がん看護
Volume 9, Issue 1, 2004
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特集 【高齢者のがん治療戦略とがん看護(1)】
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高齢者における食道がんの治療戦略
9巻1号(2004);View Description Hide Description世界一の長寿国民である日本人の平均寿命は年々延長しており,平成14 年の平均寿命は男78.32 歳,女85.23 歳となった.それとともにがん患者の割合も年々増加していく傾向にある.もともと高齢者に多い食道がんにおいても,さらに高齢者が増えてきているといえる.食道がんの治療はこれまで手術治療がその主流であったが,1990 年代半ばから放射線化学療法が手術に匹敵する治療成績を出してきている1).このような背景から,「食道がん=手術」という単純な選択はできなくなってきており,食道がんの進行度,リスク要因(重要臓器機能など),患者・家族の希望などを考慮し,最適な治療方法を選択しなければならない.静岡県立静岡がんセンターでは食道外科,消化器内科,内視鏡科,放射線治療科により「食道がん治療ガイドライン」を作成しこれに従い治療方法を決定している.(図1)今回のテーマである高齢者における食道がんの治療戦略であるが,本稿では手術治療における治療戦略に主眼を置いて話を展開したい.われわれは手術治療においては基本的には暦年齢よりも身体的年齢を重視しており,実際に70 歳以上の食道がん患者に対しても条件が許せば開胸開腹を伴う3 領域郭清手術を施行している.しかしながら高齢になれば,各重要臓器機能も低下する傾向にあり,リスクは高くなると考えられ,郭清度を多少減じた手術を選択することもある2).以下に術前検査,リスク評価,術前リハビリテーション,口腔ケア,治療法選択,術後管理についてその要点をまとめてみた. -
高齢者食道がんの周術期看護
9巻1号(2004);View Description Hide Description食道がんの手術は,開胸・開腹を伴う広範囲の手術のため侵襲が大きく,とくに術後は気道反射が低下し,誤嚥しやすく,術後呼吸器合併症頻度が高い.高齢者の場合には,術前からいくつかの既往疾患をもっていることが多いこと,加齢による心肺機能の低下や嚥下機能の低下により,リスクはさらに高くなる.食道がんの周術期看護のポイントは呼吸器合併症と食事摂取と誤嚥予防である.またICU での術後管理が長期となるため,術後せん妄のリスクが高く,術前からの看護介入が重要となってくる. -
高齢者頭頸部がんの治療戦略
9巻1号(2004);View Description Hide Description現在の日本において人口の高齢化は年々進んでおり,2002 年で平均寿命は男性78.32 歳,女性85.23 歳となっている1).高齢人口の増加により頭頸部がんの高齢患者も必然的に増加し,その治療の機会も増加してきている.がん治療を考える場合,総合的に根治性や治療後のQOL (quality of life)をはじめ全身状態,合併症の有無などを考慮し治療法を決定することとなるのであるが,基本的にこれらは高齢者と他の年齢層の患者との違いはない.しかしながら,高齢者の場合は全身状態や合併症などの身体的な制約が他の年齢層と比べて多く,それによりがん治療に制約を受けることが多い2).また,高齢者も70 歳以上と80 歳以上では身体的な予備能力にも差があり,ひとくくりにはできない点もある.実際70 歳代の高齢者の場合,performance status の程度にもよるが,高齢であるという理由で50~60 歳代と比べて治療指針が基本的に変わることはあまりない.今回は個々の疾患について,下咽頭がん,喉頭がん,舌がんについて当院の治療方針を紹介し,今後も増加すると考えられる80 歳以上の高齢者を対象とした頭頸部がんの治療について考察する. -
高齢者頭頸部がんの周術期看護
9巻1号(2004);View Description Hide Description頭頸部がんの外科的療法を受ける患者は,失声や容姿の変容,摂取障害・構音障害を伴うことになる.これらの機能障害を理解し,受け止められるかが重要となる.高齢になると理解力の低下や適応力の低下などをきたしている.ゆえに,高齢者の患者の看護には,家族のサポート体制を確立させておく必要があり,さらに個人差がみられるため,個別性を重視したかかわりが求められる.また,入院治療に伴って精神症状を呈するケースが少なくないので,担当医と精神腫瘍科医,看護師とのチーム医療が必要となる.退院後は,患者と配偶者の二人暮しのケースが多いので,地域の訪問看護への協力を依頼していくなどの検討を考慮する.現在では入院期間の短縮化がはかられ,入院から治療開始までの期間が短く,患者の性格や生活背景を情報収集しアセスメントする時間が少ない.しかし,高齢者においては身体面・精神面・社会面から患者全体像を十分に把握するために入院後の生活状況を記録に残し,アセスメントしておくことが重要である.看護介入について手術前・手術後・退院に向けての期間に分けて述べる. -
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高齢者肺がんの周術期看護
9巻1号(2004);View Description Hide Description近年,肺がん患者は,男性・女性ともに増加している.そして,医療技術の進歩によって,がん領域では,臨床病期診断が的確に行われるようになり,高齢者肺がん患者においても,ステージⅠ,Ⅱ,一部のⅢ期では,手術が適応となる機会が増えている.このように,適切な病期診断によって,根治手術が施行され,社会復帰される高齢者肺がん患者が増えつつある.しかし,核家族化によって,配偶者を失った高齢者の独り暮らしや,老夫婦世帯であるなど,退院後の家族の協力が十分に得られない場合もあるため,外来時からサポート体制の確認が必要である.高齢者では,これまでの生活歴の違いによって,元気のよい臓器機能の保たれた人と,老化の著しい合併症の多い人との差が大きいことが特徴である.とくに肺がんでは喫煙歴の関与による呼吸器系や循環器系への合併症が多く見受けられる.高齢者肺がん患者の周術期看護において,このような個々の患者の残存肺機能や予備力や退院後の生活背景を適切に看護アセスメントし,患者にかかわる多職種のコーディネートができることが,看護師の重要な役割となっている. -
高齢者泌尿器がんに対する治療戦略
9巻1号(2004);View Description Hide Descriptionわが国の平均寿命は80.9 歳と世界一であり,人口の高齢化とともに高齢者のがんが増加しつつある.高齢者は並存疾患や痴呆・抑うつなどの精神症状,生活環境やADLに個体差が大きいため,いわゆる「標準的治療」は存在せず,症例に応じた細かい配慮が必要である.高齢者を何歳で区切るかについてはさまざまな意見があるが,本稿では75 歳以上を想定し,高齢者前立腺がん・膀胱がんの治療戦略について述べる. -
高齢者泌尿器がんの周術期看護
9巻1号(2004);View Description Hide Description泌尿器がん患者は,日常生活行動のなかの基本的ニーズである排尿に関する問題を抱えている.とくに,尿路変向を受ける患者は,排泄行動の変容を余儀なくされ,生活上の不安や自尊心の喪失などを抱きやすい.高齢者は,加齢や合併症に伴い身体諸機能が低下しているところに手術侵襲が加わり,回復に時間がかかる症例が多い.今回,尿路変向術を受け,術後合併症をきたしストーマセルフケアに難渋した高齢膀胱がん患者の周術期を振り返り,看護ケアについて検討した. -
高齢者における緩和医療
9巻1号(2004);View Description Hide Description21 世紀は少子高齢化の時代として保健医療の面だけでなく,がん医療の面においても注目されている.2025 年はいわゆる団塊世代がいっきに高齢化を迎え,65 歳以上の高齢者人口がピークに達するとされている.北川らによる1)とがん罹患率は2015 まで上昇が続き,1 年間に89 万人ががんに罹患すると推測されている.1998 年の罹患総数が503,764 人とされているので,約1.8 倍の増加率となり,2002 年の死亡総数が304,286 であるので15 年後には約54 万人が毎年死亡することとなる.これら患者のケアを専門とする緩和ケア病棟は,2003 年の10 月で全国に121 が承認されたに過ぎなく,そこでケアされるのは全死亡者のわずか3%とされている2).今後患者数が倍増することを考えると在宅での看取りも含めて,これら患者をどのように受け入れていくべきか,大きな社会問題であると考える.当センター緩和ケア病棟は2002 年の9 月に予定の50床の2/3 の34 床が開設された.1 年間のべ入院患者数は7,440 名で,うち252 名が死亡している.高齢者を70 歳以上とすると,うち4 割を占め,80 歳以上は1 割に達している.これら患者は脳機能を含めた臓器機能の低下,日常生活機能の低下,介護力の問題など多くの特性が認められる,今後も緩和ケアで対象とされる患者の高齢化はますます進み,緩和治療やケア面で重要な課題となる.本項では,私のほうから治療を中心とした面を述べ,看護師からは総合的ながん看護ケアの面から述べる.またチーム医療に関しては医師と看護ケアの両面からおのおの述べていきたい. -
高齢者における緩和医療の看護
9巻1号(2004);View Description Hide Description人口の高齢化,がん治療技術の進歩に伴い,がんとともに生きる高齢者は増加の一途を辿っている.高齢者は,加齢による心身の機能の変化やがん以外の疾患による苦痛に直面していることが多く,がんとともに生きることで患者の抱える苦痛は倍増される恐れがある.緩和医療の最終目標は,患者とその家族にとってできる限り良好なクオリティ・オブ・ライフを実現させることであり1),高齢者の緩和医療に携わる看護師は,患者のクオリティ・オブ・ライフに影響するがん患者特有の苦痛だけでなく,高齢者特有の苦痛についても十分に理解しておく必要がある.本稿では,緩和ケアの領域で遭遇することの多い症状である疼痛とせん妄について高齢者特有の問題を整理し,看護ケアについて述べるとともに,高齢者の緩和医療の今後の課題として療養場所の選択について論じる.
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がん化学療法におけるナーシング・プロブレム【5】:がん化学療法のインフォームド・コンセントに伴う看護を考える
9巻1号(2004);View Description Hide Descriptionがん化学療法の重要なinformed consent(インフォームド・コンセント,以下IC とする)として,がん化学療法を行うか否か,レジメンを選択するか,がん化学療法の中断あるいは中止などがあげられる.臨床現場では,重要なIC に十分な時間と人が確保されない,医療者間でのIC の認識が異なる,IC における医療者の役割とその実践内容についての不一致があるなどのさまざまな問題が存在する.また,看護師がIC の問題としてよく提起することに,医師のIC への無理解や説明に対する批判,患者・家族の医療者へのおまかせなどがある.看護師のIC に対する関心は低くはないが,看護師のIC における役割や責任を看護師が自らへ問いかけ,考えるということが少ないと感じることが時折ある.がん化学療法は医療チームによって提供される医療である.がん化学療法に伴う看護ケアも含めたコメディカルの提供する医療について,それぞれのコメディカルがしかるべき説明をし,それに対して患者が同意を示すことによって,がん化学療法に対する患者の同意が得られたと考えるべきではないだろうか.本稿では,このような筆者らの問題意識を背景に,がん化学療法におけるIC の看護について考えていきたい. -
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がんサバイバー・サポートグループのいま:NPO 法人J. POSH:広げよう,乳がんピンクリボン運動~乳がん撲滅のために~
9巻1号(2004);View Description Hide Description
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連載講座:JJCCレクチャー
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【がん看護に必要な看護技術】:ストーマケア
9巻1号(2004);View Description Hide Descriptionがんの根治療法として最も有効な手段である手術療法では,がんとともに排泄器官を摘出することがあり,その場合には排泄機能を担うストーマを造設する.一方緩和医療でも,進行がんによる消化管閉塞を回避するためにストーマを造設することがある.ストーマは消化管や尿路を体外に誘導して造設した開放孔で,排泄物をためてチューブで排出させる制御型と,ためる機能がなく腸の蠕動や尿の生成に応じて開放孔より排出が起こる非制御型があるが,一般的には人工肛門や回腸導管などの非制御型をいう.がんの治療と症状緩和を目的とするストーマの造設はポピュラーながん医療の1 つであり,ストーマ保有者へのケアは,がん看護に必須な看護技術である. -
【がんを知るための基礎知識】:血管新生阻害剤
9巻1号(2004);View Description Hide Description分子生物学の進歩に伴い,がんの生物学的特性が解明されるにしたがって,特定の遺伝子,遺伝子産物を標的とする分子標的治療が注目されるようになってきた.がん細胞の増殖,浸潤,転移を抑制するための標的分子は,各種さまざま存在するが,このなかでもとくに血管新生を標的とした薬剤は,精力的に新薬の開発が進められている分野のひとつである.Marimastat をはじめとするメタロプロテイナーゼ阻害剤や2003 年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で注目を集めたVEGF のモノクロナール抗体のBevacizumabなど続々と新薬が登場してきている.本稿ではがんの増殖・転移にとって重要な血管新生の基礎とその阻害剤の最新の知見を中心に概説する.
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研究報告:がん性疼痛管理の妨害因子に対する看護師の認識
9巻1号(2004);View Description Hide Descriptionがん性疼痛管理の妨害因子に対する看護師の認識を明らかにすることを目的に,がん疼痛緩和勉強会の参加者520名に対して自記式質問紙調査を行った.447件の質問紙を回収し(回収率86.0%),そのうち,看護師371名を分析の対象とした.その結果,疼痛緩和の実施状況について,「疼痛アセスメント」が不十分と答えたのは56.3%,「除痛の効果」が不十分と答えたのは40.9%であった.また,看護師は,がん性疼痛緩和の妨害因子として,医療者側の「知識不足」や「アセスメント能力の不足」「モルヒネ使用への躊躇」,患者側の「痛みの訴えへの躊躇」を強く認識していた.とくに,「アセスメント能力の不足」については,経験年数が少ないほど妨害因子として強く認識していた.以上より,疼痛管理に関して,看護師自身の薬剤や専門知識に関する自己研鑽や教育システムの確立が必要になる.また,看護師は,患者参加型の有効な緩和ケアが行われるようコーディネータとしての役割を果たす必要があることが示唆された. -
原著論文:がん手術後の社会復帰過程にある患者を抱える家族員の生き方の変化と看護援助
9巻1号(2004);View Description Hide Description本研究の目的は,がん手術後の社会復帰過程にある患者を抱える家族員の生き方の変化を明らかにし,家族員への看護援助を検討することである.対象は,都市部の中核病院で病名を告知されて手術を受けた終末期でない成人がん患者の家族員で,研究に同意の得られた者である.がん手術後の社会復帰についての考え,家族員自身の生活や生き方の変化などについて,(1)退院後~3ヵ月,(2)術後2~3年,(3)術後5年以上の時期に,半構成的面接法により調査した.分析は質的・帰納的方法で行った.その結果,(1)対象家族員は,14名で,平均年齢は56.1歳で,患者との続柄はすべて配偶者であった.(2)家族員の生き方の変化は,時期ごとに体験の内容がとらえられ,〈患者のがん〉〈がん患者の生活〉などの4つに大別された.分析結果から,生き方の変化に関与した要因として,①患者のがんとの共存,②患者との関係,⑨生きがい,⑩内面などの10項目が導き出され,家族員の生き方が時間の経過とともに変化する様をとらえられた.家族員への看護援助は,がん患者との共存生活を前向きに取り組む家族員の内面を支え,退院後の時期に応じた困難に対処できるように支援することが重要である.
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