臨床精神薬理

Volume 19, Issue 4, 2016
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【展望】
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Venlafaxineへの期待
19巻4号(2016);View Description
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Venlafaxine(VEN)XRがわが国では3番目のSNRIとして昨年12月に上市された。海外では1997年に上市された薬であり,わが国へは20年のドラッグラグを経て導入された。VENがSSRIや他のSNRIと比べて,どのような特徴をもつかは多くの精神科医の関心事と思われる。本総説ではVENの薬理学的特性,作用機序を概観し,薬物動態から見た特徴を整理した上で,本剤の臨床効果について,わが国での治験成績と海外での数多くのメタ解析の結果をもとにレビューした。本剤の薬理学的特性,すなわち「低用量ではSSRIの特性を示し,高用量でSNRIとして作用する」ことが臨床においてどのような治療特性につながるかについて,レビューをもとに「VENへの期待」としてまとめた。 Key words : venlafaxine XR, SNRI, dual action, remission rate, anxiety
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特集【Venlafaxine遂に上陸】
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Venlafaxineの薬物動態
19巻4号(2016);View Description
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Venlafaxine(VEN)の作用機序は,前シナプスへのセロトニン(5-HT)とノルアドレナリン(NA)の両者の再取り込みを阻害することにある。VENはCYP2D6とCYP3A4により代謝されるが,CYP2D6遺伝子型によって血中VEN濃度に個体差が生じることが報告されている。VENと代謝産物であるO-desmethylvenlafaxine(ODV)は母乳中に分泌されるため,妊娠および授乳期の女性へのVEN投与は危険性と利益を注意深く検討すべきである。本稿ではVENの薬物動態的特徴について概説する。 Key words : venlafaxine, pharmacokinetics, metabolism, cytochrome P450 (CYP), drug-drug interaction -
Venlafaxineの国内臨床試験成績
19巻4号(2016);View Description
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2015年9月,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるvenlafaxineの徐放性カプセル製剤(venlafaxine SR)が,国内で「うつ病・うつ状態」を適応症として承認された。日本人を対象とした臨床試験は1995年より開始され,健康成人男性を対象とした第1相試験(単回・反復投与試験)で本剤の安全性が確認された後,うつ病患者を対象とした前期・後期第2相試験と第3相試験(実薬対照二重盲検比較試験,長期投与試験,高齢者試験)が実施された。その後,追加試験として,うつ病患者を対象とした第3相プラセボ対照比較試験および長期投与試験が実施され,有効性および安全性が示された。これらの試験結果と海外での圧倒的な使用経験を考慮すると,venlafaxine SRはうつ病・うつ状態に対する治療の有用な選択肢の1つとして期待される。 Key words : venlafaxine, SNRI, MDD (major depressive disorder), RCT (randomized controlled trial), HAM-D17 -
Venlafaxineの海外での試験から見る本剤の立ち位置は
19巻4号(2016);View Description
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Venlafaxineが2015年12月に上市された。5年ぶりの新規抗うつ薬の登場である。海外ではSNRIと言えば本剤というほど広く認知されてきた薬剤である。Head to Head trialを見ると,用量依存性が高く,用量設定の問題はありながらも,総じて効果はSSRIやduloxetineなどと同等以上であった。通常のうつ病例だけでなく,不安を持つ例,1剤が無効だった例などにおいても効果が認められている。また,CYPなど相互作用にあまり影響を与えない。ただ,忍容性において,SSRIと同様に消化器症状を認めるが,頭痛や血圧上昇などノルアドレナリンに起因すると考えられるものもある。他にも,SSRIと同様に出血や性機能障害など注意すべきだが,きちんと副作用について配慮し慎重に増量して行けば,中等症以上の例には試してみる価値があり,切り札となりうる。 Key words : venlafaxine, SNRI, antidepressant, efficacy, tolerability -
Venlafaxineの治療ガイドラインにおける位置づけ
19巻4号(2016);View Description
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2009(平成21)年以降に国内外で公開された7つのうつ病の治療ガイドラインにおける,venlafaxineの位置づけについて概説する。うつ病患者に対する薬物療法に関しては,venlafaxineを第一選択薬の1つとして推奨している治療ガイドラインは5つであった(第一選択薬の1つとなりうると推測されるものも含む)。また,3つの治療ガイドラインでは,venlafaxineの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)に対する優越性について言及しており,5つの治療ガイドラインは,SSRIなどによる初期治療に失敗したさいの代替薬(切り替え薬)となりうる可能性を示唆している。以上の結果より,venlafaxineは,うつ病に対する第一選択薬として用いることや,初期治療に失敗したさいの代替薬として用いることが推奨されると考えられた。 Key words : guideline, major depressive disorder, venlafaxine -
SNRIの新たな可能性─社会機能の改善を見据えたうつ病治療
19巻4号(2016);View Description
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本邦においてがん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病に加えて精神疾患が5大疾病として認定され3年が経とうとしている。しかし,メンタルヘルス不全による長期休業や退職に至る労働者は増加の一途を辿っている。少子高齢化社会が急速に進む本邦においては,社会生活を維持できるうつ病治療の方策の構築は急務である。その中で1993年に米国で承認され,海外において豊富なエビデンスが蓄積されているSNRIの1種であるvenlafaxineが2015年12月に本邦でも上市された。本邦では現在3種のSNRIが使用可能であり,それら3種間でも薬理学的プロファイルに差異がある。本稿では,社会機能の改善においてvenlafaxineを含むSNRIに関して,海外での臨床研究の結果を中心に概説したい。本邦での臨床応用の一助になれば幸いである。 Key words : Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor, social adaptation, social functions, depression, antidepressant
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【シリーズ】
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【治療薬情報】
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新規抗うつ薬venlafaxine
19巻4号(2016);View Description
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世界的にうつ病治療のゴールド・スタンダードとして使用されてきたvenlafaxineが,2015年9月に国内でも「うつ病・うつ状態」を適応として承認され,臨床導入された。国内ではmilnacipran,duloxetineに続き3剤目のSNRI(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor)となる。Venlafaxineは脳神経細胞のシナプス間隙でセロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターを強力かつ選択的に阻害することで抗うつ作用を呈する。薬理学的な特徴として,低用量では主にセロトニン系に作用し,高用量ではセロトニン系とともにノルアドレナリン系の作用がより強まると考えられている。Venlafaxineは主に消化管から吸収され,肝臓で活性代謝物に代謝されたのち,未変化体・代謝物ともに全身循環に到達し,グルクロン酸抱合体として尿中に排泄される。チトクロームP450およびP糖蛋白質の阻害作用が少なく,相互作用のリスクが少ない。国内臨床試験ではうつ病・うつ状態に良好な有効性が認められ,安全性および忍容性が確認された。今後,日本人におけるうつ病治療の新たな選択肢として,臨床下での有効性および安全性のエビデンスが蓄積されることを期待する。 Key words : venlafaxine, SNRI, depression, antidepressant, active metabolite, cytochrome P450, P-glycoprotein
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【原著論文】
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SCAP法を用いた処方適正化チームによる抗精神病薬減量の試み
19巻4号(2016);View Description
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本邦では抗精神病薬の多剤大量処方の適正化が求められている。しかし,抗精神病薬の減量によって悪化のリスクがあると考えて,主治医は減量を躊躇することがある。これを克服しやすいように鳥取医療センターでは,2010年から医師,看護師,薬剤師が処方適正化チームを組んだ。処方適正化チームは,主治医が安心して減量を行えるように全職員に適正な抗精神病薬の使い方に関して情報を提供した。各主治医には安全で効果的な抗精神病薬の適正化法(SCAP法)による減量を行うように勧めた。2010年にchlorpromazine換算投与量(CP換算量)で1,000mg以上の処方を受けていた患者の平均CP換算量は1,402mg/日(標準偏差415mg/日)であったが,2013年には1,025mg/日(341mg/日)となり,377mgの減量をすることができた。一過性に精神症状が悪化する患者はいたが,一時的な増量にて回復し最終的には精神症状が悪化することはなかった。CP換算投与量1,000mg以上の大量投与患者の78.6%に抗精神病薬の減量を行うことができた。しかし,一部減量できない患者がいたことは処方適正化チームおよびSCAP法の限界であるといえる。 Key words : appropriate use, antipsychotic drugs, high-dose combination therapy, dose reduction, sharing information -
抗精神病薬未治療の初発統合失調症患者を対象としたblonanserin特定使用成績調査──日常診療下でのblonanserin 12週投与の安全性・有効性の検討
19巻4号(2016);View Description
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抗精神病薬の治療歴のない初発統合失調症患者を対象に日常診療下でのblonanserin(BNS)の安全性及び有効性を調査するため,観察期間を12週間とした特定使用成績調査を実施した。安全性評価対象152例では,12週時の投与継続率は57.9%であった。副作用発現率は45.4%で,発現率が最も高かった副作用はアカシジア(23.7%)であり,発現件数133件のうち103件が錐体外路症状であった。錐体外路症状で重篤なものはなく,BNSの減量・中止又は抗パーキンソン病薬投与等の処置により98件が回復・軽快した。有効性評価対象144例では,最終評価時のBPRS合計スコア及び全項目の項目別スコアは投与開始時よりも有意に減少した。以上より,日常診療下での初発統合失調症患者の治療においてBNSは有用な薬剤であることが示された。 Key words : blonanserin, schizophrenia, post-marketing surveillance, safety, efficacy
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【症例報告】
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認知機能および脳機能画像による急性精神病の予後予測
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「急性精神病」という診断は,精神科急性期医療においてよく用いられるもので,急性発症した精神病症状に対して暫定的に与えられる。精神病症状が短期で寛解に至ったものは,ICD-10では急性一過性精神病性障害,DSM-Ⅳ-TRでは短期精神病性障害に該当するが,寛解の判断が治療や予後に影響を与えるため,慎重な評価が必要となる。寛解の判断には,幻覚,妄想,解体などの精神病症状の評価だけではなく,認知機能や社会的機能が病前のレベルまで改善したかまで評価することも重要である。今回,我々は妄想,錯乱,情動不安定性を呈し,抗精神病薬による治療で1ヵ月以内に精神病症状は消失したものの,single photon emission computed tomographyでは脳血流異常が認められ,認知機能検査で認知機能低下が示唆され,約7ヵ月後に精神病症状を再発した症例を経験した。急性精神病の診断および治療における認知機能検査や脳機能画像の意味について考察を加えてここに報告する。 Key words : acute psychosis, cognitive dysfunction, single photon emission computed tomography -
ハンチントン病の運動機能障害がaripiprazole投与後約3年間改善した1症例
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ハンチントン病は進行性の運動機能障害や認知機能障害を呈する常染色体優性遺伝疾患であるが,諸外国では運動機能障害に対してaripiprazoleが有効であったという報告が見られる。今回,本邦においても,aripiprazoleの投与でハンチントン病の運動機能障害が改善し,約3年間にわたり運動機能障害の緩和を認めた症例を経験した。この改善効果には,aripiprazoleの持つD2受容体への選択的パーシャルアゴニスト作用や,5-HT1A刺激作用が関与している可能性がある。今後,その効果と認容性について詳細に検討される必要がある。 Key words : Huntington, aripiprazole, ADL, striatum, involuntary movement
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第57回 遅れて来た世界初のSNRI,venlafaxineの開発物語──その1:合成からわが国での後期第Ⅱ相試験まで
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