がん看護

Volume 19, Issue 5, 2014
Volumes & issues:
-
特集 【対応に悩む看護場面 ~続・看護師のコミュニケーション技術Ⅱ~】
-
-
-
不安を表す患者への対応~「ねえ,私,治るのかな.これからどうなっちゃ うのかな.もう,何が何だかわからないよ…」~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
A さん,52 歳,女性,専業主婦.夫は56 歳の会社役員.結婚を控えた24 歳の長女,大学2 年生の20 歳の長男がいる.検査のために1 週間前に呼吸器内科に入院し,主治医による検査結果の説明と今後の治療についての相談を行うための面談に,A さんと夫,長女が同席した.また,担当のプライマリナースも同席した.主治医からの話は,手術不能の進行肺がん,肝臓への転移と多発骨転移があり,化学療法と放射線療法を行う,という内容だった. A さんはうつむきがちに話を聞き,夫と長女が主治医に質問をしていた.最終的にA さんは主治医の治療方針に同意し,面談が終了した.夕方,面談に同席したプライマリナースがベッドサイドに行くと,A さんは冴えない表情をしていた.気になって声を掛けると「…どうしてこんな病気になっちゃったのかな….大事なときなのに….ねえ,私,治るのかな.これからどうなっちゃうのかな.もう,何が何だかわからないよ….看護師さん,どう思いますか?治るのかな」と,涙を浮かべ嗚咽しながら堰を切ったように話しだした. こういう場面に遭遇する看護師をはじめとする医療者はどのように対応するだろうか.ある程度の経験があれば,反射的にそれに対応するであろうし,また,経験の浅い若い医療者であれば,びっくりしてそれこそ医療者のほうが「どうしていいのかわからない」気持ちになり動揺することもあるだろう.さらには,「私は死ぬんですか?」など,対応する側がもっとどぎまぎするような場面もある.本稿では,不安を表す患者に対して,どのように評価し,どのようにコミュニケーションをとるのがよいのか,考えてみたい. -
気力がわかないという患者への対応~「もういいんです」~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
がん患者は治療や身体症状,むずかしい治療選択,周囲とのコミュニケーション,社会復帰などさまざまな困難に立ち向かわなければならないが,時に気力が乏しく,困難を避けているように見えることがある.このような症例にかかわる医療従事者としてどのようなコミュニケーションを通じて問題を評価,対応していくべきだろうか. -
怒りを表出する患者への対応~「あなたに私の気持ちがわかるはずない!」~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
病気や治療のために強いストレス状況にいる患者と身近で接する看護師は,患者の怒りに遭遇することも少なくない.そんなとき,患者への苦手意識や恐怖心から,腫れ物に触るように接したり,病室への足が遠のいたりしていないだろうか.あるいは,感情的に反応してしまって後味のわるい思いをしたり,自責感や無力感に苛まれてしまった経験はないだろうか. 本稿では,怒りのアセスメントと対応方法,怒りを向けられたときの看護師の感情への対応を中心に述べたい. -
依存的な患者への対応~「なんとかしてください!」~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
看護師が対応に悩む場面の1 つとして,依存的な傾向のある患者への対応が挙げられる.依存的な患者というとまず思いつくこととして,「自分ではできないからやってほしい」「何度もナースコールがあり,身の回りの世話を要求する」など患者が自分でできることを自分でしようとせず看護師に頼る場面が想像されやすい.こうした患者へのケアでは,セルフケアの支援をしようとする看護師と頼ろうとする患者が相反して対立するという構造になりやすい.看護師としては援助の方法がむずかしく,あの人は依存的な人だからとかかわりを避けたり,患者への怒りが生じることがあり,関係性を構築することがむずかしくなる. また一方で,患者が不安や身体症状の改善を看護師に求めて,「なんとかしてください!」と頼られ,看護師が患者をなんとかしなければいけないという気持ちを引き起こされる場面も看護師としてよく経験する.このような場合,看護師の中で依存的な患者と認識されにくいが,「なんでも解決してくれる」という万能な看護師を求められ,何とかしなければと必死になると,それに応えられず看護師として無力感が生じる. これらの場面は,看護師の反応としてはかかわりを避けたり,また一方でより熱心にかかわろうとしており,真逆のように感じられるかもしれないが,両方とも自分で取り組むことがむずかしい状況で周囲に頼っているという点では依存傾向のある患者といえる.こうした場合,「依存的な患者」,もしくは「患者の期待に応えられない無力な看護師」と一面的にとらえるのではなく,患者の行動の背景に目を向けてアセスメントし,看護師自身の感情に気がつくことでケアの方向性が見えやすくなることがある. 今回は,筆者自身がかかわりの中で葛藤したケースをもとに,依存のアセスメントや対応,看護師の感情について考えていきたい(事例は個人情報が特定されないように改変を加えている). -
医療者をコントロールしようとする患者への対応~「○○さんは話を聞いてくれるのに,あなたは聞いてくれない」~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
がんは生命への脅かしと同時に,心理社会的,実存的悩みを引き起こす.人は不測の事態においても,これまで培った知識や経験をもとに乗り越える力をもっている.しかし,気持ちに余裕を失うと,時には泣いたり甘えたり,八つ当たりするなど,感情を発散しながらバランスを取っている.これは,誰もが日常的に行う対処行動である. 患者がこのような反応を示したとき,看護師は共感的に寄り沿うケアに努め,おおかたの患者は徐々に乗り越える力を取り戻していく.しかし,治療経過によっては気持ちのつらさが長引いて,本来の力を取り戻せないときもある.そうすると,たとえば些細なできごとに見えても激しく看護師を責める,怒鳴るなどの感情をぶつける場面に出会ったりする.看護師にとってこのような体験は,ケアの無力感や自責の念を強めることがある.このようなときには,医療者をコントロール(操作)する患者の行動が原因の場合があり,たとえば,以下のような場面が想定される.【A さん,50 代,女性.消化器系がんで治療してきたが再発し表情が硬い.看護師はA さんの気持ちを少しでも和らげたいと傾聴を続けている.ある日,ほかのナースコールに向かおうとすると,「○○さんはずっと聞いてくれるのに,あなたは聞いてくれない,冷たい」と言い,泣き出すため離れられない.看護師は「どれだけかかわれば和らぐの?」とモヤモヤした気持ちを抱えている.最近は,A さんを避けたいと思う自分がいて,看護師失格ではないかと考えてもいる.】ここでは,患者と看護師両者が安心して向き合える適応的なコミュニケーションについて考えてみたい. -
患者と家族の間で意思決定が異なる場合の対応~「最後まで治療してほしい」/「余計なことしないで」~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
日々ケアをする際に看護師は,人々のさまざまな思いに対応しようと向き合っている.しかし,治療をやめたいという患者と治療を続けてほしいと希望する家族,予後を知りたいという患者と予後を患者に伝えないでほしいと希望する家族など,患者と家族の間で思いが異なるような場面ではどのように対応してよいのかわからず困難さを抱えている. このように,患者と家族の価値が対立している2 つの事例を通して,対応に悩む場面のコミュニケーションの糸口を考えていきたい. -
看護師自身の感情の問題; 対応がむずかしかったり足を遠ざけたくなる患者・家族~「これって私がいけないの?」~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
医学・がん治療の進歩に伴い,がんは不治の病でなく慢性疾患といわれる時代になってきた.そして,いわゆる「がんとともに生きる」がんサバイバーの数が2015 年には533 万人になるといわれている.このような状況の中で,看護師をはじめとした医療者が,がんという疾病をもちながら生きている患者の人生を共に考えながら寄り添っていくことが求められている.つまり,患者のニーズにどのように応えていくか,よりいっそう医療者と患者・家族との間のコミュニケーションが重要になってきているといえるだろう. しかし,いつも患者と良好なコミュニケーションがとれるかといったら,そうではないことも多い.対応のむずかしい患者・家族,あるいは足を遠ざけたくなる患者・家族を受けもった経験がある看護師はたくさんいるのではないだろうか. そういうときに,看護師としてこのような気持ちを抱くのはいけないことだと自分を責めたり,自分が看護師として未熟だからそう感じているのに違いないので誰にも相談できないと悩んだりしていないだろうか.あるいは,無力感・不全感を抱くあまり,逆にあの患者はだめだと決めつけて,関係性を改善しようという気持ちが失われ足を遠ざけたりしてはいないだろうか. このような状況が続く限り患者-看護師関係は上手くいかず,むしろどんどん距離ができていってしまうという悪循環に陥ってしまう.患者が必要とするときに適切なケアや心身のサポートを提供するためには,双方向性のコミュニケーションを図ることでお互いを理解し協力し合いながら,一緒にがんという疾病と付き合っていくことが大切になってくるが,それが上手く機能しないのが常である.何より,看護師自身が「今はだめかもしれないが,かかわり方など何かを工夫すれば,いずれ上手くいくかもしれない.変わってくるかもしれない」という希望・期待を少しでももちながら寄り添っていけることが必要になってくるだろう. 本稿では,このような気持ち,あるいは状況に陥ったときに,どのように対応すればよいのかということを一緒に考えてみたいと思う. -
コミュニケーションを上達させるために
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
「がん看護」19 巻4 号の「がん医療における患者-看護師間のコミュニケーション」の項で,コミュニケーションの基本は,①正確にきく,②理解し消化する,③対応する,の3 段階であること,このいずれかの段階に問題が生じるとコミュニケーションにズレが生じると述べた.また,ズレが生じてしまう原因として,看護師の価値観や感情規制が影響することについて言及した.そして,看護師自身にわいた感情を手がかりに,なぜその気持ちが生じているのか,患者と看護師自身の間にどのような相互作用やズレが生じているかを振り返ることで気づきが得られ,それが結果的に良好なコミュニケーションにつながることを述べた.コミュニケーション上達のためには,思考ではなく感情を動かすこと,そして座学ではなく体験学習が有用といわれている.そこで今回は,コミュニケーションの技を磨くための具体的な方法を紹介する. -
-
-
教えて!樋野先生!!~がん哲学外来~
-
-
-
連載
-
-
がん患者のアピアランス支援 ~外見と心に寄り添うケア~ 【新連載】:医療の場で求められるアピアランス支援
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
外見の問題は他者の存在に大きく依存 がんの治療においては,手術による身体部位の切除や抗がん薬・放射線療法など,身体に対して侵襲性の高い治療が積極的に行われる.その結果,身体の変形・瘢痕・脱毛・皮膚や爪の障害・むくみなど比較的短期的なものから,永続的なものまで,さまざまな外見変化が生じ,患者のquality of life (QOL)に悪影響を及ぼす.たとえば,私たちの行った研究1)では,乳がん患者の治療に伴う身体症状の苦痛度TOP 20 の60%が,他者からわかる外見の症状であった.すなわち,眉毛やまつ毛の脱毛など,それ自体は痛くもかゆくもない症状が,従来の医療が注目してきた口内炎や発熱などより,患者の苦痛度が高かったのである.また,最近では,ロングサバイバーの患者を対象とした大規模な研究2)により,頭頸部に外見変化の多かった患者は,うつになる可能性が高く,長期にわたる深刻な影響が指摘されている. では,なぜ人は外見の変化を苦痛と感じるのか.一般に,事故や病気による外見の変化は,「自分らしくなくなった,魅力的でなくなった」という自己イメージの低下と,他者からの評価を下げてしまうことへの不安をもたらすと指摘されている.そのうえ,がん患者の場合は,外見の変化が「病気や死の象徴」としての意味を有することが大きい.私たちの研究でも,患者は,他者と今までのような対等な関係でいられなくなる,という不安が強くなり,大きな心理的苦痛を感じていた.つまり,頭痛や腹痛のようにどこにいても1 人でいても苦しい一般的な身体的苦痛と異なり,外見の変化による苦痛は,他者の存在に大きく依存する心理社会的苦痛なのである.たとえば,無人島に1 人でいたら,多くの人が髭を剃らないし,また化粧をしない.それと同じように,無人島なら,がん治療によって外見がどのように変化したとしても,多くの患者は悩まないだろう.ここが外見の問題に伴う苦痛の興味深いところである. このように,患者に大きな影響を与える外見の症状について,医療の場でケアすることは,重要な支援である.
-
-
BOOK
-
-
-
連載
-
-
-
BOOK
-
-
-
連載
-
-
がん化学療法におけるナーシング・プロブレム 【68】:がん化学療法薬の変遷と代表的な薬の特徴~part 1:殺細胞性の抗がん薬~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
がん化学療法は放射線療法や手術療法とともに,がん治療において重要な役割を果たしている.がん化学療法の歴史は浅く,放射線療法や手術療法に遅れて,20 世紀になってから導入された.がん化学療法薬の開発は,戦争中に軍事技術の開発を目的として作成された毒ガス兵器がきっかけとなっている.毒ガス兵器として開発した薬物に被爆した人たちの身体を調べてみると,骨髄細胞や免疫細胞が著明に減少していた.このことから,白血病や悪性リンパ腫などの治療薬として使用できるのではないかという発想の下に,医療品として再開発された. 現在,私たちが日常的に取り扱っているがん化学療法薬の多くは,第2 次世界大戦以降に開発された薬剤である.1950 年以降は,さまざまな作用機序をもつ新規がん化学療法薬が開発され,多剤併用化学療法などが積極的に行われてきた.1980 年代に入ると,がん化学療法を受ける患者のQOL が重視されるようになり,症状マネジメントや支持療法などが発達した.さらに1990 年代には科学技術の発達に伴い,分子標的治療薬が登場してきた.現在では,これらの薬剤を効果的に組み合わせて治療することによって,患者のQOL を維持しながら,生存期間の延長や治癒といった,高い治療効果が得られるようになってきた. 本稿では,がん化学療法薬開発の歴史を振り返るとともに,殺細胞性抗がん薬の種類と特徴をまとめ,日ごろ投与管理を行っている,がん化学療法薬の理解を深めたいと思う.
-
-
Report
-
-
第3 回日本がんリハビリテーション研究会報告
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
2014 年1 月11 日,兵庫医科大学平成記念会館において,第3 回日本がんリハビリテーション研究会[代表:辻 哲也(慶應義塾大学医学部腫瘍センター リハビリテーション部門),幹事:宮越浩一(亀田総合病院 リハビリテーション科)]が開催された. 今回は「周術期のリハビリテーション」をテーマとして,基調講演,教育講演,シンポジウムが行われた.一般演題は,口演32 題が発表された.全国各地から,さまざまな職種の230 名が参加した.本稿では,その概要を報告する.
-
-
JJCC レクチャー
-
-
緩和ケアにおける看護の魅力と困難~第18 回日本緩和医療学会学術大会「看護師フォーラム」から~ 【2】:チーム力と看護力,一体感のある緩和ケアを目指して~緩和ケアの看護の魅力と困難~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
-
-
投稿
-
-
資料:繰り返し入院しながら化学療法を継続している進行大腸がん患者が受けるサポートと対処行動~治療継続に伴う影響や心配に焦点を当てて~
19巻5号(2014);View Description
Hide Description
本研究の目的は,入退院を繰り返しながら化学療法を行う進行大腸がん患者が,治療に伴う影響・困りごと・心配ごとやその状況に対して受けるサポートと対処行動を明らかにし,看護の示唆を得ることである.A 病院の消化器外科で手術を行い,その後入院化学療法を3 クール以上受けている60~70 歳代の進行大腸がん患者3 名を対象とし,半構造化面接法を行った.分析は,質的記述的に分析を行った.サポートのうち,フォーマルなサポートとして【繰り返し入院する中でも変わらない看護師の対応】など,インフォーマルなサポートとして【経験を共有できる治療仲間の存在】など計6 つのカテゴリーが抽出された.また,対処行動については,<化学療法の副作用に関する対処行動>と<化学療法の継続に関する対処行動>の2 つのテーマに分類することができた.また,入院しながら化学療法を受ける進行大腸がん患者に対して,同病者間の関係調整,治療継続の過程に沿ったアドバイスの提供,患者の対処行動を認め,共に考えていくこと,患者にとっての化学療法の意味を把握しながらかかわるという看護の示唆を得た.
-