臨床精神薬理

Volume 21, Issue 4, 2018
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【展望】
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精神科治療におけるストレスの臨床的意義
21巻4号(2018);View Description
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現代社会がストレス社会といわれてから久しい。2015 年から労働者のストレス チェック制度が始まり,残業などのストレスへの社会的関心は高まっている。しかし,ス トレスとは何か,ストレスはどのような影響を我々の健康に与えるのかということは広く 知られているとはいえない。このような背景から,精神疾患の発症と経過におけるストレ スの役割についてのこれまでの研究を振り返り,精神科治療においてどのようにストレス を考慮していくべきかという問題を再検討する時期が来ていると思われる。本稿では,古 くて新しい概念であるストレスの精神科治療における臨床的意義について,これまでの研 究を紹介し,その複雑な概念,機序について解説する。 臨床精神薬理 21:443-450, 2018 Key words :: stress, depression, child abuse, personality trait, GxE interaction
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特集【ストレスを考慮した精神科治療】
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うつ病とストレス──レジリエンスを高めるための心理教育の工夫
21巻4号(2018);View Description
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心理教育は,生物・心理・社会的要因から疾患を理解し,適切な情報・知識を共有 することで,患者・家族が治療に肯定的な役割を果たすことを目指すものである。我々は 「自己回復力を持つ自動車」を疾病モデルに用いて,うつ病とストレスの関連について患 者・家族に心理教育を行っている。生物的要因(脳)を車の車体,心理的要因(心)を運 転手,社会的要因(環境)を道路に対応させ,生来の車体(脳)の特性と運転手(心)の 運転のありようや走っている道路(環境)との相互関係により車体(脳)に不調が生じ, それが運転手(心)の運転に影響を及ぼしている病態を精神疾患として理解する。時にそ の症状は病態を警告する役割を有し,対処行動として機能している場合もある。うつ病と ストレスの関連について上記の心理教育モデルを用いて支援した具体例を示し,うつ病に おけるストレスマネジメントやレジリエンスの重要性について考察した。 臨床精神薬理 21:451-455, 2018 Key words :: depression, psychoeducation, resilience, biopsychosocial model -
双極性障害におけるストレス
21巻4号(2018);View Description
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双極性障害は遺伝的要因が強い疾患とされているものの,環境要因の影響も無視で きず,特に,経過や予後に関しては環境要因から生じるストレスの影響が強いとされてい る。本稿では,双極性障害におけるストレスの影響,ストレスと双極性障害を媒介する因 子,遺伝子との相互作用について,我々の研究を紹介しつつ,関連する論文を概説した。 ストレスのなかでは,幼少期のストレスの影響の重要性を報告する研究が増えており,発 症年齢の若年化や急速交代化,精神病症状,エピソード数の増加,自殺念慮や自殺企図な ど,双極性障害の様々な臨床症状の重症化との関連が示唆されている。また,我々は,幼 少期のストレスとの媒介因子として感情気質の変化に着目して研究を行っている。双極性 障害におけるストレスの影響を明らかにすることは,双極性障害の病態解明のみならず, 有効な治療の糸口になる可能性があると考えられる。 臨床精神薬理 21:457-464, 2018 Key words :: bipolar disorder, life stress, early life stress, affective temperament -
統合失調症と幼少期ストレス
21巻4号(2018);View Description
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身体的・精神的虐待や,両親との死別,貧困,いじめなどの幼少期ストレスは, 様々な精神疾患の発症を高めるとされるが,統合失調症との関連について,我が国では十 分に注目されているとは言い難い。幼少期ストレスが統合失調症の発症,罹患後の症状や 経過に与える悪影響が報告されており,そのメカニズムとして心理学的には認知・行動特 性の観点から,生物学的にはストレス応答の異常や遺伝子との相互作用の観点から研究が 行われている。これまでの研究を考慮すると,幼少期ストレスの既往を把握し,その患者 への影響を評価して経過観察に役立てることは,臨床上有用である。さらに,幼少期スト レスが現在の病状に影響を与えている症例については,幼少期ストレスに関する記憶や認 知,帰属をとり扱うことが治療的に有用である。忙しい診療の中,生活史を聞くことがお ろそかになりがちであるが,生活史を十分に聴取する姿勢が統合失調症の診療に不可欠で ある。 臨床精神薬理 21:465-472, 2018 Key words :: childhood trauma, psychosis, PTSD, cognitive-behavioral therapy, antipsychotics -
パニック症におけるストレス
21巻4号(2018);View Description
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パニック症のパニック発作は,精神障害の併存やストレスの強い人生上の出来事に よって影響を受けやすいと言われている。高齢者は,強いストレスを受けた特定の状況で パニック発作があったと述べる傾向がある。パニック症の危険要因として気質要因と環境 要因が指摘されている。これらの仮説をふまえて,本稿では,身体的ストレス(生物学的 要因)によるパニック発作・パニック症,心理的ストレスによるパニック発作・パニック 症(認知行動理論) ,器質・症状性疾患に伴うパニック発作,ストレスと薬物療法の関連 (ストレスによる唾液アミラーゼ反応からみた治療反応性),遺伝子─環境相互作用につい て検討した。 臨床精神薬理 21:473-478, 2018 Key words :: panic disorder, panic attack, stress, amylase, cortisol -
PTSD治療奏効率向上のためのストレスマネジメント
21巻4号(2018);View Description
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心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)は,心的外傷出 来事に関する恐怖記憶の過剰強化・消去不全により,ストレス制御機構が破綻しストレス 反応が遷延することを中核病態とする。他方で,PTSD発病者は心的外傷出来事に曝露さ れた者の一部にとどまり,これには中核ストレス病態のみならず,他の心理・環境特性に 影響を与えうる周辺ストレス因子が関連すると考えられている。 PTSDは薬物治療反応 性が低く,定型的な薬物療法ストラテジーに乏しいことや,心理療法の継続率・奏効率に 課題があるが,個人ごとに異なる心理・環境特性に基づき,ストレス抵抗力(レジリエン ス)を低下させうる周辺ストレス要因に適切に介入することが,上記課題を解決する上で 重要である。本稿ではPTSDの奏効率向上を目指した包括的アプローチを行うためのス トレスマネジメント戦略を概説する。 臨床精神薬理 21:479-487, 2018 Key words :: PTSD, resilience, traumatic memory, psychosocial stress, comprehensive stress management -
社交不安症におけるストレス
21巻4号(2018);View Description
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社交不安は,現実のあるいは想像上の対人場面において個人的に評価されたり,評 価されることが予測されたりすることから生じる不安である。集団生活を営む上では正当 な不安であるが,それが過度となると,他者の反応に過敏となり中立的な判断が困難と なったり,評価されることそのものを恐れて社会関係を回避したりすることによって,適 応上重大な問題を引き起こしうる。社交不安症では,対人関係上のストレスから扁桃体の 過活動が生じていると考えられ,薬物は扁桃体を直接あるいは内側前頭前野から間接的に 抑制することで抗不安作用を発揮していると考えられている。また,代表的な精神療法で ある認知行動療法も扁桃体および扁桃体に投射する内側前頭前野の機能に変化を生じさせ ることが示されており,薬物を介してであれ,前頭葉における認知を介してであれ,扁桃 体をコントロールすることが,治療の重要なポイントであると考えられる。 臨床精神薬理 21:489-495, 2018 Key words :: social anxiety disorder, stress, pharmacotherapy, cognitive behavioral therapy -
強迫症におけるストレス──その臨床的意義と治療を中心に
21巻4号(2018);View Description
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強迫症 (OCD)は,その疾患特性から,患者に大きな心理的苦痛やストレスを生じ させるものである。今回,OCDとストレスとの関連性,特にストレスの臨床的意義につ いて,1)発症関連要因としてのストレス,2)神経可塑的変化のファシリテーターとして の慢性的ストレス,に着目し論じた。重大なストレス体験,特に幼少時期のトラウマ体験 はOCDの発症リスクとなり,その重症度にも関わる。さらにOCD自体,あるいは生活 機能全般における障害の持続,そしてストレス状態の遷延は,脳内メカニズムの神経可塑 的変化に関わり,強迫行為の特性を,不安や報酬への反応として生じる目的志向性から, より自動的な刺激-反応性を特徴とする習慣性へと変移させるものとなる。これらはいず れもOCDの複雑化や難治性に関わりうるため,それぞれに適した薬物療法やCBTなど 治療ストラテジーを検討すると共に,トラウマなど重大なストレス要因そのものへの対応 や工夫を要する場合があるものと考えた。 臨床精神薬理 21:497-504, 2018 Key words :: obsessive-compulsive disorder (OCD), stress, trauma, post-traumatic stress disorder (PTSD), habitual behavior, treatment -
摂食障害とストレス
21巻4号(2018);View Description
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摂食障害とストレスとの関連では,まず痩せ礼賛という心理社会的・環境的圧力が 挙げられる。トラウマ関連では,幼少時期での性的虐待との関連が指摘されてきたが,非 特異的であった。最近は不適切な養育と再定義され,摂食障害では不適切な養育を受けて いる率が有意に高く,そのような例では自殺未遂率,併存症率が高い。日常ストレスに対 する対処行動については,過食を呈する神経性やせ症過食・排出型,神経性過食症では課 題優先対処より情緒優先対処が優位である。しかし,体重が正常範囲内である神経性過食 症であっても,病前体重より数キロから 10 キロ弱,体重を低下させていることがほとん どある(体重抑制weight suppression)。半飢餓・低栄養(self-starvation)は物理的スト レッサーで,セリエの定義では心理的なものより明確なストレッサーであるのに,自らに 科していることを見逃してはならない。 臨床精神薬理 21:505-511, 2018 Key words :: eating disorders, stress, thin ideal, self-starvation, weight suppression -
ストレスを考慮した不眠症治療
21巻4号(2018);View Description
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日中に起こった出来事や翌日の予定への不安があると不眠が生じるように,心理的 ストレスが生じると眠りが妨げられる。一方で,不眠や睡眠不足は,種々の日中のQOL 低下を引き起こし,結果として日常生活における心身のストレスを増すことになる。スト レスと睡眠は,それぞれ場合によって,原因であり,また結果でもあるような関連を持っ ている。本稿では,不眠の疫学と背景要因,心理的ストレスと睡眠,不安やストレスに関 連した精神疾患における睡眠障害についてまとめ,さらに身体的ストレスおよび痛みと睡 眠障害について展望した。心身のストレスが睡眠障害をもたらすメカニズムについては, 未だ一元的理解が得られていないのが現状である。また睡眠障害が,各種疾患の危険因子 になることが明らかになってきている。このため,睡眠障害の原因となるストレスについ て睡眠への影響を研究することは予防医学上の重要な視点をもたらすものと考える。 臨床精神薬理 21:513-519, 2018 Key words :: stress, insomnia, anxiety disorders, post-traumatic stress disorder, pain -
月経前不快気分障害(PMDD)におけるストレス
21巻4号(2018);View Description
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月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:PMDD)は,DSM-5にお いて初めて,独立した疾患として記載されるようになった,比較的新しい疾患概念であ る。他の精神疾患と同様に,PMDDにおいてもストレスは,その発症,増悪,再燃,再 発に大きく関与している。ストレス要因は,PMDDの症状の増悪や再燃の原因になりう る。ストレス要因の回避やストレス・コーピングによって軽快することもあるが,服用す る薬剤を増量しなければならないこともある。また,ライフ・イベントは,PMDDの発 症や再発の契機となることが多い。PMDDの治療は,選択的セロトニン再取り込み阻害 薬(SSRI)の間欠療法が第一選択であるが,特定のSSRIを服用させることによって,ス トレス耐性が特に高まるということはない。心理教育(psychoeducation)を常日頃より しっかりと行うことが重要である。 臨床精神薬理 21:521-527, 2018 Key words :: life event, premenstrual dysphoric disorder (PMDD), psychoeducation, stress, stressor
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症患者を対象としたasenapine舌下錠6週間投与時の使用実態下における安全性及び有効性の検討──使用成績調査中間報告
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統合失調症患者を対象とした使用実態下におけるasenapineの安全性及び有効性を 検討する目的で,使用成績調査を実施している。中間報告解析対象症例 278 例のうち,副 作用発現例数は 96 例(34.5%)であった。そのうち52例(54.2%)は投与1週間以内に 発現していた。また,初発患者と再発患者との間に,副作用の種類,発現率及び発現時期 に関して,明確な違いは示されなかった。全般改善度を指標とした投与6週後の改善率は 72.2%であり,その内訳は,著明改善が8.1%,中等度改善が22.7%,軽度改善が41.4% であった。JSQLSを用いたQOL評価では,投与6週後の各スコアが減少していた。ま た,全般改善度による評価とJSQLSによるQOL評価との間に関連性が示唆された。本報 告は,情報公開の速報性を重視し,症例数は限定されるものの中間報告として結果をまと めて公表した。今後,さらに検討を重ね,asenapineの臨床的特徴及び有用性を示してい きたい。 臨床精神薬理 21:533-546, 2018 Key words :: asenapine, safety and efficacy, antipsychotics, schizophrenia, post-marketing surveillance study
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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