臨床精神薬理

Volume 21, Issue 7, 2018
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【展望】
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今日のうつ病とその治療を再考する
21巻7号(2018);View Description
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うつ病等の気分障害で医療機関を受診している患者数は,増加の一途を辿ってい る。この背景には,精神科・心療内科を標榜する診療所の増加,うつ病に対する認知度の 上昇,勤労者のストレスの増大等がある。そして,診療では,薬物療法以外にも様々な治 療アプローチが提唱されている。精神療法としては,「運動療法」や「行動活性化」「マイ ンドフルネス認知療法」「対人関係療法」等がある。また,「ketamine」や「反復経頭蓋磁 気刺激法(rTMS) 」 「電気けいれん療法(ECT)」 「経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)」など, 新たな治療技術も登場している。本稿では,上記キーワードを中心に,海外のガイドライ ン(韓国,米国,カナダ,英国,豪・ニュージーランド,WFSBP)を紹介する。 臨床精神薬理 21:875-882, 2018 Key words :: depression, depressive disorders, guideline, evidence, recommendation
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【特集】多様化するうつ病治療の選択肢と薬物療法の位置付け
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うつ病に対する運動療法の検証と臨床での実践
21巻7号(2018);View Description
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うつ病に対する運動療法は,論文の多くは,その有効性を示しているが,一方で多 くの研究を集めたメタアナリシスを,特に方法論的に集めた論文のみを用いて行うと,有 効性は有意でなくなることが多い。しかし,運動や食事などの生活の要素は,治療的に用 いられる前から程度の差はあれ患者が生活の中で行っていたことである。したがって,薬 物評価のようなランダム化比較試験の方法が有効かどうかにも疑問がある。疫学研究をみ ると運動を十分にしていないことが,うつ病発症のリスクファクターと考えられるデータ もある。さらに,運動療法は体力を改善するという側面もある。これらを総合的に考え, さらに臨床でうつ病運動療法が有効に活用されることが望まれる 臨床精神薬理 21:883-891, 2018 Key words :: depression, exercise therapy, sports psychiatry, methodological issue, sedentary behavior -
うつ病に対する行動活性化療法
21巻7号(2018);View Description
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近年,うつ病に対する非薬物療法的なアプローチとして,行動活性化療法(behavioral activation:BA)が注目されている。代表的な心理療法である認知療法が,うつ病患 者の認知の歪みに着目し,それを変容させるための過程として行動の変化を求めるのに対 し,BAはうつ病を持続させる鍵症状として,嫌悪状況や社会的状況からの回避行動に注 目する。うつ病患者に多くみられる外出頻度の低下や対人接触の減少といった回避行動は 快事象の減少もしくは不快事象の増加を引き起こし,結果的にうつ症状を強化する。患者 にとって意味のある行動目標を適切に設定し達成することができれば,その行動は正の強 化を受けさらに活性化され,結果的に患者の気分や認知にもよい方向の変化をもたらし, うつ症状を回復させるというのがBAの理論の要である。本稿ではその理論と実践につい て概説を行う。 臨床精神薬理 21:893-899, 2018 Key words ::behavioral activation, depression, cognitive behavior therapy, avoidance behavior -
うつ病に対するマインドフルネスの有用性と日常臨床への応用
21巻7号(2018);View Description
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うつ病に対するマインドフルネスの有用性と日常臨床への応用について議論するた めに,最初にマインドフルネスの定義と医療における歴史について述べた。次に,うつ病 に対して実施されるマインドフルネス的介入のうち最も代表的なマインドフルネス認知療 法(MBCT)について,その構造に触れ,うつ病への適用について再発予防効果と急性期 の治療効果にわけて説明した。その結果,MBCTは,寛解期の介入で再発予防効果を目 指して作成されたプログラムであるが,近年,急性期の介入効果も認められるようになっ ていることを明らかにした。さらにMBCTの効果機序について解説したうえで,最後に 日常臨床への応用では,セルフヘルプ教材の活用と治療者自身の実践が重要になることに ついて述べた。 臨床精神薬理 21:901-907, 2018 Key words :: mindfulness, cognitive therapy, depression -
うつ病に対する対人関係療法IPT(Interpersonal Psychotherapy)の現状と日常臨床での応用:短縮版IPT(IPT-B)の知見を参考に
21巻7号(2018);View Description
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対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT)は,うつ病のために開発され た対人関係に焦点化した短期精神療法であり,米国APAや英国NICEといった諸外国の 主要なうつ病の治療指針でも認知行動療法と並んで推奨される。双極性障害,PTSDや SAD,パニック障害といった不安障害,摂食障害への効果も示されており,併存疾患の多 いうつ病への診断横断的なIPTの活用にも注目が集まる。2002年には,ISIPT(国際対人 関係療法学会)が設立されるなど本家の米国以外への広がりも加速している。英国では NHSの枠組みに組み込まれ,公的な専門家育成機関の創設により治療者の量産もはじまっ ている一方で,我が国では未だ十分な広がりを見せておらず,その一因として日常臨床で の実践に時間的限界が多いことも挙げられる。本稿では,IPTを巡る最新知見を概説後, 近年,ピッツバーグ大学で開発された短縮版IPT(IPT-B)を参考にしながら,自助化, 細分化,濃淡化,統合化および,集団化といった筆者の経験や,同大学からIPT/IPSRT の臨床指導を受けたエッセンスも加味した上で,IPTの日常臨床(通院精神療法)への応 用を考察した。 臨床精神薬理 21:909-918, 2018 Key words :: IPT, IPT-B, Interpersonal Psychotherapy, psychotherapy, depression -
うつ病治療に対する(R)-ketamineの可能性と将来展望
21巻7号(2018);View Description
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麻酔薬ketamineは,治療抵抗性うつ病患者に単回投与で即効性の抗うつ効果,お よび希死念慮・自殺願望の低下を示すことが報告され,現在,最も注目されている抗うつ 薬である。一方,ketamineは投与直後に精神病症状や解離症状を引き起こすこと,およ び繰り返し投与による薬物依存などの問題が解決していないにもかかわらず,米国では適 応外使用が日常的に行われている。また大手製薬企業ヤンセン社は,光学異性体の1つ, (S) -ketamine(esketamine)を臨床治験中であるが,筆者らは(R) -ketamineを開発して いる。本稿において,抗うつ薬として期待されているketamineの光学異性体について最 新知見をもとに議論したい。 臨床精神薬理 21:919-924, 2018 Key words :: antidepressant, ketamine, enantiomer, metabolite -
うつ病に対するrTMSの現状と実施の注意点
21巻7号(2018);View Description
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わが国でも,反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation: rTMS)が新規治療法として承認され,うつ病治療の選択肢が広がった。2018 年4月,日 本精神神経学会が,その適正使用指針を策定した。rTMSの適応は,抗うつ薬による十分 な薬物療法に反応しない中等症以上の成人のうつ病患者である。その有効性は,薬物療法 を併用しない二重盲検下の寛解率では15 ~ 20%である。薬物療法を併用する非盲検下の 寛解率では30 ~ 40%である。副作用としては,頭痛,刺激部位の疼痛,不快感,筋収縮 が20 ~ 40%に見られる。rTMSによるけいれん発作の誘発は0.1%未満である。安全性の 観点から,実施に際し,けいれん発作のリスク評価と磁性体の有無を確認する。今後の課 題としては,技術の均てん化,維持療法の確立,双極性障害への適応拡大などが考えられ る。 臨床精神薬理 21:925-930, 2018 Key words :: transcranial magnetic stimulation (TMS), repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS), depression -
うつ病に対するECTの課題と現状
21巻7号(2018);View Description
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ECTが初めて報告されてから 80 年が経過した。修正型や短パルス矩形波治療器の 普及によって安全性が高まり,高齢者にもECTを施行できるようになった。ECTはその 高い有効性が示され,うつ病治療の切り札的存在として評価されている。しかし,ECT を安全に実施するためには,標準化された治療手技の普及という臨床現場での大きな課題 がある。とくに,けいれん誘発に関する論理的理解はECTの適正化に大いに貢献すると 考えられる。また,麻酔や刺激条件の設定といった様々な工夫が報告されており,今後の 発展が期待される。一方,ECTによって寛解した後の継続・維持療法として,薬物療法 やメンテナンスECTについては今後さらにエビデンスを蓄積する必要がある。そして, 安全かつ認知機能障害の少ない新たなけいれん療法の開発が進むことで,治療抵抗性うつ 病が減り,QOLの向上や自殺の減少が期待できる。 臨床精神薬理 21:931-939, 2018 Key words :: depression, electroconvulsive therapy, cognitive impairment, maintenance ECT -
うつ病におけるtDCS(経頭蓋直流電気刺激)の可能性
21巻7号(2018);View Description
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経頭蓋直流電気刺激法(transcranial direct current stimulation: tDCS)は,頭皮上 から数mAの弱い直流電流を流すことで脳に変化を及ぼす脳刺激法である。器材自体シン プルで,比較的安価であることもあり,基礎,臨床を問わず,関連の研究論文数は急速に 増加している。うつ病を対象とした最近の臨床研究では,優れた試験デザインによる検証 でも治療効果を認めた論文がでてきている。しかし,効果に関して否定的な報告も散見さ れ,tDCSの作用機序も依然不明な点も多い。また,実際の臨床応用においては,安全性 を第一に考慮する必要があるが,中,長期的な副作用の解明は今後の課題である。このよ うにtDCSが確立された新たな治療方法となるには,引き続きエビデンスの蓄積が必要な 段階であるが,薬物療法の増強効果や薬剤の使用を控えたい病態への適応など,今後が期 待される脳刺激法である。 臨床精神薬理 21:941-946, 2018 Key words :: transcranial direct current stimulation (tDCS), transcranial electrical stimulation (tES), depression, neuromodulation
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【シリーズ】
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【原著論文】
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維持期統合失調症患者におけるaripiprazole持続性注射剤と経口薬に関する費用対効果分析――マルコフモデルを用いたシミュレーション研究
21巻7号(2018);View Description
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わが国では,非定型抗精神病薬の持続性注射剤(LAI)が同種の経口薬に比べて高 水準の薬価が設定されており,aripiprazoleにおいても例外ではない。本研究の目的は, 日本における維持期統合失調症患者に対して,入院抑制のためLAIもしくは経口薬のaripiprazoleによる治療を行った場合の直接医療費と入院リスクの費用対効果分析を行い, 薬剤経済性を考察することである。文献の値を用いて,公的医療費支払者の立場における 外来維持期統合失調症患者を想定したマルコフモデルによるシミュレーションを行い,増 分費用効果比(ICER)として入院までの外来通院期間の1ヵ月延長あたりの医療費を, LAIに対する経口薬の入院に関するハザード比が1.1~5の範囲で算出した。その結果, ハザード比が1.1~2の範囲でICERの急激な減少が示され,それ以降ハザード比5まで の減少の程度は相対的に緩やかな推移であった。LAIは入院リスクが高い患者に限らず経 済的効率性が期待されることが示唆された。 臨床精神薬理 21:955-964, 2018 Key words :: aripiprazole, long acting injection, schizophrenia, cost effectiveness analysis, hospitalization
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【シリーズ】
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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