臨床精神薬理

Volume 16, Issue 7, 2013
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【展望】
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日本うつ病学会治療ガイドライン1,2の特徴と課題
16巻7号(2013);View Description
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医学の発展に伴い治療ガイドラインの重要性は増している。日本うつ病学会では,2012年に,双極性障害治療ガイドライン(第2回改訂),大うつ病性障害治療ガイドラインを策定した。Evidence-based Medicineを駆使し,ガイドライン作成委員会の度重なる討議を経たものであり,学会ホームページ上に公開されている。また,これまでの本邦における伝統的な気分障害治療のエッセンスも取り入れて作成されていることも特徴である。あくまでも全文を読み,理解した上での判断材料と位置づけられており,まとめの部分だけを読んで,マニュアル的に利用することは推奨されていない。気分障害を治療する機会のあるすべての医師に,読んで欲しい内容である。本論文では,ガイドライン策定の経緯,ガイドラインの特徴,課題などを,筆者の私見も交えつつ述べた。 Key words : practice guidelines, bipolar disorder, major depressive disorder
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【特集】 海外ガイドラインと比較した日本うつ病学会治療ガイドラインの特徴と課題
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気分障害に対する諸外国のガイドライン
16巻7号(2013);View Description
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諸外国のうつ病治療ガイドラインを概観すると,精神療法は軽症から中等症で,薬物療法は中等症から重症で推奨する立場が多いが,重症度で分けるよりもひとりひとりの患者背景を重視しながら治療選択を行う姿勢が求められている。ガイドラインには策定するメンバーや機関・団体の意向が反映されるほか,対象が一般医向けのものと専門医向けのものがあり,それらを注意深く読み取りつつ活用する必要がある。医療制度やその他の背景が異なる海外のガイドラインをそのまま国内に適用することは困難であり,2012年に発表された日本うつ病学会の治療ガイドラインをもとに,諸外国のガイドラインも参考にしながら日常臨床にあたりたい。 Key words : depression, mood disorder, bipolar disorder, treatment guideline -
軽症うつ病に対するガイドラインの課題
16巻7号(2013);View Description
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軽症うつ病は,その診断においても治療においても,標準化の困難な領域の1つである。日英両国のうつ病ガイドラインで採用されているDSM-IVの大うつ病エピソード自体が雑多な対象群からなるが,軽症になるとその不均一度が一層高い。NICEのガイドラインは,内因性を考慮しないうつ病の単一論に基づくため手順は明快で,亜型や患者の臨床特徴によって対応を変えていないことと,軽症では薬物療法が原則的に推奨されないことに特徴がある。日本うつ病学会のそれは,内因性にも配慮した包括的指針であると同時に,軽症でも最初から薬物療法が許容されている点でNICEと異なるが,内因性の特徴に関する説明は少なく,心理教育の説明もストレス−反応モデルのみである。軽症うつ病のガイドラインでは,年齢や性別,病前性格に加え,内因性の有無を含めた臨床像のきめ細かな把握と,それに即した対応を考慮することが望まれる。 Key words : guideline, NICE, mild depression, treatment, melancholic features -
中等症・重症うつ病に対するガイドラインの課題
16巻7号(2013);View Description
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2012年に発表された日本うつ病学会による中等症・重症うつ病治療ガイドラインと,海外におけるうつ病ガイドラインを,比較検討した。第一選択の抗うつ薬として,日本うつ病学会のガイドラインでは特定の推奨薬剤は挙げられていなかったが,海外のガイドラインでは,安全性や忍容性の観点から,選択的セロトニン再取り込み阻害薬などの新規抗うつ薬を推奨するものが多くみられた。それに加え,総じて患者の意向,過去の治療歴等を考慮し個別に総合的に判断し薬剤を検討するべきであるという記載が多くみられた。第一選択の抗うつ薬の効果が不十分であった場合の対応として,日本うつ病学会および海外のガイドラインで,同一クラス間でのスイッチングあるいは異なるクラスの抗うつ薬へのスイッチング,または増強療法が選択肢として挙げられていた。第一選択薬が無効であった場合には増強療法ではなくスイッチングを推奨しているガイドラインが多くみられた。 Key words : major depressive disorder, antidepressant, clinical guideline, algorithm -
一般身体科医との連携の課台
16巻7号(2013);View Description
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自殺者数を減少させるには,原因の1つとなっているうつ病患者の早期診断・早期治療が必要である。本邦ではうつ病患者の多くは一般身体科を受診しており,精神科や心療内科を受診する割合は少ない。そこで,うつ病の適切な診療を行うには,一般身体科医と精神科医との連携が必要である。久留米市では平成22年よりかかりつけ医と精神科医のうつ病ネットワークを構築し,うつ病の早期診断・早期治療につながるシステム作りを行っている。一般身体科医が薬物療法を行う場合は抗うつ薬に反応がなかったり,副作用が出現しやすい患者や希死念慮が強い患者あるいは双極性障害患者などは必要以上に抱え込まず,精神科医へ紹介するように勧めている。ところで,日本うつ病学会が2012年に発表した「大うつ病性障害の治療ガイドライン」には適正な薬物療法を精神科医はもちろん,かかりつけ医である一般身体科医にも実践してもらいたいという願いがこもっている。 Key words : depression, general physician, psychiatrist, community, pharmacotherapy -
双極性うつ病に対するガイドラインの課題
16巻7号(2013);View Description
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本稿では双極性うつ病に対する日本うつ病学会の治療ガイドラインとCanadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT)のガイドライン2013年版を比較しながら,それぞれのガイドラインの特徴と課題について考察した。双極 I 型と II 型の違い,抗うつ薬使用の是非,不安障害や物質使用障害の合併の問題,副作用リスクのエビデンス,新しく期待される治療法などは,新しいエビデンスが集積し,各ガイドラインで議論が深まることが期待される。 Key words : bipolar depression, treatment guideline, antidepressants, comorbidity, side effects -
うつ病治療における運動療法の役割
16巻7号(2013);View Description
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うつ病の治療は薬物療法,精神療法をはじめとした治療のみならず最近では,非薬物療法的なアプローチにも期待が寄せられている。欧米などでは,軽症うつ病に対しては,運動療法が治療ガイドラインに含まれていることが多い。日本うつ病学会のうつ病治療ガイドラインでは,軽症うつ病患者のみで記載されているが,十分確立した治療とは言えないという位置づけにとどまっている。これまでの研究によれば,運動自体のストレスコーピング,うつ病の発症に対する予防効果(一次予防),うつ病治療に対する有効性(二次予防)が報告されている。ただし,日本人のうつ病患者を対象とした検討は少なく,適応や対象患者についても十分な検討がなされていないため,現時点では軽症うつ病患者が対象であり,運動療法の適応がある患者を対象に,薬物療法,精神療法との併用で導入していくことが現実的と考えられる。 Key words : depression, exercise, physical activity, antidepressant
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【シリーズ】
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薬の使い方 Blonanserinを使いこなす 第7回 リカバリーを目指し,blonanserinを使いこなす一一“ヒト”としての本来の機能の回復を目指して
16巻7号(2013);View Description
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【原著論文】
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Risperidone持効性注射剤に対する統合失調症患者の主観的評価
16巻7号(2013);View Description
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統合失調症の再発予防には服薬アドヒアランスの維持が重要である。Risperidone持効性注射剤(RLAI)投与患者に9項目からなる主観的評価,RLAI投与前後の入院回数の検討を実施した。対象例は大泉病院でRLAI投与を開始し,調査時に継続投与中の統合失調症患者60名である。58名がアンケートへの回答を完了し,RLAI投与により「症状改善」と「再発の減少」(r=0.6431,p<0.01),「継続の意思」(r=0.6779,p<0.01),「治療満足度」(r=0.6048,p<0.01)の項目で,有意な正の相関が認められた。RLAI投与前の入院回数は1.1±1.2回であったが,投与後は0.6±1.0回であり,RLAIに切り替えを行うと入院回数の有意な減少が認められた(p<0.05)。また,RLAI新規投与群と比較して,従来型デポ剤からの切り替え群で入院回数の減少が顕著であった。これらの結果から,RLAI治療継続例では入院回数が減少し,アドヒアランスの向上,主観的満足度の改善に有用である可能性がある。 Key words : schizophrenia, risperidone long-acting injection (RLAI), satisfaction, adherence -
抗精神病薬の新しい切り替え分類の妥当性と有用性:「臨床精神薬理」誌掲載症例による検討
16巻7号(2013);View Description
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我々が作成した4種20カテゴリーからなる抗精神病薬の新しい切り替え分類の妥当性,および,有用性を確認するため「臨床精神薬理」誌に掲載された症例による検討を行った。3年2ヵ月間の本誌掲載症例により102例135件の切り替えが特定され,これらから本分類に20ある切り替えカテゴリーのうち19カテゴリー(95%)の実例が抽出できた。これは本分類のカテゴリー数が妥当であることを示唆する結果である。また,本誌に過去3回にわたって連載されたclozapine特集号掲載症例75例中,切り替え方法が特定できた26例では漸増法のA1,A2,漸減漸増法のC1,C2のいずれかが用いられており,休薬期間のあるC1の方が休薬期間のないC2より切り替えの所要期間は有意に短かった。切り替え方法が明確化されると,切り替え方法の違いを詳細に検討することも可能となり,その際作られる切り替えサマリー表は切り替えの概況を表す有用な形式と考えられた。抗精神病薬の新しい切り替え分類は,本検討により妥当性,および,有用性が示唆されたが,検討の対象選択や分類の再現性についてはまだ十分な検討が行われておらず,さらに精密な検討を継続することで本分類が臨床や研究で活用できる道具となることが期待される。 Key words : classification of switching, overlap scale of the antipsychotic drugs, cross-titration, clozapine -
国内における入院中の統合失調症患者の処方実態調査2011年一一新規調査項目BMI,心電図異常に関する検討を中心に
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精神科臨床薬学研究会(PCP研究会)は,2006年以降毎年全国の会員病院を対象に,薬剤師による向精神薬の処方実態調査を実施し,患者および使用薬物等の基礎データの収集とその解析を行ってきた。今回,2011年度の調査では,新たにBMIと心電図異常の項目を追加し検討を行った。その結果,統合失調症入院患者のBMI(kg/m2)は「普通」を示す18.5以上25未満の患者が57.0%と過半数を占めていた。健常者の各年齢層におけるBMI値の変動と比較したところ,その傾向は大きく異なり,男女共に比較的若年層では高いBMI値を示したが,それ以降は加齢と共にBMIは減少の一途を辿った。また,抗精神病薬投与量との比較では,投与量の低い群は「痩せ」型で,高い群は「肥満」型を示した。心電図異常を示した抗精神病薬服用患者を年齢別で比較したところ,50歳代以降から加齢と共にその割合は増加した。また各年齢層における心電図異常の有無に関して抗精神病薬の投与量で比較したところ,20歳未満から50歳代のいずれの年齢層においても,抗精神病薬の投与量が多い群に心電図異常が認められた。本研究結果から,日本国内に入院中の統合失調症患者のBMI値の年齢変動,抗精神病薬処方量との関係が明らかとなった。また,心電図異常は高齢と抗精神病薬の投与量の問題以外にも様々な要因が関連していることが考えられた。 Key words : body mass index, electrocardiogram, schizophrenia, prescription survey,
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【症例報告】
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Aripiprazoleとvalproateの併用が有効であった双極性感情障害の1例
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双極性障害治療において,aripiprazoleは効果発現が早く,幻覚妄想に対する治療効果も期待できる。今回われわれは,未治療で躁状態を呈していた双極性感情障害に対し,aripiprazoleとvalproateの併用が有用であった1症例を経験した。本症例では,Aripiprazole単剤による薬物療法を開始し,同薬継続によって症状の軽減を認めたが,口渇等の有害事象が出現したために増量が困難となり,valproateの追加投与によって症状の改善が認められた。本症例の治療経過を通して,双極性感情障害に対する治療では,1)aripiprazole単剤の増量途中に有害事象等が出現し,増量困難となった場合にもvalproate追加投与が有用であること,2)aripiprazoleとvalproateの併用によって早期に症状が軽減する可能性があることが明らかとなった。 Key words : aripiprazole, valproate, mania, bipolar disorder, mood stabilizer -
Quetiapine治療中に生じた糖負荷後低血糖がaripiprazoleへの置換後改善したもののインスリン抵抗性が著明に増悪した統合失調症の1例
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第二世代抗精神病薬(以下SGAs)は,統合失調症患者のインスリン分泌に影響を与え耐糖能異常を惹起すると指摘されている。近年,SGAsにより低血糖を引き起こす可能性も指摘され,我々はquetiapine投与中に糖負荷後低血糖を生じ,perospironeやblonanserinへの置換で改善した症例を報告してきた。耐糖能異常の発症頻度には薬剤間差があり,clozapineやolanzapineに比しaripiprazoleはリスクが低いと報告されている。今回我々は,quetiapine投与中に生じた糖負荷後低血糖がaripiprazoleへの置換後改善したが,インスリン抵抗性の増大が持続した1例を経験したので報告する。低血糖症状は統合失調症の精神症状と区別しにくい。またインスリン抵抗性の増大は薬剤中止後も持続する可能性があり注意が必要である。 Key words : quetiapine, aripiprazole, hypogrycemia, insulin resistance
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【Letters to the editor】
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【講演紹介】
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DSフォーラム2012 シンポジウム「統合失調症のリカバリーを考える」講演1 統合失調症における我々が求めるべき治療ゴールとは一一Recoveryを目指して
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DSフォーラム2012 シンポジウム「統合失調症のリカバリーを考える」講演2 認知リハビリテーションはリカバリーにつながるか?
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第24回 Azapirone物語一一その3.Azapirone系抗不安薬の総括とそれに続いたnon-azapirone物語
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