臨床精神薬理

Volume 20, Issue 3, 2017
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【展望】
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うつ病治療における「真のリカバリー」の考え方の提唱
20巻3号(2017);View Description
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Recoveryとは,精神疾患をもつ者が,たとえ症状や障害が続いていたとしても人生の新しい意味や目的を見出し,充実した人生を生きていくプロセスのことを指す。統合失調症においては,研究ベースで就労や自立生活能力などが必要なのではと考えられているのに対し,うつ病では1991年に設定された症候学的寛解を6ヵ月以上持続するという定義が未だに目安となっている。そこで筆者は,症候学的寛解に加え,就労・就業,QOLや対人関係,当事者の意向や満足度までも包含した「真のrecovery」を提唱した。症候学的な寛解を得るためには,評価尺度を用いて早期反応の有無に注目し,また残遺症状の推移に注意することが望ましい。当事者の声に耳を傾けると,当事者は症状や社会状況よりも前向きさや活力を重要と考え,またQOLや社会機能,対人関係,生活の満足度などが改善していないと自分が寛解したと認識しない。自ら寛解と思う者は,よりポジティブな考えや対処能力を持っており,実際,回復した当事者は,現実的な説明のゴール設定やポジティブな状況を思い出すといった前向きな態度を持つことが重要と指摘されている。社会機能という観点に立つと,維持治療まで行うことも望ましい。当事者の好み・希望を反映させ,満足度が増す治療という観点に立つと,双方向性の意思決定法Shared Decision Making(SDM)なども勧められる。うつ病治療に際しては,こうした要素に配慮し,「真のrecovery」のために当事者の気持に耳を傾けて行っていくべきだろう。 Key words : depression, recovery, remission, social function, shared decision making
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特集【うつ病治療における「真のリカバリー」を考える】
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うつ病を持つ当事者のリカバリーに対する気持ち
20巻3号(2017);View Description
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リカバリーという概念は,1980年代後半のアメリカにおいて,当事者たちが語り始めた活動が発端になっている。日本では,この10年で急速にリカバリーという考え方が広がった。リカバリーの概念はその性質上,統合失調症・うつ病・双極性障害などの疾患を問うものではなく,近年では家族のリカバリーについても語られ始めている。そうした状況の中で,当事者を支援する人たちもその支援の視点として,リカバリーの必要性を掲げ始めている。本稿では,まず日本におけるリカバリーの広がり,リカバリーの性質を概観し,支援者はどのようにリカバリーという考え方に向き合うことが望ましいのかを考察した後,当事者がリカバリーをどのように考えているのか,また,リカバリーという概念の将来的な方向性について考える。 Key words : recovery, process, self-determination, believe -
うつ病の真のリカバリーを目指すに当たっての治療者の心構え
20巻3号(2017);View Description
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いわゆる内因性うつ病の入院での治療が主体であった時代においては,うつ病はエピソード性で自然治癒傾向を有する比較的予後の良い疾患と考えられていたが,多様な病態のうつ状態の患者がうつ病と診断される今日においては,心理社会的機能が病前の状態まで回復せず,慢性化したり双極性の経過を示したりする例が多くなっている。本稿では長期に回復しないうつ病患者の心理や生活実態,病気に対する意識などを示し,可能な限り医者や薬と縁が切れ,多少不安や落ち込むことがあっても自力で立ち直り,普通の生活できることを治療のゴールとして示し,それを目指す上での治療者の役割と注意点を述べた。 Key words : depression, recovery, therapist, resilience -
うつ病の認知機能・社会機能障害に対する薬物療法の効果
20巻3号(2017);View Description
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うつ病における認知機能は,健常者に比し−0.5標準偏差ほど低下している。再燃・再発・治療反応性との関連が指摘されており,自殺関連症状のバイオマーカーとも想定される。さらに,就労を始めとした社会的機能に密接に関連し,患者の回復(recovery)にとって重要である。うつ病の認知機能を改善させる薬物療法としてvortioxetineが注目されている。従来の抗うつ薬と同等の抗うつ効果を有するとともに,認知機能や社会的機能の向上を得られる可能性が示唆されている。非薬物療法としては,非侵襲的脳刺激療法,認知矯正療法なども試みられている。今後,標準的な評価尺度の開発など,臨床実践に向けて,克服すべき課題は少なくない。より効率的に,認知機能の改善を通して,社会的機能の改善にまでその効果を般化させるには,種々の治療的介入を組み合わせるなどして,包括的なリハビリテーションを提供することが望ましい。 Key words : cognitive impairment associated with major depression, vortioxetine, neuromodulation, cognitive remediation -
うつ病患者の社会復帰を考える際に望ましい薬物療法とは
20巻3号(2017);View Description
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うつ病は,疾病によって引き起こされる生活障害(disability)の主要な原因の1つである。近年,休職や失職,労働生産性の低下,さらに自殺を引き起こす要因として社会的に大きな問題となっており,その対策が強く求められている。うつ病の治療において,症状レベルで寛解しても,機能レベルでの回復は容易には達成できないことが報告されており,社会機能の改善を目標とした包括的な介入が求められると同時に,治療薬が惹起する副作用や認知機能障害によって結果的に社会機能を損なわないようにする配慮も求められる。以上を踏まえ,本稿では,うつ病患者の社会復帰において問題となる社会機能障害を概説した上で,厚生労働省が発表している就労可否の判断基準を参照し,社会復帰を考える際に期待される薬物療法について述べる。 Key words : depression, pharmacotherapy, social functioning, absenteeism, presenteeism -
難治性うつ病の記憶のイメージ書き換えを用いた認知行動療法の新しい発展
20巻3号(2017);View Description
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認知行動療法(cognitive behavioral therapy,以下CBTと略す)は,認知(考え)と行動のパターンを再構成することで,悪循環に陥りその程度が過剰に重く長く持続している悲しみや落ち込んだ抑うつ気分,不安などの感情をコントロールすることを目的とした,エビデンスレベルの高い精神療法である。難治性うつ病の「真のrecovery」を考えるにあたって,筆者は,不安のCBTを専門的に研究しているバックグラウンドから,近年,不安のCBTの技法として,特に,トラウマ記憶のイメージ書き換えの技法を難治性うつ病に適用するというsingle-armの臨床研究を行い,現在,投稿準備中である,本稿は,そのような観点での難治性うつ病へのアプローチの紹介を行う。 Key words : psychotherapy, depression, traumatic memory, psychological intervention, cognitive behavioral therapy -
抗うつ薬の効果や副作用を当事者がどのように認識しているか
20巻3号(2017);View Description
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当事者は薬剤の効果を期待し,それがプラセボ効果となることもある。その一方で効果発現への不安や不信,また副作用や依存への懸念も同時に抱く。また副作用への認識や苦痛といった事象は服薬の継続にも関与し,さらに薬剤を介したコミュニケーションや服薬そのものの負担も同様に治療継続へ影響を及ぼす。本稿では,これらの薬剤にまつわる認識を,種々の臨床的な調査を基にして明らかにしていく。 Key words : placebo effect, patients-physicians relationship, discontinuation, coping strategies, drug adherence -
抗うつ薬治療を始める際に当事者に伝えること
20巻3号(2017);View Description
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時間的制約のある診察の中で,抗うつ薬治療を始める際に当事者に伝えることとして,①うつ状態の病態をわかりやすく説明し,抗うつ薬処方への理解を促すこと,②うつ病の治療計画を伝える,③抗うつ薬治療効果と大まかな作用発現期間,回復の仕方を伝える,④抗うつ薬の副作用を伝える,の4つのテーマを提示し,具体例をもとに必須のポイントに絞って解説した。わかりやすい例えを工夫したり,視覚的資料を活用して,治療に関する情報保障を行うことが,うつ病者のメンタルヘルスリテラシーを高め,主体的に治療に参加するきっかけとなる。 Key words : antidepressant medications for children and adolescents, activation syndrome, serotonin syndrome, Antidepressant Discontinuation Syndrome -
うつ病領域におけるShared Decision Making──ホームワーク式SDMのすすめ
20巻3号(2017);View Description
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うつ病の治療法には複数の選択肢がある。薬物療法の中でも効果に大差のない薬剤の選択肢が存在する。選択肢に直面した際,当事者とよく話し合い,本人の価値観や好みに基づいた選択を行うのがshared decision-making(SDM)である。デシジョンエイド(DA)と呼ばれるSDMの支援ツールもあり,選択肢の利点・欠点の双方に言及しているかなど,複数の評価項目から成る国際基準も設けられている。うつ病領域でも,治療選択のDAや復職するか否かを検討する際のDAなどが開発されている。ただ,DAがなくてもSDMは実施可能である。紙に選択肢を箇条書きにするなどし,当事者と見える形で情報共有を図ることから始めたい。筆者らは外来で,対処法・治療法の選択肢を一度持ち帰って考えてもらい,次回の診察で話し合って方針を決めるホームワーク式のSDMを導入している。当事者の主体的な取り組みが可能となるため,リカバリー志向の意思決定法であると考えている。 Key words : shared decision-making (SDM), depression, decision aid, informed preferences, recovery
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症患者における第二世代抗精神病薬のaripiprazole持効性注射剤の受け入れに関する調査
20巻3号(2017);View Description
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統合失調症患者の服薬アドヒアランス不良の問題を改善する方策として,持効性注射剤(Long-acting injection: LAI)が挙げられる。Aripiprazole LAI(ALAI)は第二世代抗精神病薬の1ヵ月製剤であり,その有用性が期待されている。そこで,統合失調症患者150名を対象にALAIに対する受け入れ態度を調査し,患者の背景因子がALAIの受け入れ態度に及ぼす影響について調査した。その結果,36.7%の患者がALAIを試したいと回答し,その主な理由は「4週間に1回投与される方が楽だから」であった。LAI使用患者では受け入れ率が有意に高く,ALAIの受け入れ率とDAI-10(服薬アドヒアランス評価),SAI-J(病識の評価)および家族等から服薬確認されている認識の程度との間にそれぞれ正の相関が認められた。簡便性,服薬確認等の心理的負担,LAIの治療経験,服薬アドヒアランスおよび病識がALAIの受け入れに影響していることが明らかになり,患者のリカバリーを推進していく上でLAIが有用な治療選択肢として貢献できるものと考えられる。 Key words : aripiprazole long-acting injection, adherence, DAI-10, SAI-J, schizophrenia
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【症例報告】
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DaTSCANにより確定診断に至ったパーキンソン病によるうつ病
20巻3号(2017);View Description
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うつ病の薬物療法では,適切な期間,適切な抗うつ薬による治療でも寛解しない治療抵抗性うつ病の一群がある。これには,うつ病発症の機序がいまだ充分解明されていないという生化学・生物学的な面に加え,心理・社会的影響がその背景にあると思われる。しかしうつ病を来す原因疾患の的確な診断が下されず,有効な治療が行われていないことによって生じている症例が,その中に含まれている可能性もある。今回,2種類の作用の異なる抗うつ薬でもうつ状態の悪化を呈し,さらに治療中にパーキンソニズムの合併を認めた症例を経験した。当初Parkinson’s disease(PD)を示唆する画像所見がみられず,薬剤性パーキンソニズムとの鑑別が難しい症例であったが,抗うつ薬の反応性が乏しかったことから,L-dopa製剤を主体に薬剤の調整を行い、その結果うつ病・PD症状とも改善した。DaTSCAN画像は約2年後に,線条体での集積低下があり,その所見と臨床症状の特徴から,PDによるうつ病との確定診断に至った。 Key words : treatment-resistant depression, Parkinson’s disease, levodopa, DaTSCAN
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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