がん看護
Volume 9, Issue 5, 2004
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特集 【造血幹細胞移植~最新事情と看護ケア~】
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造血幹細胞移植病棟の管理と看護師教育
9巻5号(2004);View Description Hide Description当院は病床数600 床のがん専門病院である.看護単位は21 部署,看護方式はモジュール型受け持ち看護体制,3 交代制をとっている.造血幹細胞移植病棟は26 床で,小児および成人の造血幹細胞移植とドナーからの幹細胞採取を行い,年間移植件数は130 例で,病床稼働率は96%,平均在院日数は40 日前後である.病棟看護師数は24 名で,看護師の当病棟での経験年数は平均2 年7 ヵ月である.1998 年の新病棟開設以来,4名は5 年6 ヵ月間を継続勤務しているが,長期継続者を維持することは難しい現状である.当病棟で行っている看護師教育の実際と考え方を紹介する. -
移植治療の光と影
9巻5号(2004);View Description Hide Description造血幹細胞移植は,これまでに不治とされてきた致死的疾患に治癒をもたらす治療法として脚光を浴びている.とくに近年ではミニ移植などの出現により,これまで移植の適応が考慮されなかった患者に対しても積極的に移植が行われるようになっている.また,造血器疾患以外の悪性腫瘍の治療へも応用されており,その対象患者は拡大の一途を辿っている.造血幹細胞移植はしばしばマスコミにも取り上げられ,「生還者」として社会復帰した患者の印象的な映像とともに感動の物語として語られている.また,「命のボランティア」というキャッチフレーズのもとに始まった非血縁者間骨髄移植は,造血幹細胞移植という治療法を広く社会に認知させることにも貢献し,ドナーの愛に支えられた医療という暖かいイメージを広めることとなった.造血幹細胞移植がもたらしたこのような「光」の側面はまぎれもない事実であり,あえてここで確認するまでもなく,その進歩がもたらした結果は絶大である.しかし,造血幹細胞移植はさまざまな問題点を抱えているのも事実である.あたかも万能の治療であるかのごとく誤解した患者が過剰な期待を寄せてこの治療に望み,現実とのギャップに悩まされることも稀ではない.また,ドナーという健常人への侵襲を必要とする特殊な治療であるために,これまでの医療倫理が想定していなかったような新たな倫理的な問題も生じてきている. -
骨髄・さい帯血バンクの仕組みとドナーへの対応
9巻5号(2004);View Description Hide Description白血病や再生不良貧血などの血液疾患の治療として行われる造血幹細胞移植は,近年めざましい進歩を遂げ,多くの命を救済してきた.しかし,その造血幹細胞移植が実際に行われるまでには多くの事務的手続きと時間を要する.造血幹細胞移植が実施されるには,まずはじめに,患者と同じHLA 型(組織適合抗原の型)をもち,健康状態などの面でも提供可能基準を満たすドナーを見つけるところから始まる.具体的には,患者ならびに兄弟や親子といった血縁者のHLA 検査を行いドナー候補者を検索する.しかし,この段階でドナーが血縁者に見つかる患者は全体の約35%といわれている.一方,血縁ドナーが見つからなかった約65%の患者においても移植のチャンスは十分残されており,骨髄バンクに登録し適切な非血縁者ドナーから骨髄移植を受けたり,さい帯血移植という選択肢がある.ここでは非血縁者間骨髄移植やさい帯血移植を行うにあたって,それぞれの中心機関である骨髄バンクとさい帯血バンクの仕組みや特徴,また両バンク間との連携についてみていきたい. -
移植における感染対策の基本
9巻5号(2004);View Description Hide Description2000 年,日本造血細胞移植学会より「造血細胞移植ガイドライン」が作成され,全国の施設で移植管理の簡略化に向けての努力が進められている.しかし,各医療施設のさまざまな事情などから,長年踏襲してきた方法を変えることは容易ではなく,全国的な移植管理の統一には課題も多い.本稿では,造血幹細胞移植患者のための日和見感染予防のCDC(米国疾病予防センターCenters for Disease Controland Prevention)ガイドライン,移植学会のガイドラインに著された感染管理の基本的考えを中心に,当病棟での取り組み(表1)について述べる. -
小児造血細胞移植のケア
9巻5号(2004);View Description Hide Description日本造血細胞移植学会ホームページの全国調査報告書より,2001 年移植年齢別報告件数は小児では600 例である1).筆者が参加している「小児の造血細胞移植看護研究グループ」(代表内田雅代)が作成している情報交換のための「小児造血細胞移植看護情報リスト」から,わが国では小児の移植が年間100 例を超える症例を行っている施設もあるが,多くの施設では少数例ずつの移植が行われていることがわかる24).また,各施設で少数例の移植の経験を積み重ね,さまざまなことを検討し看護実践が行われていることがうかがえる.このリストからの情報と,当院での看護状況を紹介する. -
移植患者の皮膚ケア
9巻5号(2004);View Description Hide Description造血幹細胞移植を行う患者の皮膚は,前処置である抗がん剤や放射線治療の影響により皮膚の生理機能が低下するため,外的な刺激に損傷を受けやすい状態となっている.皮膚障害を生じ脆弱となった部位に急性GVHD の発症が重なると,容易に重症化することが予測されるため,スキンケアによって,皮膚の健常な機能を維持することは,とても重要となってくる.またGVHD 発症後においては,皮膚障害を助長させず治癒を促進するために,効果的なスキンケアを実施していくことが要求される.本稿では,皮膚の生理機能を踏まえた基本的なスキンケアとGVHD 皮膚障害に応じたスキンケアについて紹介する. -
造血幹細胞移植患者の口腔ケア
9巻5号(2004);View Description Hide Description口内炎は化学療法,放射線療法,造血幹細胞移植療法などのがん治療において高頻度に出現する副作用である.潰瘍,口腔乾燥,疼痛,感染,出血を伴う口内炎は悪化すれば疼痛による苦痛,食事摂取機能の障害,コミュニケーション機能の低下,闘病意欲の低下を引き起こし著しく患者のQOL を低下させる重大な問題となる.造血幹細胞移植においては投与する抗がん剤が大量であり,TBI (totalbody irradiation:全身放射線照射)などの放射線照射との併用で発生の頻度は高まり,重篤化することが考えられる.また,近年普及しているミニ移植では,対象年齢が上がり,歯周囲感染症など口腔内に問題をもつ患者が増えている.ミニ移植を施行した患者では,免疫反応が疾病の根治につながると考えられているため,積極的な免疫抑制がなされないケースがあり,GVHD を抱えながら外来通院している患者が増加している.本稿では,これらの口腔内合併症に対する当院での取り組みを紹介する. -
移植患者のリハビリテーションと社会復帰
9巻5号(2004);View Description Hide Description造血幹細胞移植を受けた患者は,限られた生活環境や移植前処置に伴う副作用,移植片対宿主病(GVHD)などの合併症により活動量が減少し,身体機能が著しく低下する.なかでも筋力低下は転倒事故の一要因となり,生命にかかわる大きな問題となる.さらに身体機能の低下は,日常生活行動(ADL)の拡大を困難にし,移植後のQOL にも影響を及ぼす.1995 年より当院で施行しているQOL 調査(SF36)の結果でも,移植後1.5 年までは日常役割機能(身体)および社会生活機能において標準値よりも低いことがわかっている.そこで当院では,移植患者の転倒事故予防とQOL 向上を目指して,2002 年よりリハビリテーション(以下リハビリ)科と協働してリハビリテーションシステムを導入した.本稿では,骨髄移植患者のリハビリについて,チーム医療を重視した当院での取り組みを紹介する. -
腸管GVHD と食事の工夫
9巻5号(2004);View Description Hide Description造血幹細胞移植療法は,大量化学療法や全身放射線療法による副作用に加え,特有の合併症である移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)を引き起こす.その症状は多彩で長期化することが多く,患者は身体的・精神的苦痛を伴う.また,重症化すると全身状態の悪化や感染症の合併を引き起こし致命的となることもある.そのため,十分な観察力と判断力が必要とされる.
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連載
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がん化学療法におけるナーシング・プロブレム【9】:悪性リンパ腫のRadioimmunotherapy(放射免疫療法)
9巻5号(2004);View Description Hide Description近年,がんの治療はさまざまな方面からの研究が進められており,分子標的療法やRadioimmunotherapy(RIT:放射線免疫療法)のように,いままでとは異なった新たな治療方法が多く開発されている.患者はインターネットなどを通じて,新しく有効な治療に対する情報をいち早くキャッチしているが,個人の状況に合った正しい情報のみを得ることは,患者だけの判断では困難なことが多い.患者は医療の専門家である医師や看護師に相談を持ち掛けることが多く,私たちは常にそれに対応していかなければならない立場にある.本稿で紹介する悪性リンパ腫に対するRadioimmunotherapyのひとつであるZevalin(ゼバリン(R))は,すでに米国や欧州では再発・治療抵抗性のB 細胞性リンパ腫に対して,その有用性が報告され,保険適用が承認されている.わが国では現在,臨床第Ⅰ相試験が終了しており,2004 年8 月から悪性リンパ腫の症例が多く,臨床治験の経験が豊富な数個所の施設で臨床第Ⅱ相試験が開始されている.ゼバリン(R)は現段階では未承認薬であるが,今後の可能性を考えRIT およびゼバリン(R)の特徴と原理,治療を受ける患者のNursing Management などについての情報を紹介する.
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連載講座:JJCCレクチャー
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【がん看護に必要な看護技術】:瘻孔ケア
9巻5号(2004);View Description Hide Descriptionがん看護において瘻孔ケアは必須な看護技術である.現代の瘻孔ケアは,ストーマケアと知識・技術を共有し,これらが発展したストーマケアの上級編であるともいえる.ナースの展開する瘻孔ケアの良否は,瘻孔をもつがん患者にとって,QOL を決定する重要な要素のひとつとなる.
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投稿
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原著論文:術後乳がん患者における心理的適応に対するソーシャル・サポートの効果
9巻5号(2004);View Description Hide Description本研究の目的は,術後乳がん患者の心理的適応に対するソーシャル・サポートの効果を,患者の身体状況を考慮した上で明らかにすることである.調査用紙を郵送し,心理的適応として不安と生活満足度,身体的活動度,ソーシャル・サポートとして重要他者からの支援および他の乳がん患者へ提供する支援の頻度を尋ねた.その結果,290名(65.5%)より有効回答を得た.サポート項目および身体的活動度,そしてそれらの交互作用項を投入した重回帰分析の結果,医療者サポートには不安に対して有意な直接効果がみられた.また,提供サポートと身体的活動度との間に有意な交互作用がみられ,身体的活動度が比較的高い患者は他の患者への提供サポートが多いほど不安が低かった.生活満足度に対しては,家族および医療者サポートと提供サポートに有意な直接効果がみられた.また,患者サポートと身体的活動度との間に有意な交互作用がみられ,身体的活動度が比較的高い患者は他の患者からのサポートが多いほど生活満足度が高かった.以上の結果より,術後乳がん患者においては,家族や医療者からのサポートに加え,患者同士のサポート・システムが精神健康の維持に重要な役割を果たすことが示唆された.
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REPORT
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①第18 回日本がん看護学会学術集会報告:いま,社会が求めるがん看護
9巻5号(2004);View Description Hide Description2 月7, 8 日の両日,第18 回日本がん看護学会学術集会が,会員2,000 名を越す出席のもと東京国際フォーラムにおいて開催された.日本の死亡原因が脳血管疾患からがんに変わって20 数年が経過した.近年,とくにがん医療は目覚ましい発展を遂げ,治癒率も向上してきている.しかし,その一方で食生活の変化,高齢社会の影響による罹患率の上昇,入院期間の短縮,通院治療の増加,在宅医療の拡大など,がんを取り巻く環境は多様に変化してきている.このような状況から,今回のメインテーマを「いま,社会が求めるがん看護」と題し,この現状に即したがん看護のあり方を議論したので,その概要をここに報告する. -
②第4 回国際がん看護セミナー:がんと向き合う人々を支える―PartⅡ―
9巻5号(2004);View Description Hide Description「国際がん看護セミナー」は,がん研究振興財団の協力のもと,看護の質の向上をはかる目的で国内外より看護の専門家を招聘し,毎年がん研究振興財団国際交流会館で開催されている.第4 回目は2004 年2 月27, 28 日の早春に開催された.本年は,昨年テーマの「がんと向き合う人々を支える」から継続課題になっていた精神面を深める点から,①看護倫理について,②スピリチュアルケア,③家族ケア,④うつ・せん妄のマネージメント,⑤看護師の精神的援助など,5 つの視点から「がんと向き合う人々を支えるPartⅡ」とした.このテーマをもとに今年の発表はアメリカ,イギリス,シンガポール,オーストラリア,ドイツより5 名,国内より5 名の教育者と実践者の構成とした.2 日間にわたり約210 名の参加者とともに活発な討議が展開された.4 回目の今年は新しい試みとして,各セッションにおける座長を外国と日本の2 名とし,討議の内容をCD 作成することにした.2 日間のセミナーの様子をここに報告する.
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ひと
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心に残る看護
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今月のことば
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乳がん看護認定看護師
9巻5号(2004);View Description Hide Descriptionがん看護分野で登録された認定看護師が臨床の現場で活躍しているのはホスピスケア,がん性疼痛看護,がん化学療法看護の3 分野です.日本がん看護学会では,さらなるがん看護分野として乳がん看護の必要性を実感し,平成13 年度から乳がん看護認定看護師誕生に向けての取り組みを開始し,さまざまな努力を重ねてきました.そして,平成15 年12 月に日本看護協会に乳がん看護は認定看護分野として特定をされました.今回は,乳がん認定看護分野特定の申請内容から乳がん認定看護師の必要性と役割について紹介させていただきます.乳がん認定看護師の必要性乳がんは診断・治療の特徴から患者さんは,近年多様になった治療法のなかから,がん告知以後短期間のうちに自分に合った治療を選択しなければなりません.看護師には,情緒的な支援とともに患者さんが適切に自己決定できるような情報を提供し相談を受け,指導することが求められています.そのような看護を提供するためには,乳がん看護の専門的な知識・技術が必要となります.
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アドバイザー通信
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