脳神経外科速報

Volume 34, Issue 3, 2024
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目次
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第1特集【てんかんと各疾患 脳卒中・外傷・脳腫瘍・脳炎】
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【1】てんかんの分類と症候学
34巻3号(2024);View Description
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てんかんとは,大脳の神経細胞が過剰に興奮し,けいれんをはじめとする様々な発作症状を呈する疾患である.この発作症状は反復して起こることが必須条件である.その臨床診断には,①24時間以上の間隔で生じた2回の非誘発性発作,② 1回の非誘発性発作+発作再発の蓋然性が10 年間で60%以上,③明確なてんかん症候群のいずれかの項目を満たす必要がある 1).ある特殊な状況で起こるけいれん発作,たとえば低血糖や尿毒症,頭部打撲直後などに起こるものは,急性症候性発作と呼ばれ,てんかん発作とは異なる.心因性非てんかん発作(psychogenic non-epileptic seizure:PNES)は,以前はヒステリー発作とも呼ばれる心因性の反応で,てんかん発作と誤診されやすい.失神の原因には神経調節性失神(迷走神経反射,排尿後や運動後),起立性低血圧などがあるが,これもてんかん発作と誤診されやすいので注意する.このような背景で,てんかんの診断はけっして容易ではない.脳神経外科医としては,ある程度のてんかんの分類と症候学の知識を有しておく必要があろう. -
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【3】脳卒中とてんかん
34巻3号(2024);View Description
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脳卒中は,高齢者が新たにてんかんと診断されるときの最も一般的な原因である.60歳以上の患者に新規に発症するてんかんの30 〜50%は脳卒中後てんかんとされる.脳卒中後にてんかん発作を発症するリスクは出血性脳卒中では12 〜15%,虚血性脳卒中では7 〜9 %といわれている 1).また,脳卒中様の症状を呈し,脳卒中との鑑別を要する急性期疾患(stroke mimics)としててんかん発作は最も一般的である 2). 本稿は脳卒中後てんかんに関する診断基準と用語の定義,発症機序,リスクファクター,治療について述べる. -
【4】外傷とてんかん
34巻3号(2024);View Description
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頭部外傷とてんかんに関する研究は,米国のTraumatic Coma Data Bank,本邦の頭部外傷データバンクなどによる登録システムにより脳疾患のなかでは最も質の高いエビデンスが得られている分野である.頭部外傷の登録制度が確立した背景には,頭部外傷が若年者にも多く,戦争負傷,労働事故,交通事故,スポーツ外傷などにより発生し,てんかんを含む後遺症が公衆衛生学的に重視されてきたからに他ならない.本稿では頭部外傷とてんかんに関しての基本的な合意事項を論じていく. -
【5】脳腫瘍とてんかん
34巻3号(2024);View Description
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本稿では脳腫瘍によって発症するてんかんについて取りあげる.いわゆる「腫瘍関連てんかん」と呼ばれる一群であるが,腫瘍が原因となり,薬物治療に抵抗性の難治てんかんを発症した状態と定義する.このため,腫瘍によって生じた急激な頭蓋内環境変化が原因で生じる急性症候性発作は含まれず,腫瘍によって慢性的に生じた脳実質の変化により,くり返してんかん発作をひき起こすようになった病態のみを対象として概説する. -
【6】急性脳症・脳炎とてんかん
34巻3号(2024);View Description
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本稿では,急性脳症・脳炎を病因とするてんかんについて述べる.急性脳症・脳炎の急性期に見られる急性症候性発作と後遺症としてのてんかんを区別する必要があるが,両者の境界が不明確なものもある.また,急性脳症・脳炎の病態には感染症に伴うものと自己免疫学的機序によるものがあるが,感染症に伴い炎症や自己免疫学的機序がひき起こされる場合もある.広範な病変や多焦点,または全般起始の発作を伴うてんかんの場合,焦点切除術は容易ではないが,脳梁離断や迷走神経刺激術などのてんかん外科治療が発作を改善させることもある. -
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第2特集【脳血管内治療の臨床テクニック②エキスパートの経験した困難症例< Part 3 >】
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【脳腫瘍塞栓】リスク・ベネフィットを勘案した適応ならびに治療戦略の決定
34巻3号(2024);View Description
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脳腫瘍塞栓術の基本的なコンセプトは,開頭腫瘍摘出術の補助的な役割である.栄養血管からの血流遮断(feeder occlusion)により術中出血量の減少(輸血回避),手術時間の短縮が主目的であり,その次に得られるメリットとして腫瘍軟化に伴う摘出度向上が挙げられる.あくまでも補助的処置であるため,術前塞栓によって永続的な後遺症が出現することは避けるべきである. 脳腫瘍塞栓術においては,治療適応もさることながら,どの程度の塞栓状態を求めるか,裏返せばどこまでリスクを取った手技を行うかは施設によってかなり異なる.同一術者が術前塞栓術と腫瘍摘出を行う場合は,自然にリスク・ベネフィットを取捨選択して行うことができるが,大規模施設であると専門性の異なる医師で分業していることも少なくない.この場合は塞栓術を担当する医師は,開頭術者に血管解剖を説明しながら画像を供覧して意見交換を十分に行うことが求められる.適応ならびに治療戦略を決定することができる. -
【脊髄疾患】spinal intraosseous AVFに対するazygos vein を介した塞栓術
34巻3号(2024);View Description
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脊髄動静脈シャント疾患に対する血管内治療の治療戦略として,術前の高精細脊髄血管造影による画像診断から正常血管を含めたシャント部の正確な同定が最も重要となる.脊髄動静脈シャントに対する経動脈的塞栓術を治療経験することは多いが,経静脈的塞栓術を経験することは少ないと思われる. 本稿では,脊髄動静脈シャント疾患の治療困難症例として,経静脈的アクセスルートの中でも選択することが少ないazygos vein を介してspinal intraosseous AVF に対して塞栓術を行った症例を提示する.
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連載
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【脳神経外科随想 第1回】 奇跡との邂逅
34巻3号(2024);View Description
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最近,久しぶりに映画『ラ・ラ・ランド』を観た.エマ・ストーンが演じる俳優志望の女性ミアと,ライアン・ゴズリングが演じるジャズピアニスト志望の男性セブ,2人の恋愛模様とキャリアを描くミュージカル映画で,情景と音楽がともにすばらしく,甘酸っぱい心象風景が心に残っている.冒頭は,ロサンゼルスの高速道路の高架上,朝の大渋滞の有名な場面.壮大な市街の景色をバックに,無数の車列が連なる道路上で,車の脇やボンネット上で,色とりどりの服装の人々が歌いながら舞い踊る.まだ出会っていない2人は,この渋滞のなかで,ミアの車のすぐ後ろをセブが偶然走行しており,ミアがセリフの練習をしながら運転していて遅いので,セブがクラクションを鳴らして煽りながら悪態をつく.後に,やはり偶然に出会い,恋に落ちることになるのだが,人生には,こうして誰もが気づかない小さな奇跡が隠れているものかもしれない. 映画の最大のハイライトは,まさに,恋に落ちる時,ロサンゼルス郊外の丘にあるグリフィス天文台で,2人が“A Lovely Night”を歌いながら踊る場面.春の夕暮れの空がピンクから紫のグラデーションに彩られ,ロサンゼルス市街の光が輝く景色を背景に,ミアの黄色のドレスの色彩のコントラストがとても美しい. 実は,2017年,ロサンゼルスで開催されたAmerican Association of Neurological Surgeons(AANS)に参加する飛行機上でこの映画に出会ったのだが,学会中,映画の舞台設定と同じ春の夕暮れ時のグリフィス天文台を訪れることができた.大勢の観光客でごったがえすなか,デートスポットと見えてカップルが目につく.ライトアップされた天文台と,広大なロサンゼルスの夜景は,まさに息をのむ(図1). デッキの最前部で観光客と肩をならべて,夜景に見入っていたときのことである.すぐ隣の人と肩が当たった.日本人男性と思しき背の高い人で,女性と楽しそうに話をしている.女性のほうを向いて話しているので,顔はよく見えないものの,どうも声に聞き覚えがある.改めてよく見てみると,なんと,名古屋大学時代に術中MRI関連の研究をともに頑張って,私が論文の作成を指導した当時修士大学院生だったM君じゃないか.たしか彼は,その後,メーカーに就職したはずで,彼の結婚式では祝辞を述べた. どうしてこんなところで出会うのか.ともかく再会を互いに喜んだが,まったくの偶然であることがわかった.この日,この時間,日本から8,000km以上離れたこの場所,しかも多くの人が集まるなか,仮にあらかじめ待ち合わせの約束をしていたとしても,はぐれて会えなくてもまったく不思議でないこの場所で,文字どおり「隣合わせ」になるとは! -
【専門医に求められる最新の知識 脳腫瘍】 「下垂体腺腫」から「下垂体神経内分泌腫瘍」へ
34巻3号(2024);View Description
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本稿では,下垂体腫瘍の名称が「下垂体腺腫」から「下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)」に変更されることになった経緯と問題点について解説する. PitNET の名称変更はカナダの病理学者Asa らを中心として,下垂体前葉細胞は神経内分泌細胞の一つで神経細胞,内分泌細胞の両者のマーカーを発現しており,完全な良性腫瘍ではなく悪性の経過も取りうること,通常良性腫瘍では見られない周囲組織への浸潤が見られることから,NET へ分類すべきであるとして提唱された.またWHO にも複数臓器のNET を統一したい意向があり,2022 年のWHO 病理分類の改訂において正式に採用された.しかし,この名称変更にはPituitary Society を中心とした反発があり,今も論争が続いている.また,PitNET には他臓器のNETと異なり,悪性の経過を取る腫瘍を病理学的に診断することが困難で,適切なグレーディングおよびステージングを設定できていないという問題がまだ残されている. -
【同通秘伝の英語学会発表スライド作成レクチャー 第6回】 研究報告編③ 論理的な発表のための“Abstraction Ladder”
34巻3号(2024);View Description
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その他
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投稿論文
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【Case Report】 頚動脈分岐部に発生した巨大血栓に対してハイブリッド手術室にて外科的血栓摘出後に頭蓋内の血栓回収術を施行した1 例
34巻3号(2024);View Description
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【Technical Note】 TACTICS PLUSとSHOURYU2 HR balloonを組み合わせた脳動脈瘤コイル塞栓術のballoon assisted technique:テクニカルケースレポート
34巻3号(2024);View Description
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【Case Report】 マイクロバブルテストが原因検索に有用であった心房中隔欠損症による脳膿瘍の1 例
34巻3号(2024);View Description
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【Case Report】 経動脈的コイル塞栓術のみで完治が得られたsingle-hole-typeの頚静脈球部硬膜動静脈瘻の1 例
34巻3号(2024);View Description
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連載
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【海外脳外科最新事情[留学]】 Barrow Neurological Instituteでのpostdoctoral fellowship
34巻3号(2024);View Description
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2022 年4 月より,アメリカのアリゾナ州フェニックスにあるBarrow Neurological Institute(BNI) でpostdoctoral research fellow として勤務しています.BNI は脳神経疾患に特化した施設で,臨床ではDr. Lawton,Dr. Spetzler など,非常に有名な脳神経外科医が在籍していることから,ご存じの方も多いかと思います.研究も,アルツハイマー,ALS,Parkinson disease などの変性疾患を含めて脳関連だけで30 ほどのラボがあり,臨床だけでなく研究も高いレベルにある施設になります(図1).所属ラボでは,日米の麻酔科医兼ラボのprincipal investigator(PI)を務めるTomoki Hashimoto 先生のもと,彼の開発した脳動脈瘤マウスモデルを使って動脈瘤の破裂メカニズムや薬理学的な破裂予防の研究を日々行っております. 具体的に留学に向けて動き出したのはコロナ禍の直前で,もともとは熊本大学とその関連施設で勤務し,大学院で東京大学へ行き,CFD やphase-contrast MRI を用いた脳動脈瘤の流体解析をしている時期でした.学位論文の目途が立ったところで今後どう研究のキャリアを積んでいくか考えたとき,実際に動脈瘤壁にどのような変化が起こっているのか?というものを,もう少しミクロな視点から検証してみたいと考えるようになりました.そのようなときに,BNI でポスドクをしていた友人の佐藤大樹先生に誘ってもらい,基礎研究での留学を考えるようになりました. -
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