Biotherapy

Volume 22, Issue 5, 2008
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総説
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免疫細胞療法の現状~問題点と展望
22巻5号(2008);View Description
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直近の25 年間における腫瘍免疫学の進歩は目覚ましく,免疫研究に新しい試みがみられている。その代表的な研究成果として,腫瘍細胞上の標的分子に対する抗体による細胞傷害作用,免疫細胞の分離・培養・増殖・活性化操作技術の向上,MHC class I あるいは class II 上に結合する癌抗原を認識するCTL の活性化と抗腫瘍作用など学術的な飛躍には目をみはるものがある。その過程で免疫細胞療法が提案され,1980 年代初めにNIH がCTL を用いた免疫細胞療法の臨床研究を認可して以来,同法を応用した臨床研究の爆発的普及がみられている。日本でも1980 年代半ばよりLAK T 細胞を用いた養子免疫療法が普及し,さらに樹状細胞を用いた免疫細胞療法が加わり,各種固形癌や血液腫瘍に対する臨床試験が高度先進医療として実施されてきた。免疫細胞療法の有用性については際立った効果を得たとの結果は得られなかった。本邦ではこの動きが主流的であったのに対して,ごく少数派として,癌特異的ワクチン療法を目的として癌抗原を探究する動きもあった。しかし,近年,次々に数多くの癌特異的抗原の同定が一挙に進んだ結果, phase I 臨床研究が数多くなされることとなっている。また,同法における免疫逃避機構も明らかにされ,その機構に対する解決策が徐々に明らかとなり,実際にそれを試みる臨床研究も行われるに至っている。同法の今後は手術後の補助療法として再発・転移予防策に応用し得ることに大きな期待が寄せられている。また,免疫細胞療法,ワクチン療法に共通していえることとして,毒性や有害事象についてさほど重篤な事例が発生しないことである。今後のいっそうの研究展開に期待がもたれている領域といえよう。 -
Wnt /β−カテニンシグナル制御破綻の新しい分子メカニズム—大腸がん医療との関連—
22巻5号(2008);View Description
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β−カテニンは細胞接着と固有の転写経路に作用する。大腸がんにおいてβ−カテニンの発現と局在の調節異常による活性化はがん化シグナルを誘発する。多数例の大腸がんを対象にした解析から,腫瘍−宿主境界領域におけるβ−カテニンの活性化ががんの病態,進行病期,免疫化学療法の治療感受性や術後生存率に影響することを見いだした。細胞内局在に対応するβ−カテニンの機能はユビキチン経路に依存することから,β−カテニンとinhibitor of NF−κB(IκBα)を認識するE3 ユビキチン連結酵素β−transducin repeats−containing protein(β−TrCP)を同定し,正常細胞におけるβ−Tr CP の発現はβ−カテニン/T−cell factor(Tcf)シグナルにより誘導されることを立証した。大腸がんではこのユビキチン経路に異常を認め,β−カテニンとβ−TrCP両者の発現の生理的フィードバック制御に調節不全を来し,β−カテニンとnuclear factor−κB(NF−κB)両経路が協調してがん細胞のアポトーシスを抑制し,がんの浸潤や転移を促進する。次に,β−カテニンシグナルによるβ−Tr CP mRNA の安定化に作用するβ−カテニン/Tcf 複合体の新しい転写標的coding region determinant−binding protein(CRD−BP)を同定した。CRD−BP はc−myc やinsulin−like growth factor−II(IGF−II)などのmRNA を安定化する既知のRNA トランス因子であり,大腸がんで過剰発現することにより複数の細胞増殖経路(Wnt,NF−κB,c−myc,IGF−II)を機能的に結び付けると想定し,解析を進めている。Wnt 経路の新規構成因子の発見とその機能解析から期待される成果は,大腸がん発生・進展機構の解明とそれによるがん医療創出の分子基盤となる。
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特集
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- 細胞免疫療法 — 新しい試み —
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レトロネクチン(RetroNectin)と 抗CD3 抗体を組み合わせた新しい T 細胞大量培養技術—T 細胞拡大培養とナイーブ T 細胞集団の形成—
22巻5号(2008);View Description
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現在,癌に対する治療法として体外で培養したT 細胞の移入療法が広く行われている。しかし,これらのT 細胞は腫瘍への集積能に乏しく,抗腫瘍効果は限定的と考えられている。一方で,近年の研究において分化したエフェクター細胞よりも,より未分化なT 細胞(ナイーブT 細胞)のほうが腫瘍退縮効果が高いことが報告されている。われわれは,固相化抗CD3 抗体を用いたT 細胞培養時にヒトフィブロネクチン由来組換え蛋白質であるRetroNectinを組み合わせることで,高い拡大培養率が得られ,またその細胞集団中にはナイーブT細胞の比率が従来の培養法で培養した細胞集団と比較して高い比率で含まれることを発見した。また,この新規の刺激方法を用いて培養した細胞から誘導したCTL は,抗MART−1 CTL 誘導試験において高い細胞傷害活性を発揮することが明らかとなった。今回は,抗CD3 抗体とRetroNectinを用いたT 細胞の大量培養法を紹介するとともに,これら培養後の細胞およびそのなかに含まれるナイーブおよびエフェクターT 細胞の機能についても概説する。抗CD3 抗体とRetroNectinを組み合わせたこの新規のT 細胞培養技術は,養子免疫療法分野において画期的技術となる可能性が示唆される。 -
γδT 細胞の誘導
22巻5号(2008);View Description
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Vγ9Vδ2 型のT 細胞受容体を有するγδT 細胞は,獲得免疫系の体裁をもちながら生体防御のフロントラインに立ち,自然免疫系の役割を果たしている細胞である。非蛋白抗原を認識し,HLA 非拘束性にがん細胞を強く傷害する。ビスフォスフォネートによって容易に誘導可能で,高度に増殖することから,臨床応用が研究されている。ゾレドロネートが最強の誘導能を有し,その至適濃度は1〜3μM で,2 週間の培養で200〜500倍に増殖可能である。Fc レセプター陽性でantibody−dependent cellular cytotoxicity(ADCC)活性を有し,また抗原提示能を有することから,今後がん治療においてその有用性が期待されている。 -
膀胱がんに対するγδT 細胞の抗腫瘍効果
22巻5号(2008);View Description
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膀胱がんは経尿道的に膀胱腔内への薬物注入が可能であり,そのドレナージも自然排尿という形で容易に行うことができる。すなわち,膀胱内注入療法によって薬剤を一定の時間直接腫瘍細胞と接触させることができるという点で,膀胱は仮想in vitroの環境とみなすことが可能であり,がん治療のdrug delivery system(DDS)において極めて特異的な臓器であるといえる。膀胱内注入療法において,現在最も効果を認めるのはBacillus Calmette−Guerin(BCG)を用いた免疫療法である。しかし,結核菌の生菌を用いるこの免疫療法では副作用も多く,治療の継続が困難な症例が少なくなく,新たな治療法の開発が望まれている。最近in vitroにおいて容易に増幅が可能であり,major histocompatibility complex(MHC)非拘束性に殺細胞作用を有することからγδT 細胞の抗腫瘍効果が注目され,腎がんや前立腺がんに対する臨床試験もすでに開始されている。本稿では,γδT 細胞による膀胱がん治療の開発研究を解説する。 -
Notch~Numb 特異的治療— 癌幹細胞へのアプローチ—
22巻5号(2008);View Description
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癌幹細胞(CSC)は異なるタイプの癌細胞を生みだし,癌腫を形成する能力を有する。CSC がESA,CD44,CD24 およびCD133 の発現によって他の癌細胞から識別され,かつ化学療法と放射線療法に抵抗性を有することが判明した。この事実は,従来の抗癌剤および放射線療法後に起こる再発と再増大がCSC のもつ自己複製能から引き起こされることを示唆する。よって,癌を根治するにはCSC をいかに排除できるかにかかっているといっても過言ではない。Notch シグナルは正常幹細胞の生存を延長し,抗癌剤の処置後,静止期のCSC の増殖を促す。つまり,CSCの自己複製を起こす対称性分裂に必要である。Notch の拮抗的に働く蛋白であるNumb は,細胞分裂中の局在によって幹細胞の非対称性分裂(一つの娘細胞は自己複製され,もう一つの娘細胞は分化する)を制御する。Notch とNumb はともにCSC において重要な役割を担っている蛋白質であり,CSC 排除の有効な目標と考えられる。Notch−1(2112−2120)とNumb−1(87−95)は,HLA−A2 拘束性に細胞傷害性リンパ球を活性化できるペプチドで,これらによって活性化された末梢血単核球は,Notch 陽性癌細胞とCSC マーカー陽性癌細胞をそれぞれ排除した。Jag−1 とDLL4 によるNotch シグナルの活性化は抗癌剤耐性癌細胞のCSC マーカー陽性細胞の割合を増加させるが,これに阻害薬を加えるとこの効果は抑制される。阻害剤やmicro RNA なども一手法として今後検討できる。これらより,CSC におけるNotch とNumb への標的療法は,癌制圧のために化学療法および放射線療法との集学治療が期待される。 -
自己活性化 NK 細胞を用いた免疫細胞療法
22巻5号(2008);View Description
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NK 細胞は,がん細胞を抗原による感作なしに認識,傷害する。NK 細胞の抗がん作用は,標的細胞に対する直接的な傷害活性,抗体依存性細胞傷害活性,サイトカイン産生能などによって担われている。これらの活性は,MHC クラス I 分子からNK 細胞の抑制性レセプターに入る抑制性シグナルの抑制と,標的細胞からNK 細胞の活性化レセプターに入る活性化シグナルの活性化によって引き起こされる。これらのNK 細胞レセプターの分子生物学的進歩に基づき,本稿ではがんに対するNK 細胞療法の現状と今後の可能性について述べた。 -
進行固形腫瘍患者に対する強化養子免疫細胞療法臨床研究
22巻5号(2008);View Description
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これまで行われた抗腫瘍免疫療法のうちで安定した成績を報告したものは少ないが,その原因として癌部における制御性T 細胞などによる投与した活性化免疫細胞の非活性化や生体に投与した活性化免疫細胞クローンの消失が示唆されている。これらの原因に対し,あらかじめ体外において大腸癌に対して高発現しているRNF43 ペプチドに対し強く反応する活性化リンパ球を誘導し体内に戻す際にシクロホスファミドを用いて制御性T 細胞を排除し,さらに活性化リンパ球を維持活性化させる目的でRNF43 ペプチドパルス樹状細胞(DC),IL−2 を投与するといった第 I 相臨床研究を計画した。前臨床研究結果から,この方法によりin vitroにおいて誘導した活性化リンパ球がRNF43 を発現している陽性コントロールに対し有意な細胞傷害活性を示すことが強く示唆されており,現在これらの基礎的検討を踏まえて臨床研究を実施中で,安全性,有害事象の検討ならびに免疫反応の検討を行っていく予定である。
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原著
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温度応答性培養皿を用いた OK−432 誘導成熟樹状細胞培養法の確立
22巻5号(2008);View Description
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樹状細胞(DC)は,細胞性免疫活性化において中心的役割を演じる抗原提示細胞であり,同細胞を移入するDC ワクチン療法は治療効果の最も期待できる免疫治療として注目されている。ワクチン使用するためには高い成熟度のDC が必要であるが,近年,溶連菌体OK−432(ピシバニール)使用により極めて高い成熟活性型DC の誘導培養が可能になった。しかし,OK−432 によって誘導された成熟樹状細胞(mDC)では種々の接着分子発現が増強されるため,培養皿からの細胞剥離が困難であり細胞回収率低下が問題となっている。そこで,培養皿の温度変化のみで細胞を剥がすことができる温度応答性培養皿(UpCell)を使用した簡便で効率的なmDC 誘導回収法の確立を試みた。UpCellで培養したmDC を温度変化により回収し,回収細胞の活性化マーカー発現やサイトカイン産生を解析した。細胞への物理的・機能的損傷はまったく認められず,簡便に高い収率で細胞を回収することができた。本稿では,UpCell を使用した新しいOK−432 誘導樹状細胞培養法を紹介する。 -
冬虫夏草の非小細胞肺がん患者を対象とした化学療法との併用時および単独摂取時の有用性の検討
22巻5号(2008);View Description
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非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象として,冬虫夏草(CS)の化学療法との併用時および単独摂取時の有用性について検討した。NSCLC 患者31 例を無作為に2 群に分け,一方を対照群としてNP 療法のみを,他方を試験群としてNP 療法と同時にCS 顆粒を摂取させた。結果,NP 療法の完了率および治療効果において両群に差がなかったが,副作用に起因するNP 療法中止例を試験群では認めなかったのに対して,対照群では3 例認めた。Karnofsky performance status(KPS)については試験群では大きな変化がなかったが,対照群では2 例において著しい低下を認めた。また,両群においてNP 療法の副作用に起因すると考えられる悪心・嘔吐が散見されたが,その程度は対照群に対して試験群で低くなる傾向が認められた。一方で,14 例のNSCLC 患者を対象に,他の治療を施行せずCS のみを9 週間摂取させたところ,奏効率7 . 1%,病勢コントロール率64 . 3%であり,試験前後でKPS の増減は+10:2 例,−10:2 例,0:10 例という結果であった。また,CS 摂取に起因すると考えられる副作用は認められなかった。以上の結果から,NSCLC 患者において,CS 摂取による化学療法の副作用低減およびQOL 低下抑制効果などの有用性および安全性が示唆された。
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症例報告
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化学療法・放射線療法・免疫細胞療法からなる集学治療による左肺腺癌完全寛解の 1 例
22巻5号(2008);View Description
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CT上,左肺B6 領域に47.8×23.4 mm の腫瘍像が認められたStage IIIA 肺腺癌に対して,手術は左肺全摘となるため患者が保存的治療を希望した。主治医病院である公立那賀病院が化学・放射線療法を,瀬田クリニック大阪が免疫療法を担当し,各療法の組み合わせおよび日程は前もって計画され,同時並行的に化学・放射線・免疫の集学治療として実施された。結果として,ほとんど副作用なく完全寛解を得ることができた。
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学会印象記
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第 24 回日本 DDS 学会学術集会印象記—異分野融合による DDS の新時代を旗印にして—
22巻5号(2008);View Description
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第24 回日本DDS 学会学術集会は,東京都港区内の六本木アカデミーヒルズ40 を用いて開催され,1 , 200名を超す多数の参加者により本学会のこれまでの最大規模として開催された。その報告は,医,薬,理,工など各専門分野の方々がDDS という一つの目的に向けてこれまで研究を続けてきたその成果発表の場として十分満足できるものであった。これまでナノテクノロジー技術が注目を集めるようになっていたが,今やその実地応用の時代が訪れたという実感であった。これから,各種疾患の薬物または生物学的治療において,DDS 研究を素地とすることが必須となるであろうと思われた。
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