Biotherapy

Volume 22, Issue 3, 2008
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総説
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テーラーメイド癌ペプチドワクチン開発の現状と課題
22巻3号(2008);View Description
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癌患者ごとの免疫特性に応じた能動免疫(獲得免疫)療法であるテーラーメイド癌ペプチドワクチンの開発を行っている。2000 年より肺癌,乳癌,胃癌,大腸癌,前立腺癌,子宮頸癌,膵癌および脳腫瘍といった複数の癌種に対する臨床試験を実施し,400 例を超える症例を経験している。これらの試験では,いくつもの癌種において免疫学的のみでなく,臨床的にも有効性が示されている。ワクチン単独療法では6 回ワクチンで,抗癌剤・ワクチン併用療法では12 回ワクチンで,多くの症例は免疫反応増強効果が得られている。臨床効果では,ワクチン単独療法での腫瘍縮小が子宮頸癌,悪性膠腫,膀胱癌の症例で得られ,ホルモン不応性再燃前立腺癌や膵癌では抗癌剤との併用療法によって生存期間延長の可能性が示唆されている。現在もこれらの癌種に対しては研究者主導臨床試験(トランスレーショナルリサーチ)が実施されている。このワクチン療法は最新の技術と基礎研究基盤に基づいている。テーラーメイドのためのペプチドは多数準備され,各々のペプチド特異的IgG 抗体は精度および安定性を十分に調整したLUMINEX 法による評価によってワクチン選択が行われる。HLA-A2 とHLA-A24 拘束性ペプチドにより,日本人の半数以上が適応のワクチンではあるが,HLA-A3 スーパータイプに対応するペプチドを準備できるとほとんどすべての日本人に適応となるため,研究と準備が進められている。これからも臨床と基礎を合わせて,トランスレーショナルリサーチを進めてゆく。
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特集
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- 低侵襲化をめざした放射線治療の現況と展望
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総論
22巻3号(2008);View Description
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わが国においては,最近まで放射線治療は正しく利用されてこなかった。日本では全癌患者の25%程度しか放射線治療を受けていないが,欧米ではこの比率は60〜70%である。しかし,本邦においても放射線治療の状況は近年急速に改善している。この10 年の間に定位照射や強度変調放射線治療が多くの大病院で導入され,癌の根治的治療法として重要な役割を果たすようになった。トモセラピーやサイバーナイフ,ノバリスなどの高精度放射線治療専用機も順調に台数を増やしており,さらには粒子線治療センターの構想も各地で展開されている。このように,放射線治療はハード面においての見通しはたいへん明るいといえるが,しかし一方では,放射線腫瘍医や医学物理士の不足が大きな問題となっている。したがって,日本における放射線治療のさらなる発展には放射線腫瘍医と医学物理士の数の増加と質の向上が不可欠であり,これらが解決されれば放射線治療(+化学療法)は多くの癌において,根治的治療の主役となっていくことが期待されるであろう。 -
定位放射線照射
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定位放射線照射は,多分割コリメータ,患者固定具,三次元線量分布の治療計画など高精度の放射線治療機器類の整備とともに発展してきた。その臨床応用は,限局した頭蓋内病変から体幹部の病変までも含むようになってきた。本法の導入目的は,線量を病巣部に集中させることにより局所制御を高め,周囲正常組織への線量を減らして有害事象の発生軽減を図ることである。これを達成させるには,患者固定や照射部位の照合など治療システム全体の精度管理が重要である。さらに,これらが臨床の場で正確に機能し使用される必要がある。本稿では,最近の定位放射線照射の技術的進歩とその臨床応用について,特に早期の非小細胞肺癌,肝癌,前立腺癌について概括的に論じる。現状では限局性の病変に対しては,本法は優れた局所制御率が得られ重篤な有害事象がみられないことから,標準的治療になりつつある。この新しい治療法を正しく評価するには,さらなる症例の蓄積と長期の経過観察が必要である。 -
強度変調放射線治療(IMRT)
22巻3号(2008);View Description
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強度変調放射線治療(IMRT)は,三次元原体照射(3DCRT)の進化した照射法である。しかし,3DCRT はいわゆるbeam’s eye view で照射野形状を合わせ込むだけである。一般的に腫瘍形状は複雑であり,周囲正常組織への線量増加を防ぐにはこれだけでなく,照射野内の線量強度を変化させる以外にない。IMRT は,上咽頭癌,中咽頭癌,副鼻腔腫瘍,頸部食道癌などの頭頸部腫瘍においてよい適応となる。これらの腫瘍は網膜,視神経,視交叉部,脊髄神経,内耳・耳下腺などの危険臓器が多く存在する。IMRT を用いれば,これらの危険臓器への線量増加なく高線量を照射可能である。IMRT で治療した患者の唾液分泌機能の回復は,通常照射に比べ有意に改善する。前立腺癌IMRT においては,前立腺への照射線量増加により局所制御率向上が図られる。照射線量増加により特に直腸の有害事象増加の危険性が高くなる。通常照射で70 Gy 照射した場合高頻度で障害が発生するが,IMRT を用いることにより直腸線量増加を防ぎ,結果有害事象発生頻度が減少することが報告されている。また,小分割短期間照射も行われるようになった。IMRT における問題点として,全身被曝線量増加による二次発癌の危険性がある。これについては今後長期的な観察が必要である。また,日本においてはIMRT を実施するに当たり,十分なマンパワーの確保が必要である。 -
トモセラピー
22巻3号(2008);View Description
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tomotherapy(トモセラピー)は,CT 撮像とIMRT を一つの装置で可能にした新しい放射線治療装置である。それにより,画像誘導放射線治療(IGRT)がより高精度に可能となった。今回,このトモセラピーの装置の特徴と臨床上の有用性を簡単に紹介する。 -
粒子線治療—特に炭素イオン線治療について—
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現在,粒子線治療に用いられている粒子はプラスの電荷をもった陽子と重イオンである。これらの荷電粒子は,そのエネルギーに応じて体内での飛程が決まりそれより奥には進まず,飛程の終末にBragg ピークと呼ばれる狭い高線量域を形成する。これを利用して病巣に高線量域を集中させ,周辺正常組織の被曝を少なくすることで,癌病巣が重要な臓器に近接していても安全に治療を行うことが可能である。すなわち線量集中性が良好である。生物学的効果は,陽子線と重イオン線では異なる。低LET 放射線に分類される陽子線の生物学的効果は光子線とほぼ同じであり,従来のX 線治療で得られている知見を利用した治療が可能である。一方,高LET 線である重イオン線は生物学的効果が高く,従来の放射線に抵抗性の腫瘍に対して効果が期待される。放射線医学総合研究所(放医研)では,1994 年6 月,重イオン加速器による炭素イオン線治療を開始した。2008 年2 月までの治療患者数は 3,819 例であり,一施設の重イオン線治療患者数としては世界最多である。開始当初はすべて臨床試験として実施され,手術が困難である癌や従来の治療では十分な効果が期待できない難治性の癌に対して,炭素イオン線治療の安全性および有効性を確認する臨床試験が行われてきた。一方で,炭素イオン線治療の特徴を生かした短期少分割照射法の開発も進められ,現在,肝癌では2 回/2 日,早期の肺癌では1 回の照射も行われている。2003 年11 月からは多くの疾患で先進医療を実施している。高齢化社会を迎えてQOL を重視した癌治療が求められているなかで,負担が軽い粒子線治療に対する期待は今後ますます大きくなるものと思われる。 -
小線源治療
22巻3号(2008);View Description
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最近の小線源治療は,多くの臓器においてイメージガイドによる三次元照射の概念が導入された。腫瘍に限局した照射が短期間に行え,物理的にも生物学的にも外照射や手術を上回る利点がある。日本では,この数年に125 Iシード線源永久挿入療法が前立腺癌に対して導入され,高線量率組織内照射(HDR)とともに患者数が急増している。特に,低リスク患者にはシード治療が患者に優しい治療として普及してきた。中高リスク患者には外照射併用やHDR が選択される。乳癌に対する小線源治療も米国で急速に普及している。腫瘍床に対する短期間の治療であり,わが国の女性にとっても福音である。適応と方法は,わが国独自の多施設共同臨床試験によって確立する必要がある。頭頸部癌に対する組織内照射は線量集中性が高く,臓器の動きに追随する理想的な治療方法である。子宮頸癌にも三次元小線源治療の概念が導入されつつある。 -
化学放射線療法
22巻3号(2008);View Description
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化学放射線療法は現在,頭頸部癌,子宮頸癌,食道癌,肺癌で標準治療と考えられている。手術療法に比較して,臓器温存の観点から化学放射線療法は低侵襲治療であるとの位置付けである。頭頸部癌の化学放射線療法は一つのよいモデルと考えられるが,これは本治療法の選択は嚥下,会話,呼吸,心理的・美容的な変化の観点で治療法選択による影響が大きいためである。同時併用化学放射線療法は標準治療であるが,機能損失や救済手術が困難になることが問題と考えられている。導入化学療法後の(化学)放射線治療は,有効性と毒性のバランスをとる意味で魅力的な治療法の一つである。taxane 系の薬剤や分子標的療法の出現は,毒性の増強なく化学放射線療法の有効性を増加することで有望であると期待されている。強度変調放射線治療は,唾液腺機能を温存し,治療後の患者の生活の質を維持することに寄与すると考えられている。子宮頸癌も化学放射線療法のよい適応である。進行癌は同時併用の化学放射線療法か,手術後に術後の化学放射線療法を行うべきであるとされている。術後の化学放射線療法は毒性が増加するため,症例ごとの治療法選択は今後重要になってくると思われる。食道癌はどの病期でも化学放射線療法の適応があり,手術に遜色ない治療成績が得られている。特に早期癌では,侵襲の少ない治療として標準治療の一つとして考慮すべきと考えられる。放射線治療技術の進歩や新規薬剤の登場は,いろいろな癌においての低侵襲治療の選択の機会を増やしていると思われるが,許容し得る治療品質を得るために,放射線治療医,専任技師(医学物理士),腫瘍内科医,チーム医療を支えるスタッフなどの充足が強く要望される。
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原著
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免疫賦活成分 Lentinan 含有食品の切除不能および再発乳癌に対する有効性の検討
22巻3号(2008);View Description
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本研究は,免疫賦活成分Lentinan を含有する食品が乳癌患者に対する免疫賦活補助食品として有用であるかを検討することを目的に行った。切除不能および再発癌を対象にし,2004 年7 月〜2005 年4 月に全国統一プロトコルにより多施設共同研究を行った結果,試験期間中に被験食を摂取した進行乳癌症例は37 例であった。被験食摂取期間中の有害事象は37 例中2 例に認められたが,被験食との因果関係はなくいずれも抗癌剤によるものであり,重篤な症状はなく試験期間中消失ないし軽快した。不適格例2 例を除く適格例35 例を約3 年間フォローアップし生存期間を検討した結果,約70%の症例が生存しており,1 年生存率82%,2 年生存率76%と良好な予後であった。また,試験期間中(12 週間),患者のquality of life(QOL)の評価を行い,被験食摂取後のQOL スコア良好群と不良群との生存期間を比較した。その結果,良好群の生存期間が不良群よりも有意に長く,また被験食摂取後のQOL スコアと生存期間は有意に相関することから,被験食摂取後のQOL スコアは予後評価因子として有用であると考えられた。
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連載講座
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PGE2 関連酵素;microsomal prostaglandin E synthase-1~15-prostaglandin dehydrogenase と癌~炎症の関連:Microsomal prostaglandin E synthase-1 と癌
22巻3号(2008);View Description
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prostaglandin(PG)E2 は大腸発癌に重要な役割を果たしている。PGE2 産生にかかわるいくつかの酵素のうち誘導型のcyclooxygenase(COX)-2 は,大腸癌をはじめ様々な腫瘍でその予防や治療の標的分子として研究されてきた。最近,誘導型のmicrosomal prostaglandin E synthase(mPGES)-1 が同定され,COX-2 と機能的な関連が明らかになってきた。COX-2 とmPGES-1 の過剰発現は,大腸癌,肺癌,頭頸部癌,乳癌,胃癌,子宮癌,陰茎癌で認められ,動物モデルや培養細胞での研究より発癌への関与が示唆される。発現,活性化,疾患との関連などその解析は未だ不十分であるが,COX-2 およびmPGES-1 で産生されるPGE 2 が種々の疾患にかかわっており,COX-2 選択的阻害剤による心血管への有害反応を考えれば,mPGES-1 の選択的阻害剤はこれら有害反応を避けながらの薬効が期待され,その開発が望まれる。
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