臨床精神薬理
Volume 20, Issue 6, 2017
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
発達障害に対する薬物療法のアンメットニーズとは何か
20巻6号(2017);View Description Hide Description発達障害で社会適応に問題を呈するのは,発達障害特有の症状が極端に強い場合と,他に何らかの問題,とくに情緒的異常が併存する場合である。抗ADHD薬は前者を治療目標とし,自閉スペクトラム症(ASD)の易刺激性に対する非定型抗精神病薬は後者を治療目標としている。臨床の現場で薬物療法の需要が最も高いのは,発達障害の症状そのものよりも併存する情緒的異常であるが,これらの治療では環境調整等の心理・社会的アプローチも欠かせない。特定の生物学的要因が同定された発達の異常では,その要因の治療法の開発が期待される。ASDでは幅広い領域において発達の仕方そのものが通常と異なると思われ,心理的ストレスやトラウマによる情緒面への影響も通常と異なっている可能性がある。その神経生物学的基盤を解明し,それに対応した治療法を開発することが,今後の研究に求められる。 Key words : neurodevelopmental disorders, pharmacotherapy, autism spectrum disorder, attention-deficit / hyperactivity disorder
-
-
特集【発達障害に対する薬物療法の新展開】
-
-
自閉スペクトラム症中核症状に対する治療薬開発──オキシトシン経鼻剤とマルチモダリティ脳画像解析の応用
20巻6号(2017);View Description Hide Description社会的コミュニケーションの障害などの自閉スペクトラム症中核症状に対する治療方法は現在の医学のレベルでは確立できていないのが現状である。本稿ではオキシトシン経鼻投与の効果を臨床評価に加えてマルチモダリティ脳画像解析による脳機能変化として検出する医師主導臨床試験による,この中核症状治療薬の開発過程について紹介する。また,治療開始前の遺伝子情報による治療後の転帰予測の可能性を示す研究成果についても触れたい。こうした本邦初の研究成果によって,できる限り早く自閉スペクトラム症当事者のために新規治療薬の実用がなされることが望まれる一方で,臨床的に意義の高い効果についての確認,最適な用量や用法の設定,特に幼少児期における長期投与の安全性の是非,内因性オキシトシンの分泌を促す方法への期待など,オキシトシンを自閉スペクトラム症中核症状の治療薬として実用するためにはまだ検討するべき点が多く残されている。 Key words : endophenotype, neuroimaging, neuropeptide, surrogate endpoint -
自閉スペクトラム症の易刺激性・興奮性の位置づけと薬物療法
20巻6号(2017);View Description Hide Description自閉スペクトラム症における易刺激性は,患者の適応行動を妨げる最も重要な臨床症状の1つであり,薬物療法のターゲットとして検討がなされてきた。しかし,その生物学的背景は必ずしも明確ではない。日常的に緊張度が高いことや,環境刺激へのフィルタリングの弱さ,社会的情報の読み取りの困難,感情調整の困難,認知的再評価の困難とネガティブ情動,問題解決スキルの不足などが関与することが示唆されている。本邦ではrisperidoneとaripiprazoleが承認されているが,至適用量は広範であり,適切な臨床評価をしながら至適用量を見いだす必要がある。同時に,適切な副作用のモニタリングも大切であるが,易刺激性の強い患者ではときに検査実施が困難なこともある。特に,自閉スペクトラム症の患者では副作用の言語化が困難であること,体重増加などを来しやすいことに留意する必要がある。 Key words : autism spectrum disorders, irritability, psychopathology, risperidone, aripiprazole -
Guanfacine徐放性製剤登場後の注意欠如・多動症の薬物療法
20巻6号(2017);View Description Hide DescriptionGuanfacineはα2受容体作動薬であり,従来それらはシナプス前神経終末から放出されるノルアドレナリン量を減少させることで交感神経系の出力を抑制すると考えられてきた。しかしα2受容体作動薬の代表薬であるclonidineに比べてguanfacineはα2A受容体に高い選択性を持つため,前頭前野での入力シグナルの消失を防ぐことを特徴として持っている。それにより前頭前皮質機能の向上が見込まれると考えられる。Guanfacine徐放性製剤(GXR)のADHDに対する効果検証に関してはプラセボ対照二重盲検試験等が実施されており,有意に改善を及ぼすものと考えられている。また中枢刺激薬とGXRとの併用の方が,中枢刺激薬単剤よりも有意にADHD症状を改善させるとの研究報告も認めている。以上の点を踏まえると,今回のGXRの登場はADHD治療における選択肢を広げるという点では,久々かつ期待されうる状況と考えられる。 Key words : guanfacine, a2receptor agonist, ADHD, pharmacotherapy -
今後開発が期待される注意欠如・多動症の治療薬
20巻6号(2017);View Description Hide Description小児期発症の発達障害である注意欠如・多動症(ADHD)患者が抱える日常生活での機能障害は深刻であり,しばしば成人期まで症状が持続して社会生活上の多くの困難をきたすことから早期の介入と治療による症状改善が必要とされている。心理社会的療法に加え,薬物療法は有効な治療手段であるが,国内で承認されたADHD治療薬はmethylphenidate徐放錠とatomoxetineのみであり,諸外国に比べて十分に整備されている状況とは言えない。今後国内でも欧米のように複数の治療薬による選択の幅が広がることが期待されており,成長期の児童・青年に対してより安全で効果が期待できる新規ADHD治療薬の早急な開発が望まれている。薬剤の特性に応じたADHD治療薬の使い分けは重要なトピックになると考える。本稿では2017年3月に新規に販売承認されたguanfacine徐放錠や承認申請中の薬剤の他,今後開発が期待される薬剤をエビデンスとともに紹介し概説する。 Key words : attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD), pharmacotherapy, dasotraline, tipepidine -
発達障害に併存する気分変動の評価と治療
20巻6号(2017);View Description Hide Description近年,発達障害を基盤にした気分変動が臨床的に注目されている。発達障害に併存する気分変動には,発達障害の特性を踏まえた治療戦略が必要である。本稿では,発達障害に気分変動が発症する要因について解説し,症状を評価する上での注意点や治療法について考察する。発達障害と気分障害の併存例には多種多様な要因によってさまざまな状態を呈するケースが含まれるため,画一的な対応では症状の改善は見込めない。現存するエビデンスを参考にしつつ,症例ごとに気分変動が生じた原因を探索して問題点を整理し,試行錯誤しながら治療目標に向けて最適な方法を見つけていく姿勢が臨床家に求められる。 Key words : neurodevelopmental disorder, autism spectrum disorder, attention deficit/hyperactive disorder, depression, bipolar disorder, disruptive mood dysregulation disorder -
Tourette症に対する薬物療法のエビデンスと治療ガイドライン
20巻6号(2017);View Description Hide DescriptionTourette症は運動チックと音声チックを有する持続性(慢性)チック症で,神経発達症群に含まれる。近年はTourette症の治療に関するシステマティック・レビューが多く報告され,各国のガイドラインも発行されるなど,治療のエビデンスが蓄積されてきている。Tourette症の治療は,家族ガイダンス,心理教育および環境調整を基本として,重症度に応じて薬物療法を加える。薬物療法は,チックと併発症状を総合して治療の優先順位をつけて行う。海外のエビデンスと我が国のエキスパートオピニオンを踏まえると,チックに対しては,aripiprazoleが有力な選択肢となりうる。α2アドレナリン受容体作動薬は,我が国ではあまり使用されていないが,特にADHDを併発するTourette症に対して今後検討されよう。患者一人ひとりの状態を的確に把握し,それに応じた薬物療法を行うことによって,患者の生活の質の改善が期待される。 Key words : Tourette’s disorder, tics, tic disorders, comorbidity -
成人期ADHDは小児と同様の病態なのか? 同様に治療可能なのか?
20巻6号(2017);View Description Hide Description従来,成人期にみられる注意欠如多動症 (ADHD)は,小児期のADHDからの移行を前提として考えられてきた。しかし近年になって,長期の前向きコホート研究の結果が報告されはじめ,その連続性は従来主張されているより小さいのではないかとの結果が相次いでいる。また青年期・成人期以降に初めて診断基準を満たす遅発型の事例があることが,複数の研究などから明らかになり,大きな衝撃をもって受けとめられた。しかし成人期発症群に関する研究はいまだ充分ではなく,その概念や診断基準も未整備である。本稿では小児期と成人期のADHDの症候の差異,また診断の移行と新規発症に焦点を当てた発達的経過,成人期のADHD 治療について概観し,現時点でADHDの成人期発症概念に対して,どのような姿勢を取るべきか考察を行う。 Key words : ADHD, adult-onset, symptoms, pharmacotherapy -
小児期発達障害の薬物療法で求められるインフォームド・アセント
20巻6号(2017);View Description Hide Description児童・青年期患者における治療の意思決定においては,保護者の代諾のみでは不十分であり,患者からアセントを求めることが必要であると考えられるようになった。既存のガイドラインでは,年齢との関係は議論されてきたが,発達障害などの精神障害がアセント能力に与える影響について十分に検討されて来なかった。医師は,発達障害特性に応じたアセント能力の制限と,その特性に応じた説明やアセント取得の工夫が必要であると考えられているが,その方法は医師の裁量に委ねられており,ガイドライン等においていまだ定式化されていない。そのようななかでも,平易な表現,視覚化,具体化,自由な意思決定の尊重など,いくつかの工夫が可能である。しかし,それが治療の受け入れを円滑にするだけではなく,真のアセントたり得ているかが重要であり,この点についてさらに検討が求められる。 Key words : informed assent, pharmacotherapy, neurodevelopmental disorders -
小児期発達障害の薬物療法において求められる副作用モニタリング
20巻6号(2017);View Description Hide Description発達障害,特に自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症への関心が高まっている。いずれにおいても抗ADHD薬や自閉スペクトラム症の易刺激性への適応拡大となった抗精神病薬の登場もあり,小児期の発達障害への薬物療法も変革の時代を迎えている。しかしながら,実際の臨床では小児期の発達障害に対して様々な向精神薬が使用されているのが現状である。臨床医はそれぞれの薬剤の特性と小児期だからこそ気をつけておくべき副作用に関する知識を十分に身につけるべきである。小児期発達障害への薬物療法を開始前と開始後に,身長・体重測定,血圧測定,心電図,脳波,血液検査を必要に応じて定期的に行うことが望ましい。そして,小児期には治療者・患者関係・親子関係・子どもの治療意欲など子どもを取り巻く様々な心理社会的な要因がプラセボ効果だけでなく,ノセボ効果をもたらすことを忘れてはならない。 Key words : child, pharmacotherapy, adverse effect, antipsychotic, antidepressant, stimulant
-
-
【シリーズ】
-
-
-
【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
-
-
第71回 新規抗てんかん薬の開発物語──その3:抗マラリア薬開発の中から創成されたlamotrigine(1) Lamotrigineの発見から抗てんかん薬として大成するまで
20巻6号(2017);View Description Hide Description
-