臨床精神薬理

Volume 19, Issue 3, 2016
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【展望】
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精神科薬物治療におけるゴール,そして終結は
19巻3号(2016);View Description
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精神科薬物治療のゴールは,寛解の維持と回復にあるのは確かであろう。しかし,それはあくまでもさしあたってのゴールであり,一般に,薬物治療を維持・継続させながら達成させるものである。薬物治療の終結は,寛解の維持と回復が達成されなければありえないが,薬物治療の終結に関しての知見は驚くほど少ない。多くのエビデンスは,統合失調症,双極性障害,うつ病,不安障害,てんかんにおいて,服薬の中断による再発の危険性を示している。つまり,積極的に薬物治療の終結を推奨するエビデンスはない。言い換えると,精神科医は精神疾患の薬物治療の終結をある程度以上の確信のもとに決断することはできない。おそらく,精神疾患の種類によっても,薬物治療の終結を決断することの困難さの理由が異なってくるであろう。我々医師は,患者に対して,最小限の介入で最良の転帰を導く方法を日々試行錯誤しているが,再発予防にばかり着目し,服薬を継続することが,かえって患者のレジリアンスの邪魔をする可能性があることは知っておくべきかもしれない。薬物治療の継続が,耐性による反応の鈍化,治療抵抗性の惹起,あるいは過感受性亢進を通して,ホメオスタシスの崩壊を導く可能性も考慮しなければならない。精神科薬物治療のゴール,そして終結に関して,今後のさらなる検討が希求される。 Key words : pharmacotherapy, outcome, remission, relapse, unitary psychosis
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特集【精神科薬物治療におけるゴール,そして終結は】
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統合失調症のリカバリー達成に向けて薬物療法にできること
19巻3号(2016);View Description
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統合失調症の治療ゴールはリカバリー(回復)である。しかしリカバリー率は決して高くないことが報告されている。本稿では,リカバリー促進のためにどのような薬物療法が望ましいのか,という視点から,エビデンスや論説,最近行われた大規模臨床試験の結果などを紹介する。リカバリー達成に向けては確実な再発予防がまず重要である。第2世代抗精神病薬が第1世代抗精神病薬に比して,再発予防効果において優れているというエビデンスはあるものの,どの薬剤がより優れているかというエビデンスはまだ不足している。個々の患者の特性を踏まえ,特に副作用プロフィールを考慮した個別化治療を行うべきである。現在までに開発された薬剤による陰性症状や認知機能への効果は乏しく,今後の開発が望まれる。薬物療法のみならず,心理社会的な治療アプローチはリカバリー達成には必須になる。薬物療法はむしろ集学的治療を提供するためのプラットフォームになるという観点で治療にあたる姿勢が大切である。 Key words : schizophrenia, recovery, relapse, maintenance, side effect -
双極性障害と長期的視点
19巻3号(2016);View Description
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双極性障害の薬物治療のゴールは気分の波をうまくコントロールすることだろう。慢性的に経過することが多く,長期的な視点を持つことは大切である。Lithiumを服用することで,認知機能低下を予防できるかもしれない。また,元来が気分屋であり,気分を小出しにできる生活をすることで安定できるかもしれない。 Key words : bipolar disorder, deficit status, dementia, outcome, prognosis -
強迫症(OCD)の薬物治療が目指すもの,そして終結に向かうプロセスについて
19巻3号(2016);View Description
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強迫症(OCD)の第一選択的治療はSSRIであるが,多くの場合は部分的改善に留まり,時に非定型抗精神病薬による増強療法を要する。またSSRIにより強迫症状や切迫した不安状態が軽減しても,習慣化した強迫行為や回避の改善は難しく,CBTを併用する必要がある。これを縦断的に見れば,OCD治療における薬物療法の意義には,大きく分けて2つの側面がある。1つは治療開始後のできるだけ早い段階で,強迫症状やうつ病など併存症の軽減を図ると共に,治療効果を実感させ,治療的動機づけを高めてCBTへの導入を促すことであり,その中で早期の寛解を達成することである。もう1つはCBTの継続や完遂を支持することであろう。そのプロセスでは,治療効果や再発に注意しつつ,機能水準の改善などを評価しながら,薬物療法の終結を目指すこととなる。しかし現行の薬物療法の限界も明白であり,今後はその進展を図りつつ,CBTを含め終結を目指すための治療プロセスの標準化が望まれる。 Key words : obsessive-compulsive disorder, remission, recurrence, pharmacotherapy, end of treatment -
パニック症の薬物療法とその治療の終結の仕方
19巻3号(2016);View Description
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パニック症は不安症の最終形であり代表的疾患である。かつてはalprazolamなどの高力価ベンゾジアゼピン系抗不安薬が治療の主体であったが,SSRIが登場するようになって,治療の主体がSSRIになった。SSRIが治療の主体になることによって,パニック症は完治するようになり,治療終結できるようになった。現在,有効性と認容性,離脱症状の少なさからパニック症の治療はsertralineが第一選択薬になってきている。Sertralineをある程度長期間投与し,寛解が近付くと予期不安が低下し患者は薬の服用を忘れがちになる。その時が薬を止める好機である。徐々にsertralineを減薬・中止し,頓服薬のlorazepamのみにする。Lorazepamは御守り代わりに携行し,薬物療法を終結する。 Key words : panic disorder, SSRI, sertraline, lorazepam, expected anxiety -
注意欠如・多動症の薬物治療におけるゴール
19巻3号(2016);View Description
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ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder,注意欠如・多動症)の治療は,心理社会的アプローチがメインであり,薬物治療は補助的ツールである。それを大前提とした上で,本稿では,ADHDの治療薬とその使用における国内外の治療ガイドラインを紹介する。諸外国には中枢神経刺激剤を中心とした多数の薬物治療法があるが,本邦で認可されているのは,methylphenidate徐放剤とatomoxetineのみである。各国の治療ガイドラインでは,中枢神経刺激剤を第一選択薬とすることが多いが,薬物依存,薬物使用障害の恐れがある時はatomoxetineなどが推奨される。また,ADHDに対する治療ゴールはなにか,薬物治療はどのように関わっていくのか,当事者につきあっていく大切さも含め考察したい。 Key words : osmotic release oral system methylphenidate (OROS-MPH), atomoxetine (ATX), guideline, goal -
認知症診療における治療目標と薬物療法
19巻3号(2016);View Description
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認知症の治療は,根治療法がない現状では対処療法と言わざるを得ない。そのため,うつ病と違って寛解を目指すことはできない。その治療の目的は中核症状の進行を可能な限り遅らせることと周辺症状を最小限にすることに目が向けられている。これは医療サイドからみた見地であり,それを追求すべく,投与し続けることは,副作用のリスクもあり望ましくない。また,患者側の視点になってそのゴールを考えるのであれば,やはりQOLへの配慮は避けては通れないであろう。QOLを評価するにあたり,病気の特性上本人のQOLを評価することの困難さに加え,介護する者のQOLも考慮することが必要である。以上を踏まえ,抗認知症薬ならびに向精神薬使用の終結方法を選んでいくのであるが,画一的ではなく個々のケースに応じた対応が望まれる。しかし,実臨床におけるある程度の指標は必要であり,今後の研究に期待したい。 Key words : dementia, psychopharmacology, quality of life, goal of therapy -
てんかんの薬物治療におけるゴール
19巻3号(2016);View Description
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てんかん治療の主流は抗てんかん薬(AED)による薬物療法であり,約70%の症例で発作は抑制される。てんかんは1つの疾患ではなく,症候群であり,そのため予後は発作型,発病年齢,遺伝的背景などの影響を受ける。基本的には遺伝要因が関与する全般発作のほうが部分発作より発作抑制率が高く,脳器質的背景を持つ部分発作は抑制率が低い。高齢期発症てんかんは発作抑制が得られやすいが断薬は困難であり,特別なてんかん類型を除いて,小児期発症てんかんのほうが服薬中止のチャンスは多い。課題は根治療法開発あるいは発病を阻止できる新たな治療薬の開発である。治療薬開発には遺伝子改変動物を用いた分子病態解析による標的タンパクの同定などの新たなツールと,発病前に治療的に介入するという発想の転換も必要である。つまり,発達に伴うてんかん原生/発作原生確立に関わる発病への過程を補正する薬剤の開発,将来的にてんかんを発症する可能性の高いat risk児の同定方法,発病前の治療期間の設定などが次の課題となる。 Key words : epilepsy, prevention of epilepsy, goal of treatment, antiepileptic drug therapy, early treatment
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症患者の急性期入院治療における抗精神病薬投与の実態調査
19巻3号(2016);View Description
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民間精神科病院の急性期入院治療における抗精神病薬の多剤併用療法の実態と特徴について,22,346人の対象患者から抽出した2,073人に対して調査を行った。その結果は,まず,抗精神病薬の単剤処方率52.6%,2剤処方率33.3%,3剤以上処方率14.1%であった。次に,処方パターンの検討では,単剤処方では非定型抗精神病薬の処方が上位を占めたが,全体では定型抗精神病薬の処方も37.2%と高かった。さらに,非定型抗精神病薬加算の有無を利用して,包括払い病棟と出来高払い病棟における処方状況を比較したところ,包括病棟において単剤処方率が高かったが,2剤以下処方では差がなかった。今回の調査により,民間精神科病院の急性期入院治療で使用される抗精神病薬は,単剤処方率,2剤以下処方率ともこれまで報告されている急性期入院治療患者の処方率と同等で,海外と比較しても遜色がないことが分かった。一方,わが国で問題とされている多剤併用処方は,長期入院患者に多く,この問題の対処にはより一層の是正の努力が必要である。 Key words : schizophrenia, antipsychotic drugs, polypharmacy, treatment of acute phase, duration of admission -
日常診療下における小児期の注意欠陥/多動性障害患者に対するatomoxetineの安全性および有効性の評価──広汎性発達障害の併存例と非併存例の部分集団解析
19巻3号(2016);View Description
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注意欠陥/多動性障害(ADHD)に対するatomoxetineの特定使用成績調査の中間解析から,atomoxetineの安全性および有効性を検討した。患者登録期間中に,国内186施設から1,792例が登録され,2014年10月までの時点で1,758例の調査票が回収された。これらの患者のうち,広汎性発達障害(PDD)の併存例およびPDDに加えて何らかの併存障害を有したADHD患者(以下,PDD併存患者)673例と併存障害を有しないADHD患者(以下,ADHD単独患者)686例を対象に部分集団解析を実施した。PDD併存患者では,ADHD単独患者と比較して副作用の発現率,種類別では激越および易刺激性が有意に高かった。ADHDの中核症状はいずれの患者群においても3ヵ月時には有意な改善が認められたが,両群での改善の程度に差はなく同様に推移した。生活の質についても両群ともに改善する傾向が見られた。 Key words : attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD), children, atomoxetine, pervasive developmental disorder (PDD), post-marketing surveillance (PMS) -
全般性強直間代発作を有する日本人小児てんかん患者に対するlevetiracetam併用療法の有効性と安全性の検討──多施設共同非盲検試験
19巻3号(2016);View Description
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併用抗てんかん薬1〜2剤で発作未抑制の全般性強直間代発作(GTCS)を有する4〜15歳の日本人小児てんかん患者(特発性および症候性全般てんかんと未決定てんかん)13例を対象に小規模な多施設共同,非盲検試験を実施し,levetiracetam(LEV)の有効性と安全性を検討した。主要評価項目の治療期間(24週間)における観察期間からの週あたりのGTCS減少率の中央値(Q1-Q3)は56.5(1.0-89.1)%で,治療期間のGTCS消失患者の割合は15.4%であった。特発性全般てんかん4例中2例で発作完全抑制が達成され,症候性全般てんかん7例中1例は著効例であった。LEVとの因果関係が否定できない有害事象は5例で認められたが,死亡を含む重篤な有害事象は認められなかった。小規模試験ではあるが,小児患者で臨床的に明らかなGTCSの減少が認められ,良好な忍容性も確認された。 Key words : levetiracetam, antiepileptic drug, generalized tonic-clonic seizure, adjunctive therapy, pediatric epilepsy
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第56回 世界初のdopamine serotonin antagonistか─blonanserinの躍進───その2:Risperidoneとの大一番とその後の展開
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