臨床精神薬理
Volume 21, Issue 8, 2018
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【展望】
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どのような患者にいつまでどのような維持療法が必要か
21巻8号(2018);View Description Hide Description統合失調症の再発予防に抗精神病薬による維持療法が有効であるが,どのような患 者にどれだけ長くどのような投与量と投与法で使用するのが最適かは不明確な点が多い。 抗精神病薬にはリスクもあることを考えると,理想的には本当に必要な患者に限定して, 必要最小限の用量による必要最短期間の使用が望ましい。最近では,維持療法中断,間歇 投与法,低用量維持療法などできるだけ累積投与量を減じる試みが研究されている。それ らから導かれる結論は,低用量よりも常用量,間歇的投与よりも持続投与,安定後の中断 よりは継続,経口薬より持効性製剤が,再発予防のための安全策ということになる。しか し,これまでの研究は再発(陽性症状増悪)のみが指標とされがちであった。減量または 中断による一時的増悪のリスクと引き換えに薬物継続の必要性の有無と必要最小用量が判 明すれば,その後の長い診療には有益となるかもしれない。再発のみでなくリカバリーを も視野に入れた維持療法の長期的検討が必要となっている。 臨床精神薬理 21:1007-1018, 2018 Key words :: schizophrenia, maintenance therapy, relapse, recovery
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【特集】統合失調症維持治療に残された疑問点
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統合失調症の維持期治療におけるrisperidoneとolanzapineの治療用量
21巻8号(2018);View Description Hide Description統合失調症治療では急性期から維持期にわたって継続的な抗精神病薬治療を行うこ とが推奨されている。そのため,維持期治療では再発予防効果を維持しつつ,副作用とア ドヒアランスにも配慮した,長期服用に耐える至適用量での治療を目指す必要がある。し かし,risperidone(RIS)やolanzapine(OLZ)などの非定型抗精神病薬の維持期の再発 予防のための必要最小用量や至適用量域に関するエビデンスは未だ十分ではない。本稿で はこれまでに報告されている維持期の治療用量に関するガイドラインや臨床研究の結果を 概説し考察を行った。RISの維持期の至適用量域の上限は5mg程度と考えられる一方, OLZの至適用量域の上限は20mg以上の可能性があり,急性期に20mg以上要した症例で はそのままの高用量維持も可能かもしれない。至適用量域の下限に関してはこれまでの推 奨用量よりも低用量である可能性があり,RIS 2mg以下,OLZ 7.5mg以下でも十分な再発 予防効果を示す症例が少なからず存在することが示唆された。 臨床精神薬理 21:1019-1025, 2018 Key words :: schizophrenia, risperidone, olanzapine, optimal dose, maintenance -
ドパミンD2受容体部分アゴニスト系抗精神病薬aripiprazoleの急性期用量と維持治療用量
21巻8号(2018);View Description Hide Description大塚製薬は,世界で初めてドパミンD2 受容体部分アゴニスト作用を有する抗精神 病薬aripiprazole(エビリファイ ®)の創製に成功した。Aripiprazoleは米国で 2002 年に統 合失調症を効能として承認取得し,日本では 2006 年に同効能で承認取得して,現在では 世界 65 ヵ国以上で承認されている。本稿では,過去に報告されたaripiprazole錠剤の急性 期用量と維持用量,並びにaripiprazole持続性注射剤の維持用量についてそれらの情報を 整理し,そのうえで急性期用量と維持用量に及ぼすaripiprazoleのドパミンD2 受容体部 分アゴニストとしての特性について述べたい。 臨床精神薬理 21:1027-1036, 2018 Key words :: aripiprazole, dopamine D2 receptor partial agonist, antipsychotic, acute phase, maintenance phase -
Clozapineの最適治療用量と維持治療用量の選定――琉球病院での臨床経験から
21巻8号(2018);View Description Hide Description琉球病院では 2010 年2月から 2017 年 12 月までに延べ 222 症 例の治療抵抗性統合失調 症患者に対してclozapine(CLZ)治療を行った。CLZの平均の維持用量は386mg⊘ 日で あった。CLZ 血中濃度の測定を行った検体のうち,CLZ 用量100 ~ 600mg における 100mgごとの平均の血中濃度(ng⊘ml)は順に266,278,499,589,732,737と高くなっ た。CLZ用量と血中濃度の関係は個体差があり,同じ用量における血中濃度の最高値 ⊘ 最 小値の比は1.8倍から4.4倍と大きかった。これには性差,年齢,喫煙の有無,内服時 間,併用薬などが関係していると考えられた。CLZ用量を最適化し,より安全に使用す るためにはCLZ血中濃度モニタリング体制の整備が必要である。CLZ治療においては薬 物治療をベースにして,患者・家族と多職種チームが退院後の社会復帰を目指して治療に 取り組んでいく必要がある。 臨床精神薬理 21:1037-1045, 2018 Key words :: clozapine, treatment-resistant schizophrenia, maintenance dose, clozapine serum concentration, clozapine-induced seizures -
高齢統合失調症患者への維持治療用量と継続の必要性
21巻8号(2018);View Description Hide Description多くの先進国で高齢統合失調症患者の増加が予測され,高齢統合失調症に関わる 種々の問題は喫緊の課題である。多くの統合失調症患者は加齢とともに症状が改善するこ とが分かっている。一方,加齢に伴い副作用のリスクは増加することが分かっているが, これは,抗精神病薬の吸収,分布,代謝,排泄の加齢に伴う変化やドーパミン神経の加齢 に伴う変化による抗精神病薬への感受性の高まりが原因と考えられている。よって,高齢 患者においては薬剤の減量が望ましい。しかし,薬剤の投与を中断しても良いか否かとい う点については不明であり,さらなる研究が必要である。 臨床精神薬理 21:1047-1050, 2018 Key words :: schizophrenia, aging, late-life, antipsychotics, discontinuation -
統合失調症維持期の睡眠障害への対応と注意点
21巻8号(2018);View Description Hide Description統合失調症では,脳の形態異常と関連して深睡眠の減少やスピンドルの減衰といっ た特徴的な睡眠障害が生じ,それらは認知機能の障害など様々な病態に関連している。さ らに最近では概日リズムを来しやすい遺伝子学的背景や,メラトニンの機能不全が指摘さ れている。統合失調症の治療や再発予防において,睡眠改善作用のある薬物を適切に導入 することの重要性に疑念の余地はないが,その効果を十分に生かすには非薬物的なアプ ローチを併せて行うことが必須である。特に,慢性期において生じやすい生活リズムの乱 れに注意を払い,様々なリズムの強化因子を日常的な治療に導入することが,患者の QOLの維持と再燃の予防につながる。 臨床精神薬理 21:1051-1059, 2018 Key words :: schizophrenia, sleep, CBT- I, clock gene, circadian rhythm -
第2世代持効性抗精神病薬注射製剤を導入する前に,経口抗精神病薬でどの位の期間評価すれば良いのか?
21巻8号(2018);View Description Hide Description近年,第2世代(SGA)の持効性抗精神病薬注射製剤(LAI)が登場し,その有用 性に期待されている。しかし,持効性というLAIの特徴は,忍容性への懸念を生じさせ る。そのため,SGA-LAI導入前の経口薬による有用性の評価は非常に重要である。しか し,どのくらいの期間,経口薬で評価すれば良いのかは明示されておらず,それを実証す る研究も行われていない。そこで本稿では,経口薬の臨床試験結果を代用し,LAIが導入 されるタイミングを急性期症状改善後と病状に大きな変化の無い状態の2つに分けて,経 口薬による評価期間について検証した。長期的な無作為割付試験等の結果から,急性期症 状改善後の場合,risperidone⊘paliperidoneは急性期症状改善後同一用量で6週間程度, aripiprazoleは投与後3ヵ月間評価することが望ましい。大きな病状の変化が無い状態の 場合,risperidone⊘paliperidoneは少なくとも3,4ヵ月程度,aripiprazoleは3ヵ月程度 評価することが望ましいと思われる。 臨床精神薬理 21:1061-1068, 2018 Key words :: long acting injectable antipsychotics, oral antipsycotic, risperidone, paliperidone, aripiprazole -
抗精神病薬の投与間隔延長は統合失調症治療になにをもたらすのか
21巻8号(2018);View Description Hide Description統合失調症の維持治療におけるアドヒアランスを向上させる戦略の1つとして,抗 精神病薬の投与間隔延長という方策がある。経口投与では1日1回投与,2日(数日)に 1回投与,週に1回投与(経口デポ製剤)があり,非経口投与では持効性注射製剤の2週 間製剤,4週間製剤,3ヵ月製剤,さらにインプラントの検討も始まっている。特に注目 すべきは週に1回投与が可能な経口抗精神病薬(経口デポ剤)とLAIの3ヵ月製剤であ ろう。この2つの製剤はわが国には今のところ導入されていないが,一般臨床で使用可能 な国もあり,患者の受け入れやアドヒアランス向上に貢献できるかもしれない。投与間隔 延長という方策は様々な心理社会治療や支援との連動の中で真価を発揮する可能性があ る。一方で,投与間隔の延長がその患者に必要な診療や心理社会治療・支援の切り捨てに つながらないように十分な注意が必要である。長期間の作用を有する製剤を臨床で安全に 使いこなすためには,至適用量の決定方法,モニタリング体制,診療情報の伝達,慎重な 説明と同意プロセスなどの確立が不可欠である。 臨床精神薬理 21:1069-1079, 2018 Key words :: reducing dosing frequency, penfluridol, oral depot antipsychotic drugs, paliperidone palmitate 3-month formulation, risperidone implant
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【シリーズ】
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【原著論文】
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統合失調症圏患者の生活習慣・モニタリングと薬物治療――山梨県立北病院における入院・外来患者大規模調査結果から
21巻8号(2018);View Description Hide Description統合失調症はメタボリック症候群の危険因子を多く有し,血液検査などの臨床検査 や生活指導など,日常臨床において多面的な介入を要する精神科疾患である。山梨県立北 病院において,抗精神病薬を服用している統合失調症圏 649 例に対して,血液検査施行頻 度や生活習慣やメタボリック症候群の合併割合などを把握することを目的として健康アン ケート調査を施行した。 「抗精神病薬総投与量が多いこと」と「olanzapine(以下,OLZ) を服用していること」は,血液検査施行頻度が多いことと関連する因子であった。また, 血液検査は平均 10.0 ヵ月間に1回の割合であり,各ガイドラインと比較して頻回に施行し ていた。しかし,糖尿病リスクの高い抗精神病薬(OLZ)を服用している症例や心血管系 リスクの高い症例に関しては,各ガイドラインの推奨頻度と比較すると少ない結果であっ た。また,OLZ治療群と非OLZ治療群においては,喫煙に関する心理教育の施行割合に 有意差を認めないなど,生活習慣指導に関するリスクマネージメントは課題も多く残され ていることも判明した。 臨床精神薬理 21:1083-1091, 2018 Key words :: schizophrenia, metabolic syndrome, life habit, educational guidance, blood test -
日本人の小児ADHDに対するguanfacine塩酸塩徐放錠の有効性及び安全性:第2/3相二重盲検プラセボ対照試験
21巻8号(2018);View Description Hide Description6~ 17 歳の注意欠如・多動症(ADHD)に対するguanfacine塩酸塩徐放錠(GXR) の有効性及び安全性を本邦にて確認する目的で,プラセボを対照とした無作為化二重盲検 比較試験を実施した。GXR投与群として,体重換算用量別に3群を設定し(0.04mg⊘kg 群,0.08mg⊘kg群,0.12mg⊘kg群),それぞれをプラセボ投与群と比較した。その結果, 投与7週後のADHD-RS- Ⅳ合計スコアの変化量(調整平均値 ± 標準誤差)において, 0.04mg⊘kg群 (- 10.73 ± 1.24), 0.08mg⊘kg群 (- 14.60 ± 1.25)及び0.12mg⊘kg群 (- 16.89 ± 1.29)は,プラセボ群(- 6.70 ± 1.24)に対する優越性を示した(それぞれp = 0.0148, p < 0.0001,p < 0.0001)。また,ADHD-RS- Ⅳスコア変化量等の有効性指標は,GXRの体 重換算用量に依存して大きくなる傾向が示された。有害事象の発現率は,プラセボ群 61.2%,0.04mg⊘kg群75.8%,0.08mg⊘kg群81.5%,0.12mg⊘kg群92.4%であり,GXR群 での最頻度の有害事象は傾眠であった。有害事象の大部分は軽度又は中等度で,多くは試 験期間中に軽快又は回復した。GXRは本邦において,ADHD治療の有用な選択肢となる と考えられた。 臨床精神薬理 21:1093-1117, 2018 Key words :: guanfacine, ADHD, double-blind study, placebo, alpha-2 agonist
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【シリーズ】
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【私が歩んだ向精神薬開発の道——秘話でつづる向精神薬開発の歴史】
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第85回 究極の抗精神病薬clozapineの開発物語――その4:わが国におけるclozapineの再開発:前期第Ⅱ相試験から後期第Ⅱ相試験まで
21巻8号(2018);View Description Hide Description
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