臨床精神薬理

Volume 15, Issue 8, 2012
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【展望】
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薬物治療の根拠と理論:薬物治療と生物学的・薬理学的理解とのクロストーク
15巻8号(2012);View Description
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臨床に従事する精神科医師として,合理的な薬物治療を実践するための根拠や理論を理解することは重要である。多くの精神疾患の正確な病態はいまだ不明であり,数多くの病態仮説が提唱されている。統合失調症に関しては,現在でも最も有力な仮説であるドパミン仮説に基づいて多くの抗精神病薬が開発されてきたが,十分な利益を受けられない患者が存在する。ドパミン仮説を超えた新規の作用機序をもつ統合失調症治療薬の開発が進められているが,今のところ成功には至っていない。ゲノム多様性に関する研究により統合失調症の遺伝要因が明らかにされつつあり,その発症機序が解明されれば,根治療法の開発につながる可能性がある。 Key words :gene―environment interaction, personalized medicine, schizophrenia, translational research
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【特集】 精神疾患の薬理学的理解を薬物治療や心理教育にどう生かすか
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せん妄の薬理学的および神経画像的理解と臨床への活用
15巻8号(2012);View Description
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せん妄の病態について,薬理学および神経画像の観点から概説した。最新の神経画像研究の結果から,せん妄発症時には後部帯状皮質を中心としたdefault―mode networkの障害が示唆されている。せん妄を惹起させる薬剤や治療薬の作用機序からせん妄の病態を考察すると,ノルアドレナリン,ドパミン,アセチルコリン,ヒスタミン,γ―アミノ酪酸(GABA)などのさまざまな脳内神経伝達物質の不均衡の関与が推定される。不安状態と関連しているノルアドレナリンの代謝産物MHPGがせん妄発現群では高いことから,不安を軽減するような薬物療法のみならず心理的な介入法によって,せん妄を改善するばかりか,せん妄の発症を予防できる可能性も指摘されている。 Key words :delirium, default‐mode network, dopamine, atypical antipsychotics, NKcell activity -
認知症の薬理学的理解と臨床への活用
15巻8号(2012);View Description
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認知症,特にアルツハイマー病の中核症状は記憶障害であるが,この病態を理解するための神経化学的基盤としては,神経伝達物質の変化が重要である。アルツハイマー病脳ではアセチルコリン作動性神経が減少しているが,そのことに基づいてアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は開発されたが,この薬剤は記憶低下の進行を抑制することに貢献している。また,アルツハイマー病には,アミロイドβおよびタウ蛋白といったものが脳内に異常に蓄積することが知られている。これらの神経病理学的変化を理解することは,認知症の進行を根本的に抑制するdisease modifying therapyの開発においてきわめて重要であり,アミロイドをターゲットとする治療法(免疫療法,セクレターゼ阻害剤,アミロイド凝集阻害剤)と,タウ蛋白をターゲットとする治療法(リン酸化阻害剤,タウ重合阻害剤,免疫療法)とが検討されている。認知症の分子レベルでの理解が進み,多くのdisease modifying therapyが完成されることが期待されている。 Key words :dementia, Alzheimer disease, acetylcholine, amyloid, tau protein -
統合失調症の薬理学的理解と臨床への活用
15巻8号(2012);View Description
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抗精神病薬の作用機序研究と覚醒剤精神病の研究からドパミン過剰仮説が提唱され,それが修正されて皮質ドパミン低下・皮質下亢進仮説となり,さらにドパミン系のみに病態を求めることの限界からグルタミン酸系やGABA系やセロトニン系を包含する神経回路網仮説に進展した。また覚醒剤行動感作現象は,再発や進行に関する神経基盤にも示唆を与えた。統合失調症の薬理学的病態理解は,仮説段階に留まる部分が少なくないにしても,臨床現場における治療導入,薬物選択,用量設定,治療継続などの方針決定において参照する価値がある。 Key words :schizophrenia, dopamine hypothesis, glutamatergic hypothesis, pharmacotherapy -
うつ病の生物学的・薬理学的理解と臨床への活用
15巻8号(2012);View Description
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うつ病における仮説は,抗うつ薬の作用機序に基づくモノアミン仮説から,脳由来神経栄養因子(brain―derived neurotrophic factor:BDNF)を介した神経可塑性仮説が主流となってきている。現在臨床で用いられている抗うつ薬は全てモノアミン仮説に基づき,シナプス間隙のモノアミンレベルを上昇させることで効果を発揮していると考えられているが,効果発現までに数週間を有することが臨床上の大きな課題である。新たな作用機序を有し,即効性のある抗うつ薬の開発が期待されている中,即効性の抗うつ効果を有するketamineが注目を集めている。幻覚などの副作用の問題からは臨床応用が困難であるが,既存の抗うつ薬とは全く異なる作用機序の抗うつ薬の開発につながる可能性が示唆されている。エピジェネティクス研究においては,神経可塑性仮説のメカニズムにおける神経新生とBDNFの脱メチル化との関連に加え,BDNFのメチル化がうつ病診断におけるbiomarkerとして有用である可能性が示唆されている。今後のさらなる研究により,うつ病の成因が明らかになることで,うつ病診断・治療の発展につながることを期待したい。 Key words :monoamine hypothesis, neuronal plasticity hypothesis, BDNF, ketamine, epigenetics -
双極性障害の薬理学的理解と臨床への活用
15巻8号(2012);View Description
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双極性障害の治療はlithiumからはじまり,その後に抗てんかん薬であるバルプロ酸,carbamazepine,lamotrigineが加わり,この10年間では第二世代抗精神病薬が広く用いられるようになった。その薬理学的作用は,双極性障害自体の生物学的機序が未解明なこともあり,不明な部分も多い。本稿では,現在知りうる各薬剤の推定される薬理学的作用機序の概要を臨床に即して述べた。双極性障害の治療は,躁病エピソードの治療,大うつ病エピソードの治療,維持療法の治療の3つに大別され,それぞれにおいて各薬剤の有効性および適応が異なることもあり治療に困難が伴うことも多く,そのため複数の薬剤を併用して投与せざるを得ないケースも少なくない。その際にも,各薬剤の薬理学的プロフィールを踏まえたうえで,可能な限り合理的な治療を行うことが望ましいといえよう。 Key words :bipolar disorder, mood stabilizer, second generation antipsychotic, treatment -
不安障害の薬理学的理解と臨床への活用
15巻8号(2012);View Description
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DSM―IIIと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の登場以後,薬物による不安の治療は,benzodiazepine(BDZ)系抗不安薬を用いて“不安”を治療する時代から,診断基準によって定義された“不安障害”をそれぞれの障害に適した薬物によって治療する時代へと変化した。薬物の作用機序の研究は同時に不安障害の薬理学的理解を深めることに貢献した。抗不安作用に関連が深い神経伝達物質であるγアミノ酪酸(γ―aminobutyric acid:GABA),noradrenaline(NA),serotonin(5―HT),およびdopamine(DA)からみた不安・不安障害の薬理学を概観した。GABAについてはBDZとの関係とパニック障害におけるGABA受容体設定点のシフト,NAではアゴニストとアンタゴニストによる負荷試験,5―HTでは不安障害は5―HTの過剰によるのか,不足によるのかの問題,DAについては社交不安障害における作用について検討した。不安障害を構成する要素の神経回路の解明と神経伝達物質の関係が明らかになってきているが,まだ疑問点が多く,今後さらなる研究が必要である。 Key words :anxiety, dopamine, γ―aminobutyric acid, noradrenaline, serotonin -
ADHDの薬理学的理解と臨床への活用
15巻8号(2012);View Description
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本稿では,本邦での注意欠如・多動性障害(ADHD)の臨床で活用しうる薬理学的知見をまとめた。治療薬として認可を受けているmethylphenidate(MPH)およびatomoxetine(ATX)については多くのエビデンスがあり,その薬理学的プロファイルから,早期の効果発現が望まれる場合にはMPHが,1日中持続する効果が望まれる場合にはATXが第一選択と考えられる。チックの併存がある場合にはATXが優先される。両者の薬効の違いには薬理学的作用点の違いが関連していると考えられるが,まだ不明な点も多い。適応外使用となるがADHD治療に活用できる薬剤として,clonidineなどのα2受容体作動薬や,imipramine,nortriptylineなどの三環系抗うつ薬などがあり,臨床薬理学的エビデンスからADHD中核症状に有効となり得る。またイコサペントエン酸などのオメガ3脂肪酸も新しい治療として注目されている。Risperidoneなどの抗精神病薬は知的障害を持つ例や衝動性・攻撃性の強い例で中核症状以外の部分で有効となる可能性がある。 Key words :attention deficit/hyperactivity disorder, methylphenidate, atomoxetine, clonidine, tricyclic antidepressants
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症患者におけるolanzapineのeffectiveness――CATIE試験の結果を踏まえた実地臨床での18ヵ月間の再検証
15巻8号(2012);View Description
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日本の日常診療下におけるolanzapineの治療有用性(effectiveness)に影響を与える因子について検証するために,当院においてolanzapineによる単剤治療を新たに開始した統合失調症外来患者25例について,投与開始から18ヵ月後までの服薬中断率や中断理由について前向きに検討を行った。その結果,18ヵ月間のolanzapine治療を継続できた症例は9例(36%)であった。服薬中断した患者の中止理由としては効果不十分が1例(4%),副作用が4例(16%),患者判断が6例(24%),その他の理由が5例(20%)であった。また,開始時年齢,開始時BPRSスコア,性別,罹病期間,前治療薬の有無,抗bコリン性抗パーキンソン病薬併用の有無によるolanzapineの服薬中断率に違いはみられなかった。以上より,本研究での日常臨床における統合失調症患者に対するolanzapine単剤治療の服薬継続率は,中止理由の傾向に若干の差異があるものの,CATIE試験の結果とほぼ同様であることが示された。 Key words :olanzapine, discontinuation, schizophrenia, effectiveness -
Aripiprazoleの使用実態下における安全性と有効性――統合失調症に関する特定使用成績調査結果より
15巻8号(2012);View Description
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Aripiprazoleの統合失調症患者を対象とした特定使用成績調査結果を報告した。安全性解析対象3,719例のうち副作用発現症例率は28.02%で,主な副作用はアカシジア(5.43%),振戦(1.91%)などの錐体外路系症状と不眠症(3.60%)であった。糖尿病合併例では合併しない例に比べ耐糖能異常関連の副作用発現率が高かった。空腹時血糖の推移は,投与前が110mg/dL未満の「正常型」ではほとんど変化なかったが,「境界型」および「糖尿病型」では減少傾向にあった。有効性は全般改善度により評価し,改善率(中等度改善以上)は37.8%であった。本調査における投与1年間の観察からは,aripiprazoleは統合失調症患者での血糖増加や体重増加のリスクは少ないと考えられたが,食習慣や耐糖能など様々な要因が介入することから,体重や臨床検査値のモニタリングによる安全性の監視が必要である。 Key words :aripiprazole, schizophrenia, post―marketing surveillance, safety, fasting glucose
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【症例報告】
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レビー小体型認知症に伴う行動症状と精神症状に対するblonanserinの有効性――4例報告
15巻8号(2012);View Description
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レビー小体型認知症に伴う幻視,妄想,せん妄,睡眠障害などを,低用量のblonanserinを用いて治療した4症例について報告する。Blonanserinは0.5~2mgで開始し,1~4週間で増減した。4~6週目での投与量は0.5~4mgであり,この時点で全例,精神症状や行動症状が改善した。その後,アカシジアのため1例で投与を中断したが,4mgまでの投与で重篤な有害事象が出現した例はなかった。4mgを超えて増量した1例で,錐体外路症状の悪化と過鎮静が出現したが,減量により速やかに回復した。現在,レビー小体型認知症の精神症状や行動症状に対して有効とされている抗精神病薬はclozapineとquetiapineであるが,顆粒球減少症や糖脂質代謝異常のリスクにより,使用が制限されることも多い。そのような場合などに,低用量のblonanserinは有力な選択肢の1つになる可能性が示唆された。 Key words :antipsychotic, blonanserin, BPSD, dementia with Lewy bodies, effectiveness -
Olanzapineおよびquetiapineの適正使用推進への取り組み――プロトコルに基づく薬剤師による検査オーダ入力
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olanzapineおよびquetiapineは定期的な血糖モニタリングの実施が求められているものの,金沢医療センターでは適正に実施されているとは言い難かった。そこで,適正使用を推進するため,医師と事前合意されたプロトコルに基づき,薬剤師が検査オーダを行う取り組みを開始した。また,取り組みを評価するため,プロトコル開始前後での血糖モニタリング実施率について比較し,薬剤師が検査オーダした16例について糖尿病発現に関する検討を行った。今回の取り組み前後において,血糖モニタリング実施率は79%から98%へ増加した。薬剤師が検査オーダを行った16例のうち3例においてHbA1cがNGSP値6.5%(JDS値6.1%)以上であった。今回の取り組みは,糖質代謝異常の遷延を未然に回避することができ,olanzapineおよびquetiapineを安全に使用するために有用であると考えられた。事前に作成・合意されたプロトコルに基づいた薬剤師による介入は医師の業務負担を軽減し,医薬品の適正使用に繋がると考えられた。 Key words :olanzapine, quetiapine, protocol, proper use, ordering laboratory tests by pharmacists -
メンタルクリニックにおけるmirtazapineの抗うつ薬としての位置づけ――実地医療における使用経験より
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2009年9月~2010年3月までに来院されたうつ病・うつ状態の患者197名にmirtazapineを処方し,その臨床効果と安全性についてカルテ調査にて後方視的に検討した。なお対象症例にはうつ病性障害だけではなく不安障害,適応障害,双極性障害などのうつ状態も含めた。抗うつ効果についてはmirtazapineを服用した196例で,著明改善が23例(11.7%),中等度改善49例(25.0%),軽度改善44例(22.4%),不変・中止・脱落80例(40.8%)であった。臨床的に改善と判断される中等度以上の改善が36.7%であった。中止・脱落理由については,眠気23例(28.8%)が最も多く,倦怠感13例(16.3%),過食・体重増加10例(12.5%)であった。Mirtazapineを服用した196例での副作用発現は,全体で82例(41.8%)であった。その内訳は,倦怠感が最も多く45例(23.0%)で発現し,続いて眠気が36例(18.4%),体重増加が22例(11.2%),過食が11例(5.6%)であった。また,Mirtazapineを投与することにより抗不安薬・睡眠薬の処方量を有意に減量することができた。Mirtazapineの登場により,実地臨床下で精神科医が治療に苦慮しているうつ病をはじめとする種々精神疾患におけるうつ状態に対する治療薬の選択肢が広がったと考えられた。 Key words :mirtazapine, NaSSA, antidepressants, efficacy, safety
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【総説】
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精神疾患治療に用いられる内服薬へのControlled Release Technologyの導入とその意義
15巻8号(2012);View Description
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服薬アドヒアランスの不良や薬剤治療の中断は,精神疾患の改善を妨げ,再燃・再発リスクを高める。近年,これらの問題の改善を目指した新しいスタイルの治療薬が登場している。その開発の根幹にある戦略がControlled Release Technology(CRテクノロジー)の導入であり,製剤から薬物を持続的に放出させることにより,長時間にわたって治療域内にほぼ一定レベルで血中薬物濃度を維持することができる。この薬物動態学的特性により服薬回数が減るだけではなく,治療域を超えた血中薬物濃度やその日内変動に起因する副作用を回避できる。解熱鎮痛薬のように早急な作用発現が望まれる薬剤にとっては欠点とみなされる製剤投与後のゆるやかな血中薬物濃度の立ち上がりは,急速な濃度上昇による副作用の発現リスクの高まりが示唆されている精神疾患領域では好ましい特性になり得る。海外の臨床データを中心に,精神疾患治療薬の服薬アドヒアランスや治療継続率を高めるための有効な戦略としてのCRテクノロジーのエビデンスをまとめる。 Key words :controlled release, DDS, adherence, antipsychotic, antidepressant
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第13回 Triazolo-benzodiazepine物語――その2 世界を制覇したalprazolam
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【座談会】
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