Volume 20,
Issue 12,
2017
-
【展望】
-
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1407-1415 (2017);
View Description
Hide Description
診療ガイドラインは,「診療上の重要度の高い医療行為について,エビエンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されている。診療ガイドラインの歴史的背景には,医師の経験による診療のため,医師間だけでなく国や地域によっても診療にばらつきがあったこと,また昨今のあふれかえる情報の中,医師がすべての情報にアクセスするのは不可能なことがある。本稿では,EBMの実践,診療ガイドライン作成・普及の模範とされるイギリスNICEガイドラインの紹介とイギリス精神医療に与えた影響について概説し,わが国の現状,診療ガイドラインの課題と法的側面について述べる。 Key words : Clinical Practice Guidelines, Current situation survey, NICE Guidance, EBM, Medical lawsuit
-
特集【統合失調症の治療ガイドライン】
-
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1417-1424 (2017);
View Description
Hide Description
治療ガイドラインとは,特定の臨床場面において,適切な臨床判断を行うために,医療者と患者を支援する目的で,系統的な方法に則って作成された文書である。治療ガイドライン黎明期は,エキスパート・オピニオンによって作成されたものが主流で,エキスパートによるコンセンサス,治療アルゴリズムへと発展した。EBMの概念が浸透するにつれ,APA治療ガイドラインのような厳密な文献レビューに基づく治療ガイドラインや,NICE治療ガイドラインのような系統的レビューに基づく治療ガイドラインが作成されるようになった。2011年に米国 Institute of Medicine(IOM)は,治療ガイドラインの定義を「患者のケアを最適化することを目的とした推奨を含む文書である。推奨は,エビデンスの系統的レビューと,複数の選びうるケアの選択肢について益と害に関する評価に基づいて作成される」と再定義し,治療ガイドラインはクリニカル・クエスチョンに対する系統的レビューに基づく有益性と有害性のバランスを勘案した推奨の明示という作成法にシフトしていった。2015-年日本神経精神薬理学会によって統合失調症薬物治療ガイドラインが作成された。このガイドラインはMindsの作成法に準拠されたことが特徴で,クリニカル・クエスチョンに対して系統的なエビデンスの評価だけでなく,その安全性(有害性)も考慮して有用性評価が行われ,その治療を行う方が良いか,行わない方が良いかの推奨も記載され,より臨床医が臨床実践に活用しやすいものとなっている。 Key words : EBM, Minds, Systematic review, clinical guidelines, recommendations
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1425-1432 (2017);
View Description
Hide Description
2015年日本神経精神薬理学会から統合失調症薬物治療ガイドラインが公表された。このガイドラインはわが国では初のエビデンスに基づく治療ガイドラインでありわが国の実情等に合わせて作成されたものである。一方,それより以前に海外ではいくつもの有名なガイドラインが公表されており,改訂を重ねているものもある。本稿では,統合失調症の再発・再燃時の記載を中心に海外のガイドラインについて概説する。作成過程における想定されている利用者,また作成意図によってそれぞれのガイドラインの特徴等が反映されている。これらのガイドラインについても知ることで,わが国のガイドラインも適切に利用され,普及,改訂されていくことを願っている。 Key words : schizophrenia, guideline, relapse, acute phase
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1433-1439 (2017);
View Description
Hide Description
日本神経精神薬理学会は,精神科医を対象とした,統合失調症の薬物治療ガイドラインを作成した。ガイドラインは日本医療機能評価機構EBM普及推進事業「Minds」の推奨する方法によって作成され,Mindsの評価と選定を受けた。本ガイドラインは,統合失調症の診断が確かな患者を対象としていること,統合失調症の治療は薬物療法のみによるものではなく,心理社会的治療と組み合わせること,ガイドラインは大多数を対象としたエビデンスに基づくものであり,個々の症例の個別性を考慮することといった前提の上で,臨床疑問にたいするエビデンスと推奨を記載した。臨床疑問は,①初発精神病性障害,②再発・再燃時,③維持期治療,④治療抵抗性,⑤その他の臨床的諸問題の5つの領域に4〜8の疑問を設定した。さらに,ガイドラインの公表後,普及活動である講習会の開催や,当事者向けガイドの作成にも着手している。 Key words : antipsychotics, clinical guideline, Minds, pharmacotherapy, schizophrenia
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1441-1447 (2017);
View Description
Hide Description
初発精神病性障害は,精神病症状による著しい行動障害を初めて呈した状態である。本稿では,「統合失調症薬物治療ガイドライン」における初発精神病性障害への対応の特徴と実践的使用法を概説する。ガイドラインは,臨床疑問(clinical question:CQ)に答える形で作成されており,初発精神病性障害では4つのCQが設定されている。CQ1-1では初発精神病性障害患者に対して抗精神病薬を選択する際に参考となるエビデンス,CQ1-2では適切な用量について,CQ1-3では適切な治療効果判定期間について,CQ1-4では再発予防における治療継続期間についてそれぞれ検討し,推奨を述べている。ガイドラインの実践的使用法として,各CQの推奨の背景を理解し,薬物療法のリスクとベネフィットを十分患者と家族に説明した上で,共同作業的に医療行為を進めていくのが望ましい。 Key words : antipsychotics, first-episode psychosis, guideline, pharmacotherapy, schizophrenia
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1449-1453 (2017);
View Description
Hide Description
本稿では統合失調症薬物治療ガイドラインの第2章「再発・再燃時」について症例を通して実践的使用法を紹介した。再燃再発時の対応は最も頻回に遭遇する重要な局面であり,急性期症状を改善して維持期に移行する,あるいは治療抵抗性統合失調症と診断してclozapineを導入するといった次のステップに滞りなく進めるには,以下の事項の確認が必須である。CQ2-1ではアドヒアランスを確認しながら抗精神病薬を単剤で十分量,十分期間観察するための工夫が示されている。CQ2-2では各抗精神病薬の投与量と注意すべき副作用,CQ2-3とCQ2-4では抗精神病薬の併用やそれ以外の向精神薬の併用の是非についてエビデンスを提示している。実践的使用法として医師だけでなく看護師や薬剤師による疑義照会や服薬指導,クリニカルパスの作成,患者・家族と主治医が治療の根拠となる情報を共有し,話し合って方針を決める(Shared Decision Making)際の一助として利用してもらえれば,ガイドラインに基づく治療が広く普及していく可能性がある。 Key words : schizophrenia, guideline, pharmacological therapy, relapse, acute exacerbation
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1455-1460 (2017);
View Description
Hide Description
統合失調症薬物治療ガイドライン維持期治療の推奨において,具体的な臨床像を例示しながらその実践的な使用法に関して記した。維持治療期は期間が長いことが特徴で患者の人生の大部分を占める期間となる。ガイドラインでは積極的な推奨に至らなかった(抗精神病薬)減量治療,服薬パーシャルアドヒアランスを示す患者に対する持効性注射剤治療や,投与間隔を延長する投与方法など維持期統合失調症薬物治療にはまだエビデンスは固まっていないものの多くの可能性が残されている。再発率や再入院率だけをアウトカムに取ると見えにくいこれらの手法を駆使しながら,まず患者の訴えの真意を理解し,その上でプロフェッショナルとして適切なアドバイスを行うことで患者との深い信頼関係を熟成させることが可能となる。そのことがひいては長きに及ぶこの維持治療期間に患者が自己効力感を損なうことなく,より良い医療の展開につながっていくことになるだろう。 Key words : schizophrenia, maintenance, antipsychotics, dose reduction, extended dosing
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1461-1467 (2017);
View Description
Hide Description
統合失調症薬物治療ガイドラインが2015年9月に日本神経精神薬理学会により公表された。統合失調症薬物治療において,抗精神病薬の単剤使用が基本である。その第4章では,治療抵抗性統合失調症の薬物治療としてclozapine(以下CLO)の使用を強く推奨している。また,CLO治療中に白血球数減少や体重増加などの副作用が生じても,その多くには対処法があることが示されている。CLOでも効果不十分な場合も少なくないが,その場合にはlamotrigineの併用または修正電気けいれん療法の併用を行うことが推奨されている。CLOと修正電気けいれん療法がともに無効もしくは使用できず,現行の治療で予後が不良と予測される症例では,他の抗精神病薬へ切り替えを行うよう勧められている。それでも効果が得られない場合や切り替えが困難な場合は,最後の手段として抗精神病薬の併用を考慮することとされている。今回,このガイドラインの実践的使用法の具体例として,当院でのCLO治療の実際について報告した。 Key words : treatment-resistant schizophrenia, clozapine, weight gain, electroconvulsive therapy, lamotrigine
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1469-1475 (2017);
View Description
Hide Description
統合失調症薬物治療ガイドラインは,統合失調症領域において本邦で初めて作成された,Evidence Based Medicine(EBM)に基づく治療ガイドラインである。その中で第5章「その他の臨床的諸問題」に含まれる8つのクリニカル・クエスチョン(CQ)は,生命の危険,身体予後の悪化,Quality of Life(QOL)の低下,リカバリーの遅れ,スティグマの問題,服薬アドヒアランスの低下,再燃,再発とも関連する重要な問題であるが,他章と比較してエビデンスに乏しく,薬物治療以外の治療法を含めた検討が必要なものが多い。本稿では統合失調症薬物治療ガイドライン第5章「その他の臨床的諸問題」に含まれる各CQについて,エビデンスから推奨をどのように決定したかの概略と,臨床現場で本章を活用するにあたり重要と思われる解釈について概説する。 Key words : clinical question, evidence based medicine, guideline, medication, schizophrenia
-
【シリーズ】
-
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1476-1480 (2017);
View Description
Hide Description
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1491-1494 (2017);
View Description
Hide Description
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1495-1499 (2017);
View Description
Hide Description
-
【原著論文】
-
-
Source:
臨床精神薬理 20巻12号, 1481-1490 (2017);
View Description
Hide Description
睡眠薬・抗不安薬の2剤以下に薬剤数を削減できないリスク因子について検討するため,平成26年度診療報酬改定の前後でコホート研究を行った。この改定の施行前後での長浜赤十字病院精神科の全外来処方データを用いて解析した。3剤以上の多剤投与であった患者群(睡眠薬130名,抗不安薬27名)を2剤以下への削減の成否で成功群・不成功群に分け,身体合併症との関連を調査した。睡眠薬では,バルビツールおよびramelteonの併用との関連も検討した。その結果,睡眠薬を2剤以下に削減できないリスク因子は,呼吸器疾患の併存(オッズ比:4.17),ramelteonの投与(4.93)であった。また,糖尿病患者におけるHbA1cの平均値は成功群で有意に低かった(6.4±0.9 vs. 7.7±1.7)。今回の調査で,呼吸器疾患の併存は睡眠薬の削減困難に関連する要因であることが示唆された。 Key words : polypharmacy, insomnia, benzodiazepine, respiratory illness, physical complications