臨床精神薬理
Volume 20, Issue 4, 2017
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【展望】
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身体疾患に診られる精神症状の診断と治療
20巻4号(2017);View Description Hide Description症状精神病の理解と対策研究は,心身相関の研究の中心課題である。われわれ精神科医が身体疾患を学ぶチャンスでもある。近頃,精神科臨床学や医療学が「軽く」なったように感じる。この原因には様々な要因があろうが,先達の驚異的な研鑽による偉業成果への関心や敬意が薄れてきたせいであっては困る。精神医学・医療は重厚でなくてはならない。本稿の主旨の理解には,症状精神病やそれに関連する用語の定義が一律ではないので,歴史的な論議に精通しておく必要がある。症状精神病の特徴は,① 脳以外の身体疾患が基礎になり,脳の関与は二次的であること,②基礎疾患のいかんにかかわらず共通の症状が現れることである。この②の特徴をBonhoeffer Kは外因反応型あるいは外因好発型と記載した。彼は「身体的基礎疾患が原因で発現する精神病像は基礎疾患の種類とは無関係に共通性を有する」と述べた。共通の症状とは急性期ないし亜急性期には意識障害を中心に出現する不安,抑うつ,興奮,幻覚妄想,せん妄,もうろう,けいれん発作,アメンチアなどである。その後,Schneider Kは脳外傷や脳腫瘍,感染あるいは中毒も,「健康な脳」にとっては外因であるので,「身体的基礎のある精神病」という用語を提唱し,外因反応型には脳器質性精神病も包含すべきであると主張した。外因反応型の急性期には意識障害が,また慢性期には知能障害などの認知機能や人格変化が中心病像となる。一方Wieck HHは意識障害がほぼ消失し慢性期の固定した状態に至る中間期の症状を通過症候群と称した。すなわち,意識障害と同様に可逆的でありながらも,もはや「臨床的手段をもっては」意識混濁の存在が把握できない一群の病像の存在を明記したのである。 Key words : symptomatic psychosis, psychosomatic disease, psychosomatic correlation
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特集【身体疾患に見られる精神症状の診断と治療】
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甲状腺機能障害に見られる気分症状と内科的治療
20巻4号(2017);View Description Hide Description甲状腺機能障害の患者数は平成26年の患者調査でも推計45万人,前向きコホート研究をもとに試算すると約800万人と推定される。機能亢進症,機能低下症とも様々な精神症状を呈するが,身体症状が目立たない,あるいは非特異的で多彩であるため,診断確定が遅れ,適切な治療がなされていないことがある。治療が奏効しない精神症状に対しては,本病態を疑って,身体診察や甲状腺ホルモン検査を行うことが必要である。とくに甲状腺機能低下症の場合は,未治療で経過すると不可逆的な認知機能低下を来たすことがある。また最近の話題として,潜在性甲状腺機能異常と身体疾患との関連が注目されている。認知機能障害と関連があるのは,潜在性機能低下よりも機能亢進であるというメタ解析が報告されている。様々なパターンで併存する甲状腺機能障害を正確に診断し,適切な治療につなげることが,精神科の診療でも求められている。 Key words : hyperthyroidism, hypothyroidism, subclinical hypothyroidism -
全身性エリテマトーデス(SLE)による精神障害とステロイド誘発性精神障害
20巻4号(2017);View Description Hide Description多彩な精神症状を呈することが知られている身体疾患のなかでも,全身性エリテマトーデス(SLE)は疾患自体が精神症状をきたすことがあるのに加えて,治療薬である副腎皮質ステロイド(ステロイド)も精神症状をきたすという点でその鑑別がしばしば問題となることがある。SLE患者における精神症状の併発は決して少なくない。しかしながら,SLEまたはステロイドによる精神症状に対して,精神科医が取り得る向精神薬を中心とした治療選択肢については,まだエビデンスの蓄積が十分とは言えず,エキスパートオピニオンに基づくところが多いとされている。またSLEによる精神症状なのか,治療薬であるステロイドによる精神症状なのかを見分けるための検査などについて,報告が増えてきているものの鑑別はしばしば困難である。今後一層の症例と知見の蓄積とそれらに基づく質の高いエビデンスが求められている。 Key words : Neuropsychiatric systemic lupus erythematosus (NPSLE), Corticosteroid-induced neuropsychiatric disorders (CIPD), evidence, pharmacotherapy -
抗NMDA受容体脳炎に見られる精神症状と不随意運動の治療アプローチ
20巻4号(2017);View Description Hide Description辺縁系脳炎は,大脳辺縁系に炎症をきたし,精神症状,けいれん発作,自律神経症状など特徴的な症状を呈する疾患である。近年,辺縁系脳炎の原因として,新たな抗体が同定されるようになり,辺縁系脳炎の疾患概念が変化している。自己抗体が介在する辺縁系脳炎のうち,若年女性に好発する,経過の初期に多彩な精神症状や不随意運動を呈する,免疫療法により改善が期待できる等の特徴的な経過を呈する脳炎が,抗N-methyl-d-aspartate(NMDA)受容体脳炎である。抗NMDA受容体脳炎の疾患概念が提唱されてから約10年が経過し,多くのエビデンスに基づく治療アルゴリズムや診断基準が示されたことにより,適切な治療アプローチが可能となった。抗NMDA受容体脳炎の予後を改善するには,早期発見と治療アルゴリズムに則した適切な治療介入が非常に重要であり,抗体検査が必要な症例を的確に判断し,精神科と神経内科が協力して治療に臨むことが何より大切である。 Key words : anti-NMDA receptor encephalitis, anti-GluN1 antibodies, immunotherapy, diagnostic criteria, involuntary movement -
パーキンソン病・レビー小体型認知症にみられる精神症状とその治療的アプローチ
20巻4号(2017);View Description Hide Descriptionパーキンソン病(PD),認知症を伴うパーキンソン病(PDD),レビー小体型認知症(DLB)の非運動症状のうち,精神症状はクオリティ・オブ・ライフ(QOL)に大きな影響を与えることが多く,それらを理解することは病態の理解および治療的介入に重要である。本稿では,PD,PDD,DLBで見られる精神症状のうち,比較的よく見られる,認知機能障害,気分障害(抑うつ・アパシー),幻覚・妄想および衝動制御障害(ICD)・ドパミン調節異常症候群(DDS)に関して,概要および治療アプローチについて述べた。 Key words : Parkinson’s disease, Dementia with Lewy bodies, impulse control disorders, dopamine dysregulation syndrome, Parkinson’s disease with dementia -
腎不全(特に透析)患者に見られる精神症状とその治療的アプローチ
20巻4号(2017);View Description Hide Description透析患者には頻繁にさまざまな精神症状・精神疾患が生じる。特に重要な症状は,抑うつ症状や不安などの感情症状,睡眠障害,認知症とせん妄,治療ノンアドヒアランスなどである。精神症状の主な原因は,透析に関係する心理社会的ストレス因子と身体的な不調である。精神症状は,患者の苦痛になるばかりではなく,透析の実施を妨げ,患者の身体的状態にも悪影響を与える。精神症状の治療とケアには,薬物療法と非薬物療法がある。このときに,透析患者の心理社会的ストレス因子と身体的な不調,向精神薬の腎不全・透析に関係する薬物動態の特徴などに関する一般的知識をもつことが重要である。 Key words : hemodialysis, mental disorders, treatment, pharmacodynamics, psychonephrology -
肝障害に併発する精神症状とその治療的アプローチ
20巻4号(2017);View Description Hide Description肝障害をきたす一部の代謝疾患は,中枢神経障害を併発し精神症状が出現する。こうした代謝疾患は病初期に精神症状が出現し精神科を受診することがあるが,一般生化学検査等で明らかな肝機能障害が見出されないこともあり,初期診断を難しくしている。本稿では,肝障害をきたす代謝疾患のうち,精神科医が主にかかわる時期に重篤な肝機能障害が見られづらい神経/肝神経型Wilson病と急性ポルフィリン症の病態生理,精神症状とその神経基盤を概説した。さらにその治療的アプローチについて考察した。神経/肝神経型Wilson病は,神経症状がない場合若年者の気分障害などと間違われることがあり注意が必要である。急性ポルフィリン症の精神症状については発作期に脳血管障害を基盤とした脳症に二次的に生じる可能性があり注意が必要であると考えられた。 Key words : acute porphyria, Wilson’s Disease, psychiatric symptom -
がん患者の不安・抑うつ・せん妄とがん性疼痛に対する精神医学的アプローチ
20巻4号(2017);View Description Hide Descriptionがん患者の約半数に何らかの精神症状がみられ,適応障害,うつ病,せん妄の頻度が高い。適応障害の治療の中心は,背景に存在する身体因を含めた包括的な症状緩和と支持的精神療法であるが,中等症以上のうつ病に対しては抗うつ薬も併用されることが多い。せん妄治療の原則は,原因の同定とそれに対する治療であり,抗精神病薬が対症療法として用いられる。これらがん患者にみられる精神症状は,患者自身に苦痛をもたらす症状であるのみならず,抗がん治療に対するアドヒアランスの低下,家族の精神的負担の増大など,多岐にわたる問題に影響を与えうることが明らかにされており,がん患者の精神症状に積極的に対応することで患者・家族のQOL維持・向上が期待される。その他本稿では,抗がん剤投与によって生じる心理学的メカニズムがその発現に関連する予期性悪心・嘔吐とがん性疼痛を有する患者に対する精神医学的アプローチについても概説した。 Key words : psycho-oncology, depression, anxiety, delirium, pain
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【シリーズ】
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【原著論文】
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日本人及び中国人成人てんかん患者に対する新規抗てんかん薬lacosamide併用療法の忍容性:二重盲検比較試験及び非盲検継続試験結果の二次解析
20巻4号(2017);View Description Hide Description部分てんかん発作を有する日本人及び中国人患者を対象としたlacosamide(LCM)併用療法の有効性及び安全性を評価する二重盲検試験及び継続投与試験のデータを用い,従来のナトリウムチャネル遮断薬(SCB)併用の有無(SCB群/NSCB群)により,又増量法の違いによりLCMの忍容性が異なるかを検討した。二重盲検試験では目標用量へ強制増量し,継続試験では医師の判断で用量調整を可とした。二重盲検試験では,投与中止に至った全有害事象及び浮動性めまいの発現率は共に増量期のSCB群のLCM 400mg群で最も高かった(それぞれ12.9%,10.2%)。継続試験では,投与中止に至った全有害事象の発現率はSCB群2.2% 対NSCB群3.7%,投与中止に至った浮動性めまいはLCM投与後16週間を経てもSCB/NSCB群ともに発現せず,LCMを緩徐に増量することにより忍容性が良好に保たれる可能性が示唆された。 Key words : adjunctive therapy, lacosamide, partial-onset seizure, tolerability, sodium channel blocker
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【紹介】
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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