臨床精神薬理

Volume 19, Issue 11, 2016
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
双極性うつ病の診断と治療の現状と今後の展望
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
2000年までは双極性障害の研究は停滞していた。2000年以降,双極性障害の病態,診断,治療の研究は飛躍的に進んだ。しかし,双極性うつ病とそれに深く関連する双極スペクトラムの問題はまだ十分に解決されたとはいえない。発症後のうつ病相主体の長い時期が大部分の双極性障害の特徴であるが,その時期にいかに双極性障害を診断することができるかについて多くの研究が行われ,少しずつ糸口がみえはじめている。双極スペクトラム概念の提唱は双極性うつ病の診断の困難性と関連あるが,多様な双極スペクトラム概念のうち特に双極性障害の早期診断に役立つ因子が明らかになってきた。双極性障害の治療薬についても2000年以降多数の大規模な無作為化対照試験が行われ,真に有効な薬剤が明らかになってきた。双極性うつ病の急性期治療と病相予防が双極性障害治療の成否の鍵を握っており,今後さらに研究と新薬開発が必要である。 Key words : bipolar disorder, mixed depression, false unipolar depression, mood stabilizer, atypical antipsychotic drug
-
-
特集【Bipolarityを有するうつ病の病態と治療アップデート】
-
-
双極性障害の疫学──最近の話題
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
近年の一般人口を対象とした大規模疫学研究の結果より,診断基準閾値下の双極性障害の有病率が双極Ⅰ型,Ⅱ型障害のそれよりも高く,しかも重大な機能障害をもたらしている可能性が示唆されたことから,閾値下障害を含む双極スペクトラム障害の診断に対する関心が高まっている。2013年に公表されたDSM-5では,そのような背景のもとに,DSM-Ⅳの双極性障害の診断基準にいくつかの改訂がなされた。しかし,それ以上に大きな意味を持つのは,DSM-Ⅳの気分障害の大カテゴリーが解体され,DSM-5のマニュアルにおいて,「双極性障害および関連障害群」と「抑うつ障害群」の章が,それぞれ独立し,「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」と「不安症群」の章の間に順に並んだことであろう。こうしたDSMの構造的な変更は,双極性障害とうつ病の関係がDSM-Ⅲ以前に回帰した印象を与える。さらに,WHOの最新のGlobal Burden of Disease研究は,双極性障害の年齢標準化有病率(約0.7%)が比較的低いにもかかわらず,その疾病負荷は決して小さくないことを示している。 Key words : prevalence, bipolar disorder, manic-depressive illness, sub-threshold bipolar disorder, Global Burden of Disease -
精神病理学的にみた今日の双極性を有するうつ病
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
双極性を有するうつ病とは,(軽)躁病相を先行ないし後発させるうつ病ということになるが,とりわけ後に双極性障害と診断されるうつ病を早めに見抜くことは,治療的な意義がある。最近では,双極性障害に移行するうつ病に見られやすい臨床特徴として,発揚(ないし気分循環性)パーソナリティ,うつ病相の頻回の反復,短いうつ病相,非定型うつ病,精神病性うつ病,若年発症(25歳未満)などが指摘されている。非定型うつ病には躁病と継起的な関連があり,精神病性うつ病に関しては,その症状形成自体に躁的因子が関与している。双極性うつ病の病像の差異は,人格の成熟ないしメランコリー能力と躁的な因子を2軸にとった見取り図を作成することで理解しやすくなる。青年期では感情気質や,人格と気分障害の融合したような双極Ⅰ型やⅡ型が目立ち,成人期前期では不安・焦燥優位なうつ病相ないし軽い制止優位のうつ病相を伴う双極Ⅱ型が出現しやすくなる。 Key words : depression, bipolar disorder, bipolar spectrum, melancholic features, atypical features -
双極性うつ病の機能的画像研究の動向
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
扁桃体や前頭前野領域は,双極性障害の病態形成に関連するニューラルネットワークの中でもより重要な役割を担うと考えられている。fMRIなどの脳機能画像研究により,双極性障害のうつ状態(双極性うつ病)における,同領域を中心とした機能異常についての報告が集積しつつある。近年,双極性うつ病と単極性うつ病を直接比較した研究も増えてきており,両疾患群の機能異常の差異が示されつつあるが,個人レベルの診断鑑別に利用できる,決定的な方法論の確立には至っていない。双極性障害の画像研究において,今後は,発症リスクや罹患に関連する特徴(trait related)と状態像の変動に関連する特徴(state related)について明らかにしていく必要があり,縦断的な検討,統一したパラダイムを用いたより大規模な研究,複数のモダリティーによるアプローチなどが必要であると考えられる。 Key words : bipolar depression, bipolar disorder, major depressive disorder, functional magnetic resonance imaging, functional neuroimaging -
双極性を有するうつ病の急性期治療の現状と課題
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
双極性を有するうつ病は,抗うつ薬の効果が乏しく,むしろactivation syndromeを惹起したり,双極性障害に移行することもあり,診断や治療の精緻化が求められる。しかし,この病態に対しての薬物治療の効果は不明確で,近接疾患と考えられる双極うつ病の治療方法を,適応を越えて援用している現状がある。抗うつ薬使用を回避しつつ,迅速な急性期治療効果を期待して,我が国では厳密には適応外となるlamotrigineを処方する臨床実態があるが,本薬による重篤な皮膚障害事例も数多く報告されている。しかも,本薬による副作用被害事例は,短い増量間隔など,用法・用量不遵守による不適正使用が目立つ。未だ治療ガイドラインが定まっていない本病態への治療薬選択では,薬剤自体が適応外使用になる可能性を常に念頭に置き,承認された用法・用量を遵守し,万が一副作用が生じた場合も早期に速やかに対処できるように継続的な副作用評価を行うことが必要である。 Key words : depressive disorder with mixed features, lamotrigine, Pharmaceuticals and Medical Devices Agency (PMDA) -
双極性うつ病に対する抗うつ薬投与の是非に関する最新動向
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
双極性障害患者への抗うつ薬投与は今日でも意見の分かれるところであり,その是非に関する多くの研究が行われてきた。米国で行われた長期の縦断的大規模臨床試験であるSystematic Treatment Enhancement Program for Bipolar Disorder(STEP-BD)では否定的な結果が示されたが,種々の系統的レビューやメタ解析の見解は多様であった。それらを加味して作成されている国内外の治療ガイドラインでは,推奨レベルに差異はあるものの,ほとんどのガイドラインで抗うつ薬投与の選択肢が設けられている。国際双極性障害学会(International Society for Bipolar Disorders:ISBD)が2013年に提示した双極性障害患者への抗うつ薬投与に関する臨床勧告は,今日的な知見を網羅し,均整のとれた提言になっている。経時的に見ると,抗うつ薬投与を否とする条件が確立しつつある一方で,抗うつ薬投与を可とする条件が徐々に明確化されてきており,双極性障害に対する抗うつ薬投与の有効性や安全性が再評価されてきている傾向が窺える。 Key words : bipolar depression, antidepressants, Systematic Treatment Enhancement Program for Bipolar Disorder (STEP-BD), systematic review, meta-analysis, guidelines, International Society for Bipolar Disorders (ISBD) -
臨床医が知っておきたい双極性を有する抑うつ状態に対する心理社会的介入
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
双極性障害に対する心理教育マニュアル(Colomら)が監訳(秋山と尾崎)出版された2012年を境に本邦でも双極性障害に対する心理社会的介入への関心は広がりを見せ,同年に改訂された日本うつ病学会による双極性障害に対する治療ガイドラインでも心理社会的療法の重要性が強調された。また,抑うつ状態で休職そして復職する方への対応に専門的な介入が求められ,リワークプログラムが提起された。プログラムの中核は,心理社会的介入より成る。さらに双極性障害に対するプログラムが提起された。双極性障害の維持期において,心理社会的介入は有力な役割を果たすことを臨床医は知っておくべきであり,なかでも心理教育において双極性障害患者に伝えたいとされる内容を熟知しておくべきと考える。これら心理社会的介入は新たな知見を重ねている。治療ガイドラインにおいて推奨された心理社会的介入と2012年以降の展開についても情報提供をした。 Key words : bipolarity, psychosocial-approach, psycho-education, Cognitive Behavioural Therapy, Group Cognitive Behavioural Therapy -
双極性の視点からみた難治性うつ病とその治療
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
単極性うつ病と診断された患者の一部は,適切な治療にも反応せず,難治性うつ病として取り扱われる。実際には,不適切な抗うつ薬治療,アドヒアランス不良,誤った診断などから,見かけ上の「難治性」に過ぎない場合もある。とりわけ,双極性障害との鑑別には注意が必要である。治療抵抗性うつ病の特徴として,精神病症状,抗うつ薬治療非反応,若年発症,頻回のエピソードなどが挙げられる。また,薬物療法としては,抗うつ薬の変更や併用に加えて,lithiumや甲状腺ホルモンによる増強療法,第二世代抗精神病薬の有効性が示されている。双極性(bipolarity)の視点から治療抵抗性うつ病を捉えると,双極性障害との近縁性が浮かび上がってくる。ゆえに,難治性/治療抵抗性うつ病の診療にあたっては,双極性障害を含む多角的な視点から診断や治療を進めることが重要である。 Key words : bipolarity, bipolar depression, misdiagnosis, lithium, atypical antipsychotics -
双極性を有するうつ病の予後と長期薬物療法の問題
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
双極性を有するうつ病は,閾値以下の軽躁状態を有する限りにおいて,診断区分としては双極性障害に属する。そのため双極性に関して認識せず単極性うつ病としての治療に固執することが,本疾患における治療抵抗性の一因となっていることは想像に難くない。その一方で,双極性障害としてのエビデンスやガイドラインによる治療法選択を盲目的に適用することには疑義がある。各研究の対象が,双極性を有するうつ病なのか,双極性障害のⅠ型なのかⅡ型なのか,区別をしていないのかなどを鑑みて文献にあたるのが望ましい。 Key words : bipolarity, depression, medication, outcome
-
-
【シリーズ】
-
-
-
【原著論文】
-
-
統合失調症患者を対象とした第二世代抗精神病薬のpaliperidone持効性注射剤の受け入れ態度とその影響因子について
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
統合失調症の服薬アドヒアランス不良の問題を改善する方策として持効性注射剤(Long-acting injection:LAI)が挙げられるが,その普及率は低い。そこで,paliperidone持効性注射剤(PLAI)に対する統合失調症患者215名の受け入れ態度を調査し,患者の背景因子がPLAIの受け入れ態度に及ぼす影響について調査を行った。その結果,40.9%の患者がPLAIを試してみたいと回答し,その主な理由は「4週間に1回投与される方が楽だから」であった。外来患者の中でrisperidone LAI使用患者のPLAIの受け入れ率は経口抗精神病薬使用患者のそれより有意に高かった。さらに,PLAIの受け入れ率とSAI-J(病識の評価)および使用中の抗精神病薬のchlorpromazine換算値との間にそれぞれ正の相関が認められ,服薬確認されていると認識している入院患者のPLAIの受け入れ率は認識していない患者のそれより有意に高かった。これらのことから,PLAIの受け入れには病識や通院間隔,服薬の負担が影響することが明らかとなった。 Key words : paliperidone long-acting injection, adherence, DAI-10, SAI-J, schizophrenia
-
-
【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
-
-
第64回 第二世代抗精神病薬の持効性筋注製剤の開発物語──その3:Aripiprazole持続性筋注製剤(Abilify®持続性水懸筋注用)
19巻11号(2016);View Description
Hide Description
-