臨床精神薬理
Volume 20, Issue 5, 2017
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【展望】
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日本うつ病学会うつ病治療ガイドライン作成経緯と問題点,そして今後の展望
20巻5号(2017);View Description Hide Description2012年に日本うつ病学会より発表されたうつ病のガイドラインが,2016年7月,アップデートされた。このアップデートにより,休養,児童・思春期のうつ病,うつ病における不眠についての記載が加わった。このガイドラインの記載内容は,Evidence Based Medicine(EBM)に基づく記載が中心でありながら,コンセンサスに基づく意見も併記する形であった。しかし,単なるエキスパートコンセンサスに過ぎない,日本医療機能評価機構(MINDS)の基準に則っていない,軽症例でも薬物療法をもっと推奨すべき,薬物間の比較がなく臨床上参考になりにくい,うつ病に至らない閾値下のうつや適応障害について扱っていない,等々さまざまな批判を受けた。今後は,高齢者や社会機能・QOLなどにも焦点を当て,現在目安となるものが存在しない就労及び復職に関する指針の作成,さらにはコメディカルスタッフや当事者向けのガイドラインも必要となるかもしれない。また,現在紹介されている研究のほとんどが海外のものであるが,特に治療選択にあたってはわが国の医療事情下におけるエビデンスが必要であり,その結果をガイドラインに加える必要があると考える。さらに,現時点においてガイドラインの記載内容が広く周知され,それによりわが国のうつ病治療の質が向上したとは残念ながら言い難い。よって,このガイドラインが現場に浸透しより実践されるような働きかけが必要と考え,現在各地において講習会を実施中である。 Key words : depression, treatment guideline, training session
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特集【気分障害治療ガイドラインupdate】
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うつ病急性期治療ガイドラインについて──海外との比較と合わせて
20巻5号(2017);View Description Hide Description診療ガイドライン(GL)とは,専門家集団によって作成された推奨であり,医療の有用性と効率の向上を目指すものである。本稿ではうつ病急性期治療について,国内GL(日本うつ病学会,2016改訂版)の概略を述べつつ,近年の海外の各種GLを紹介し,比較を行った。いずれのGLも,適切な診断,治療計画の策定,患者の重症度を踏まえた治療選択,治療関係,ベンゾジアゼピン系薬剤を安易に使用しないこと,双極性障害の可能性への考慮などの重要性を指摘しており,共通する部分は多い。その一方で,補完代替療法,各種抗うつ薬,増強療法時の併用薬,薬物療法以外の身体的治療,精神療法などにおいて,推奨内容の差が見られるなど,姿勢・思考法の差異も存在する。また患者とのコミュニケーションや双方向的意思決定,双極性障害の既往を探索する際の問診法などについて,国内GLの独自性を認めた。我々の臨床に異なる視点からの示唆を得るという点で,海外GLの検討は有用であると考えられた。 Key words : major depressive disorder, treatment guideline, therapeutic alliance, pharmacotherapy, psychotherapy -
うつ病維持療法ガイドライン
20巻5号(2017);View Description Hide DescriptionAPA,WFSBP,NICE,CANMAT,日本うつ病学会のうつ病治療ガイドラインの維持療法について比較した。維持期の薬物療法については急性期に効果のあった薬剤をそのままの量で4〜9ヵ月継続することを全てのガイドラインが推奨している。認知療法や認知行動療法が再燃再発の予防に有効である。再燃再発のリスクとして頻回のエピソードや残遺症状が共通して挙げられている。再燃再発のリスクが高い患者では2年以上の維持療法を行うことも各ガイドラインが推奨している。終了期には中断症候群に注意して慎重に抗うつ薬を漸減中止する。日本うつ病学会のガイドラインは日本の現状に即した臨床的な記載が多く,うつ病治療に関わる多くの医師にとって役立つ内容と思われた。多くの精神科医がこのガイドラインを利用することでうつ病の適正な治療が均てん化されることを期待したい。 Key words : depression, guideline, maintenance, relapse, recurrence -
児童思春期のうつ病の治療ガイドライン
20巻5号(2017);View Description Hide Description従来,児童思春期の患者に成人と同様の基準で診断できるようなうつ病は存在しないと考えられていたが,児童思春期においても成人の診断基準を満たすうつ病が存在することが明らかになった。最近の疫学的報告では,12歳以降は成人の発症率と大きな違いがないことが明らかになってきている。そのため,近年日本においても児童思春期のうつ病が注目され,診断される症例が増えてきているが,一方で必ずしもこどものうつ病は適切に診断され,エビデンスに基づいた治療が行われているとは限らない。児童思春期のうつ病は,年齢により表出される症状に違いがあり,薬物への反応も成人と異なり三環系抗うつ薬が無効であったり,自殺関連行動が認められたりと成人とは異なる非定型的な反応を示すことが知られている。したがって,児童思春期のうつ病を考える際には,発達的な要因を考慮し,その特徴に配意しながら診断・治療を行うことが重要である。今回,うつ病学会で作成された児童思春期のうつ病のガイドラインを概説する。 Key words : child, adolescent, depression, guideline, treatment -
うつ病の睡眠障害の治療ガイドライン
20巻5号(2017);View Description Hide Descriptionうつ病では高率に睡眠障害が認められることは広く知られており,操作的診断基準においても不眠ないし過眠は診断項目として位置づけられている。その悪化や改善はうつ病の治療経過を見る上でも重要である。近年,うつ病の不眠に対する治療的介入によりうつ病の治療経過に与える影響を調査した臨床試験の結果が報告され,その治療上の重要性が注目されるようになった。こうしたことを背景に,「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害 2016」においては,「うつ病患者の睡眠障害」が独立した項目として位置づけられた。ガイドラインでは,これまで行われてきた研究から得られたエビデンスを元に,睡眠衛生指導,不眠症に対する認知行動療法,薬物療法,鑑別すべき原発性睡眠障害といった項目別にガイドラインが策定された。本稿では諸外国のうつ病ガイドラインにおける睡眠障害の位置付けをまとめ,本ガイドラインの要点を概説する。 Key words : depression guideline, sleep disturbance, sleep hygiene education -
双極性障害治療ガイドライン:躁病エピソード
20巻5号(2017);View Description Hide Description日本うつ病学会の双極性障害治療ガイドラインは2011年3月10日に作成された。その後,2012年7月10日に第1回改訂を行い,2012年3月31日に第2回改訂を行った。そして,2016年12月に第3回改訂の指示が出たところである。本稿においては,執筆時点で第3回改訂の内容が確定していないために,第2回改訂版を「成人の双極性障害に対する,国際神経精神薬理学会の臨床ガイドライン」(CINP-BD-2017)と比較した。その結果,第2回改訂版が気分安定薬の方を非定型抗精神病薬よりも優先しているのに対し,CINP-BD-2017では非定型抗精神病薬の方を気分安定薬よりも優先していた。この背景には,第2回改訂版では急性期躁病のみならずその後の再発予防にも役立つ薬物を選択すべきという立場からlithiumなどの気分安定薬が優先されたが,CINP-BD-2017では急性期躁病に非定型抗精神病薬が気分安定薬よりも上位にランクされるネットワークメタ解析の結果が影響していると考えられた。 Key words : bipolar disorder, manic episode, mood stabilizer, atypical antipsychotics, guideline -
双極性障害治療ガイドライン:うつ病相(双極性うつ病)
20巻5号(2017);View Description Hide Description2010(平成22)年以降に国内外で公開された双極性障害の治療ガイドラインのうち,生物学的精神医学会世界連合(WFSBP),日本うつ病学会,カナダ気分・不安治療ネットワーク(CANMAT)と国際双極性障害学会(ISBD),英国国立医療技術評価機構(NICE),王立オーストラリア・ニュージーランド精神科医協会(RANZCP),英国精神薬理学会(BAP)から公表された6つの双極性障害の治療ガイドラインにおいて推奨されている双極性うつ病の薬物療法について概説した。Quetiapineは,すべての治療ガイドラインにおいて,双極性うつ病急性期の治療における第一選択薬として推奨されていた。また,lithium,olanzapine,lamotrigine,lurasidone(本邦未発売),バルプロ酸は,2つ以上の治療ガイドラインにおいて,第一選択薬として推奨されていた。すべての治療ガイドラインで,抗うつ薬単独での治療は推奨されていなかった。 Key words : guideline, bipolar disorder, depressive state, bipolar depression -
双極性障害治療ガイドライン:維持療法
20巻5号(2017);View Description Hide Description双極性障害は,再発再燃をきたしやすい疾患であるため,寛解期においても,維持療法を継続することが,きわめて重要である。従来,lithiumが標準的な治療薬として用いられてきたが,近年,新しい薬剤の有効性が示されており,それらの結果を踏まえて,双極性障害維持療法の治療ガイドラインが公開されている。これらガイドラインでは,忍容性に注意は必要であるとしながらも,共通してlithiumを第一選択薬として推奨しているが,それ以外の推奨薬剤については,異なった解釈が示されている。また,長期間にわたり薬物療法を継続する必要があるため,体系的な安全性モニタリングが推奨されている。加えて,構造化された心理教育や精神療法についても,薬物療法と併用することが重要であると強調されている。本稿では,日本うつ病学会のガイドラインを中心として,諸外国のガイドラインと比較し,双極性障害維持薬物療法のエッセンスを概説する。 Key words : long-term treatment, bipolar disorder, clinical practice guidelines -
気分障害治療ガイドラインの普及について
20巻5号(2017);View Description Hide Description2016年6月日本うつ病学会は大うつ病性障害治療ガイドライン改訂版を発表した。その序文のなかで明記されているように,このガイドラインは精神科専門医,精神科以外の医師やかかりつけ医,その他医療従事者,患者,家族に広く読まれ,活用されることを目指している。例えば,看護師,患者やその家族がガイドラインを理解していることによって,短い外来診察で精神科主治医が見落としてしまうような重要な情報がもたらされ,診断の見直しや治療方針の修正の参考になる可能性がある。本稿では精神科医療に関わるそれぞれの立場において,ガイドラインがどのように有用であるかを改めて考えることによって,これを広く普及する意義を再確認してみたいと思う。現在ガイドラインがどの程度現場に普及し,現場の臨床がどのように変わりつつあるか,という検証作業は,精神科領域では不十分であったが,こうした課題に取り組むプロジェクトも始まっており,本稿で紹介しておきたい。 Key words : guideline, major depressive disorder, bipolar disorder, antidepressant
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【シリーズ】
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新シリーズ 精神科薬物療法pros and cons 非寛解うつ病に対して切替えか,併用か,増強か:薬理学的作用機序を証明することの重要性
20巻5号(2017);View Description Hide Description -
新シリーズ 精神科薬物療法pros and cons 非寛解うつ病に対して切替えか,増強か──高齢者の非寛解うつ病で考えておきたいこと
20巻5号(2017);View Description Hide Description
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【総説】
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近年の抗うつ薬の国内臨床試験におけるプラセボ反応性──そこからみる臨床試験の課題と将来展望
20巻5号(2017);View Description Hide Description近年のSSRI,NaSSA,SNRIなどの新規抗うつ薬の導入により,うつ病に対する薬物治療の選択肢が広がった。しかし,今なおアンメットニーズが存在しており,既存の抗うつ薬の適正使用についてさらなる検討を行うとともに,新たな治療薬の開発にも積極的に取り組んでいく必要があると考える。新規抗うつ薬の開発にあたり,プラセボ対照試験により実薬のプラセボに対する優越性を示すことが必要である。しかし,うつ病領域でのプラセボ反応性は高く,プラセボとの優越性を示すことは容易ではない。本稿では,近年行われた5種類の抗うつ薬の国内プラセボ対照試験の結果から,プラセボ反応性を高める要因を考察するとともに,各臨床試験の特徴と今後の課題について議論し,抗うつ薬のさらなる開発に向けて検討した。 Key words : antidepressant, placebo response, clinical trial, HAM-D, MADRS
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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