臨床精神薬理
Volume 21, Issue 5, 2018
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【展望】
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精神療法と薬物療法の治療的接点──二元論的対立から一元論的統合へ
21巻5号(2018);View Description Hide Description1950 年代より今日までの精神療法と薬物療法の接点について北米の歴史を概観し た。1950 ~ 1970 年代の精神分析学の最盛期には,向精神薬は精神科医療を根底から変え つつあったとはいえ,なお従の位置に止まり,精神療法が主であった。ところが,1980 ~ 1990 年代に入ると,DSM- Ⅲ革命を契機に米国精神医学界の主流は力動精神医学から生物 学的精神医学へと交代していく。その時期,連動した様々な事件や政策も,その流れを推 し進めた。なかでも,Osheroff-Chestnut Lodge事件は,全米の精神科医に衝撃を与え, 精神療法から薬物療法へ主従の関係が入れ替わったように見えた。しかしながら,2000 年 代以降は,揺れ戻しを生じ,精神療法と薬物療法はほぼ均等の関係にある。それと同時 に,精神療法と薬物療法を二元論的対立と見立てる 1990 年代までの視点は,脳科学のも とに両者の一元論的統合の視点へ変わりつつある。 臨床精神薬理 21:591-599, 2018 Key words :: psychoanalysis, medication treatment, neuroscience, integration, enhancement
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特集【薬物療法は精神療法の治療効果に寄与するか】
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うつ病への認知行動療法と薬物療法併用のエビデンスと工夫──認知行動療法実施上の留意点とコンパッション・フォーカスト・セラピー
21巻5号(2018);View Description Hide Descriptionうつ病は国際的に共通してみられる精神健康上の問題であり,我が国においても患 者数の増加が報告されている。その治療法として,国際的な治療ガイドラインでは認知行 動療法と薬物療法などが推奨されており,複雑化した,あるいは重症のうつ症状に対して は併用療法が推奨されている。一方で,認知行動療法の実施にあたっては留意すべき点も あり,行動活性化技法においては行動活性化システムの過活性に,認知再構成技法におい ては新たに生み出された合理的思考と患者が体験している感情との乖離に注意を払うこと で,より効果的な認知行動療法を提供できる。そのための工夫として,コンパッション・ フォーカスト・セラピーで用いられる感情制御についての理論や技法が挙げられる。ま た,こうした個人への働きかけに加え,正確な診断と環境調整を怠らないことが効果的な 治療を提供するうえで重要であると考えられる。 臨床精神薬理 21:601-607, 2018 Key words :: depression, cognitive behavioural therapy, pharmacotherapy, compassion focused therapy -
ADHDにおける行動療法の効果は薬物療法により促進されるか
21巻5号(2018);View Description Hide Description注意欠如・多動症(ADHD)の治療は,常に包括的であることが求められてきた。 それゆえに行動療法単独の効果の検討は不十分であり,薬物療法の併用において,その有 用性が確認されてきたと思われる。近年では,行動療法の効果は脳機能画像によっても確 認されており,前頭前野機能を高めること,すなわちADHD治療薬と同様の実行機能改 善をもたらすことが示されている。このことは,行動療法が薬物療法と相加的に作用する ことを示している。同時に,methylphenidateなどの中枢刺激薬は,報酬系機能の改善に よって動機付けを高め,そのことで行動療法を容易にする可能性がある。これらは,薬物 療法が行動療法の効果を高めるだけでなく,薬物療法の最小化あるいは中断にもつながる と考えられる。 臨床精神薬理 21:609-612, 2018 Key words :: ADHD, beghavior therapy, pharmacotherapy -
精神分析的精神療法と併用する薬物療法はいかにあるべきか
21巻5号(2018);View Description Hide Description精神分析的精神療法は, 「今ここ」での治療関係を治療の手段にしている。つま り,患者が主治医やセラピストに転移感情を抱き,主治医やセラピストも患者に逆転移感 情を持ちやすい治療法である。薬物療法を担当する主治医がセラピストを兼ねる場合に は,逆転移が薬物の使い方にマイナスの影響を与えやすい。このため,主治医とセラピス トを別の人物にするATスプリットという方法を取るなどの工夫が必要になる。患者がセ ラピストや主治医に抱く転移感情が,薬物の効果に影響を与えることがあることにも注意 が必要である。一方,精神分析的精神療法によって患者が自分の心の動きを十分に理解で きるようになり,医師に自分の精神状態を的確に伝えられるようになるという形で薬物療 法にも貢献できると言える。また,薬物療法が効果を示すことで,患者の精神状態が安定 し,精神分析的精神療法が実施しやすくなることも少なくない。薬物療法と精神分析的精 神療法を併用する場合には,以上の点を考慮すべきである。 臨床精神薬理 21:613-619, 2018 Key words :: psychoanalytic psychotherapy, medication, countertransference, transference cure, therapist-administrator split -
薬物療法医と精神療法医は分離しうるか──A-Tスプリットをめぐって
21巻5号(2018);View Description Hide Description主治医である精神科医とは別に,サイコロジストがある程度まとまった時間をとっ て精神療法を実施する分担治療(split treatment)は広く実施されているにもかかわらず, そのプロセスに関する系統的な研究報告は限定され,教育法も確立されていない。協働す る治療者はお互いの治療に敬意を払うべきだが,それにはお互いの領分を認識し,それを 尊重し,侵さないということも含まれる。分担治療の薬物療法医が行う精神療法は,もう 一人の治療者が行う精神療法とは異なる。服薬を継続させ, プラセボ効果を増強させるよ うな相互交流こそ,薬物療法医が行う,名前のつかない精神療法である。筆者自身の経験 では,分担治療において,薬物療法と精神療法の2つの治療が患者の中で統合されて機能 している時には,それぞれの治療はむしろ自律的に作用しながら,それと意識せずに,も う一方の治療にポジティブな影響をおよぼしているように思う。 臨床精神薬理 21:621-626, 2018 Key words :: A-T split, split treatment, psychotherapist, pharmacotherapist, one-person -
薬物療法と森田療法をどのように併用すべきか
21巻5号(2018);View Description Hide Description今日,森田療法を適用する大半の患者には薬物療法も併用されている。こうした現 状に鑑み,本稿では薬物療法に影響する心理的要因を検討し,それを踏まえた森田療法的 アプローチの要点を示すことにした。薬物療法に影響を及ぼす心理的要因として,アドヒ アランス,プラセボ効果に加えて,不安症の患者に生じがちな服薬に対する不安,潜在的 無力感,自律と依存を巡る葛藤などを考慮に入れる必要がある。それを弁えた森田療法的 アプローチの要点は以下の通りである。①薬物療法と精神療法の双方を根拠づけるような 治療モデルに沿って心理教育を実施する,②森田療法単独で開始するという選択肢もある ことを示す,③投薬には適切な「ことばの処方」を補う,④心理的悪循環を打破して行動 を広げる,⑤発症状況を振り返る。このようなアプローチにおいては,治療の開始から終 結に至るまで薬を巡る対話を重視し,それを患者に保証する医師の姿勢がなくてはならな い。 臨床精神薬理 21:627-632, 2018 Key words :: Morita therapy, psychotherapy, pharmacotherapy, anxiety disorder -
心的外傷後ストレス障害の治療:精神療法と薬物療法の意義
21巻5号(2018);View Description Hide Description心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)の主な治療方法 は精神療法と薬物療法である。ガイドライン上の第一選択は,持続エクスポージャー療法 など,トラウマ体験に焦点を当てた認知行動療法である。薬物療法では選択的セロトニン 再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors:SSRI)やセロトニン・ノルア ドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin and norepinephrine reuptake inhibitors:SNRI) のエビデンスが示され,本邦ではparoxetineとsertralineが認可されている。認知行動療 法と薬物療法との併用研究では,認知行動療法単独と併用療法との間でPTSD症状の有 意な改善を示さなかった。ただし,うつ症状では併用群で有意に改善が見られた。 臨床精神薬理 21:633-639, 2018 Key words :: posttraumatic stress disorder, pharmacotherapy, psychotherapy, trauma-focused cognitive behavioral therapy, exposure therapy -
薬物療法の効果と副作用を精神療法でいかに扱い,いかに活かすか──摂食障害をめぐって
21巻5号(2018);View Description Hide Description摂食障害治療は容易ではなく,有効性が実証された薬物療法も限られている。摂食 障害は「神経性やせ症」 「神経性過食症」「過食性障害」などに分類される。摂食障害患者 は,やせると心理的苦痛が軽減するという病的な信念をもっており,食事制限の反動で過 食が生じるため,治療の基本は認知行動療法による病的な食行動の修正である。神経性や せ症に対する有効性が実証された薬物療法はないが,低体重に対して抗精神病薬が,不安 軽減に対してセロトニン作動性抗うつ薬が有効な場合がある。神経性過食症と過食性障害 では,セロトニン作動性抗うつ薬や抗てんかん薬が過食症状に対して有効であり,さらに 注意欠如多動症治療薬が過食衝動や肥満に対して有効であるという報告がある。摂食障害 患者は治ることにたいして両価的感情をもっていて,薬物療法の受け入れもさまざまであ る。他の精神療法と並行して患者とうまく合わせた薬物療法を行うことが望ましい。 臨床精神薬理 21:641-645, 2018 Key words :: eating disorders, pharmacological treatment, anti-depressant, anti-epileptic medications, psychotherapy -
うつ病治療におけるプラセボ反応性を当事者─治療者の関係から考える
21巻5号(2018);View Description Hide Description精神科領域における新薬開発の難しさの理由の一つに,軽症~中等症例におけるプ ラセボ反応が挙げられる。うつ病におけるプラセボ反応には,測定要因やうつ病の病態生 理,治療要因が関係するが,治療要因には期待を含めた狭義のプラセボ効果が含まれる。 プラセボ効果は,当事者が臨床試験や処方に対する期待や希望を持ち,内在するレジリエ ンスを刺激することとも換言できる。治療者の視点に立つと,プラセボ効果を最大限に活 かすことで,より薬物療法の効果を発揮させることが可能だろう。また,Shared Decision Making(SDM)により,当事者が前向きに治療に参画することもプラセボ効果につ ながると期待される。当事者が治療者に会い,治療者の説明に傾聴し納得し,治療者に信 頼を抱き,治療者が奨めた治療に対し期待を持つ。我々が何気なく行っている日常診療に おけるこれらひとつひとつの要素が,実は当事者のプラセボ効果を刺激するのではないだ ろうか。 臨床精神薬理 21:647-652, 2018 Key words :: placebo, nocebo, antidepressant, resilience, shared decision making (SDM) -
統合失調症に対する心理社会的治療の効果を促進するための薬物療法
21巻5号(2018);View Description Hide Description薬物療法と心理社会的治療は統合失調症治療における車の両輪のようなものであ り,精神科臨床の現場では,薬物療法と心理社会的治療が日常的に併用されている。実際 にSSTや心理教育は,薬物療法を活かすための内容がセッションで取り上げられること も多い。臨床研究においても,SSTや心理教育と薬物療法を併用することで,再発・再入 院を防止する効果が報告されている。また統合失調症の長期的転帰には認知機能が深く関 与しているが,薬物療法のみで十分な認知機能の改善は得られないことが多いため,認知 機能リハビリテーションと共に実施することでその改善効果が増強されることが期待され る。心理社会的治療と薬物療法は排他的な関係にあるものではなく,一体として提供され る治療である。そのため治療に関わるスタッフも,職種を問わず心理社会的治療と薬物療 法の双方の効用を熟知した上で,それらの治療・支援を進めていくことが重要である。 臨床精神薬理 21:653-658, 2018 Key words :: schizophrenia, social skills training, psychoeducation, cognitive remediation, pharmacotherapy
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【シリーズ】
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精神科薬物療法 pros and cons 非定型抗精神病薬単剤に非反応な統合失調症患者への抗精神病薬使用
21巻5号(2018);View Description Hide Description -
精神科薬物療法 pros and cons 非定型抗精神病薬単剤に非反応な統合失調症患者への抗精神病薬使用
21巻5号(2018);View Description Hide Description -
精神科薬物療法 pros and cons 治療抵抗性例にclozapineを使用する前に遅発性ジスキネジアに準じた治療を行う意義
21巻5号(2018);View Description Hide Description -
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【総説】
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大うつ病治療の最適化に向けた臨床研究基盤構築の試み──実践的精神科薬物治療研究プロジェクトの成果と今後の課題
21巻5号(2018);View Description Hide Description我が国において,精神科疾患は国民の健康を脅かす大きな問題となっている。そこ で,精神・神経科学振興財団では実践的精神科薬物治療研究プロジェクトを実施し,臨床 研究基盤の構築を試みた。まず,資金提供者から独立した研究者グループJ-TOP(Japan Trialists Organization in Psychiatry)を組織し,実臨床において重要な研究ニーズの詳細 検討を行った。さらに,大うつ病治療の最適化を目標に,2つの多施設共同ランダム化比 較試験,1)うつ病のファーストライン治療戦略を確立する「SUN ☺ D試験」と,2)薬 物治療抵抗性うつ病に対するモバイル認知行動療法の併用効果を検証する「FLATT試 験」 ,を実施した。本プロジェクトの成果により,うつ病臨床の最適化に必要な知見が得 られたことから,日本の臨床研究が世界の精神医学をリードする契機となることが大きく 期待される。 臨床精神薬理 21:663-669, 2018 Key words :: pragmatic clinical trial, major depression, antidepressants, cognitive behavioral therapy, mobile health
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第82回 究極の抗精神病薬clozapineの開発物語──その1:Clozapineの創製から 欧州での承認とそれに続いたフィンランドからの無顆粒球症の報告まで
21巻5号(2018);View Description Hide Description
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