がん看護

Volume 19, Issue 3, 2014
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特集 【がん患者の性・妊娠・出産】
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がん治療を受ける患者の性をどう支えるか
19巻3号(2014);View Description
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筆者ががん患者の性にかかわるきっかけになったのは,20 年近く前の人間ドック施設における40 代女性受診者との出会いだった.その2 年前に乳がんのため片側の乳房全摘術を受けた女性は,長くためらったあと「夫とのセックスはなくなってしまいましたが,私としてはしたい気持ちになることもあります.バイブレーターを使っていますが,問題ないでしょうか?」と聞いてきた.妊娠や出産ならともかく,性欲や性感について真正面から相談されたことがなかったため戸惑ったが,女性の意を決した表情を見て「きちんと受け止めなければ」と思ったことを思い出す.女性は,性生活について術後に夫と話し合ったことはないという.バイブレーター使用だけの問題ではないとすぐにわかったが,そのときには「大事なことですよね.使ってもとくに問題はないと思いますよ」と答えるのが精一杯でそれ以上の話ができなかった.当時,すでにがん患者の生活の質に関する研究をしていたにもかかわらず,自分が考える「患者の生活」の中に性生活が含まれていなかったこと,そして,がん治療が性生活に及ぼす影響や対応策について自分がまったく無知であることを自覚した瞬間だった. 20 年が経ち,がんが長くつきあう慢性病に変化しつつある今日,患者とパートナーの性生活を支援する動きはわが国の医療者の間でも明らかに高まり,実態調査や支援実践の知見が徐々に蓄積されてきている.しかし,一般の臨床現場においては,性生活へのケアの重要性を理解していても具体的にどのように患者の性にかかわったらよいか,思案している医療者は少なくない. 本稿では,がんの臨床現場において患者の性が取り上げられにくかった背景を患者と医療者双方の視点から概説するとともに,がんの臨床現場で働く一般医療者が無理なく提供できる支援のかたちについて論じたい. -
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女性がん患者の性機能障害とその援助
19巻3号(2014);View Description
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性行為は単なる身体的・生理的反応ではなく,種々の心理社会的要因に影響される個別性の高い現象である.性行為を楽しむにはある程度の心身のエネルギーとゆとりが必要であり,臨床的条件が類似していても,治療後の心身の回復度,治療後の自分の性的魅力に対する自信,性に関するパートナーとのコミュニケーションや人間関係などによって状況は変化する.さらに,なんらかの性機能障害がカップルにとって深刻な問題に発展するかどうかはカップル関係全体における性的結びつきの重要度によっても異なる. 治療によって起こりうる性的問題や対処方法について医療者が正確な情報を提供することはきわめて重要である.本稿では,とくに乳がんと婦人科がんを中心として各種治療が女性の性機能に及ぼす影響と対処法の概略を述べるが,ほかのがん種などの詳細については参考書籍1)も参考にしていただきたい. -
男性がん患者の性機能障害とその援助
19巻3号(2014);View Description
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ペニスが勃起して,性行為ができて,射精ができるという性機能は,男性にとっての自己の性のアイデンティティを自覚するために,根源的な要素である. 加齢変化の一環としてこれらがなくなることは,自然現象として受け入れやすいが,がん治療の結果としてのように突然これらを奪われることには大きな精神的苦痛を伴う.とくに生殖年齢の場合は,自身の問題としてばかりではなく,パートナーとの関係においてもその悩みはより深いものとなる. 男性がん患者の性機能障害を考えるとき,以下の3 つの要素が影響している. ① がん治療による男性生殖器(ペニス・精巣・前立腺)や精路(精管・精嚢)の解剖学的変化によるもの②生殖器への神経支配や内分泌環境の変化によるもの③がん患者の心理的変化によるもの 本稿ではこれらについて,泌尿器科がんの前立腺がん,精巣がん,膀胱がん,陰茎がんと消化器がんの直腸がんをモデルにして解説する. いずれのがんの場合も,治療に関するインフォームドコンセント(IC)取得に際しては以下の点を説明して理解を得るようにしている. ①制がんを行うこと(根治を目指す)が最重要であること② 治療後のQOL については,性機能温存も含めてできるだけ治療前の状態に近づけるようにすること③性機能の回復には時間がかかる場合があること④患者どうしの情報交換(患者会)が可能であること⑤ パートナーがいる場合には,協力して障害の克服と軽減に協力し合うことが大切であること 治療前には心理的ゆとりがなく,正しく理解できていない場合も多いので,治療中・治療後も繰り返し話をすることが肝心である. これらの説明において,医師には話しにくいことも多い.そこで看護師の役割は大きいものがある.男性看護師の場合には,同性として患者本人から直接の問題点を聞き出すことが期待されている.また,女性看護師の場合には,患者のパートナーからの希望・疑問を引き出すことが期待されている. -
がん患者の妊孕性対策の現状と課題
19巻3号(2014);View Description
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近年,若年者のがん罹患率の増加およびがんの診断・治療に対する集学的医療の進歩により,がん治療後の生存者(がんサバイバー)が増加している1).2006 年に米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology: ASCO)はがん患者における妊孕性温存に関する初のガイドラインを示した2).がん患者は疾患が寛解しても,治療によって生じる妊孕性低下や消失といった問題を抱えることとなり3),がんサバイバーのQOL に対する関心が高まってきている. -
がん患者の妊孕性対策における看護マネジメント
19巻3号(2014);View Description
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がん治療に伴って,生殖機能障害が生じる可能性がある場合に,その患者に対して,看護師はどのような役割を担うことができるのだろうか.がん治療前に妊孕性対策を試みようとする場合,適切な時期に適切な情報提供を行わなければ十分な意思決定を促すことができない可能性が高まる.また,がん治療後に子どもをもつ,もたないという選択肢をどのように支えていけるかは,がんを患った若年患者のがん治療後のサバイバーシップを考えるうえで看護師にとって重要な役割の1 つであると筆者は考える. 本稿では,主に女性がん患者の薬物療法に伴う生殖機能障害について,治療期別に具体的な看護介入について述べたうえで,事例を提示しながら看護介入の実際について考察する.さらに,がん治療と生殖に関して,看護師が熟慮するべき女性患者の心理,医学的・倫理的課題について考察する. -
がん患者に対する不妊カウンセリング
19巻3号(2014);View Description
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今は子どもを望んでいなかったとしても,がんに罹患した場合,がん治療の影響で将来「不妊」となってしまうこともあり,不妊となった後で子どもを望むこともあるだろう.患者の背景や年齢などにもよるが,不妊治療は一般的な検査から始まり,原因があれば原因の治療から始め,とくに原因がなければタイミング療法,人工授精,体外受精といった順に治療のステップを上げていくのが通常であるが,がん治療を控えた場合はそういった手順をふまずに進んでいく.がん患者のQOL 向上のため,がん治療前の妊孕性対策が行われるようになり,妊孕性温存に関するカウンセリングの必要性は高まっている. -
がん患者のパートナーシップを支える看護
19巻3号(2014);View Description
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性・妊娠・出産という課題に取り組むためには,がん患者のパートナーシップへの理解が重要だと考えられる.がんの告知や治療継続に際し,患者とパートナーはこれまでの良好な関係が維持できなくなったり,また互いを思いやり病気や今後について触れることがむずかしくなる場合もあり,互いに不安を抱えたまま療養を続けることになる.がん患者とパートナーの関係を支えるためには,これまで培われてきた患者とパートナーとの信頼や尊重といった関係性を認めたうえで,両者が十分なコミュニケーションを図りながら,互いに支え合い乗り越えられるような相互関係を築いていけるよう支援することが重要であると考える.がん診断時からのサバイバーシップにおいて,がん患者とパートナーの関係を支えるための看護について,事例を示しながら考察する. -
がん患者の性・妊娠・出産を支援するための看護師の教育
19巻3号(2014);View Description
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がん看護に携わる看護師にとって,もっとも身近にあり,実臨床での示唆を与えてくれる本誌が「性・妊娠・出産」といったテーマで特集を組むことは画期的なことである.これは,全国のがんの臨床に携わっている看護師1 人ひとりが目の前のがん患者個々のQOL やサバイバーシップといった概念を尊重した看護を行っている結果であると筆者は考える. その一方で,私たち看護師は基礎教育の中でどれだけ性に関する教育を受けてきただろうか.本稿では,看護教育におけるセクシュアリティ教育の現状について概観したうえで,課題について検討する.さらに筆者らが主催している「がん患者さんの性を支援するための研修会」について紹介する.
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BOOK
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教えて!樋野先生!!~がん哲学外来~
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特別寄稿
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ドイツFoldi Clinic でのリンパ浮腫ケア研修に参加して
19巻3号(2014);View Description
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筆者は2013 年6 月3~15 日に,ドイツのFoldi Clinic1)(図1)にてリンパ浮腫の保存的治療法である複合的治療(complete decongestive therapy:CDT)の研修を受ける機会を得たのでここに紹介する. リンパ浮腫やCDT の詳細は成書に譲り,本稿では主にe ラーニングを含む本研修の一連の流れや,海外での英語による研修について報告したい.
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連載
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在宅緩和ケア 訪問看護の現場から~事例を通して伝えたいこと~【2】:最期の日々を生きるがん患者を支える~独り暮らしの在宅緩和ケア~
19巻3号(2014);View Description
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独り暮らしの在宅緩和ケアは実現が困難と一般的には思われていることが多いと思います.しかし,独り暮らしであっても自宅で穏やかな最期を迎えることは可能です.利用できるサービスを最大限に活用し,チームで協力してケアすることで,同居家族がいなくとも,患者の希望を形にすることは可能だと考えます. -
放射線療法チームのスキルミクスと看護の役割~患者のQOL の維持・向上のために~【5】:放射線療法における多職種チームの構築
19巻3号(2014);View Description
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2007 年,がん対策基本法が制定され,2008 年から実施されているがん対策推進基本計画,ならびに2012 年6 月から実施されている第2 期がん対策推進基本計画において,「放射線療法,化学療法,手術療法のさらなる充実とこれらを専門的に行う医療従事者の育成」が重点課題として挙げられている.放射線療法に携わるメディカルスタッフの育成,および,チーム医療の推進が求められている. 神戸大学医学部附属病院(以下,当院)は,特定機能病院として高度先進医療を提供するとともに,神戸大学大学院医学研究科の附属施設として,診療だけでなく教育・研究機関としての役割も担ってきた.2008 年,地域がん診療連携拠点病院の認定を受け,2 次医療圏におけるがん診療の中核としての役割も担うようになった(表1).今回,当院の放射線療法に関する多職種連携の会の立ち上げの実際を紹介しながらチーム構築について説明する. -
遺族の声を臨床に生かす~J-HOPE 研究(多施設遺族調査)からの学び~【5】:スピリチュアルケアを考える
19巻3号(2014);View Description
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【付帯9】終末期のがん患者は,人に迷惑をかけてつらいと感じていることが報告されており,海外の研究においては,頻度が高く,希望のなさや自分らしさの喪失などとの関連が明らかにされています.本研究は,終末期がん患者をケアする看護師が,患者の負担感を軽減するために,どのようなケアを行ったらよいかをJ-HOPE の研究から報告したいと思います. 【付帯10】終末期がん患者は自己の生きる意味や存在の意味の問いから,宗教的なケアを必要としていることがあります.欧米の研究では,宗教や信仰はがん患者の生活の質の向上や精神的安寧をもたらすことに有用であると報告されています1).しかし,わが国において宗教をもつ患者は多くありません.わが国の終末期がん患者にとって宗教的ケアは,精神的な穏やかさをもたらすことに役立つのでしょうか. -
がん化学療法におけるナーシング・プロブレム【66】:がん化学療法による悪心マネジメントにおけるアプレピタントとホスアプレピタントの位置づけを看護の視点から考える
19巻3号(2014);View Description
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現在の高度催吐性リスク抗がん薬に対する制吐療法のスタンダードは,5-HT3 受容体拮抗薬,デキサメタゾン,アプレピタントの3 剤併用である.2009 年12 月にNK1受容体拮抗薬アプレピタントが薬価収載され1),2011 年12 月には注射剤としてホスアプレピタント2)の販売が開始されてから約4 年が経過した. 催吐性リスク抗がん薬の制吐マネジメントが進歩している中で,制吐薬の種類と投与方法の選択肢が多くなった分,投与法は多様になっている.本稿では,高度催吐性リスクの抗がん薬に対する制吐療法において,アプレピタントとホスアプレピタントの意義と位置づけを確認し,投与法の背景にある理由を見ていきたい.また,がん化学療法看護として,制吐療法に関する患者への説明と制吐薬の決定への看護のかかわりについて考察したい.
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JJCCレクチャー
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看護師が実践するグリーフ・ビリーブメントケア~アセスメントの視点を理解する~【7】:病院から地域へ ~グリーフサポートは地域でも~
19巻3号(2014);View Description
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これまでの連載を通して,死別時のグリーフについてさまざまな事例を挙げながらお話してきました.死別という体験は,誰でも一度は経験する人生において避けられないできごとです.そのできごとによって,もちろん一時的に精神的な落ち込み,身体的な疲労や社会生活への影響があるかもしれません.しかし,日本で行われている遺族を対象としたホスピス・緩和ケアの質の評価の研究によると,3 割程度の遺族が臨床的に抑うつ状態にありましたが,複雑性悲嘆の有病率は2.3%であったことが報告されています1).つまり,多くの人が自分の力,自分なりの方法で立ち直ることが示されているということなのです. 今回は,質のよいグリーフサポートを行ううえで必要なことを考え,現在,病院が主体で行っているグリーフサポートが,地域主体として根付くにはどのようにしたらよいのかも検討したいと思います.
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Report
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第10 回Asia Pacific Hospice Conference 参加報告
19巻3号(2014);View Description
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2013 年10 月11~13 日の3 日間にわたり,バンコクにおいて第10 回Asia Pacific Hospice Conference(APHC;アジア太平洋ホスピス学会)が開催された.バンコクは,正式には「偉大なる天使の都」とよばれ,高層ビル群やショッピングモールが立ち並ぶ近代文化と,王宮や寺院などの建造物に代表される歴史的な仏教文化が融合した魅力的な都市である(図1). これらの街並みに表されるように,伝統的な知恵と現代の知識の融合が,タイの経済発展を考えるうえでの1 つのキーワードとなっている.今回のAPHCでも,「Integrationand harmony of wisdom(知識の統合と調和)」というテーマが掲げられ,アジアのホスピス・緩和ケアの発展を考えるにふさわしい内容となった. 今回は,アジア諸国以外を含む27 ヵ国から,医師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー,修道士などの多職種約900 人が参加し,ホスピス・緩和ケア領域における症状マネジメント,倫理的問題,精神的ケアのあり方,緩和ケアの教育・研究などの演題発表がなされた. 本稿では,APHC の講演内容の一部を読者の皆さまと共有したく,ホスピス・緩和ケア領域における「看護師の役割」,「文化とスピリチュアリティ」,「予後予測」,「緩和ケアにおける倫理的課題」,「がん患者の強みを支えるケア」について以下に紹介する.
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投稿
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資料:国内における原発不明がんに関する研究の動向~横断的ながん看護の支援を見据えて~
19巻3号(2014);View Description
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[目的]国内における過去30 年間の原発不明がんに関する研究報告の動向を明らかにし,看護への示唆を得る.[方法]医学中央雑誌Web(ver.5)にて,1983~2012 年の30 年間について,「腫瘍or がん」,「原発不明」を選定しAND 検索する.原著論文を対象として,発表年,研究デザイン,診療科,症例の性別と年齢を分析する.[結果]原著論文の年間平均発表件数は,1983~1992 年は3.7(1~7)件,1993~2002 年は13(7~21)件,2003~2012 年は35.4(21~45)件と増加した.著者は医師などが519 件で,内訳は症例報告398 件,症例集積研究107 件などで,耳鼻咽喉科,呼吸器外科,消化器外科,整形外科などさまざまであった.症例は男性がやや多く,年齢は男性59.5±13.5(14~87)歳,女性61.1±13.8(23~95)歳であった.看護論文は2 件であったが,原発不明がんの看護支援に関する言及はなかった.[考察]多くの診療科による縦断的な原発不明がんの診療状況が確認された.外来から入院を通し,診療科の垣根を越えた横断的ながん看護の提供の必要性が示唆された.
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