臨床精神薬理
Volume 21, Issue 1, 2018
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【展望】
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現在考えられているアルツハイマー型認知症のメカニズムと薬物療法の可能性
21巻1号(2018);View Description Hide Descriptionアルツハイマー型認知症の中核症状は記憶障害であるが,その神経化学的基盤としては,アセチルコリン作動性神経の減少およびシナプス障害が重要である。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が開発され,記憶障害の進行を抑制することに貢献しているが,根治するには至っていない。また,アルツハイマー型認知症の神経病理学的基盤としてはアミロイドβおよびタウ蛋白の脳内異常蓄積が知られ,また慢性炎症プロセスもこれにかかわっていることが報告されており,これらを理解することは認知症の進行を根本的に抑制するdisease modifying therapyの開発においてきわめて重要である。そして,アミロイド,タウ蛋白,慢性炎症をターゲットとする治療法などが現在検討されている。認知症の分子レベルでの理解が進み,多くのdisease modifying therapyが成功し,個々の患者の病態にあった治療法が選択されることが期待されている。 Key words : Alzheimer disease, acetylcholine, amyloid, tau protein, inflammation
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特集【認知症に対する薬物治療の今、そして今後】
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抗認知症薬の使い分けはどうするのか
21巻1号(2018);View Description Hide Description2010年までは,抗認知症薬(アルツハイマー型認知症治療薬)として市販されている薬剤は,コリンエステラーゼ阻害薬であるdonepezil(アリセプトR)のみであったが,2011年に3剤が製造承認を受けた。その3剤は,コリンエステラーゼ阻害薬であるgalantamine(レミニールR),rivastigmine(イクセロンRパッチ,リバスタッチRパッチ)およびNMDA受容体拮抗薬であるmemantine(メマリーR)である。コリンエステラーゼ阻害薬は3剤となり,コリンエステラーゼ阻害薬同士の併用は現在のところ認められていないが,患者の状態により抗認知症薬の変更を考慮する必要がある。また,コリンエステラーゼ阻害薬とmemantineの併用は可能であり,適宜併用することが症状の進行抑制上,重要であると考えられる。 Key words : cholinesterase inhibitor, donepezil, galantamine, rivastigmine, NMDA receptor antagonist, memantine -
前頭側頭型認知症への薬物療法的アプローチは
21巻1号(2018);View Description Hide Description現時点で,前頭側頭型認知症(FTD)に対する根治的な治療薬はない。したがって,対症療法的治療の標的となる症状は,介護負担が極めて大きい脱抑制,強迫・常同行動,食行動異常,などの行動異常である。本年出版された認知症疾患診療ガイドライン2017においても「前頭側頭葉変性症の行動障害を改善する目的で選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の使用が推奨される(適応外)」とされているが,エビデンスレベルは弱い推奨となっている。近年,タウ病理を有するFTDについては,現在開発中のアルツハイマー病のタウ病理を標的とした化合物を,TDP-43病理を有するFTDには筋萎縮性側索硬化症のTDP-43病理を標的とした化合物を,それぞれ応用できるのではないかという考えが注目されている。本稿では最新の病態修飾薬の開発状況についても紹介した。 Key words : frontotemporal dementia (FTD), frontotemporal lobar degeneration (FTLD), selective serotonin reuptake inhibitor (SSRI), Tau, TDP-43 -
レビー小体型認知症への薬物療法的アプローチについて
21巻1号(2018);View Description Hide Descriptionレビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies:DLB)とは,日本の小阪憲司らが提唱したびまん性レビー小体病を基本とした神経変性性認知症の1つである。DLBでは変動する認知機能の障害,幻視,パーキンソン症状,レム睡眠行動異常症といった特徴的な症状の他,うつ症状,自律神経症状などがみられる。発症年齢は60〜80歳と考えられており,日本では,臨床的にはアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD),血管性認知症に次ぐ頻度でみられている。DLBにはまだ根本的な治療法はなく,ADと同様,進行を遅らせるといった対症療法が中心である。DLBで治療の対象となる臨床症状には大きく分けて認知機能障害,行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD),パーキンソン症状があげられる。本稿では,各症候の薬物治療の現状についての解説と,現在開発中の新規治療薬についての簡単な紹介をする。 Key words : dementia with Lewy bodies, donepezil, galantamine, memantine, anti-psychotics -
軽度認知障害に対する薬物療法介入の意義は
21巻1号(2018);View Description Hide Description世界中で高齢化の進行とともに認知症者が増加する今日,認知症,とくにアルツハイマー病(AD)の治療薬として多くの薬剤が開発中である。ADになってからでは治療効果が期待し難いことから,最近ではこれら薬剤の対象は軽度認知障害(MCI)にまで広がりつつある。MCIとは認知症ではないが,知的に健常とも言えない状態である。MCIが注目される最大の理由は,Alzheimer病の新療法の多くが,早期ほど効果的だと言われるからであろう。2017年の時点で105の薬剤がADの治療薬として開発中である。多くのADの病態は複合的であるだけに単一の作用をもつ現在開発中の薬剤では満足度の高い効果を発揮し難いだろう。しかし105ものタイプの異なる薬剤が開発中であることは,患者がリーズナブルな希望をもてる大切な要素である。今後のADやその前駆状態MCIに対しては,開発中の薬剤であるAβやタウ系薬のみならず認知症の諸症状への対症療法薬をカクテル療法的に使うべきだろう。さらに現在注目されている認知トレーニングの併用が望まれる。 Key words : mild cognitive impairment, drug therapy, symptomatic, disease modifying, efficacy -
認知症患者に対する抗精神病薬投与の是非
21巻1号(2018);View Description Hide Description認知症患者の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)は患者そしてその家族や介護者の負担が大きい症状である。その対処法としては環境調整などの非薬物療法が第一に考慮されるべきではあるが,それが無効な場合には薬物療法が選択され,抗精神病薬(適応外使用)が選択されることが多いのが現状である。メタ解析の結果から抗精神病薬はBPSDに対してある程度の効果性が示されてはいるものの,副作用のリスクも高く,認知症患者に対する抗精神病薬使用の是非については未だ議論がわかれるところである。本稿では,認知症患者に対する抗精神病薬使用の是非について,ガイドラインや効果・副作用に関するエビデンスなどを参考にしながら検討する。 Key words : antipsychotics, dementia, efficacy, adverse effects -
認知症のある人,家族や介護する人に対して薬物治療についてどのように説明すべきなのか
21巻1号(2018);View Description Hide Description認知症のある人の薬物治療に際しては,抗認知症薬,その他の向精神薬が用いられることがある。したがって医師は認知症のある人,家族,介護する人と,薬物治療について良好な意思決定の共有が図られるよう,適切に説明することが求められる。抗認知症薬の有効性には限界がある。その他の向精神薬の認知症のある人に生じた行動障害,心理症状への有効性も限界がある。抗認知症薬やその他の向精神薬によって認知症のある人に副作用が生じると,認知症の症状のために副作用は察知されにくく,認知症によるものと誤解されやすくなる。これらの薬物治療が検討される際には,有効性と副作用の特徴について平易な言葉でわかりやすく説明するとともに,認知症のある人の治療,ケアの目標を再確認する機会にしたい。そして薬物治療について迷うときに抱かれやすい心情を想像し,意見交換を重ねながら,良好な意思決定の共有に至るようつとめることが求められる。 Key words : anti-dementia drug, psychotropic, efficacy, side effect, shared decision making -
抗認知症薬はいつまで続けるべきなのか
21巻1号(2018);View Description Hide Description抗認知症薬は幅広い適応を持つ一方,臨床的に抗認知症薬をいつまで続けるべきかについては判断に迷う場面が多い。標準的治療の参考となる国内外のガイドラインでは軽度認知障害を除き,軽度から重度までのアルツハイマー型認知症に対し原則的に抗認知症薬の推奨を示すものの,それぞれのガイドラインの視点は同じではない。介入研究の結果からは抗認知症薬の中止は認知機能の低下と関連が見られ,実際の服薬遵守率はあまり高くないことが示唆された。観察研究からは効果不十分や有害事象の出現が実際の中止と関連が見られた。決定的なエビデンスではないものの認知機能だけではなく,抗認知症薬継続と死亡率低下や医療経済学的効用の関連を示唆する研究も見られることから,個々の症例において処方継続の合理性について多角的な評価を定期的に行う必要があると考える。 Key words : Alzheimer’s disease, cholinesterase inhibitor, pharmacotherapy, discontinuation, cognitive function -
認知症治験の難しさ──種々の治験の失敗からわかること
21巻1号(2018);View Description Hide Description高齢化の進行に伴い,認知症,特にアルツハイマー病の患者数が急増している現在,その治療法開発は,我が国のみならず世界的にも喫緊の課題となっている。特に,従来からの補充療法ではなく,根治治療となりうる「疾患修飾薬」の開発に期待が高まっている。悪性腫瘍や自己免疫疾患においては患者に多大な恩恵を与えている疾患修飾薬だが,アルツハイマー病では薬事承認の獲得に至った事例はいまだになく,2016年から2017年にかけても上市が有望視されていた薬剤の開発中止が相次いだ。このような治験失敗の背景には,認知症を含む神経変性疾患特有の問題が多くあると考えられる。これらの問題を克服するための手段の1つが発症前からの介入を行う先制医療であり,この考えに基づく治験も展開されている。また,本邦でも登録が開始された認知症を対象としたレジストリを活用することが,治験の加速化,ひいては治療法開発の成功に繋がることが期待される。 Key words : Alzheimer’s disease, disease-modifying drug, clinical trial, amyloid-beta, preemptive medicine
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【シリーズ】
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精神科薬物療法 pros and cons 子どものうつ病に対する支援と薬物療法──当診療部における薬物療法の工夫
21巻1号(2018);View Description Hide Description -
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第78回 新たに登場したADHD治療薬の開発物語──その1:OROS方式で生まれ変わったmethylphenidate
21巻1号(2018);View Description Hide Description
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