がん看護

Volume 19, Issue 2, 2014
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がん化学療法看護のいま~ケアの質を高めるためのエッセンス~
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- 第Ⅰ章 がん化学療法のいま
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がん化学療法の最新の動向
19巻2号(2014);View Description
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20 年以上前のことになるが,筆者が研修医(今でいうレジデント)として大学病院で働きはじめた頃,「がん」という病気は,何かおおやけに語ることができない,隠すべきもの,という暗黙の了解が世間一般に(のみならず一般の病院・診療所のスタッフにも)存在し,がん医療の中心であるはずのがん患者があらゆる意味で独りにされていた,という記憶がある.治療の選択肢も少なかったことはやむを得ないとしても,それ以前に,「がん」という正式な告知も受けず,自分の病気が何か,それすら正しく知らされることなく亡くなっていった患者も多い時代であった. それから20 余年,時代は変化した.今日,「がん」という言葉は,毎日欠かすことなくあらゆるメディアに登場し,国民の最大関心事の1 つである.がん研究・治療に膨大なリソースが注ぎ込まれ,がん医療は発展し,国民へフィードバックされた. このがん医療,とりわけがん化学療法の発展は,いうまでもなく新規薬剤のたゆみない開発と,その適切な使用によるものである.本稿では,最近5~10 年間におけるがん化学療法の発展に関し,筆者の専門領域である乳がんを中心に「分子標的治療薬の登場」「新規ホルモン剤の登場」「支持療法の進歩」を振り返るかたちで総論的に解説する. -
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- 第Ⅱ章 がん化学療法看護の現状と課題
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がん化学療法看護の現状と課題
19巻2号(2014);View Description
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この10 年,がん化学療法においては分子標的治療薬をはじめとする多くの新規薬剤が導入され,また支持療法においても新規薬剤が登場しガイドラインが整備されるなど目ざましい発展をとげている.それに伴い,がん化学療法に携わる看護師に求められる役割も大きくなり,変化してきている.その1 つは外来化学療法看護のさらなる充実であり,増え続ける外来化学療法を受ける患者に対して,より質の高いケアの提供が求められている.そしてもう1 つは,がん化学療法を受ける患者の社会的側面に対する支援であり,化学療法を受けながらよりよい社会生活を送るための支援の必要性が大きくなっている. 本稿では,がん化学療法看護の動向をふまえ,外来化学療法看護の質の向上と化学療法を受ける患者の社会的側面への支援という視点から総論的に述べる. - 第Ⅲ章 在宅で治療を継続する患者への看護
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A.内服抗がん薬治療:アドヒアランスを高めるための教育支援
19巻2号(2014);View Description
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がん治療において分子標的治療薬をはじめ,内服抗がん薬が広く使用されつつある.がん患者の服薬アドヒアランス率は100%ではない1).看護師は,患者の安全性を担保しつつ,アドヒアランス向上に向けた取り組みが必要である. 本稿では,内服抗がん薬治療を受ける患者のアドヒアランスを高めるための患者教育に焦点をあて,当院の取り組みを交えて述べる. -
A.内服抗がん薬治療:内服抗がん薬治療を受ける患者への看護体制~外科外来チームの大腸がん術後補助化学療法を受ける患者への取り組み~
19巻2号(2014);View Description
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内服抗がん薬の利点は,持続静注法よりも外来通院回数が少なく,点滴時間の短縮とポートが不要になることから身体的自由度が増し,患者の利便性が向上することにある1). しかしその反面,患者の内服アドヒアランスを医療者として高めていかなければ,十分な治療効果が期待できないと考える.患者の自己管理能力の向上のためには,医療者は,患者の自己管理能力をアセスメントし,その状態に即して内服方法や副作用対策法を指導することが重要となる.さらに,在宅で患者自身が服薬管理をしていかなければならない環境のため,従来の静注療法よりもていねいな患者管理が必要になっている. そこで,内服抗がん薬治療を受ける術後大腸がん患者に対する当院の外来看護の実態から課題を明確にし,彼らのセルフマネジメントを支援するために開始した新しい取り組みを紹介する. -
A.内服抗がん薬治療:病院と保険薬局との連携~看護師がキーパーソン~
19巻2号(2014);View Description
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がん治療の外来への移行に伴い,がん患者が院外処方箋により保険薬局で薬を受け取ることが一般的になってきた.医薬分業は数字の上では進んでいるが1),真の意味での医薬分業とはいいがたい.なぜなら,多くの場合,保険薬局に患者情報が提供されていないため,十分な服薬指導を行うことが困難だからである.本稿では,愛知県がんセンター中央病院における多職種連携(医看薬薬連携)を紹介し,保険薬局との情報共有のための問題点と今後の展望について述べる. -
B.内分泌療法:内分泌療法(ホルモン療法)を受ける患者への支援~アドヒアランスの促進に向けて~
19巻2号(2014);View Description
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内分泌療法は,主に,乳がん,前立腺がん,子宮体がんに対して行われる.同じがん種であっても,患者個々の臨床病期や病理学的診断により,使用される内分泌療法薬の種類や投与期間,投与方法は異なる(第Ⅰ章「ホルモン療法のいま」表2 参照).内分泌療法を受ける患者への看護では,内分泌療法の適応や目的,投与期間・投与方法,有害事象をよく理解することが重要である.また,内分泌療法は外来通院で長期間にわたり行われることが多い.患者が,治療を継続して受けられるよう教育的なかかわりや療養生活へのサポートが欠かせない. -
- 第Ⅳ章 患者の生活をよりよく保つための看護
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A.化学療法中の患者の栄養管理:化学療法中に栄養状態を維持する意義
19巻2号(2014);View Description
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がんにおける日本人の累積罹患リスクは50%であり,一生のうちに,2 人に1 人ががんと診断される時代である1).しかしながら,5 年相対生存率は男性55.4%,女性62.9%であり,半数以上が5 年以上生存していることになる2).その背景には,手術療法,放射線療法,そして化学療法(抗がん薬)といった主ながん治療のめざましい進歩がある.たとえば,わが国における胃がん術後補助化学療法の試験(ACTS-GC 試験)3)により, 多くの患者のQOL(quality of life)が改善した.ACTS-GC 試験はD2 以上の郭清を行ったStage Ⅱ(T1 症例以外),Stage Ⅲ A, StageⅢ B の胃がん患者に,手術単独群に対して術後補助化学療法の有用性を示した画期的な無作為化比較試験(RCT)である. ACTS-GC 試験の3 年生存率の結果をステージ別に示すと,Stage Ⅱ:90.7% , Stage Ⅲ A:77.4%,Stage Ⅲ B:64.3%であった.この結果より,Stage Ⅱ(T1 症例以外),Stage Ⅲ A, Stage Ⅲ B 胃がんの術後補助化学療法の標準治療としてS-1(ティーエスワン®)が選択されている.このように,胃がんはS-1 により生存率の改善が認められたのみならず,その間のQOL も高まる.大腸がんにおけるFOLFOX(フォルフォックス:フルオロウラシル・フォリン酸・オキサリプラチンの3 剤を併用するがん化学療法の略号)も,大腸がんの予後とQOL を大きく改善した.20 年前では胃がんや大腸がんの終末期では腹水・腸閉塞・肝転移で苦しみ,死を迎えることがあたり前であったが,近年そういった患者が少なくなったのは化学療法の進歩にほかならない.しかしながら,化学療法施行中に起こる悪心・嘔吐,味覚や嗅覚の変化,だるさ,口内炎などといった副作用がなくなってはいない4,5).副作用が生じていても,投与を中止することは少なく,投与量を減量しながら治療が継続される.悪心・嘔吐に対しては,アプレピタントやパロノセトロンの登場により,従来と比較して予防策が向上したが,一般的に,がん化学療法の6 割に生じるとされる味覚障害には6),対症療法と口腔ケアのみで,確立された治療法はない.副作用により食思不振となると食事摂取量の低下を招き,食事摂取量の低下が長く続けば体重が減少する.多くのがん種において体重減少が生じ,がん患者の約半数が体重減少を示す.さらに体重減少は患者のQOL を著しく損なうことが示されている.つまり,体重減少を最小に抑えることが大切だとわかる.化学療法を完遂できる環境を整えるためにも,栄養療法による体重の維持は治療においてきわめて重要な治療戦略であるといえ,栄養療法の果たす意義は大きい. -
A.化学療法中の患者の栄養管理:化学療法に伴う味覚変化への援助
19巻2号(2014);View Description
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味覚変化は,3~7 割の化学療法患者にみられる頻度の高い副作用である1-3).生命にかかわる重大な副作用ではないが,生活の質にかかわる重要な副作用である. 本稿では,化学療法に伴う味覚変化症状の概要と,筆者らが開発した評価スケールを用いた症状アセスメントの方法,症状に合わせた対処の工夫について紹介する. -
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B.化学療法中の患者の心身を美しく保つ:美容に関するケア
19巻2号(2014);View Description
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がん患者に対する外見ケアの細かなテクニックについては,すでに患者支援団体,化粧品メーカー,メイクアップアーティストなどが,さまざまな情報を提供している.しかしそれらは,美容的な観点からの情報提供が主であり,男性や小児,化粧に馴染みのない患者には複雑に感じられる内容も多い.これに対して,患者のQOL を向上させて治療継続を促進する視点から,美容の専門家ではない医療者が美容ケアのアドバイスをする場合には,次の点に留意しなければならない. つまり患者のニーズには個人差が大きいため,その人の生活背景に合致しているかを考慮しながら,医療者はアドバイスを行うことが大切である.たとえば,ほどほどの仕上がりだが手軽で時間のかからない方法がよいのか,手間がかかっても審美的に優れている方法がよいのかなど,その状況は人により異なる.医療者の思い込み(「大して目立たない」「男性だから(高齢だから)気にしないはず」「ひどいから隠さなければ」「きれいにしなければ」など)でアドバイスをするのではなく,患者自身がどのように感じ,何を希望しているかを確かめながら行うことが重要である【図1】. -
B.化学療法中の患者の心身を美しく保つ:リラクセーション~ヨーガ療法~
19巻2号(2014);View Description
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ヨーガ(yoga)は独特のポーズ,呼吸法や瞑想が特徴で,サンスクリット語のyuj を語源としている1).Yuj はbind,join and yoke を意味し,体・心・精神のunion を目指した療法であり,一般のエクササイズと根本的に異なる発想の,体を動かして行う療法である.化学療法を受けている患者は,「がん」を患っている不安や死を意識する恐怖,あるいは生への執着などの入り混じった精神状態に置かれている.さらに,治療に対する期待と効果に対する不安感など,相反する感情やさまざまな有害事象を体験しており,心身ともに疲弊している.このような患者に対して,心と身体の安定を得て,よりよい日常生活が得られることを期待し,外来治療センターにおいてヨーガ講習会を開催している.本稿では,がん患者へのヨーガ療法の効果を示す文献を概観したのち,当院のヨーガ講習会の実際を紹介する. -
C.外来化学療法を受ける患者の就労支援:わが国におけるがん患者の就労支援
19巻2号(2014);View Description
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2012(平成24)年6 月に策定された新しいがん対策推進基本計画において,分野別施策と個別目標として新たに「がん患者の就労を含めた社会的な問題」が盛り込まれた.本稿では,わが国のがん対策を概観しつつ,がん患者の就労に関する項目が追加された経緯を振り返り,その上で就労に関する施策の現状について紹介したい. -
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C.外来化学療法を受ける患者の就労支援:患者支援団体による支援やサポート
19巻2号(2014);View Description
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わが国の稼働年齢層におけるがんの罹患率は上昇しているが,治療の進歩によって生存率も向上している.時代はいま,がんと闘う時代から,がんとともに生き,がんをもちながら社会生活を遂行する時代へと移っている.その結果,がんの医療やケアの焦点は,がんに罹患した人が社会の一員として長期にわたって自己実現を目指す,がんサバイバーシップに移行している. がんサバイバーにとって「働くこと」は経済的安定の基盤であると同時に,社会の構成員であることの証しであり,また自己実現の道筋でもある.したがって,がんをもちながらも仕事に就き,継続できる社会状況の創出はたいへん重要である.ところが,働くがん患者の中には,不本意な異動や退職を余儀なくされる人も少なくない. これに対して医療機関は治療を第一義としているため,職業生活を送っている人として患者をとらえておらず,治療方針の決定に際しても職務内容や勤務時間などの患者の就業状況を十分に考慮していないことが多い.また,職業継続になんらかの問題が生じた場合,病気や治療が原因で就労に支障があるならと,早すぎる辞職を容認してしまったり,逆に雇用側の理解が必要と,就労現場に即さない配慮を求めたりしがちである.しかし,がん患者の就労可能性は,単純に病気や治療の状態だけによるのではなく,どのような仕事を選択してどんなふうに働くか,職場の人々から具体的な協力を得られるか,また,本人の生活スタイルや対処スタイルによって変わってくる.そして,通常こうした要因は患者の試行錯誤を通して調整されていることが多く,医療者の支援機能は必ずしも発揮されてはいなかった. その背景の1 つとして考えられるのが,がん患者をパワーレス(powerless)とみなす傾向である.そのようなとき,ソーシャルワークでは,その人々がもっている潜在的な適応力の強化や,抑圧的な環境・構造の変革が重要であると考える.すなわち,人々がパワーを発揮することができるように,個人的,対人関係的,社会的,政治的といったミクロからマクロのレベルにいたる範囲での支援展開が求められるのである.そしてその根底には,どのような厳しい状況にあっても,人々には本来,自分の人生を変えることができるストレングス(strengths)が備わっているという価値観がある. 本稿では,ストレングス視点を念頭に,がんサバイバーの就労支援について患者支援団体に期待されることがらを述べることにしたい. -
C.外来化学療法を受ける患者の就労支援:就労支援の必要性と職場での支援のしくみ
19巻2号(2014);View Description
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がん患者の就労問題は,欧米では1980 年頃から研究が進められてきているが,日本では長く注目されてこなかった.ここ数年間で実態調査が進み,がん対策推進基本計画の改正に伴い,対策整備が進められようとしている. われわれは,2010~2012(平成22~24)年度厚生労働科学研究費がん臨床研究事業「働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究」班(研究代表者:高橋 都.以下,本研究班)の中の産業看護グループ(研究分担者:錦戸典子)として,がんと就労支援における産業看護職の機能・役割を明らかにすることを目的として,産業看護職へのフォーカス・グループ・インタビューや質問紙調査を実施した.本稿では,外来化学療法を受ける患者の就労支援に向けて,まずはがん患者の就労支援が必要となっている背景と,職場での支援のしくみを中心に述べる. -
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- 第Ⅴ章 化学療法を受ける高齢者の支援
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高齢者のセルフケア上の困難
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わが国における65 歳以上の高齢者人口は増加の一途をたどり,2011(平成23)年には高齢化率は23.3%となった1).平均寿命の伸びと加齢によるがん罹患リスクの上昇により,今後さらに高齢がん患者は増えることが予想される.またがん治療の進歩により,多様な治療を外来通院で長期間継続して受ける患者も増えてきている. ここでは,外来で化学療法を受ける高齢者について取り上げ,加齢に伴う心身の変化とともに化学療法を受けることに伴う影響により,セルフケア上にどのような困難が生じているかについて述べる. -
高齢者へのセルフケア支援
19巻2号(2014);View Description
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前項の「高齢者のセルフケア上の困難」で述べたように,外来化学療法を受ける高齢者のセルフケア上の困難は,加齢や治療の有害事象に伴う身体的な困難と,心理社会的な困難に大きく分類される.ここでは高齢者のセルフケア支援について,外来看護において必要なアセスメントと看護支援について述べる. - 第Ⅵ章 化学療法を受ける患者が活用できる情報と社会資源
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患者会・患者団体によるサポート
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がんの患者会や患者団体は,がんの種類や地域,医療機関ごとに各地で設立され,さまざまな活動を展開しています.その主な活動としては「がんに関する啓発活動や情報の提供」「がんの患者や家族などに対する相談支援や交流の場の提供」「がん医療やがん対策の向上を求める要望活動」などがあります. 以下にがん患者会の主な活動を述べます. - 第Ⅶ章 化学療法患者をめぐる院内外との連携
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病棟と外来および外来治療センターにおける看護の役割と連携
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がん患者の治療は,入院を中心とした医療から外来を中心とした医療へ変化してきている.入院期間は短縮化し,化学療法は外来が主流となり,通院治療している患者は数多く存在する.外来は看護師と患者が接する時間を十分に確保できず,その中で患者の状況を把握し,看護介入することは容易なことではない.限られた時間の中で患者の状況を把握し,看護介入するためには情報を共有し,連携することが重要である. 本稿ではがん研有明病院における病棟看護師・外来看護師・外来治療センター(ATC)看護師のそれぞれの役割および事例を通じた連携について述べる. -
専門看護師・認定看護師や院内メディカルスタッフの役割分担と連携
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近年のがん化学療法は,分子標的治療薬の開発,支持療法の発展などに伴い,より多くの患者がその恩恵を受けることが可能になり,治療を受ける環境も,入院から外来へとシフトしている.同時に分子標的治療薬特有の有害事象への対策など,これまでの化学療法看護では注目されていなかった看護ケアが頻繁に求められている. また,がんの治療には化学療法のみならず手術療法,放射線療法が併用され,がんと診断されたときから,疾患への治療と並行し緩和ケアを必要とする患者も多い.このようにがん治療が多様化している中,患者をとりまくあらゆる職種と協力しながら,患者の課題解決へのコーディネーター的な役割を担うことの多い看護師には,幅広い知識や実践力が求められている. 本稿では,看護師の知識や実践能力向上のために貢献すべき専門看護師や認定看護師,また看護職以外のメディカルスタッフの役割とその連携の実際について述べ,化学療法看護実践の際にそれらの職種をどのように活用していくことができるかを示す. -
訪問看護師や在宅ケアスタッフとの連携
19巻2号(2014);View Description
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近年の化学療法は,支持療法や内服抗がん薬の進歩により,外来での治療が増加している.また,働き盛りの年代の患者は,仕事や家庭生活と治療との両立を望み,外来治療を選択する場合も多い.さらに老齢人口増加による,病院ベッド数の不足や入院日数の短縮化などにより,化学療法は入院から外来通院へとシフトしている現状がある. 本来の化学療法では,ある程度の全身状態(PS, performancestatus)の保たれている患者が対象となるが,治療の継続中に日常生活動作(ADL)が低下するケースや,ギリギリの状態での治療を行うケース,または緩和医療的な化学療法を行うケースなども比較的多い.そういった患者が化学療法を継続するためには,在宅での生活を支援し,社会資源を利用するサポートがたいへん重要である. - 第Ⅷ章 曝露予防対策
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院内の抗がん薬の曝露対策
19巻2号(2014);View Description
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日本において抗がん薬の曝露対策は,日本病院薬剤師会が中心となり,抗がん薬調製時の作業について指針やガイドラインが作成され,2012 年には抗がん薬の無菌調製について診療報酬が算定されるようになった.このような経過を経て,薬剤師による抗がん薬の調製作業は全国的に統一した方法が普及していった1,2). 一方で日本の抗がん薬を取り扱う看護師においては,統一されたガイドラインはなく,日本病院薬剤師会で作成された指針やガイドライン,さまざまな抗がん薬曝露予防に関する文献などを参考にして,施設の状況に応じた曝露予防対策の指針を整備して実践している現状である3). 当院の看護職員に対する曝露予防対策は,2002 年開院時に看護師が中心となって作成した「化学療法の手引き」の中の“抗がん薬の安全な取り扱い”をもとに各部署で曝露対策が実施されてきた.当院は開院後10 年が経過し,その間,曝露対策で使用する個人防護具(PPE, personalprotective equipment)の変更などがあり,“抗がん薬の安全な取り扱い”について見直す必要があった.院内のがん看護専門看護師,がん化学療法看護認定看護師で,2012 年度の1 年をかけて抗がん薬曝露対策マニュアルの作成とその周知について計画し,実施した.そして,マニュアル作成と同時進行で,各部署での曝露予防対策の実施状況について聞き取り調査を行い,その結果をもとに,マニュアルの内容についてさらに検討を行った.今回は抗がん薬曝露対策マニュアルの作成の過程と周知活動の経過,マニュアル導入前の当院の曝露予防対策の現状(聞き取り調査の結果),マニュアルの構成,医療者以外の職種への曝露予防教育,今後の課題について述べる. -
患者・家族への曝露予防に関する教育
19巻2号(2014);View Description
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抗がん薬による医療従事者の作業曝露は問題となり,さまざまなガイドラインが作成され曝露予防の意識も高まりつつある.しかし抗がん薬治療を受ける患者をとりまく人々,入院中の患者や自宅で看護や介護を行う家族への曝露予防に対する意識が高くなったとはいいがたい. まず入院で治療を受ける患者には,なぜ曝露予防が必要なのかを理解してもらい,周囲への曝露を予防するための理解と協力が必要となる.また最近では外来で抗がん薬治療が多く取り入れられるようになり,皮下組織に埋め込まれたリザーバーから携帯型ディスポーザブル注入ポンプを使用し,在宅で抗がん薬の投与を行う治療や内服での抗がん薬治療も増えている. しかし,在宅での治療は患者や家族が投与管理を行わなければならず,抗がん薬治療を受ける患者やその家族も抗がん薬の曝露の危険にさらされることが多くなっている.在宅での曝露を防ぐために,抗がん薬治療を受ける患者やその家族への抗がん薬曝露に関する知識の提供・曝露予防の指導を行うことが必要である.
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