Biotherapy
Volume 22, Issue 1, 2008
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総説
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MDSの発症と進展
22巻1号(2008);View Description Hide Description骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞レベルに異常を来し無効造血を呈する症候群で、前白血病状態と考えられている。MDSの染色体異常は、白血病にみられるような転座(キメラ遺伝子)はまれで正常核型や数的異常がほとんどであり、中心的な役割を担っているとは考えにくい。MDS発症メカニズムは遺伝子異常の蓄積が主体で、幹細胞の分化抑制を起こすマスター遺伝子異常と、増殖促進へ導く複数のパートナー遺伝子異常(セカンドヒット)が必要である。マスター変異として、造血細胞分化に不可欠な転写因子であるAML1/RUNX1やC/EBPαなどの点変異が明らかにされた。また、AML1変異を有するMDSはRTK-RAS経路に高率にパートナー遺伝子異常が生じている。症例ごとの分子メカニズムを明らかにすることにより、これに基づいた新規分子標的療法の開発が可能となる。 -
胸膜中皮腫—その病理と治療—
22巻1号(2008);View Description Hide Description胸膜中皮腫は治療に抵抗する極めて悪性の腫瘍であり、アスベストが大量に使用された1960年代の無防備な曝露を原因として、近年急速に増加している。胸腔鏡の普及につれて病理医の扱う胸膜病変が多くなり、特にatypical mesothelial hyperplasiaと胸膜肺全摘術の適応となる極めて早期の上皮型中皮腫の鑑別を必要とする機会が増えているが、両者の病理学的な鑑別法は確立していない。近年開発された新規葉酸拮抗薬であるpemetrexedは良好な抗中皮腫活性を有し、cisplatinとの併用による第III相比較試験で、生存期間、QOL、奏効率はともにcisplatin単独投与よりも優れていた。胸膜肺全摘術を含むtrimodalityの良好な成績が示され、現在cisplatin- pemetrexed doubletを用いた新たな治療戦略の評価が行われている。
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特別寄稿
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特集
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- 外科に応用可能な免疫学的戦略
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肝局在免疫担当細胞の特殊性に基づいた免疫学的治療戦略
22巻1号(2008);View Description Hide Description肝臓は免疫機能制御器官であり、腸管由来の微生物やトキシンなどに対する自然免疫機構をつかさどり、また過剰な免疫機構を制御する寛容機構も有する。肝臓に内在する免疫担当細胞の機能を掌握することは、肝胆外科領域の周術管理において、肝障害を予防、軽減する戦略を確立する上で非常に有益な情報となる。本稿では、肝局在免疫担当細胞のうち、類洞内皮細胞とnatural killer(NK)細胞のわれわれの研究成果を紹介し、肝臓外科における臨床治療戦略の可能性について考察する。最近われわれは、肝類洞内皮細胞は直接あるいは間接経路でアロ抗原を認識するT細胞を制御することを報告した。肝類洞内皮細胞の寛容性を促進することが、肝移植の生着改善の戦略となり得る。自然免疫応答をつかさどるNK細胞の活性化あるいは移入は、癌免疫療法として期待がかかる。肝移植時にドナー肝灌流排液からリンパ球分画を分離し、肝臓由来のNK細胞と末梢血由来のNK細胞の機能解析を行った。その結果に基づき、IL-2で刺激して強い抗腫瘍効果を誘導した肝NK細胞を、肝細胞癌に対する肝移植レシピエントに移入する制癌療法を考案した。 -
Regulatory T細胞の制御と癌免疫療法
22巻1号(2008);View Description Hide Descriptionregulatory T(Treg)細胞の同定以後、その制御に基づく癌免疫療法が試みられている。Treg細胞制御には放射線やある種の抗癌剤が用いられるが、注目されるのは分子標的治療薬である。interleukin-2-トキシン複合体、抗CTLA-4抗体、抗GITR抗体などの応用が解析され、腫瘍特異的免疫応答の効果的な誘導と同時に治療抵抗性腫瘍において臨床効果が観察されている。自己免疫疾患の副作用が観察され新たな課題となっているが、Treg細胞制御の併用は免疫療法の効果増強を考える上で重要といえよう。われわれは、ヒト化抗CD25抗体に注目している。本抗体は、臓器移植における急性拒絶反応の治療薬としてすでに認可されている。低用量ヒト化抗CD25抗体によってTreg細胞を制御し、活性化T細胞を低下させないことが可能であった。現在、全身投与による活性化自己リンパ球移入療法との併用研究と、局所投与による癌性胸腹水に対する局所免疫療法との併用研究を実施中である。 -
マウス扁平上皮癌モデルにおける樹状細胞腫瘍内局注と放射線照射の併用療法—gp96とabscopal effect—
22巻1号(2008);View Description Hide Descriptionわれわれは、放射線照射併用樹状細胞腫瘍内局注による食道癌免疫療法の開発を行ってきた。放射線併用により、放射線そのものの殺腫瘍効果のみならず全身性の抗腫瘍効果の賦活が期待できる。大腿および胸部にマウス扁平上皮癌SCVIIを移植した担癌マウスによる治療モデルにおいて、大腿のみに放射線照射および樹状細胞腫瘍内局注を行うと、未治療の胸部の腫瘍においても樹状細胞単独の場合よりも強い腫瘍増殖抑制効果がみられる。これはabscopal effectと呼ばれ、細胞傷害性T細胞によるものと考えられている。われわれの研究では、放射線によるheat shock protein gp96の発現増強がそのメカニズムに関与していることが示唆された。 -
食道癌に対するNY-ESO-1癌ワクチン療法第 I 相臨床試験
22巻1号(2008);View Description Hide DescriptionSEREX法により同定された癌抗原NY-ESO-1は、種々の癌に発現するが正常組織では精巣以外には発現しない。いわゆる癌・精巣抗原の一つである。NY-ESO-1抗原ペプチドを用いた癌ワクチン療法は、欧米のいくつかの施設で臨床試験が行われ解析が進んでいる。現在われわれは、ペプチドに代わりNY-ESO-1蛋白を用いたCHP-NY-ESO-1癌ワクチンの臨床試験を進めている。NY-ESO-1蛋白の使用は、種々のHLAをもつあらゆる患者に適応し、CD8 CTLのみならずCD4ヘルパーの活性化も期待できる多価ワクチンという性格をもつ。安全性および特異的免疫反応誘導を第一目的とし、臨床効果を第二目的としている。現在、食道癌患者他13症例が参加し、NY-ESO-1特異的な抗体、CD8およびCD4 T細胞の誘導が認められ、抗腫瘍効果の明らかな症例も認められた。