臨床精神薬理
Volume 20, Issue 9, 2017
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
多剤処方の規制とその背景
20巻9号(2017);View Description Hide Descriptionかねてよりわが国の精神科医療における多剤大量療法は問題となっていたが,この問題が向精神薬の乱用・依存や過量服薬として表面化した結果,2010年以降,急速に国の対策や関連学会の活動が展開していった。本稿では,わが国における不適切な精神科薬物療法のあり方に対して,国が講じてきた施策や関連学会の対応を概観し,その課題を指摘した。そのなかで,多剤処方に対する懲罰的な減算ばかりが強化される一方で,この十数年のうちに通院・在宅精神療法の診療報酬点数が確実に切り下げられている現実を指摘し,多剤処方抑制の最終的な目的は,何よりもまず「精神科医療の質の向上」にあることを主張した。 Key words : psychotropic polypharmacy, psychiatric pharmacotherapy, policies for controlling polypharmacy
-
-
特集【向精神薬の多剤規制と減量・離脱の実際】
-
-
アジアの向精神薬処方動向から見た日本の薬物療法の課題
20巻9号(2017);View Description Hide Description向精神薬の処方は,精神医療において根幹をなしているが,その動向は時代社会文化に影響される。本稿では,国際的な向精神薬の処方動向,とくに筆者らがアジア諸国で行ってきた「向精神薬処方に関するアジア国際共同研究(Research on East Asian Psychotropic Prescription Pattern:REAP)」の結果を中心に紹介し,こうした結果を元にして,日本における向精神薬処方における特徴を提示し,向精神薬の適正な使用のための課題を検討した。2016年のREAP調査では,日本は調査に参加したアジア15ヵ国・地域の中で向精神薬の大量処方,多剤併用が最も多かった。とりわけ,抗精神病薬,睡眠薬,気分安定薬との併用が顕著であった。また,向精神薬の総量負荷(psychotropic drug loading)も,日本は参加国中で最大であった。日本において,多剤併用を減少し向精神薬の適正使用を進めるためには,精神科医の教育,意識改革に加えて,精神医療の在り方,処方に関係する報酬システムを広い視野で検討する必要がある。また,向精神薬の総量負荷の概念を導入することは,多剤併用・大量処方を是正するうえで有用であると思われる。 Key words : schizophrenia, polypharmacy, psychotropic drug loading, REAP -
薬剤師から見た精神科薬物療法におけるポリファーマシーとその是正
20巻9号(2017);View Description Hide Description国内における向精神薬の使用状況は,諸外国と比較して特異なものと言われて久しい。国内における統合失調症の薬物治療は,数種類の薬を同時にしかも大量に使用する多剤併用大量処方(ポリファーマシー)が特徴と言われているが,第2世代(非定型)抗精神病薬(以下非定型薬)の登場により処方の低用量化と単剤化が進むことが期待された。ポリファーマシーは精神科領域では抗精神病薬の多剤併用大量処方,抗パーキンソン薬,ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の高い併用率,大うつ病性障害の治療における抗うつ薬の多剤併用,双極性障害の治療における不適切な抗うつ薬の併用など,この数十年にわたって問題とされ,その改善に多くの医師や薬剤師が関わってきた歴史がある。平成28年度の診療報酬改定では抗精神病薬と抗うつ薬の剤数制限が共に2剤までとされたことは,これらの向精神薬を適正に使用するための重要な改定であったと考える。また,同様に薬剤総合評価調整加算,薬剤総合評価調整管理料の新設は,薬剤師と医師の更なる協働により,精神科におけるポリファーマシー是正の進展に寄与するものと考える。 Key words : pharmacist, polypharmacy, schizophrenia, antipsychotics, benzodiazepines, antiparkinson drugs -
抗うつ薬慢性投与による神経伝達機能の変化とその臨床的意義
20巻9号(2017);View Description Hide Description現在臨床で使用されている抗うつ薬は,急性効果として脳内細胞外のモノアミン濃度を上昇させる。しかしながら薬効発現には2〜6週間以上の服薬が必要であるため,抗うつ薬の作用機序については不明な点が多い。そこで抗うつ薬慢性投与時の脳機能変化について検討されている。抗うつ薬の亜急性投与では5-HT1A自己受容体刺激によりセロトニン(5-HT)の遊離が抑制されているが,慢性投与時は自己受容体機能が低下し,5-HT遊離が起きやすい状態に変化する。また,抗うつ薬慢性投与によるBDNFの遊離は,海馬神経の新生および機能・形態の変化を引き起こし,うつ様行動の寛解に関与している。さらに抗うつ薬慢性投与による転写因子変動および5-HT神経に関連するミクロRNAの存在が明らかとなっている。これらの結果は,抗うつ薬の治療反応性の予測や,より安全かつ短時間で薬効発現する抗うつ薬の創薬に有用な情報を与えるものと期待される。 Key words : antidepressant, 5-HT1A receptor, PET, neurogenesis, epigenetics -
抗精神病薬の長期投与がドパミンD2受容体に与える影響とその臨床的意義
20巻9号(2017);View Description Hide Description統合失調症の病態にはシナプスレベルでのドパミン過敏が存在する。抗精神病薬の長期投与はドパミン過感受性精神病などドパミン過敏を悪化させる危険性がある。大量の抗精神病薬の長期投与は精神症状の悪化だけでなく,痩せとも関連する。一方でアドヒアランス不良は治療抵抗性を惹起し,ひいては抗精神病薬の大量投与に繋がる。抗精神病薬による治療ではドパミンD2受容体を適切にコントロールすることが重要であり,血中濃度の安定化は重要な治療戦略の1つと考えられる。ただしドパミン過敏と関連する分子標的はまだ分かっていない。治療方法を検討するためにもgenomics,transcriptomics,metabolomicsの手法を応用し,ドパミン過敏の病態を解明する必要がある。 Key words : long-term treatment of antipsychotic, dopamine D2 receptor, supersensitivity, tardive dyskinesia, adherence, long acting injectable -
抗うつ薬の長期投与の影響
20巻9号(2017);View Description Hide Descriptionうつ病や不安障害の治療薬として,抗うつ薬は広く用いられている。近年,長期投与による情動の不安定化,薬剤誘発性の気分障害や不安障害の存在が指摘されるようになった。多くのうつ病患者において抑うつ症状の再発は,抗うつ薬治療中にもかかわらず起こる可能性が指摘されており,維持療法中のうつ病への対応を考えていくことは重要である。うつ病の治療経過における症状の再発,難治化は大きな問題であり,こうした問題に対する抗うつ薬の長期投与の影響について,tachyphylaxis(耐性)やtardive dysphoria(遅発性気分不快状態)といった概念を紹介する。最後に,一般的には抗精神病薬の有害作用として認識されている錐体外路症状の1つであるtardive syndrome(遅発性症候群)についても紹介したい。医者の知識不足や否認によって見逃されやすいが,一度生じるとQOLがかなり低下してしまうため注意する必要がある。 Key words : antidepressant, long-term administration, tachyphylaxis, tardive dysphoria, tardive syndrome -
抗精神病薬の安全な減量方法と,中止を含むその是非について
20巻9号(2017);View Description Hide Description抗精神病薬をはじめとした「多剤大量処方」が話題になって10年以上経過している。また,日常診療で薬の中止を要望されることもよくある。抗精神病薬において,拙速な減量や中止は,増悪や再発のリスクを高めることがいくつか報告されており,長期間大量処方を受けてきた患者にとって,ドーパミン過感受性精神病のリスクもある。その中で,SCAP(Safety correction for antipsychotics poly-pharmacy and high-dose)法という「とてもゆっくり,1種類ずつ,戻しても可」とする減量法が開発され,臨床試験でもその安全性が確認されたところである。しかしながら,減量は患者・家族のみならず医療者にも不安を引き起こすものであり,間違えた判断をしないためにも,合意形成を得ながら着実に行う必要がある。着実な減量を行い,安定した状態が得られれば,精神疾患患者全体が高齢化する中,多剤服用による身体リスクを減らすことに繋がると考える。 Key words : antipsychotic polypharmacy, reduction, withdrawal, SCAP (Safety correction for antipsychotics poly-pharmacy and high-dose) method, dopamine supersensitivity psychosis (DSP) -
抗うつ薬,気分安定薬の離脱に伴う問題と減量中止の方法
20巻9号(2017);View Description Hide Description抗うつ薬および気分安定薬(lithium,valproate,carbamazepine,lamotrigine)の減量や中止に伴う問題,さらにそれらの漸減方法について検討した。減量,中止に際して,抗うつ薬の場合は,離脱症状の発現に注意を要する。ストレス症候群という新たな依存の概念も提唱されており,抗うつ薬の依存や離脱症候群の存在が明らかになりつつある。気分安定薬の場合は,いわゆる離脱症状の存在ははっきりしないが,むしろ病相再燃が最大の懸念事項である。漸減,中止の方法に関しては,推奨し得る方法論を検討できるほどの研究は今日なされておらず,具体的な漸減中止方法を示すことはできなかったが,抗うつ薬,気分安定薬のいずれにせよ,減量や中止に伴う種々の問題を回避するためには,緩徐に慎重に漸減していくことが重要であることは言うまでもない。 Key words : antidepressants, mood stabilizer, withdrawal syndrome, stress syndrome, recurrence -
睡眠薬や抗不安薬の離脱に伴う問題と安全な減量中止の方法
20巻9号(2017);View Description Hide Descriptionベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬は、致死的な副作用が少ないため比較的安全な薬剤として広く普及してきたが、漫然と長期間高用量処方されるケースが多く、これによる依存形成リスクが問題視されていた。そのため近年では、一般臨床現場でも睡眠薬や抗不安薬の減薬や断薬が意識されるようになってきている。ベンゾジアゼピンの減薬方法に関しては十分なエビデンスに基づいた体系的なガイドラインが存在せず、従来より経験的な方法が用いられており、やみくもに無理な断薬や急激な減量を行ったために不眠・不安症状が悪化するケースも散見される。実際の臨床場面では認知行動療法を含めた精神療法や心理的サポートを十分に行いながら、「漸減法」「隔日法」「置換法」などを組み合わせて減薬し、必要に応じて代替薬物療法を用いる方法が一般的である。依存症状が顕著化する前に、「症状が比較的安定しているときに時間をかけて徐々に減量する」という手法が、最も確実な減量方法としてコンセンサスが得られている。 Key words : anxiolytics, hypnotics, dependence, withdrawal, treatment, benzodiazepine
-
-
特集【向精神薬の多剤規制と減量・離脱の実際<オピニオン>】
-
-
-
特集【向精神薬の多剤規制と減量・離脱の実際<原著論文>】
-
-
多剤大量療法の統合失調症患者におけるSCAP法半量以下での抗精神病薬減薬の試み
20巻9号(2017);View Description Hide Description近年の精神科薬物治療では多剤併用療法の是正が強く求められている。宮城県立精神医療センターでも慢性期の患者群を中心に多剤併用処方が多くみられ,その適正化が課題となっていた。そこで当院では2014年から多職種による抗精神病薬等適正使用検討部会(以下,部会)を立ち上げ,多剤併用症例に対して安全な減薬プロトコルを検討した。抗精神病薬の多剤併用からの安全で効果的な減量法(SCAP法)の対象群のchlorpromazine(以下,CP)換算量を超える高用量の患者も複数含まれることから,部会では過感受性精神病(以下,DSP)の離脱リスクを考慮し,SCAP法の半量以下の速度で減薬を行った。3年間で取り組んだ10症例で,抗精神病薬は剤数で約42%,CP換算量で約27%減少した。減薬による精神症状の悪化はみられず,錐体外路症状の改善やQTc時間の短縮を認めた。今回の結果からDSPが疑われる慢性期の多剤併用症例でも,極めて緩徐な調整であれば安全に減薬できる可能性が示された。 Key words : chronic schizophrenia, antipsychotic, polypharmacy, dopamine supersensitivity psychosis, dose reduction
-
-
【シリーズ】
-
-
-
【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
-
-
第74回 新規抗てんかん薬の開発物語──その5:わが国で創製された世界初のAMPA受容体拮抗性抗てんかん薬perampanel
20巻9号(2017);View Description Hide Description
-