術後入院日数は全例9 日以下であり,腹腔鏡手術もしくは開腹手術への移行はなかった。Clavien‒Dindo 分類Grade Ⅱ以上の術後合併症は認めなかった。結論: 当院での胃癌に対するロボット支援胃切除の導入初期の成績を検討した。術中,術後合併症なく安全に施行できた。