癌と化学療法

Volume 51, Issue 5, 2024
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INSTRUCTIONS FOR AUTHORS OF JAPANESE JOURNAL OF CANCER AND CHEMOTHERAPY
51巻5号(2024);View Description
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総説
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本邦における小児がん医療の現況と展望
51巻5号(2024);View Description
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本邦では「がん対策推進基本計画」において,小児がん医療を重点的に取り組むべき課題の一つとして位置付け,小児がん患児とその家族が安心して医療や支援を受けることができる体制を整備することが掲げられている。厚生労働省は国立成育医療研究センターを中央機関として,2013 年2 月に全国15 施設を「小児がん拠点病院」として指定した。その後,各ブロックに「小児がん連携病院」が類型ごとに指定され,小児がん医療体制全体の整備と病院間の役割分担が<集約化と均てん化>をキーワードに掲げ進められている。小児がんは代表的な希少がんであり,単一施設での臨床研究の展開には限界がある。そのため,組織化されたJCCG(Japanese Childrenʼs Cancer Group)/JPLSG(Japanese Pediatric Leukemia/Lymphoma Study Group)による疾患ごとの全国的な30 以上の臨床試験が展開されており,予後の改善に大きく寄与している。小児がん全体の平均的な治癒率は80% を超えており,予後良好群においては長期的な生活の質を考慮した臨床試験が計画される一方,予後不良群においてはがんゲノム医療に基づいた分子標的療法やCART療法など新規治療の導入による治療成績向上が試みられている。しかし一方で,本邦における新規治療薬の保険認可が得られるまでのタイムラグの問題など制度上の課題も残っている。小児がん患児とその家族には,治療中および治癒後の長期的な包括的支援が不可欠である。そのため治癒後のcancer survivors への長期フォローアップ体制が重要視されているが,これには多職種の円滑な連携体制が重要である。近年,各施設で教育行政と連携した復学支援や,きょうだい支援など小児がん患児と家族を支援する体制作りが進んでいる。さらに高校生以上のadolescent and young adults(AYA)世代に対する支援や,妊孕性温存医療の推進も展開されている。本稿では,本邦における現在の小児がん医療を取り巻く現況を総括し,今後の展望について考察した。
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特集
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- がん診療と地域包括ケア
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がん診療連携拠点病院からみた地域包括ケアシステムとがん診療連携体制
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地域包括ケアシステムを推進する上で拠点病院には,治療の高度・多様化に伴う治療・ケアに関する意思決定支援,入院期間の短縮に伴う入退院支援の推進,そして高齢・多疾患併存がん患者の増加による治療・ケアのcoordination のための多職種連携などの実践が現場では求められている。しかし二次医療圏単位でがん診療を提供することが求められている拠点病院と,患者の生活圏において日常生活や患者・家族の自律と自立を支援するための医療・ケアを提供している地域包括ケアシステムを連動・融合させることは,現時点では困難と考えられる。今後は,先行研究で実証されたネットワーキングの推進や医療従事者への教育活動を通じて,がん診療と地域包括ケアシステムが連動してがん患者に質の高い医療・ケアを提供できるシステムの構築が求められる。 -
大学と自治体が協働で運営する地域ケア会議
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地域包括ケアシステムを構築するため,2015 年の介護保険制度改正において地域ケア会議の実施が努力義務化された。愛知県豊明市では,「多職種合同ケアカンファレンス」と名付けられた地域ケア会議を2016 年4 月から毎月開催している。アドバイザーを委嘱せず,参加者は皆対等な関係である。目的は提出された事例の支援方法の見直しではなく,将来同様の事例に相対した際に役立つ学びを共有している。継続して開催することで,様々な効果を期待している。専門職の互いの発言から学び合うことで,職種間の技術移転がみられるようになった。また,何が足りないのかを共有することでそれぞれの立場で何ができるのかを探し始めた。事例の選定や司会の進行などに工夫を重ねてきた。自治体職員は頻繁に異動することから,これまでの経験を正しく引き継ぐことができるか心配された。そこでリスクの軽減を図るため,これまで地域課題の解決に共に取り組んできた大学と協働で運営することにした。コロナ禍でも開催しつづけるために,オンラインによる提供体制を早期に整えた。現在は全国の自治体や専門職などの視察の受け入れに役立っている。地域にかかわるすべての人がめざす方向と手段を共有して,課題の解決に取り組む一つのチームになるため,多職種合同ケアカンファレンスの取り組みを続けていきたい。 -
地域包括ケアと診療のコーディネーション―住み慣れた地域で安心して生活を送るために―
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1981 年以降継続して,がんは日本人の死因の首位である。近年のがん薬物療法の進歩と治療の選択肢の増加に伴い,performance status が低下した状態で在宅療養に移行した患者が治療の継続を希望することは珍しくない。そのような状況下において,「基幹病院」と「地域の医療機関」とが,どのように連携し患者をサポートしていくかは重要な課題となる。在宅療養する患者が,可能な限り住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らしていけるよう,国はその支援体制として「地域包括ケアシステム」を提言しているが,医療依存度が高いがん患者に対しては,この既存のシステムに加えさらなる工夫が求められる。たとえば「患者/家族」と「訪問診療医」との信頼関係がスムーズに構築できるように,抗がん治療の後期から治療医と訪問診療医とが連携していくことなどがあげられる。連携に当たっては,患者と家族のニーズを拾い上げて地域医療を取り巻くチーム医療メンバー間(訪問診療医,訪問看護師,訪問薬局薬剤師,ケアマネージャーなど)と基幹病院との間を橋渡しし,調整役を担う者が必要となる。その人材として地域医療の場で活動している専門看護師や認定看護師など,がん患者のアセスメントやケア,調整力に長けたスペシャリストを活用することは有用といえる。 -
がん患者が治療を継続し地域で暮らすための提言
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がん患者の訪問看護や在宅治験,移動支援,民間救急などに取り組んできたことを踏まえ,がん患者が治療を継続し地域で暮らすための提言を行う。まず,がん患者の訪問看護に強みをもつがん拠点訪問看護ステーションの整備である。次に通院負担を軽減し,自宅でがんに関する臨床試験に参加できる在宅治験の普及である。三つ目は,化学療法の通院やがん末期の転院,退院を公的財源を用いて支援する移動支援制度の確立である。四つ目は,病院と在宅のがん看護人材の出向制度の普及である。五つ目は,がん患者特化型施設の創設である。最後に,これらを担う施設や看護師を支援するためのプロジェクトチームの発足と運営を提言する。病院や訪問看護の垣根を越え,多職種で取り組み,がん患者を中心に据えた地域包括ケアとがん診療連携が実現することを期待する。
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Current Organ Topics:Hematologic Malignancies/Pediatric Malignancies 血液・リンパ系腫瘍 急性リンパ性白血病治療の変革
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原著
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がん悪液質に対するアナモレリン塩酸塩錠と体重増加関連因子の検討
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がん悪液質は食欲不振と代謝障害から骨格筋減少を引き起こし,機能障害が発現する。がん悪液質に対してアナモレリン塩酸塩錠が上市されたが,薬効に大きな個人差を感じており,アナモレリンと体重増加関連因子を検討した。アナモレリン服薬開始前の患者において体重増加に寄与していた因子として,EPCRC によるがん悪液質ステージ分類において不応性悪液質まで進行していないこと,アナモレリン服薬開始時のがん薬物療法治療ラインが少ないこと,アナモレリン投与開始基準の一項目とされているCRP 値0.5 mg/dL 超,Hb 値12 g/dL 未満,Alb 値3.2 g/dL 未満の条件に合致している個数が少ないことが明らかになった。これらの結果から,がん悪液質の診断がなされた際には早期にアナモレリンの投与をすることで奏効率が高まる可能性が示された。 -
CADD‒Legacy® ポンプを用いたBlinatumomab 在宅投与移行プログラムの検討
51巻5号(2024);View Description
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携帯型精密輸液ポンプ(CADDLegacy ® ポンプ)を用いたblinatumomab の在宅投与への移行プログラムを作成し,患児2 症例に対して導入し,安全性や問題点を検証した。本プログラムでは,入院を継続しながら外泊を繰り返すことでblinatumomab 投与を安全に在宅投与へ移行することができ,有用であることが示唆された。また,未就学児などの通学をしない患児や原籍校に戻る患児であれば,外来看護師や患児の原籍校教員を含めた患児周囲の人への教育を徹底することで外来移行も可能であると考えられた。 -
Cost‒Effectiveness Analysis of FOLFIRI‒Based First‒Line Regimens for Metastatic Colorectal Cancer Using Clinical Decision Analysis
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目的: KRAS 野生型の適応になっている切除不能進行再発大腸がん治療のレジメンである,FOLFIRI および分子標的薬併用レジメンの臨床的エビデンスと経済的エビデンスを統合した臨床判断分析による最適なレジメンを明らかにする。方法: FOLFIRI,FOLFIRI+bevacizumab(Bmab)/cetuximab(Cmab)/panitumumab(Pmab)レジメンのランダム化比較臨床試験に基づいて文献調査を行い,各レジメンの臨床効果および直接医療費用(薬剤費,検査費,医療材料費,人件費など)を算出した。得られた臨床効果と費用をマルコフモデルに組み込み臨床判断分析を行った。結果: マルコフモデルによる臨床判断分析の結果,得られる生存月と費用は,FOLFIRI が20.9 か月,2,299,198 円,FOLFIRI/Bmab が29.9 か月,8,929,888 円,FOLFIRI/Cmab が27.8 か月,11,811,849 円,FOLFIRI/Pmab が22.6 か月,8,795,622 円であった。また,ICER(増分費用対効果比)は,FOLFIRI を基準とするとFOLFIRI/Bmab 併用レジメンが736,743 円/月,FOLFIRI/Cmab併用レジメンが1,378,645 円/月,FOLFIRI/Pmab 併用レジメンが3,821,426 円/月であった。考察: 分子標的薬併用レジメンは効果があるが,その分,治療費も高額となり,FOLFIRI 単独投与と比較すると費用対効果に劣る。特に,FOLFIRI/Pmab は同じ生存月を得るためには最も高価な治療戦略となる。
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症例
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集学的治療により長期生存を得ている胃GIST 再発の1 例
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症例は80 歳,男性。200X 年,検診要精査のため施行した内視鏡検査で胃体上部大弯側に2.5 cm 大の粘膜下腫瘍を認めた。生検で胃GIST と診断し,腹腔鏡補助下胃部分切除術を施行した。術後補助療法としてイマチニブを開始したが,眼瞼浮腫のため1 か月で中止した。その後は造影CT 検査で経過観察していたが,200X+7 年のCT 検査で胃脾間に腹膜播種再発を疑う7 cm 大の腫瘤を認めた。手術や薬物治療は希望されず経過観察していたが,5 か月後に腹痛を認めた。CT 検査では腫瘤がやや縮小していたものの,腹水を少量認め一部穿孔が疑われたため姑息的手術として腫瘍切除術を施行した。腹腔内には多数の播種結節を認めた。病理検査でGIST 再発と診断され,イマチニブを開始した。ADL も考慮して200 mg/日で開始し,一時300 mg/日に増量したが1 か月後には眼瞼浮腫のため再度200 mg/日に減量した。その後,口内炎のため一時休薬し,200X+8 年からは200 mg/日を2 週投与2 週休薬としている。現在,初回手術後14 年目,再発後6 年目であり,イマチニブ治療の継続で再燃は認めていない。 -
MSI‒High 胃癌症例における化学療法の戦略(症例報告)
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症例は73 歳,女性。黒色便,腹部膨満感を主訴とした進行胃癌の診断で当院に紹介となった。精査の結果,幽門狭窄,多発リンパ節転移を伴う進行胃癌,cT4aN3M0,cStage Ⅲの診断となり,審査腹腔鏡,胃空腸バイパス術後の術前化学療法の方針とした。審査腹腔鏡ではsT4aN3M0P0CY0 と診断した。胃空腸バイパス施行後,DS 療法を2 コース施行した。新規肝転移病変を認め,secondline としてXELOX 療法を選択したが肝門部リンパ節腫大を認めた。MSI 検査に提出しMSIHighを確認した。thirdline としてnivolumab を選択した。15 コース後に新規肝転移巣が出現しfourthline としてramucirumab(Ram)+nabPTX療法を3 コース施行するも骨髄抑制あり,その後はRam 単剤とした。初回治療から2 年4 か月でCR の判定となった。その後は薬剤性肝障害が出現しRam を中止した。その後1 年間(初回治療から3 年4 か月)抗癌剤投与なしでCR を維持している。本症例は胃癌MSIHigh症例における分子生物学的背景に基づいた治療戦略を検討する上で示唆に富む症例であると考えられた。 -
Encorafenib+Binimetinib+Cetuximab 併用療法で治療したBRAF 遺伝子変異陽性盲腸癌の1 例
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症例は70 歳台前半,女性。嘔吐,腹痛を主訴に入院し,盲腸癌による腸閉塞と診断された。腸閉塞解除のため原発巣切除を施行した。最終診断はpT4a,pN2b,pM1c,pStage Ⅳc でBRAF 遺伝子変異陽性であった。術後,急速な病勢悪化があり,encorafenib+binimetinib+cetuximab 併用療法を施行した。治療は速やかに奏効し,腫瘍マーカーは正常化,肝転移巣も著明な縮小が得られた。約2 か月間の外来治療が可能であったが,癌性腹膜炎の悪化で化学療法継続困難となり,初診から約6 か月後に死亡した。 -
治癒切除術8 年7 か月後に局所再発を来したが薬物療法が著効した下行結腸癌の1 例
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症例は81 歳,女性。73 歳時に下行結腸癌に対して下行結腸切除術を施行され,病理組織学的結果はpT3(SS),pN1b,pM0,pStage Ⅲb(大腸癌取扱い規約第9 版)であった。術後補助化学療法として,経口 tegafur/uracil 配合剤+Leucovorinを6 か月間施行,その後無再発で経過していたが,術後8 年7 か月後の造影CT 検査で左腸骨窩に30 mm 大の不整形腫瘍を認めた。FDGPET/CT 検査で同腫瘍に異常集積を認めたため局所再発と診断した。再発腫瘍は左腸腰筋と高度に接していたため同部において外科的剝離面(RM)でRM0 が得られないと判断,全身状態は良好であったことから全身薬物療法を選択し,CAPOX+bevacizumab 療法を施行した。有害事象により1 コース途中での中止となったが再発腫瘍が著明縮小したため,その後はmFOLFOX6+bevacizumab 療法で全身薬物療法を継続とし,現在まで著明縮小を維持している。大腸癌治癒切除術後5 年以降の再発は非常にまれであるが,分化型症例や脈管侵襲陰性症例,また術後補助化学療法を施行した症例では再発時期が遅れる可能性があり,術後5 年以降の再発の可能性も留意する必要があると考えられた。 -
mFOLFOX6 療法中に高アンモニア血症による意識障害を認めた直腸癌多発肝転移の1 例
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症例は74 歳,男性。直腸癌と同時性の多発肝転移に対し,腹腔鏡補助下高位前方切除およびD3 リンパ節郭清を施行した。切除可能な多発肝転移に対しては全身化学療法後に二期的切除の方針とし,術後1 か月にmFOLFOX6 療法を開始した。治療開始2 日目に食思不振と嘔気・嘔吐が出現し,治療開始3 日目に意識障害(JCS Ⅱ20)と羽ばたき振戦が出現し,血液検査で高アンモニア血症を認めた。5FUに起因する高アンモニア血症による意識障害と診断し,補液や分岐鎖アミノ酸製剤の投与などの治療で軽快した。本症例は腎機能障害,脱水,便秘症を認めており,高アンモニア血症の誘因となった可能性がある。5FUを含む化学療法を施行する際の急激な意識障害では高アンモニア血症を念頭に置く必要がある。 -
Trastuzumab Deruxtecan が奏効した癌性リンパ管症を伴う再発乳癌の1 例
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肺の癌性リンパ管症は化学療法が奏効しないことが多く,予後不良な病態である。今回,癌性リンパ管症による呼吸困難を伴う再発乳癌に対し,trastuzumab deruxtecan(TDXd)が速やかにかつ長期間奏効した症例を経験したので報告する。症例は40 歳,女性。前医にてホルモン受容体陽性,HER2 陽性乳癌に対し31 歳時にBt+Ax の後,術後化学療法(5fluorouracilepirubicincyclophosphamide, docetaxel,trastuzumab)と内分泌治療(TAM,LHRHa)が実施された。術後3 年で多発肺転移,骨転移を認めtrastuzumab+pertuzumab+capecitabine が開始され,当院紹介となった。その後肝転移が出現し,trastuzumab emtansine(TDM1)を投与した。術後9 年で癌性リンパ管症による呼吸困難が出現し,TDXdに変更した。変更後,速やかに呼吸困難は軽快し,1 年2 か月にわたり奏効した。一般的に化学療法が奏効しにくい癌性リンパ管症に対してもTDXdは効果が期待できる。 -
びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫に形質変換したX 染色体消失小リンパ球性リンパ腫の1 例
51巻5号(2024);View Description
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症例は80 歳,女性。20XX 年10 月より微熱と食欲不振を認め,同年11 月に当院当科を受診された。末梢血において異型リンパ球とsIL2R の著増を認め,骨髄検査ではCD19,CD20,CD23,λ鎖陽性の小型リンパ球浸潤があり,小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma: SLL)と診断した。また,Xとdel(13q)を含む複雑核型が19/20 でみられ,脾腫と後腹膜腫瘍を認めた。フルダラビン+リツキシマブによる治療を3 コース施行したところ末梢血中の異型リンパ球は消失し,脾腫も縮小した。しかし後腹膜腫瘍はむしろ増大傾向となり20XX+1 年2 月にCT ガイド下生検を行ったところ,びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫(diffuse large Bcell lymphoma: DLBCL)の診断を得た。さらに骨髄検査再検したところ骨髄内のリンパ球も後腹膜腫瘍同様に大型化しており,CD23 は陰性化しSLL からDLBCL への形質転換が示唆された。CHOP 療法を4 コース行い脾腫の縮小継続と後腹膜腫瘍の縮小を認めた。性染色体欠失は軽微なクローン性変化の場合加齢性変化であるとされているが,本症例のようにクローン性増殖が進行した場合造血器腫瘍の発生リスクと関連することが議論されている。また,性染色体欠失に加えdel(13q)を含む症例が慢性リンパ球性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)では多いことが報告されており,本症例も同様にdel(13q)がクローン性増殖に関与した可能性が示唆される。 -
髄液細胞診とフローサイトメトリーにて診断が確定した髄膜原発悪性リンパ腫
51巻5号(2024);View Description
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症例は72 歳,男性。2 週間続く複視を主訴に受診した。MRI にて側脳室に沿った異常信号域がみられた以外には異常所見を認めなかった。髄液細胞診では核異型を伴う異常リンパ球がみられ,フローサイトメトリーにてCD20 陽性および軽鎖制限が判明したため髄膜原発B 細胞性悪性リンパ腫と診断した。化学放射線療法を実施し,寛解に到達した。髄膜原発悪性リンパ腫はまれであるが,診断確定には病理組織診断が標準的である。しかしながら,腫瘍の局在部位からは生検が困難な場合もある。本例のように髄液細胞診とフローサイトメトリーは髄膜リンパ腫の診断に有用である。
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