臨床精神薬理
Volume 20, Issue 2, 2017
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【展望】
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せん妄の診断と治療をめぐる課題と展望
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionせん妄は,一般病院入院患者に頻発する精神症状・病態であり,身体疾患の疾病状況を増悪させ,このために医療費を上昇させて社会資源への負担を増大させる。それにもかかわらず適応薬剤がないという,精神医学のみならず医学全般の立ち遅れた課題である。さらに,一般病院の1割程度にしか常勤精神科医が配置されていない現状,そしてその常勤精神科医の多くが外来に忙殺される実態は,せん妄臨床の充実を阻む要因と言える。しかし,高齢化が著しい現況において,せん妄はさらに増加することが自明な優先度の高い課題である。本稿では,せん妄は認知の障害か覚醒の障害かといった概念の議論,近年注目を浴びている閾値下せん妄や認知症リスクとしてのせん妄,バイオマーカー探索について,せん妄の治療とその一般医療への普及といった課題を概説した。 Key words : delirium, arousal, subsyndromal delirium, antipsychotic, prevention
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特集【せん妄に対する治療戦略最前線】
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せん妄の病因と診断
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionせん妄とは外因によって生じた意識変容状態である。せん妄を惹起しうる要因は数多く存在するが,実際の臨床で病因を推定する際には,発症時期とリスク因子出現の時間的関連のほか,背景にある複数のリスク因子それぞれの重みを考慮することが望ましい。診断について,これまで作成されたせん妄の各診断基準を比較してみると,まずDSMでは第Ⅲ版から第5版に至る改定のなかで注意障碍と意識障碍に関する規定の変化とその解釈の仕方などにより各版ごとの診断対象の広さと質の点に差異があること,またICD-10はDSM各版と比較して多くの必須症状を求めているため診断の幅が狭いことが指摘される。また運動性に基づく亜型によって予後,疫学,治療などが各型で異なる可能性があり,臨床的観点からもこの分類を行うことは重要である。 Key words : delirium, risk factor, criteria, subtype -
せん妄発症の病態生理学的機序
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionせん妄は,臨床的には複数の因子が複合的に影響しあって発症するとされており,急性,一過性の経過が一般的である。しかし,せん妄の合併は患者の機能予後だけでなく生命予後にも影響する。一過性のことが多い病態であるからと言って決して看過できるものではない。近年,せん妄に対する研究は,早期治療介入や予防,病態生理の解明に繋がるものなど多数報告されている。せん妄は認知症とともに高齢者における認知機能低下の最も一般的な原因であるが,両者の相互関係については未だよく分かっていない。本稿では,せん妄の病因や病態生理についての最近の知見を概観し,認知症との相互関係などとともにその機序について概説する。 Key words : delirium, pathophysiology, neurotransmitters, neuroinflammation, dementia -
せん妄の鑑別診断と鑑別のポイント
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionせん妄の鑑別診断とそのポイントについて述べた。せん妄患者は精神病症状,気分症状,不安症状などを部分症状として有する。せん妄の誤診の多くは,これらの部分症状にとらわれてしまい,せん妄の中核症状である意識の障害や認知の変化を見落としてしまった結果であるといっても過言ではない。せん妄の運動性亜型による分類は鑑別診断の視点からも有用である。うつ病や認知症は低活動型せん妄と誤診されやすい。カタトニアはせん妄と多くの共通する症状を有するにもかかわらず,治療法が異なる。睡眠時随伴症も夜間に同様に症状が出現しやすい。これらの疾患とせん妄との鑑別のポイントを論じた。 Key words : delirium, depression, dementia, catatonia -
せん妄の評価尺度とその活用法
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionせん妄は発症早期に発見し治療に結び付けることが重要である。しかし,せん妄は症状が多彩でその経過も様々であり,診断や重症度評価に苦慮することも多い。そうした背景の中,せん妄の評価尺度がいくつも開発されてきた。その中でも,Delirium Rating Scale Revised 98(DRS-R-98)は診断や重症度評価において有用な補助ツールである。DRS-R-98はDelirium Rating Scale(DRS)の問題点を受けて改訂したものであり,重症度項目と診断項目に分けられていることが特徴的である。日本語版も開発されており,妥当性,評価者間信頼性のいずれも高いことが示されている。カットオフ値についても検証がなされており,これらを参考にして診断の補助ツールとして使用できる。また,重症度項目を継時的に評価することで,治療効果判定にも役立てることができる。DRS-R-98は臨床現場の必要性に即した尺度であるといえる。 Key words : delirium scales, Delirium Rating Scale (DRS), Delirium Rating Scale Revised 98 (DRS-R-98) -
せん妄の予防と治療における薬物療法
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionせん妄の治療は原因の除去・補正が原則であり,併せて環境調整や支持的対応を行うがそれだけで症状がコントロールされることは少ない。並行して抗精神病薬を中心とした薬物療法を行うのが臨床現場では一般的である。有効性と忍容性の面から経口では非定型抗精神病薬がほとんどであるが,その使い分けは薬理学的なプロファイルや薬物動態を考慮して行う。また予防的な薬物療法としてメラトニン受容体作動薬が注目されている。ここでは本邦におけるせん妄に対する薬物療法の変遷と予防と治療のエビデンス,臨床現場での実際の使用方法をまとめて概説する。 Key words : delirium, prevention, treatment, atypical antipsychotics, tolerability -
せん妄の型に応じた薬物療法の違い──過活動型せん妄と低活動型せん妄を比較して
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionせん妄に対して使用する向精神薬の選択はせん妄の型によってのみ行われるべきではなく,せん妄の原因となっている身体疾患の重症度,併用される薬剤との薬物相互作用,耐糖能異常のリスクなどを加味して行われるべきである。しかし,低活動型せん妄における向精神薬の有用性についてのエビデンスが少ないため,過活動型せん妄と同じような向精神薬が投与され,過鎮静のため不利益を生じていることも少なくない。低活動型せん妄は終末期やICU入床中の重症な心循環器疾患の病態において高頻度に認められる。身体活動レベルが低い患者に高頻度に起こるため,その回復可能性が半数程度であるだけではなく,薬剤による過鎮静は著しい不利益を生じることは言うまでもない。一方で,せん妄はいかなる型でも患者にとってその体験は苦痛を伴うことが知られている。薬物,電解質異常に起因するせん妄に対しては低活動型せん妄であっても十分に介入の余地が残されている。 Key words : delirium, subtype, hypoactive, aripiprazole, melatonin -
アルコール離脱せん妄の治療
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionアルコール離脱せん妄は,アルコール離脱症状の1つであり,初期の離脱症状が進展することによって発生する。離脱症状の予防と治療にはベンゾジアゼピンが用いられ,投与方法としては症状に応じて投与する症状引き金法と固定引き金法があり,前者の方が薬剤量や入院期間の面で優れているが,人員等の問題もあり日本では普及していない。離脱せん妄まで至った場合,大量のベンゾジアゼピンに加え,抗てんかん薬,α受容体作動薬,抗精神病薬を用いて対処するが,ベンゾジアゼピン以外の薬物のエビデンスは十分でない。海外ではICU等で管理されることが多いが,日本では主に精神科病院で管理されることもあり,ベンゾジアゼピンの量が海外に比べ少なく,抗精神病薬が多用される傾向がみられる。 Key words : alcohol dependence, alcohol withdrawal delirium, benzodiazepine -
認知症患者に合併したせん妄の治療
20巻2号(2017);View Description Hide Description認知症は高齢者せん妄の最大の危険因子であり,認知症に伴うせん妄(DSD)への対応は喫緊の課題となっている。DSDの診断は容易でなく,認知症やうつ病との鑑別がしばしば困難であり,医療職による見逃しが多いことが指摘されている。DSDの薬物療法は,少量の抗精神病薬を適切なモニタリングのもと,短期間投与で行うことが推奨される。DSDは,非認知症群のせん妄と比べて改善率が低く,改善しない場合に患者の身体・認知機能の低下のみならず,入院期間やリハビリの長期化,早期の施設入所につながることが報告されている。また,最近では,せん妄が長期的な認知症の予測因子となることが指摘されている。 Key words : delirium, dementia, differential diagnosis, treatment, prognosis -
せん妄に効果的な非薬物療法的アプローチについて
20巻2号(2017);View Description Hide Descriptionせん妄における非薬物療法は,その予防から発症後の治療に至るすべての段階で極めて重要な役割を果たす。例えば,予防的介入としては,せん妄ハイリスク患者を同定したうえで,入院時からせん妄の直接因子や促進因子を可能な限り取り除くことがせん妄の発症予防につながる。また,発症後には対症療法としての薬物療法が行われるが,根本的な治療は直接因子の除去であり,促進因子へのマネジメントが重要である。せん妄に適切にアプローチするためには,せん妄の3因子(準備因子,直接因子,促進因子)を十分理解しておく必要がある。そのうえで,各因子をどのようにせん妄対策に結び付けるかを考え,実践することである。最近,複数の促進因子へ介入を行うことでせん妄の予防効果を認めたとのメタアナリシスがあり,非薬物療法の重要性がますます注目されている。本稿では,岡山大学病院にて多職種で取り組んでいるせん妄対策の概要についても紹介したい。 Key words : delirium, non-pharmacological approach, direct factors, precipitating factors, predisposing factors
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【シリーズ】
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【症例報告】
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重度の老年期精神病性うつ病にduloxetineの単剤療法が奏効した1例
20巻2号(2017);View Description Hide Description精神病性うつ病は,老年期うつ病において高頻度にみられるが,薬物反応性が乏しく治療に難渋することが多い。国内外のガイドラインでは,抗うつ薬と抗精神病薬の併用が第一選択あるいは基本的治療戦略となっている。しかし,必ずしも抗精神病薬の併用が必要でない症例が存在することも指摘されている。今回我々は,数種類の抗うつ薬や抗精神病薬の併用療法に対して,不耐性または反応不良性を示したが,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるduloxetineの単剤療法が著効した重度の老年期精神病性うつ病の1例を経験したので報告する。老年期の精神病性うつ病に対して,duloxetineは抗精神病薬の併用療法を施行する前に,単剤投与にてその効果を検討する価値のある薬物である可能性が示唆される。 Key words : senile psychotic depression, antidepressant, duloxetine, serotonin/noradrenaline reuptake inhibitor, augmentation
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第67回 新規作用機序を持った睡眠薬の開発物語──その2-2:世界初のorexin受容体拮抗薬suvorexantの臨床試験から承認まで
20巻2号(2017);View Description Hide Description
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