がん看護

Volume 19, Issue 7, 2014
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特集 【がん治療に伴う変化をとらえる~実践に活きるアセスメントツール~】
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総論:アセスメントツールをどのように実践に活かすのか
19巻7号(2014);View Description
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平成26 年度診療報酬改定に伴い,がん患者指導管理料が新設された.がん患者指導管理料Ⅱ(表1)は,がん看護の実践の中で,看護師が単独で継続的なかかわりを行うことに対して算定することができる画期的な改定となった.ただし,算定可能な患者条件として,STAS-J(STAS 日本語版)で2 以上の項目が2 項目以上該当するもの,またはDCS (Decisional Conflict Scale)40 点以上のものであることの規定が追加された1).また,がん診療連携拠点病院の指定要件に,緩和ケアの提供に際して,がん患者の身体的苦痛や精神心理的苦痛,社会的苦痛などのスクリーニングを診断時から行うことが追加された.このような経緯からも,がん診療におけるアセスメントツールの活用は,研究目的だけではなく,看護介入するべき対象者の選定や看護介入の評価として実践での活用が期待される. がんの臨床においては,化学療法の有害事象の評価にCommon Terminology Criteria for Adverse Events(有害事象共通用語規準日本語訳JCOG 版)(以下,CTCAE)や疼痛のアセスメントシート等が用いられてきた.その一方で,特異的な症状に対して独自に開発された尺度や心理尺度がリスクアセスメントツールとして積極的に活用される場面は少なかった.本稿では,多元的に評価するうえでのアセスメントツールの意義と臨床応用を考えた場合の活用法および注意点について概説する. -
全体からみる:包括的なケア評価尺度およびQuality of Life 尺度
19巻7号(2014);View Description
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本稿では,いわゆるQOL(quality of life)尺度やSTASJ(Support Team Assessment Schedule 日本語版)など,1つの尺度において身体症状や精神症状,ケアの評価などの複数の側面のアセスメントを包括的に行うツールについて紹介する.このような包括的なツールの代表的なものとその特徴を表1 に示す.包括的なツールはSTAS-J のように医療者による評価に基づくものと,QOL 尺度のように患者の評価に基づくものに大きく分類される.臨床的には医療者の評価に基づくものが広く利用されており,QOL尺度などは主に研究で利用されることが多い. -
全体からみる:意思決定
19巻7号(2014);View Description
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意思決定とは,複数の代替案から選択するプロセスである.医療を提供する状況でさまざまな意思決定をしている医療従事者と同様に,患者も検査や治療に関する意思決定をしている.たとえば治療を提示されたとき,どれを選択するか(選択しないことも含めて)は,代表的な患者の意思決定の1 つであろう.この意思決定を支える取り組みが意思決定支援である. 本稿では,幅広い意思決定支援の分野の中で,がん患者の抱える葛藤に焦点を置き,平成26 年度診療報酬改定にて新設された「がん患者指導管理料」の算定条件の1 つになっている意思決定の葛藤尺度(Decisional ConflictScale:DCS)について説明する. -
症状からみる:倦怠感
19巻7号(2014);View Description
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がん患者の倦怠感は,身体的・精神的・認知的側面などが複雑に絡み合った多次元的な症状である.患者は倦怠感があっても医療従事者に訴えない場合が多いが,筆者らの調査では,それは「言葉にできない感覚」とも表現され,他者にうまく伝えにくい症状である1)ことも関連していると考えられる.倦怠感がこのような特徴をもつからこそ,アセスメントツールが果たす役割は大きい.本稿では,日本で使用可能な,代表的な倦怠感尺度とその特徴などについて紹介する. -
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症状からみる:皮膚障害・手足症候群
19巻7号(2014);View Description
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がん薬物療法による皮膚障害は生命予後に影響を及ぼすことは少ないが,その症状・審美上の問題から著しく患者のHealth-related Quality of Life(QOL)を損ね,治療の継続やアドヒアランスにも影響を及ぼす可能性が示唆されている.近年,新たな分子標的治療薬により顕著に問題となってきた手足症候群もそういった副作用の1 つであり,化学療法後数週間して手足に発赤・紅斑,水疱などを生じ,進行すると痛みが出現し,物の把持や歩行への支障により日常生活に影響を生じる症候群である.手足症候群によるQOL 低下を予防するための手段の1 つとして,症状増悪を早期発見し,投与量の調整や休薬を検討することが重要である.しかしながら,化学療法を行う場がしだいに入院から外来にシフトしつつある昨今では,患者自身が自宅で副作用をモニターする必要がある.また,患者自身がどの程度の症状で医療者への相談が必要なのかの判断を行わなければならない.そこで,筆者は症状の悪化の早期発見に役立てるため,QOL 尺度のセルフモニタリングツールとしての臨床応用可能性について検討した. -
症状からみる:排便障害
19巻7号(2014);View Description
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がん治療に伴う排便障害は,手術,薬物療法,放射線療法のいずれにおいても生じる.たとえば,直腸がんの超低位前方切除術後には,頻回な排便,残便感,便意促迫(便意をがまんできない),ガスとの識別困難,soiling(便漏れ)などの症状が認められることがある.薬物療法では,抗がん薬,分子標的治療薬,抗菌薬,麻薬性鎮痛薬の使用により下痢や便秘に傾くことがある.また放射線療法では,下腹部への照射に伴う下痢,放射線性腸炎をきたすことがある. これらの排便障害は,患者にとって身体的精神的苦痛となり,日常生活に影響を及ぼし,治療の継続が困難になることもあるため,早期からの対処が必要である.排便障害は主観的な症状として評価を必要とする場合と,量や形状のように客観的に評価が可能な現象が混在している.本稿では,多職種で共有するための客観的な指標として,排便障害に関する主なアセスメントツールを紹介する. -
症状からみる:抑うつ・不安
19巻7号(2014);View Description
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がんと疑われたときや診断,病状の説明,治療の経過,再発や転移など,さまざまなできごとに伴うストレスを経験するがん患者は,不安,落ち込み,悲しみ,絶望感を感じ,眠れなくなったり,食欲がなくなったりして,心も身体も大きく動揺する.気分の落ちこみや不安は,QOL の低下に影響を及ぼしたり,適応障害やうつ病に移行することもある.医療者は,どのような心のケアを提供したらよいのか,専門的治療が必要なのかと悩むことも多い.そこで,患者の心の状態を適切にとらえる有益な方法の1 つとして尺度の活用がある. 抑うつや不安に関する尺度の活用方法には,① 専門的治療の必要性の判断やうつ病診断のスクリーニング②心理状態の経時的変化の観察③看護の効果を評価する際の指標などがある.本稿では,不安と抑うつに関して活用されることが多い尺度を紹介し(表1),がん看護研究での活用状況について概説する. -
アセスメントツールを用いた看護援助:痛み
19巻7号(2014);View Description
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がん患者の痛みは,身体面・精神面・社会面・スピリチュアルな側面が複雑に絡み合い表現されるため,全人的な観点から患者の痛みの体験を理解することが重要である.患者の主観的な痛みの体験を客観的にとらえ,医療者間や患者-医療者間で共通の理解とするために,患者自身が痛みを評価するツールに加え,意思表示が円滑にできない患者の症状を評価するための医療者判断によるツールが開発されている. NRS(Numerical Rating Scale; 数字評価スケール),VRS(Verbal Rating Scale;口頭式評価スケール),VAS(Visual Analogue Scale;視覚的アナログ評価スケール)は,痛みの強さの評価に用いられ,患者自身が痛みを表現し評価するツールである.アセスメントツールはどれを用いてもよいが,医療者はアセスメントツールの特徴を理解し,患者の状況に合わせ,適切なツールを選択する必要がある.また,患者には痛みを表現する意義を認識してもらい,1 人の患者に対して,統一した同じアセスメントツールを使い続けることが望ましい. 一方,評価の対象となる患者には,全身状態がわるく,認知機能が低下した患者も含まれ,前述したアセスメントツールでの自己評価が困難な場合がある.また,患者の状態を評価するだけでなく,患者や家族の苦痛の緩和のために提供されるケアの質を医療者が評価できるよう,1990年初頭に英国でSTAS(Support Team Assessment Schedule)が開発された.後にSTAS はSTAS-J(STAS 日本語版)として,日本国内にも導入された1). -
アセスメントツールを用いた看護援助:がん化学療法に伴う悪心・嘔吐
19巻7号(2014);View Description
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がん化学療法を受ける患者にとって,悪心・嘔吐は精神的・身体的負担が大きく苦痛を伴う症状の1 つであり,QOL や治療への意欲の低下を引き起こす可能性がある.がん化学療法に伴う悪心・嘔吐への対策では,催吐性リスクに基づく適切な制吐薬を使用した予防が重要である.そのため,アセスメントツールを用いて制吐薬の治療効果を正確に評価し対処する必要がある. -
アセスメントツールを用いた看護援助:日常生活への影響
19巻7号(2014);View Description
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2014 年のがん診療連携拠点病院の要件に,緩和ケアスクリーニングとして病院に通院・入院している患者を対象に「身体・心理・社会的苦痛のスクリーニングを行うこと」が新たに加えられた.聖隷三方原病院(以下,当院)ではそれに先立ち2006 年から,患者が記入する「生活のしやすさに関する質問票」を用いた緩和ケアスクリーニングを実施している. 私たち看護師はこれをもとに,患者や家族に生じている日常生活への影響や,気持ちのつらさをアセスメントし,身体症状や気持ちのつらさに対する介入を実践している.
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教えて!樋野先生!!~がん哲学外来~
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がん患者のアピアランス支援 ~外見と心に寄り添うケア~【3】:外見の変化に伴う患者の苦痛を理解する~アピアランス支援のための1st step~
19巻7号(2014);View Description
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「昨日は150 本,今朝は105 本,髪の毛が枕についていました.その倍数ぐらいがまわりに飛び散っているのですけど,いったい何本抜けるのですか?」 私が外見の問題に本格的に取り組み始めたころ,忘れられない質問をされたのは,女性でも若者でもなく,年配の男性患者だった.彼は,周囲の女性患者から「初対面のせいか,まったく不自然ではないのですが」とフォローされても,妻から「気が小さいわね!」と揶揄されても,脇目も振らずにウィッグの情報を集めていた.年配の男性が気にする様子を不思議に思い,年配の男性医師に報告したところ,「わかるなぁ.男性で60~70 歳まで髪の毛がある人って,勝ち組なんだよ.周囲が脱落していく中で,自分の人生で脱毛なんかあり得ないって思っていた人の苦痛は,女性にはわからないよ」と笑われたのである.私たちは一般に,「男性だから」「子どもだから」「生きることが最優先の状況だから」と,「性別」「年齢」「病気の重さ」などのレッテルを貼って俯瞰的に患者を理解する.確かに,これは,物事の全体像を瞬時に把握するためには有用である.そして,これほどまでに外見の症状にこだわる患者は男性の中では少数派かもしれない.しかし,このエピソードは,目の前の患者の苦痛を考えるとき,レッテルで決めるのではなく,その個人の歴史や背景を考える必要がある,と改めて肝に銘じた体験となった. アピアランスケアの最初のステップは,「外見変化に伴う患者の苦痛を理解すること」である.本稿では,向き合う患者の苦痛を理解する際のポイントについて述べる.その際,外見のもたらす苦痛についての「全体的な理解」を前提に,目前の患者を「個別的に理解」しながらかかわることが必要である(図1). -
がんと漢方 ~漢方薬を知ってがん看護に活用しよう~【3】:がん治療と緩和ケア~六君子湯を用いた症状緩和~
19巻7号(2014);View Description
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第3 回目は,六君子湯を用いた症状緩和について解説する.古来から六君子湯は胃腸の症状を緩和するものとして用いられてきた.最近では,胃がん切除後や進行食道がんにおける化学療法後の食欲不振,悪心・嘔吐に効果があるとされ,臨床でも用いられるようになってきている.また,機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)における治療として着目されている. -
在宅緩和ケア 訪問看護の現場から ~事例を通して伝えたいこと~【6】:死にゆく人がもつ心の痛み
19巻7号(2014);View Description
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人は,死が避けられない状況におかれたとき,死が間近に迫っていることを体で実感したとき,さまざまな心の痛みを経験します.病院のように制約された環境と違い,在宅ではその心の痛みを率直にぶつけてくるがん患者が多いように感じます.私たち訪問看護師は,心の痛みを経験している人のそばに行き,それを和らげるためになにができるのでしょうか.在宅ケアの事例を通して,患者が経験する心の痛みとそのケアについて考えてみたいと思います. -
がん化学療法におけるナーシング・プロブレム【70】:抗がん薬における迅速承認のメリットとデメリット~看護師として知っておくべきこと~
19巻7号(2014);View Description
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1990 年代以降,がん化学領域における新薬の国外での承認と国内での承認のタイムラグがドラッグ・ラグとして問題となり,解消への取り組みが漸進的になされてきた.新薬承認の欧米とのタイムラグが短くなってきている中,2011 年11 月,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は,2008 年に迅速承認を行った転移性HER2 陰性乳がんへの1 次治療としてベバシズマブ併用の適応を取り消した1). 日本では,FDA の承認取り消し2 ヵ月前の2011 年9月に,切除不能・再発乳がんへのベバシズマブの適応が承認された2).本稿では,ベバシズマブ,および,世界に先駆けて日本で国際承認がなされ迅速承認を行ったゲフィチニブの承認経緯および承認後のできごとを経時的に整理し,迅速承認におけるメリットとデメリットについて,がん化学療法に携わる看護師の立場から考えていきたい.
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JJCC レクチャー
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】緩和ケアにおける看護の魅力と困難~第18 回日本緩和医療学会学術大会「看護師フォーラム」から~【4】:病院以外の地域での緩和ケアにおける看護の魅力と困難
19巻7号(2014);View Description
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私は当訪問看護ステーションで,一訪問看護師として,管理・経営者として勤務しながら,がん看護専門看護師として活動している. 当訪問看護ステーションの利用者の疾患は,がんとは限らない.重度心身障がい児や精神障がい者,認知症でがんや難病に罹患している高齢者もいる.私は主に,処遇困難ケースや治療継続中のがん患者への精神的支援などを目的とした訪問を行っている. 在宅にいる患者および家族にとって,専門看護師や認定看護師という名称は大して重要ではない.どのように相手の自律と尊厳を守る看護過程が展開でき,患者と家族のQOL を保証するためにいかに貢献するか,結果を残せるかが求められる.見た目は区別がつかないが,現場に出ると違いをわかってもらえることが多い. 私の活動の多くは専門看護師としての知識や技術を駆使した実践・調整・倫理調整・コンサルテーションであり,がん看護専門看護師として内外教育の企画・コンサルテーション・研究,そして,経営者として運営・管理やマーケティングなどを行っている.今回は,現在にいたる過程の中での,地域の文化や実情に応じて創造・展開する緩和ケアや看護の魅力について発表する機会を得たので,ここに報告する.
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