癌と化学療法

Volume 51, Issue 8, 2024
Volumes & issues:
-
投稿規定
-
-
-
INSTRUCTIONS FOR AUTHORS OF JAPANESE JOURNAL OF CANCER AND CHEMOTHERAPY
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
-
-
総説
-
-
細胞老化とがん
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
修復不可能なゲノム損傷など甚大なストレスを受けた細胞は,不可逆的に細胞周期が停止した状態である細胞老化に至る.細胞老化はもともと,発がんにつながり得る異常な細胞の増殖を停止させる重要ながん抑制機構であると考えられている.しかし一方で,化学療法などにより誘導される細胞老化は細胞死に抵抗性を示すことでがんの薬剤耐性化の一因にもなり得ることが明らかとなってきている.また,老化細胞は炎症性サイトカインや増殖因子など様々な液性因子を分泌するSASP と呼ばれる性質を示す.そしてSASP 因子を介して細胞老化は腫瘍微小環境に影響を及ぼし,これによっても細胞老化は発がんや薬剤耐性化などがんの病態に深く関与する.本稿では,細胞老化とがんの発生や進展との多面的で複雑なかかわりについて概説する.
-
-
特集
-
- 癌診療における医療経済の評価
-
がん検診と医療経済評価の応用
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
日本ではがん検診として胃がんと肺がん,大腸がん,乳がん,子宮頸がんの五つが推奨されている.これらのがん検診は対象とする集団に広く実施することが望ましいものであるため,対象者は多くなり,その実施には少なくない費用を要する.限られた医療資源のなかからどのように効率的に医療を提供できるのか,医療経済評価はこのような問いが発生した際に取り得る有用な手段の一つである.本稿では,がん検診が検診として満たすべき原則や医療経済評価の概要について触れた後,これがどのように応用されているかについて,英国での取り組み例を紹介する.英国では大腸がん検診について誰を対象にどのように提供するか,検査を提供する体制に制限があることを前提に医療経済評価を実施した.この評価結果を基に議論がなされ,検診の実施内容が変更されている. -
がん診療における医療経済の評価―薬物療法―
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
近年,がん治療は目覚ましい進歩を遂げており,特に薬物療法の分野で顕著である.しかし新薬の高額化に伴い,がん治療における費用対効果の議論が活発になってきている.本稿では,がん治療における薬物療法の医療経済について,マクロとミクロの両方の視点から考察する.マクロの視点からは,医療費全体に占める薬剤費の割合,特に抗がん剤の割合が増加していることが大きな課題となっている.ミクロの視点からは,抗がん剤の薬価差益が低いことや診断群分類包括評価(DPC)システムが複雑であることから,病院の収入構造の管理に課題がある.免疫チェックポイント阻害剤などの高額な抗がん剤の使用は,病院の薬剤費負担を増大させている.高額療養費制度により患者の自己負担額に上限が設けられているものの,高額な薬剤の使用増加は患者と医療提供者の両方にとって懸念材料である.革新的な治療へのアクセスと医療費の持続可能性のバランスを取ることは,がん薬物療法における重要な課題である.この課題に取り組むには,マクロとミクロの両方の視点を考慮した包括的なアプロ-チが必要である. -
外科治療の医療経済評価
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
医療費の効率的な配分を図るために「医療経済評価」を行うことは最重要課題の一つである.中央医療協議会(中医協)で医薬品・医療機器の費用対効果評価制度が2019 年から導入されたが,外科治療を含む医療者の手技について公式に活用された例はない.がん診療は救命のためにできる限りの治療を求められることが多いため,「医療経済評価」を適応するのが難しい分野である.また,外科治療は検診や薬物療法と比べて侵襲が大きく,合併症・入院費の症例差が大きいため,医療経済評価をするための医療費の検討には医療事務の協力が不可欠である.侵襲の評価のためにQOL 調査が重要であるが,治療実態を反映した大規模研究はほとんどなく,なかでも日本人のもの,がん治療に沿ったものは皆無に近い.今後の医療経済評価のために,定期的にQOL 調査を行っていくことが肝要である.われわれが検討したがんに対する外科治療の費用対効果・医療技術評価を具体例として使いながら,外科治療の医療経済評価について解説する.がんの外科治療の医療経済評価を検討していく上で,医療費とQOL 調査は特に重要であると考えられた.今後の研究に期待したい.
-
Current Organ Topics:Thorax/Lung and Mediastinum, Pleura: Cancer 肺癌 胸部希少がんにおける最新の話題
-
-
-
原著
-
-
乳癌化学療法に伴う副作用への頓用薬および不安解消に関する
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
外来でがん化学療法を実施する患者に対し,副作用への早期対応を目的に薬剤によるセルフケアとして頓用薬(制吐剤,緩下剤,抗生剤)を事前処方している.われわれは,頓用薬の使用実態とその意識に関するアンケ-ト調査を行った.2019~2021 年に術前または術後補助化学療法を実施した乳癌患者80 名より回答を得た.全体の85.0% の患者において頓用薬の使用を認めた.副作用に対する不安の解消度の評価において「とても解消した」との回答は,頓用薬を使用した患者で73.5%,使用しなかった患者で83.3% であった.頓用薬は化学療法を受ける乳癌患者において副作用への不安軽減に寄与する可能性がある.
-
-
症例
-
-
長期生存中のVirchow リンパ節転移を伴った進行胃癌の1 例
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
腹部大動脈周囲およびVirchow リンパ節転移を伴う進行胃癌に対してS1+CDDP 療法を2 コ-ス行い,原発巣ならびに転移巣の縮小が得られた.胃全摘術,大動脈周囲リンパ節郭清を行ったところ病理組織検査で腫瘍の遺残はなく,治療効果Grade 3,病理学的完全奏効と判定された.Virchow 転移に対する外科手術や放射線照射は行わず,術後にS1を2 年6 か月服用した.術後9 年6 か月経過した現在まで再発を認めていない. -
胃切除術後44 年目に診断された残胃MiNEN(MANEC)の切除症例
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
胃原発のMiNEN の範疇に含まれるMANEC はまれで予後不良な疾患とされ,残胃原発はさらにまれである.今回われわれは,胃亜全摘術後44 年目に発見された残胃MANEC を経験した.症例は80 歳,女性.36 歳時に胃亜全摘術を受けていた(初回病変の良悪性不明).食欲低下と体重減少で発症し残胃に隆起性病変(tub2>tub1)を認め,内視鏡的治療適応として粘膜下層剝離術(ESD)が施行された.病理結果がMANEC,SM and more,ly1,HM?,VM1 であったため,残胃全摘+脾臓摘出+胆囊摘出術を施行した.残胃に癌遺残はなかったが2 番リンパ節に転移を認めた.術後9 か月目に再発を認め11 か月目に原病死した. -
術前化学療法により病理学的完全奏効が得られた膿瘍形成性直腸癌の1 例
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
症例は60 歳台,女性.帯下の増加を自覚し近医を受診した.右膣壁に不整形腫瘤を認め,生検でadenocarcinoma と診断され,当院へ紹介となった.精査により膿瘍形成を伴う直腸癌,RbP,cT4b(膣),cN1a,cM0,cStage Ⅲc と診断した.術前化学療法(NAC)としてCAPOX を6 コ-ス施行後に直腸切断術(膣後壁合併切除)を施行した.病理組織学的診断では腫瘍細胞は確認されなかった.術後補助化学療法としてCAPOX を4 コ-ス施行し,術後4 年現在,無再発生存中である.NAC が奏効した場合には,膿瘍形成を伴う症例に対しても根治切除が可能になることで長期生存が期待できると考えられた. -
モガムリズマブ投与終了後にも末梢血病変に対する効果が持続して得られた難治性Sézary 症候群
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
症例は70 歳,男性.Stage ⅣA1 のSézary 症候群に対する一次治療後の再燃に対して,モガムリズマブを投与した.6 回の投与で治療を終了したが,最終投与後も末梢血病変に対しての効果が持続して得られた.Sézary 症候群は頻度の低い皮膚リンパ腫であるが,モガムリズマブ投与時の効果判定は投与直後に限らず,持続して効果がみられる経過をたどる場合もあることを認識する必要がある. -
セロトニン産生性膵神経内分泌腫瘍の1 切除例
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
比較的まれな膵体部のセロトニン産生性膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine neoplasm: PanNEN)の切除を経験した.症例は70 歳台,女性.膵体部腫瘤の精査目的に当センタ-に紹介.造影CT で膵体部に早期相から平衡相まで濃染が持続する12 mm 大の腫瘤を認め,主膵管は腫瘤の位置に一致して高度狭窄し尾側膵管の拡張と膵尾部実質の高度萎縮を認めた.造影パタ-ンからPanNEN が疑われたが,主膵管の狭窄を認めたため浸潤性膵管癌の可能性も否定できなかった.小径ながら主膵管狭窄を来すことから近年報告が散見されるセロトニン産生性PanNEN も鑑別診断の一つにあげた.リンパ節郭清を伴う膵体尾部切除術を施行した.病理検査で腫瘤はPanNEN G1 と判明し,セロトニンの免疫染色をしたところ陽性となった.PanNEN は一般的に主膵管狭窄を伴わないが,セロトニン産生性PanNEN はその増殖様式から腫瘍径が小さくとも主膵管狭窄を来しやすいとの報告がある.本例の特徴的画像所見を提示し,文献的考察を加えて報告する.
-
-
特別寄稿
-
- 第56 回 制癌剤適応研究会
-
GC+デュルバルマブ療法が奏効し根治的肝切除術を施行し得た胆囊癌術後肝転移再発の1 例
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
症例は49 歳,男性.2021 年に胆囊癌に対して開腹胆囊摘出術を施行された.進行癌であったため,術後3 か月に肝床切除,肝外胆管切除,肝十二指腸間膜リンパ節郭清を施行されたが,悪性所見は認めなかった.術後12 か月に造影CT,MRI で肝S8 に新規腫瘤性病変を認め,胆囊癌術後肝転移再発と診断された.当院に紹介後,GEM+CDDP(GC)療法1コ-ス,GEM+CDDP+durvalumab(GCD)療法8 コ-スを施行され,造影CT,MRI で転移巣は縮小し,PET 検査でもFDG 集積は認めなくなった.化学療法終了後2 か月を経ても転移巣の増大や遠隔転移を含め新たな転移を認めなかった.治癒切除が期待できたため,腹腔鏡下肝S8 部分切除術を施行した.病理診断では腫瘍性病変の残存は認めず,病理学的完全奏効であった.全身化学療法で転移巣が良好に制御できれば,胆道癌肝転移に対する肝切除も治療の選択肢となり得る. -
短期間に二度の穿孔を生じた小腸リンパ腫の1 例
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
症例は86 歳,男性.他院で貧血の精査で上部空腸に腫瘍を認め,その8 日後に腹痛を発症し消化管穿孔の診断で緊急手術が行われた.空腸に穿孔を認め空腸切除術が施行され,病理検査で小腸リンパ腫と診断された.リンパ腫の化学療法について当院血液内科に依頼され転院となった.初回化学療法が行われたが,その2 日後に腹痛が出現し,腹部CT 検査で腸管外ガス像を認め,小腸リンパ腫穿孔の診断で緊急手術を行った.前回とは別の部位の上部空腸に穿孔を認め,空腸切除術を行った.術後化学療法を再開し良好な経過を得ている.消化管リンパ腫の発症時や治療経過中に穿孔を来すことはしばしばみられるが,多発する消化管病変の別々の部位で異時性に穿孔した報告は少ない.今回われわれは,約3 週間の間隔で二度の穿孔を生じた小腸リンパ腫の症例を経験したので報告する. -
膿瘍形成性虫垂炎で発症した膀胱浸潤を伴う虫垂粘液癌に対し化学療法後に治癒切除が得られた1 例
51巻8号(2024);View Description
Hide Description
症例は35 歳,男性.排尿時痛を主訴に前医を受診した.腹部造影CT で膀胱への炎症波及を伴う膿瘍形成性虫垂炎と診断され,保存的治療を行った.しかし抗菌薬治療では膿瘍の縮小が得られず,手術の方針となった.膀胱壁の炎症が高度で,虫垂切除術のみ施行された.術後病理診断で虫垂粘液癌の膀胱浸潤の診断となり,当科紹介となった.治癒切除には膀胱全摘が必要であり,初回手術に伴う播種の懸念があったため治癒切除不能と判断し,化学療法の方針とした.CAPOX+bevacizumab 療法を6 コ-ス施行後,遠隔転移の出現がなく腫瘍縮小も認め,膀胱温存での治癒切除が可能となった.現在術後6 か月無再発生存中である.膿瘍形成性虫垂炎で発症した膀胱浸潤虫垂粘液癌に対し,化学療法後治癒切除が可能となった1 例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.