インフェクションコントロール

Volume 17, Issue 3, 2008
Volumes & issues:
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特集
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- チャートで考えるアウトブレイクの初期対応マニュアル
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1 アウトブレイク発生時の基本的な対応
17巻3号(2008);View Description
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アウトブレイクとは,「一定の期間内に,特定の地域の特定の集団・グループにおいて,通常予測されるよりも多い事象が発生すること」,または「感染源・感染経路から本来あってはならない感染症が発生した場合」と定義されている.近年,さまざまな病原体による医療関連感染(病院感染)が社会問題になっているが,微生物の特性を考慮した対応が必要である.アウトブレイク発生時の基本的な対応は,①アウトブレイクの存在を確認する,②事態への対応,③実地疫学調査の実施,④対応策の評価,⑤再発防止のための提言の作成,からなる. -
2 チャートで考える MRSA の対応
17巻3号(2008);View Description
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MRSAは,病院感染の最も代表的な細菌であり,ときには病院感染対策の指標となりうる.MRSAの分離率は,さまざまな形で報告されており,最も一般的な手法は,黄色ブドウ球菌中のMRSAの割合である.わが国の値は70%程度であり,欧米の40〜50%に比べて多いとされている.ただし,欧米のNNIの報告は,基本的に入院患者の,細菌培養を必要とされる患者から得られた検体の結果であり,しかも,米国では入院期間が短く,退院後に細菌検査が行われることは少ない.また,日本のように監視培養などは行われていないので,日本の方がMRSAが多いとは言い切れない.欧米でもかなりの症例からMRSAが分離されていると考えられる.さて,MRSAが患者さんの細菌検体から分離される原因は,とかく交差感染と考えがちであり,MRSA感染対策は,「手指消毒をやっていれば満足」という風潮があるように思う.しかし,それだけでは有意なMRSAの減少には至らない.MRSAの分離症例数を減少させるためには,抗菌薬の使用方法,気管切開・気管内挿管患者の個室/集団管理などの総合的な対策が必要である1).総じて,欧米のエビデンス,ガイドラインでは満足のいく結果は得られていないと考える. -
3 チャートで考えるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の対応
17巻3号(2008);View Description
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バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycinresistantenterococci,以下VRE),特にVanAやVanBタイプが検出されたら,1例でもアウトブレイクとして対応しなければならない.MRSAのアウトブレイクのような,「一定の集団のなかである一定期間に予想以上の頻度で疾病が発生する,または検出される」といったアウトブレイクの定義は,少なくとも国内ではあてはまらない.また,患者検出後は迅速かつ包括的に強力な封じ込め対策を採らなければ,終息させることは容易ではない.院内で感染対策に関わる部署はMRSAやMDRP対策とは違った困難さを経験するであろうが,忍耐強く取り組んでいくことが大切である.本稿ではわれわれが経験した事例を通して,VREの初期対応について述べることにする -
4 チャートで考える クロストリジウム・ディフィシルの対応
17巻3号(2008);View Description
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クロストリジウム・ディフィシル(Clostridiumdifficile)関連下痢症は,抗菌薬などにより腸内細菌叢が乱れ,菌交替現象を契機に発症すると考えられているが,近年では集団感染事例の報告も多く,感染対策の面からも注目されるようになってきた.しかし,依然として医療現場では一般の医療従事者のクロストリジウム・ディフィシルへの関心は低く,見過ごされているケースも多い.すなわち,隠れた病院感染が起きている可能性がある.クロストリジウム・ディフィシルのアウトブレイクを起こさないためには,ごく初期対応が非常に重要である. -
5 チャートで考える 腸管出血性大腸菌O157 の対応
17巻3号(2008);View Description
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腸管出血性大腸菌感染症は,感染症法の3類感染症として,診断したすべての医師に報告が義務付けられている.2007年第37 週までの報告数は3,151例と,3,000例を超え,過去7年間の同週までの報告数と比較して,2001年に次いで多い報告数である1).2006年の腸管出血性大腸菌検出報告2,154例中,O157が検出されたのは1,466例であった.症状の内訳は,下痢が55%,腹痛50%,血便34%,発熱20%であった.溶血性尿毒症候群(HUS)は24例で報告された.2000年から2006年にHUS が報告された178例から算出された年齢別のHUS発症率は,1歳以下が1.9%,2〜5歳3.1%,6〜15歳1.7%,16〜39歳0.3%,40歳以上0.7%であり,低年齢層でHUS発症率が高かった2).腸管出血性大腸菌は微量の菌により感染が成立するため,ヒトからヒトへ感染しやすい.食品を十分加熱調理するなど食中毒を予防することや,手洗い励行などによりヒトからヒトへの二次感染を予防することが重要である.特に,小児施設においては,日ごろからの予防が必要である.また,都道府県を越えたdiffuseoutbreakの検出・対応を,流通の観点から考慮しなければならないのも特徴である1). -
6 チャートで考える セラチアの対応
17巻3号(2008);View Description
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セラチア(Serratia marcescens)は,水や土壌などの自然界に広く生息するとともに,人の腸管内に寄生し,糞便や口腔からしばしば分離される常在菌の一種である.弱毒菌であることから,健常者には無害であることが多いが,高齢者や極度の免疫不全状態にある人には,敗血症,肺炎,尿路感染など(日和見感染症)を発症することがある.特に敗血症の場合は,エンドトキシンを産生するので急速に悪化して,ショック状態から多臓器不全を引き起こし,死に至る危険性がある.またイミペネムなどに耐性を獲得した多剤耐性セラチアの動向が警戒されており,内因性感染の単発例や散発例であっても,周囲の患者への拡散を防止するための対策が必要である.セラチアは,通常,気道・尿路に定着し,重症化すると敗血症に移行するものであるが1),近年は,重大な病院感染のひとつとして,医療従事者の手指や医療器具・薬剤などを介してのアウトブレイクが問題視されている.以下にセラチアのアウトブレイクの視点と対策について述べる. -
7 チャートで考える レジオネラの対応
17巻3号(2008);View Description
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レジオネラ症はレジオネラ属菌の感染により起こる疾患であり,レジオネラ肺炎と,肺炎にならない自然治癒型のポンティアック熱の2 つの病型がある.感染症法が2003年に見直されてから新4類感染症と規定され,診断後ただちに届出が必須となった.レジオネラ属菌は自然の土壤と淡水に生息するが,感染性は強くないことから,健康な人には容易には感染しない.しかし,エアロゾルを発生する人工環境である循環式温泉,24時間風呂,冷却塔,加湿器,ネブライザーなどでは菌が繁殖しやすく,多量のレジオネラ菌を吸入した場合には健康な人においても発症し,集団発生も報告されている2).ただし,本菌のヒトからヒトへの感染は確認されておらず,本症患者を隔離する必要はない. -
8 チャートで考える 疥癬の対応
17巻3号(2008);View Description
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疥癬は,ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)がヒトの皮膚角質や表皮内に寄生して発症するもので,激しいかゆみや皮膚病変が主症状である.感染するとヒゼンダニの排泄物や脱皮殻へのアレルギー反応として紅色小丘疹が生じるほか,産卵のために皮膚にトンネルを作って皮内にもぐりこむことで,手掌,指間,腋窩,臀部などに典型的な疥癬トンネルが発生する.免疫力の低下している患者やガン末期患者,大量の副腎皮質ステロイド薬投与中の患者などでは,寄生するヒゼンダニが100万匹以上におよぶ重篤な病態:角化型疥癬(ノルウェー疥癬)となり,全身に牡蠣殻様の皮膚所見を呈する. -
9 チャートで考える 多剤耐性緑膿菌(MDRP)の対応
17巻3号(2008);View Description
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緑膿菌は,慢性気道感染症や肺炎などの呼吸器感染症,尿路感染症,易感染者における敗血症などの起炎菌である.本菌は病原性がそれほど強くないため,日和見感染症の原因菌として捉えられているが,多くの抗菌薬に耐性を示す菌種として以前から臨床上問題視されていた.1980年代に抗緑膿菌作用が強い抗菌薬としてピペラシリン,セフタジジム,カルバペネム薬などのβ-ラクタム薬やアミノグリコシド薬,ニューキノロン薬などが開発され,一時的に緑膿菌感染症はコントロール可能のように思われた時期もあった.しかし,その後これらの薬剤に耐性を示す多剤耐性緑膿菌(MultiDrugResistant Pseudomonasaeruginosa;以下MDRP)が,国内外を問わず多くの施設から報告されるようになった.MDRPによる感染症は,現在使用可能なほとんどの抗菌薬が無効であるため,大きな社会問題になりつつある.本稿では,特にMDRPのアウトブレイクに対する初期対応に関して述べる. -
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11 偽性アウトブレイクに関する注意
17巻3号(2008);View Description
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感染症に限らず,「アウトブレイク(①ある疾患の患者数が通常のレベルを上回って発生すること,あるいは,②一例でも重症あるいは重大なインパクトのある患者が発生すること)」の報告があった場合に,その内容を確認し,次の対策を実行する必要性があるかどうかの判断を適切に行うことはきわめて重要である.すなわち,実際にはさまざまな要因により,アウトブレイク発生そのものが疑われる場合がある.これを「偽性アウトブレイク」と仮称する.本稿においては,アウトブレイク調査における「偽性アウトブレイク」とは何か,それを見極めるポイントなどについて述べる. -
12 アウトブレイクにおけるICTの役割
17巻3号(2008);View Description
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ICTは,チーム(InfectionControlTeam)という名の通りチーム医療を実践する.チーム医療の定義は,医療従事者がお互い対等に連携することで患者中心の医療を実現することである.ICTの役割には日ごろのサーベイランスや回診によるアウトブレイクの徴候を発見する業務,発生時の迅速な対応が求められるのみならず,事後処理と結果を検証し,今後の感染対策に向けてのフィードバックを行うことが要求される.ここでは,チーム医療としてのICT活動をアウトブレイクの観点から職種別の特性を踏まえて言及する. -
13 行政機関の役割と情報提供のあり方
17巻3号(2008);View Description
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近年,マスコミが院内感染等を積極的にニュースとして取り上げるようになり,感染症を含む健康危機管理に対する関心は,公衆衛生関係者のみならず一般市民に至るまで高まってきている.このような状況のなか,保健所には,地域における健康危機管理体制の拠点として,院内感染対策を含む,重大な健康危機や医療安全への取り組みの強化充実が望まれている. -
14 アウトブレイクと地域ネットワーク
17巻3号(2008);View Description
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感染症地域ネットワークを構築する意味は,地域で共通認識を持ち,施設間格差を補うことにより医療関連感染を低減させようというものである.そのためのアクションプランとしては,①情報・認識の共有化,②感染症対策の連携・協力,③感染症対策の支援体制の構築などがある.すなわち,地域の一施設でアウトブレイクが起こった場合,この解決のために支援することも感染症地域ネットワークの目的の中に含まれている.ここでは,感染症地域ネットワークがこのようなアウトブレイクに対してどのように支援できるのかを考えてみたい.
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連載
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- フロントエッセイ
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必要とされる感染症の仕事,10年間の変遷
17巻3号(2008);View Description
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平成9年の2月に,私の地元である新潟で,日本環境感染学会学術集会が開催された.そのころ私は,新潟大学第2内科のなかの呼吸器班,感染症グループに所属していたので,事務局のお手伝いをして,記念品には郷土品の何を選べばいいのか……などと頭を悩ませていた. - 感染管理認定看護師 私の研修ライフ
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滋賀県立大学 人間看護学部 地域交流看護実践研究センター 感染管理認定看護師教育課程
17巻3号(2008);View Description
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この連載では,感染管理認定看護師を目指す全国の研修学校の方々にスポットを当て,研修学校の模様をリレー形式で紹介していただきます. - 写真で教えよう! 感染対策の“手技”
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ラウンド時のチェックポイント(3)
17巻3号(2008);View Description
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言葉だけでは伝わりにくい,感染対策に関連する“手技”.「職員にうまく伝えられない……」というあなたのために,本連載では,カラー写真でわかりやすく手技のポイントを解説します.職員の教育などにご活用ください!▼前回に引き続き,ラウンド時のチェックポイントについて紹介させていただきます. - IC日記
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リンクナースから笑顔を発信!
17巻3号(2008);View Description
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私は兵庫県の南西部に位置する小さな市の、三五〇病床を有する市民病院で勤務しています。市内には二〇〇六年の国体で「ハンカチ王子」が活躍した球場があります。病院の特徴としては、各種血液浄化療法ができる透析センターがあり、年間約百人前後の新規透析導入患者を受け入れています。 - 月刊CDCガイドラインニュース
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水痘抗体検査とワクチン接種
17巻3号(2008);View Description
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県西部浜松医療センターでは、毎年春に職員の麻疹・水痘・風疹・ムンプスの抗体検査(EIA)を実施し、抗体を持っていない職員にはワクチンを接種している。これらは希望者のみに実施しているが、このようなワクチンプログラムにはいくつかの問題点がある。水痘を例にして二つの問題について考えてみたい。「水痘の予防」(http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5604.pdf)が参考になる。 - ICMTから発信!微生物検査室のSign/北国の教壇から
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ICMT への少し長い道のり/自律性と仕事の満足度
17巻3号(2008);View Description
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ICMTへの道程についてお話します.まずは「認定臨床微生物検査技師(認定技師)」であることが前提で,「ICMT」取得はさらにその次…という少し長い道程を辿ります./今回は,看護師の自律性と満足度についてお話したいと思います. - ICN Sachikoの感染対策奮闘記
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やっぱり,トレーニングはリアルやないと!
17巻3号(2008);View Description
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ノロウイルスによる感染性胃腸炎が複数人発症したら,それは悲惨な状況になります.すでにご経験のある方は「うん,うん」とうなずいてくれているはず! - カンセナー救済企画 現場の疑問氷解Q&A
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