臨床精神薬理
Volume 20, Issue 7, 2017
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【展望】
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神経症性障害:疾病概念と治療の歴史的変遷──特に本邦におけるパニック症を中心として
20巻7号(2017);View Description Hide Description日本のパニック症(PD)の歴史は,1686年世界で初めて桂州甫が「驚悸」と記載した。江戸期のPDはそれほど稀ではない。近世のパニック症の精緻な記載は,森田正馬の「発作性神経症」であり,その「説得療法」は特記すべきである。その後,1961年世界初のベンゾジアゼピン系抗不安薬が日本で発売された頃には「不安神経症」の病名が流布していた。2000年paroxetineがPDの健康保険適応薬として記載されPDの本邦での公式認可となった。 Key words : Japanese History, panic disorder, Kyouki (frightened heart), Morita’s paroxysmal neurosis, SSRI era
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特集【神経症性障害治療における薬物療法の位置づけ】
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パニック症治療における薬物療法の位置づけ
20巻7号(2017);View Description Hide Description本稿では,「パニック症(PD)治療における薬物療法の位置づけ」と題して,まずPDに薬物が用いられるようになった経緯に関して述べてから,これまでに発表されているPDに関する治療ガイドラインを概観し,PD治療における薬物療法の位置づけについて検討した。そして最後に,より実践的な立場からPDの薬物療法に関して筆者らの考えをまとめた。その位置づけについて端的に言うと,“薬物療法と認知行動療法(CBT)のPD治療における位置づけは同等であるが,CBTの環境が不十分であるわが国の現状では薬物療法の位置づけが高くならざるを得ない”,ということになる。そんな中で朗報なのは,2016年度の診療報酬からうつ病などの気分障害に加えてPDを含めた不安症への適応が拡大されたことである。欧米諸国と同等のPD治療を提供できるよう,さらなるCBT治療の環境整備を期待したい。 Key words : selective serotonin reuptake inhibitors, benzodiazepines, cognitive behavioral therapy, consensus guideline, algorithm -
社交不安症治療における薬物療法の位置づけ
20巻7号(2017);View Description Hide Description社交不安症は,他人の注視を浴びるかもしれない状況に対して顕著で持続的な恐怖感を抱き,自分が恥をかいたり,恥ずかしい思いをしたり,拒絶されたり,他人に迷惑をかけたりして否定的に評価されることや不安症状を呈することを恐れる病態であるとされる。このため,恐怖している社会的状況を回避し,引きこもることもみられ,学業や職業上,日常生活に支障をきたす。薬物療法としては,多くのRCTおよびメタ解析の結果からSSRIsが第一選択薬と考えられ,1年程度の長期投与で60〜70%程度は治療反応性がみられる可能性がある。最初に投与したSSRIにより治療効果が不十分な時は,SSRI同士での変更や増強療法,他の有効性が報告されている薬物療法への変更などの工夫が必要と思われ,可能であれば認知行動療法の追加などが考慮される。また,他の精神疾患の併存にも十分配慮し,治療を行うことも重要である。 Key words : social anxiety disorder, pharmacotherapy, psychotherapy, selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs), cognitive behavioral therapy -
全般不安症治療における薬物療法の位置づけ
20巻7号(2017);View Description Hide Description全般不安症(generalized anxiety disorder:GAD)は,慢性的にコントロールできない心配(予期憂慮)によって,睡眠障害,筋緊張などの身体症状や集中困難をきたす障害で,深刻な社会的・職業的機能障害,他の精神疾患とのcomorbidity,自殺の危険性の増大につながると考えられている。しかし,臨床の現場での認知度は未だに低く,実際に患者が臨床の場に訪れることは少なく,受診に至っても的確に診断されずに他の疾患として治療されている場合も多い。ここでは,GADの治療における薬物療法の位置づけに関して述べる。結論としては,GADを治療するには,多元的アプローチが必要であり,薬物療法はあくまでもそのアプローチの1つにすぎないと考えたほうが良いかもしれない。 Key words : generalized anxiety disorder, pharmacotherapy, treatment, remission -
強迫症(OCD)治療における薬物療法の位置づけ
20巻7号(2017);View Description Hide Description強迫症(OCD)治療の第一選択はSSRIであるが,多くの場合は部分的改善に留まり,時に非定型抗精神病薬による増強療法を要する。またSSRIにより強迫症状や切迫した不安状態が軽減しても,習慣化した強迫行為や回避の改善は難しく,CBTを併用する必要がある。これを縦断的に見れば,OCD治療全体における薬物療法の位置づけには,大きく分けて2つの側面がある。1つは治療開始後の出来るだけ早い段階で,強迫症状やうつ病など併存症の軽減を図ると伴に,治療効果を実感させ,治療的動機づけを高めてCBTへの導入を促すことであり,その中でより早期に寛解の達成を図っていく。もう1つはCBTの継続や完遂を支持し,再発予防を強化するという点であろう。しかし現行の薬物療法の限界も明白であり,今後はその進展が期待されると伴に,CBTを含めその終結を目指すための治療プロセスの標準化が望まれる。 Key words : obsessive-compulsive disorder, pharmacotherapy, selective serotonin reuptake inhibitor, cognitive behavioral therapy, outcome -
PTSD治療における薬物療法の位置づけ
20巻7号(2017);View Description Hide DescriptionPTSDの主要な治療法は心理療法と薬物療法である。それらのうち最もエビデンスレベルが高く,主要なガイドラインで第一推奨治療とされているのはトラウマ焦点化心理療法である。薬物療法は概ね,それに次いで第二選択と位置づけられている。そのため実施可能な場合にはトラウマ焦点化心理療法がまず検討されるべきであるということになるが,この治療技法は現在のところ十分に普及していないこともあり,臨床現場ではSSRIsなどによる薬物療法が行われていることが通例である。一方で,RCTのような臨床試験と実臨床では状況に異なる部分も多く,重症例や併存精神疾患のある例など,実際の治療場面では薬物療法によって一定の改善が得られるPTSD患者が少なからず存在することもまた事実である。薬剤の中では,PTSD治療の適応承認を取得しているparoxetineとsertralineに加え,venlafaxineの有効性が示されている。合併疾患や症状によってはmirtazapineや非定型抗精神病薬も考慮されうる。 Key words : posttraumatic stress disorder (PTSD), pharmacotherapy, selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs), serotonin-noradrenaline reuptake inhibitors (SNRIs), trauma-focused psychotherapy -
児童青年期の不安症治療における薬物療法──抗うつ薬を中心に
20巻7号(2017);View Description Hide Description不安症は幼児期から青年期にかけて発症することが多く,その子どもの人生に重大な影響を与える。米国精神医学会の診断基準であるDSM-5において,不安症に分類されている精神障害のうち,分離不安症,全般不安症,社交不安症に対して,選択的セロトニン再取り込み阻害薬,ノルアドレナリン/セロトニン再取り込み阻害薬などの抗うつ薬の有効性と安全性が検討されており,出版された研究に限ると,抗うつ薬の短期的な有効性は高い。本邦では不安症は診断されることが少なく,不安症を発症した子どもやその家族は標準的治療へのアクセスを得られにくい状況にある。本稿では,不安症が診断されない理由について考察し,慢性の不安を呈した児童や青年において,どのような場合に抗うつ薬を使用すべきか,文献的に検討した。抗うつ薬の有効性や安全性について,患児や家族と共有し,その価値観を尊重して治療選択肢を吟味するのが望ましい。 Key words : anxiety disorder, child, adolescent, antidepressant, psychotherapy
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【シリーズ】
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【原著論文】
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新規抗てんかん薬perampanelの初期使用経験──難治性てんかんにおける有効性と副作用の検討
20巻7号(2017);View Description Hide DescriptionPerampanel (PER) はAMPA型グルタミン酸受容体選択的阻害型の新規抗てんかん薬であるが,2016年5月の発売以来57例を経験した。年齢構成は12-61歳で,36例(63.2%)は症候性局在関連てんかんであり,21例 (36.8%) は症候性全般てんかんであった。57例中34例にてんかん外科の既往があった。ほとんどの患者は複数の抗てんかん薬を併用しており,平均併用薬剤数は3剤であった。PERの用量は様々であり1〜12mgまで分布していた。有害事象で主なものは眩暈・傾眠・興奮または攻撃性であった。11例(19.3%) で発作消失,15例(26.3%)は50%以上の発作頻度減少を認めた。PERを選択した理由は,他剤で発作抑制が不十分でありAMPA受容体拮抗薬という新規作用機序である点を考慮したためであった。難治性てんかんにおけるPERの併用療法において,良好な発作抑制効果とその使いやすさが明らかとなった。 Key words : perampanel, anti-epileptic drug, epilepsy, seizure, add-on treatment
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【資料】
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せん妄の薬物療法に対する治療者の意識調査
20巻7号(2017);View Description Hide Description当院におけるせん妄に対する処方調査から非鎮静型抗精神病薬の使用率が高いことが判明した。最終的な投薬判断は看護師を通して医師が行うことが多く,非鎮静型抗精神病薬の使用が全国と比較しても多いことは看護師など医師以外の医療従事者の判断も重要な要因と考えられた。そのため当院で全ての医療従事者を対象にアンケート調査を行った。結果,薬理学的な要素以外にも心理的な要素の大きさを示唆する結果が得られた。実際に予薬を行う医療者の心理面を考慮した薬物療法やせん妄に対する院内教育,せん妄患者の攻撃的行動への対策などについて本稿で述べる。 Key words : delirium, non-sedating antipsychotics, aggressive behaviors, medical staffs, education
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第72回 新規抗てんかん薬の開発物語──その3:抗マラリア薬開発の中から創成されたlamotrigine (2) 双極性障害への大開発物語
20巻7号(2017);View Description Hide Description
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