臨床精神薬理

Volume 21, Issue 2, 2018
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【展望】
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合理的な薬剤選択方法はどうあるべきか?──精神科におけるPrecision Medicineを展望する
21巻2号(2018);View Description
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各個人に合理的な治療,個別化治療を表すPrecision Medicineという言葉がある。これは,主にヒトゲノム情報などを用いて,個人に適した治療を提供することを目指した医療であるPersonalized Medicineをさらに発展させた概念で,ゲノム以外に,疾患・治療反応に関連するパスウェイを構成する分子のオミックス解析の情報や,患者の詳細な臨床背景・疫学因子などを含む膨大な情報を用いて,最先端のインフォマティクス技術を使い,患者を層別化し適切な精密な医療を行うことを目指したものである。本稿では,そんな世界最先端の動向にも着目し,Precision Medicineの実現に向けて注目される,比較的新しい,臨床ファーマコメトリクスやNetwork-Medicineといった概念を紹介し,その中心として長年期待され続けている遺伝薬理研究(Pharmacogenomics:PGx)の現状と希望について概説したい。一方で,未来でなく,今すぐに合理的な薬剤選択の実践に応用できる外的妥当性,臨床背景,薬物相互作用についても再考したい。 Key words : precision medicine, pharmacometrics, network-medicine, pharmacogenomics, pharmacotherapy
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特集【反応・副反応予測因子はどこまでわかったか?】
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薬剤選択に寄与する研究環境の整備
21巻2号(2018);View Description
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精神科臨床において,目前の患者の薬物選択に有用な指標はほとんどない。数種類の薬物に反応しない治療抵抗性症例も少なくない。一方,薬物選択の幅を広げるために必要な薬物開発も滞っている。その大きな要因は,精神科診断の妥当性の低さである。診断カテゴリー内の生物学的多種性は,臨床試験の成功確率の低さをもたらしている。創薬開発研究においては,診断横断的に症状などの機能ドメインをターゲットに据えるべきである。また,患者のニーズに基づき,アウトカムメジャーには精神症状ばかりでなく,社会機能やQOLといった側面を取り入れるべきである。こうした創薬開発における規制の見直しとともに,研究基盤となる大規模な治験,臨床研究データベースを構築する必要がある。そのためには,企業,アカデミアにおけるデータシェアリングの意識を醸成し,非競合的な段階における産学官連携の体制づくりが課題となる。 Key words : RDoC (Research domain Criteria), biomarker, outcome measure, PPP (public private partnership), data sharing -
予後予測因子と効果修飾因子の研究:臨床属性
21巻2号(2018);View Description
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個々の患者は,自分に最適の治療を受けたいと希望している。臨床家は,自らをそして患者を欺くことなしに,そのような医療をできるのだろうか。臨床特性あるいはバイオマーカーによって,異質性の高い疾患を細かなサブタイプに分け,サブタイプごとに最適な治療を実証する研究は,かねてから行われてきたが,残念ながらいくつかの例外を除いて,治療特異性の高いサブタイプは得られていない。しかし,異質性が高く,治療選択肢が豊富な精神疾患でこそ,本来,精密医療のポテンシャルは高いはずである。既存の無作為割付け試験の個人データから効果修飾因子を同定し,それをあらたな適応デザイン臨床試験で検証する共同研究が最近試みられるようになっている。そのようなメガトライアルは,新規化合物の開発以上の福音を実臨床にもたらす可能性がある。 Key words : prognostic factors, effect modifiers, differential therapeutics, stratified medicine -
精神・神経疾患の創薬に必要なニューロイメージングバイオマーカー
21巻2号(2018);View Description
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安全性と有効性の向上を目指して革新的な精神・神経疾患治療薬の研究開発が試みられているが,臨床開発の成功確率は低く新薬が創出されていないのが現状である。脳の病態や機能を非侵襲的,直接的に測定可能なニューロイメージングバイオマーカーは,治療候補薬のポテンシャルを評価することが可能な強力な創薬ツールである。このツールを活用した効率的な創薬を支援するために,患者層別化と有効性予測の分類を追加した5-Tierモデルが提案された。企業単独では解決困難なバイオマーカー開発を実施するためには,研究者間─企業間の壁を越えて競争前フェーズから連携するPublic private partnershipsが必須であり,アカデミアの有する疾患に関する知識,最先端のイメージング技術と,製薬企業の有する化合物ライブラリー,医薬品化学・創薬化学技術の融合を可能にするイノベーションハブである量子イメージング創薬アライアンスは,創薬支援に重要な役割を果たすことが期待される。 Key words : Neuroimaging biomarker, Positron emission tomography (PET), 5-Tier model, Public private partnerships (PPPs), Brain and Mind Imaging for Drug Discovery (BMID) -
統合失調症患者における抗精神病薬の治療反応
21巻2号(2018);View Description
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抗精神病薬への反応には大きな個体差がある。がん治療では,抗がん剤の反応を遺伝子検査である程度予測できるが,現在のところ抗精神病薬への反応を的確に予想する手段はない。実際の臨床場面では,各薬剤への有効性や忍容性を投与・観察しながら治療している。本稿では,抗精神病薬に対する反応の予測因子を患者背景,早期改善,バイオマーカー,遺伝子,認知機能などの観点から概説した。これらの知見は,いずれも研究レベルであり,臨床応用には厳しい検証が必要である。 Key words : schizophrenia, antipsychotics, treatment response -
双極性障害の予測因子と薬剤選択
21巻2号(2018);View Description
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躁病以外の双極性障害治療に関するエビデンスは比較的乏しい。躁病エピソードに対する治療薬の治療反応性は多く報告されている。うつ病エピソードに対する各薬剤の反応性についての報告はないが,治療開始2週間後の初期治療反応が治療不反応を予測することが明らかになった。双極性障害の回復不良,再発などの経過不良因子が報告されている。発症から適正な双極性障害治療開始までの期間の長さがその後の経過に影響する。気分安定薬による重症薬疹の予測因子については,特にcarbamazepineとHLA遺伝子多型の関連が報告されているので,今後は遺伝子多型を予め検査することにより,ある程度重症薬疹は予防される可能性がある。 Key words : bipolar disorder, predictor of treatment response, mood stabilizer, recurrence -
うつ病の反応予測因子と薬剤選択
21巻2号(2018);View Description
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うつ病は,生涯有病率が高く自殺の背景として重要な要因である。抗うつ薬の導入と発展はうつ病治療に大きな恩恵をもたらしたが,各患者の薬物応答は個人差が大きい。本稿では,様々な観点から抗うつ薬の治療反応予測について言及した。治療反応予測の臨床因子として,早期治療反応性,うつ病のサブタイプ,社会経済的要因,性格要因,遺伝的多型などを挙げ,それぞれの因子が抗うつ薬の治療反応にどのような影響を与えているかについて文献的考察を加えた。今後,うつ病治療領域にオーダーメイド医療をもたらすためには,一層の研究の積み重ねが必要であると考える。 Key words : antidepressant, treatment response, side effect, predictor -
強迫症の薬物療法に対する治療反応予測因子と治療戦略
21巻2号(2018);View Description
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強迫症(OCD)の薬物療法の標準治療は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による治療だが,その種類によって治療効果に違いはなく,他の内服薬との相互作用や患者の忍容性によって使い分ける。SSRI治療に反応する者は40〜60%にとどまり,反応不良予測因子としては17歳未満の発症,男性であること,罹病期間が長いこと,洞察が不良なこと,チック症の併存していること,が挙げられる。特にチック症の併存または既往はSSRI治療に反応がない際に抗精神病薬による増強療法(本邦では保険適応外)を検討すべき重要な因子と成り得るが,成人OCDにおいては過去のチック症の既往を同定することが困難な場合が多く,治療者はチック症の知識を習得しておくとともに患者に対して丁寧な聞き取りを行うことが重要である。 Key words : treatment predictive factors, obsessive-compulsive disorder, tic related obsessive-compulsive disorder -
不安症群における治療反応・副反応の予測因子と薬剤選択
21巻2号(2018);View Description
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不安症群(AD),特に,パニック症,社交不安症,全般性不安症に対する治療予測因子について,これまでの知見を総見し,さらにADに関する最新の治療ガイドラインを紹介し,ADにおける適切な薬剤選択について論じた。治療予測因子については,脳機能画像研究と薬理遺伝学的研究によるものが主であるが,ADに関してはうつ病ほど十分に検討されていないのが現状である。また,最新の治療ガイドラインでは,ADに対する第一選択薬はSSRIおよびSNRIとなっているが,上記3疾患の間でその内訳には微妙な差異がある。さらに,最初に使用した薬物が無効または不耐性の場合の代替薬物療法も疾患ごとに示されている。とは言え,ADは慢性・再発性の疾患で,薬物療法による治癒率もさほど高くはない。もし将来的に,実臨床で用いる薬物の有効性や副反応が投与前に予測できるとすれば,患者側のメリットは計り知れない。そのような日が一日も早く訪れることを期待したい。 Key words : panic disorder, social anxiety disorder, generalized anxiety disorder, neuroimaging, genetics -
抗てんかん薬の個別化治療の可能性
21巻2号(2018);View Description
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抗てんかん薬の体内動態や有害事象の発現頻度は個体差が大きい。現在までに,抗てんかん薬の薬物動態の変動や過敏性に関連する遺伝子多型の存在が報告されており,個別化治療の現実化が期待されている。ヒト白血球抗原の遺伝子多型HLA-A*3101アレルは,日本人のcarbamazepineによる重症薬疹の発症に関与することが知られている。また,薬物代謝酵素CYP2C9の機能を低下させるCYP2C9*3アレルは,phenytoinの急激な血中濃度の上昇のみならず,重症薬疹の危険因子である。CYP2C19欠損患者では,clobazamの活性代謝物であるN-desmethylclobazamの血中濃度が大きく上昇する。抗てんかん薬を選択する際,これらの遺伝子多型を事前に測定できれば,薬物動態の推定や有害事象の回避に有用である。 Key words : antiepileptic drug, epilepsy, individualized therapy, pharmacogenomics, pharmacokinetics
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【シリーズ】
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第79回 新たに登場したADHD治療薬の開発物語──その2:眠っていたatomoxetine,ADHDで目覚める
21巻2号(2018);View Description
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