Volume 18,
Issue 11,
2015
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【展望】
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臨床精神薬理 18巻11号, 1375-1381 (2015);
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現在の精神科薬物療法は症候学に依拠した診断分類に基づいて行われており,個別の病因や病態を考慮したものとはなっていない。このため,一疾患単位が異質性を包含することが避けられず,標準的治療を用いても一定の治療抵抗例を生じているのが実態である。これが,大量療法,多剤併用および適応外使用の温床となり,一般から薬物療法偏重への批判を招く遠因を成している。一方,現状では複数の向精神薬が疾患枠を超えて多様な効果を発揮しており,既存の向精神薬の命名・分類法や疾患単位に基づく薬物の選択に疑義も寄せられ,それらが新しいnomenclature作成の動きやRDoCなど生物学的要因に基づく新しい診断システムの構築へ向かう流れに結び付いている。成功率の高い治療を効率よく行うには,既存の診断システムに囚われない新しい病因・病態に基づく診立てを行い,生物学的病態の関与の程度に応じた適正な薬物療法を行うことが求められる。 Key words : psychotropic drugs, disease boundary, off-label use, nomenclature, RDoC
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特集【精神科薬物療法はどこに向かうのか】
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臨床精神薬理 18巻11号, 1383-1388 (2015);
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精神科医療には多くのunmet needsが残されており,新たな作用機序を有する新規向精神薬の開発が求められている。しかし,向精神薬の開発には他の医学領域薬よりも長い期間を要する一方,成功確率が低いため,中枢領域から撤退する製薬企業も最近少なくない。向精神薬の治験には,試験デザイン,症状評価,実施環境など,その結果に影響を及ぼす多くの課題がある。プラセボ反応性を最小にし,症状評価をできるだけ均質にし,治験実施環境を整えていくことが目指すべき方向性であろう。最近では,神経精神薬理関連の学会を中心に,アカデミアが製薬企業と規制当局(国)をつなぐ積極的な役割を果たしていこうという動きが活発になりつつある。産官学が新たな発想でこれまでの枠を超えた協力体制を構築していく必要がある。 Key words : psychotropic drug, development, clinical trial, placebo response, unmet needs
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臨床精神薬理 18巻11号, 1389-1397 (2015);
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我が国の統合失調症薬物療法の考え方の変遷は,①『第二世代抗精神病薬の登場・切替・拡大』から②治療の『最適化』を目指したものの,③多剤大量療法や突然死の問題に対する薬物療法への批判等を踏まえた『適正化』の方向に舵を切り始めた。適正化は,適切な診断,身体背景の把握,正確な情報の確保と患者への説明,添付文書やガイドラインに準拠した適正な投与方法,患者側における内服方法の遵守,効果判定や副作用モニタリングなども含めた概念である。また医療者-患者のみならず,様々な利害関係者の積極的関与を要する。統合失調症薬物療法の適正化は,添付文書の遵守が基本となり,処方目的の適正化と使用方法の適正化に大別される。種々の抗精神病薬の添付文書での警告,禁忌などの遵守を確実に行うため,米国精神医学会が作成したchoosing wiselyのリスト内容『適切な症状評価と継続的モニタリング』は,本邦での『適正化』実現にも援用できる。 Key words : Pharmaceuticals and Medical Devices Agency, Japanese Adverse Drug Event Report database, choosing wisely, high-dose antipsychotic medication
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臨床精神薬理 18巻11号, 1399-1407 (2015);
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抗精神病薬は,統合失調症の陽性症状の改善や再発予防にはある程度有効であるが,陰性症状や認知機能障害といった機能的転帰に大きく影響する症状に対する効果は弱い。また第2世代抗精神病薬の時代になっても,治療抵抗例や各種の副作用の問題といったunmet medical needsは多く存在し,満足できる状況にはほど遠い。現在,新規統合失調症治療薬の開発は,ドパミンやセロトニン受容体の機能調節といった既存の作用機序に基づく薬剤や新規の剤型の開発,およびグルタミン酸受容体機能調節といった新規の作用機序に基づく薬剤の開発が進行している。本稿では,本邦で第Ⅲ相以降の治験段階にある新規統合失調症治療薬や,今後の開発が期待される治療薬の現状と課題について概説した。 Key words : asenapine, brexpiprazole, cariprazine, lurasidone, ziprasidone
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臨床精神薬理 18巻11号, 1409-1415 (2015);
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うつ病治療においては薬物療法の有効性は確立しており,しかしその一方で併存疾患やサブタイプへどのように対応すれば良いかは未だ検証が不十分である。また抗うつ薬の新規開発についてもブレイクスルーには欠ける。現在の候補としてはグルタミン酸系やグルココルチコイド受容体アンタゴニスト,ボツリヌス毒素,オピオイド系が挙げられる。現段階で我々が可能なことは,症例の概念化に代表されるような適切な「みたて」のもと,現存する薬剤を適正に使用すること,また個々の患者により適した薬剤を提供できるよう知見を積み重ねていくことであろう。その他,ITの利用なども今後のテーマとなりうるが,薬物療法は回復の一つのきっかけと位置付け,過信せずに用いていくべきである。 Key words : treatment optimization, anxiety depression, case conceptualization, depression, Botulinum toxin, flutamate, glucocorticoid receptor antagonist, opioid
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臨床精神薬理 18巻11号, 1417-1423 (2015);
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精神疾患一般に,生物学的マーカーが特定できないこともあり,その疾患概念と薬物療法は時と場所とによって変化する。双極性障害も近年同様の変遷を辿っており,本稿では特にDSM-5を参照しながら,その診断と薬物療法についてまとめ,考えてみたい。 Key words : antidepressant, antipsychotic, bipolar disorder, disease concept, psychopharma-cology
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臨床精神薬理 18巻11号, 1425-1435 (2015);
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不安症(障害)は,commonかつdisablingでchronicな精神疾患である。ベンゾジアゼピン系薬物の登場から半世紀,現在ではSSRI等の抗うつ薬が第一選択薬となり,その他,様々な種類の薬物を用いた治療法がなされてきたが,その転帰は決して満足できるものではない。また,認知行動療法等,症状軽減に有効な精神療法はあるものの,不安症を寛解・回復に導く決定打とまでは言えないのが現状であろう。このような状況の中,1990年代以降の神経科学の急速な進歩により今までブラックボックスであった不安・恐怖の脳内メカニズムの詳細が徐々に明らかになってきている。それらのエビデンスに基づき,神経ペプチドをはじめ,新たな機序を有する薬物の抗不安薬としての可能性が模索されている。一方で,マインドフルネスに代表される新たな認知療法も注目されてきている。さらに,恐怖の条件づけの消去を目的とした学習や記憶に対する薬理学的調節の可能性まである。本稿では,以上のことについて,これまでの知見を概観し,不安症(障害)の薬物療法はどこに向うのかについて考える。 Key words : GABAA, 5HT, neuropeptide, cognitive-behavioural therapy, mindfulness
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臨床精神薬理 18巻11号, 1437-1444 (2015);
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現在国内では成人の約20人に1人が睡眠薬を常用もしくは頓用している。認知行動療法などの効果的な代替療法も登場したとはいえ,現在でも不眠症治療の主軸を担うのは睡眠薬を中心とした薬物療法である。国内の医療機関で処方されている睡眠薬のうち,ベンゾジアゼピン系睡眠薬が力価ベースで3-4を占め圧倒的なプレゼンスを示している。しかし,ベンゾジアゼピン系薬物については耐性による多剤・高用量処方や休薬時の離脱症状などいわゆる身体依存に陥る患者が存在するほか,自殺・自傷目的での過量服用や乱用など不適切使用例が問題視されている。また,服用者の過半数が中高年であることを考えると平衡機能障害や筋弛緩による転倒や骨折,認知機能障害などのリスクも大いに懸念される。2013年1月には,厚生労働科学研究班と日本睡眠学会ワーキンググループでの論議を経て「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」が策定された。本ガイドラインは不眠症状に応じた消失半減期別の薬剤選択にとどまらず,病態生理を勘案した処方戦略を提示し,治療当初から中長期的な治療ビジョン(治療の出口戦略)をもって薬物療法の開始,維持,終結を行うよう推奨している。そのためにも,薬物療法のリスク・ベネフィットバランスに目を配り,薬物療法に偏重することなく,睡眠衛生指導はもとより認知行動療法などの生活療法を活用して不必要かつ漫然とした長期処方に陥らないように戒めている。本稿では,不眠症の薬物療法の現状を概観し,より効果的で安全な治療戦略を考える際に解決すべき課題についてまとめた。 Key words : insomnia, pharmacotherapy, benzodiazepines, melatonin receptor agonist, orexin receptor antagonist
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臨床精神薬理 18巻11号, 1445-1450 (2015);
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アルツハイマー病は認知症の約7割を占める主要な原因疾患である。現在4種類の抗認知症剤が治療薬として用いられているが,いずれも症候改善剤であり,脳内の病理進行や神経細胞死を阻止することはできない。軽度〜中等度のアルツハイマー病患者を対象とした病態修飾薬を用いた大規模な探索的臨床治験が行われた。その結果が最近報告されたが,いずれの薬剤も有効性を示すことができなかった。アルツハイマー病では認知機能低下が顕在化する10年以上前から脳内に疾患関連病理が出現することから,治療開始のタイミングが遅すぎた可能性が指摘されている。脳内ではアルツハイマー病病理が始まっているものの,認知機能が正常な無症候期を前臨床期(プレクリニカル)と定義する診断基準が最近提唱された。前臨床期(プレクリニカル)に早期診断・早期介入による発症予防を行うという新しいパラダイムを目指した臨床試験が欧米を中心に始まっている。 Key words : Alzheimer’s disease, preclinical, prodoromal, preventive intervention, disease modifying drugs
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【シリーズ】
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臨床精神薬理 18巻11号, 1451-1453 (2015);
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臨床精神薬理 18巻11号, 1475-1480 (2015);
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【原著論文】
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臨床精神薬理 18巻11号, 1455-1467 (2015);
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本邦では,2013年に第二世代抗精神病薬の持効性注射剤(LAI:long acting injection)であるpaliperidone LAIが上市された。統合失調症治療には薬物療法が必要不可欠であるため,LAIは治療上,重要な役割を担うことが期待される。しかし,実際には,医療従事者は患者がLAIという剤形を受け入れられないだろうという先入観を持っている場合が少なくなく,本邦ではLAIがあまり普及していない現状がある。そこで,我々は,paliperidone LAIを開始した95名のうち投与中止の32名および投与期間が6ヵ月未満の7名の患者を除き6ヵ月継続投与している統合失調症患者50名(risperidone LAIからの切り替え例70.0%,外来例84.0%)を対象とし,paliperidone LAI導入後の満足度調査を実施した。その結果,90.0%の患者が「満足している」と回答し,80.0%の患者が本剤を「今後も継続していきたい」と回答した。さらに,paliperidone LAI の満足度とDAI-10(服薬アドヒアランス)の間に正の相関が認められた。また,paliperidone LAI導入6ヵ月後のPANSSスコアは導入前のそれと比較して有意な差は認められず,少なくとも精神症状は維持されていた (導入前スコア78.3±11.6点, 導入後スコア79.7±13.5点, p=0.395)。以上のことから,paliperidone LAIは,患者満足度が高く,服薬アドヒアランスの維持・向上に優れていることが示唆された。 Key words : paliperidone long-acting injection, adherence, satisfaction, DAI-10, schizophrenia
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【症例報告】
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臨床精神薬理 18巻11号, 1469-1473 (2015);
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月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder : PMDD)では,著明な抑うつ感,不安感,情緒不安定,集中困難,食行動変化,睡眠障害(過眠),各種疼痛など,様々な精神症状と身体症状が問題になる。これらの症状のため,PMDDは社会生活全般に対して,うつ病に匹敵するほどの大きな影響を与える。多彩な症状のうち,最も重要な症状は抑えがたい易怒性(制御不能感)であり,境界性パーソナリティ障害と鑑別が必要になることもある。今回我々は,易怒性と家族に対する暴力が問題になったPMDDに対してescitalopramが奏効した1例を経験したので若干の考察を加えて報告する。 Key words : premenstrual dysphoric disorder (PMDD), premenstrual syndrome (PMS), selective serotonin reuptake inhibitor (SSRI), escitalopram, quetiapine