臨床精神薬理
Volume 21, Issue 11, 2018
Volumes & issues:
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【展望】
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Clozapineの有用性アップデート
21巻11号(2018);View Description Hide DescriptionClozapineに関する最近 10 年間の国内外の研究報告を振り返り,統合失調症治療に おけるclozapineの位置づけについて再考した。Clozapineは,臨床的有用性,社会的予 後,自殺予防,身体的予後などの様々な観点から,極めて優れた効果を有しており,他の 抗精神病薬とは一線を画した位置づけにあることが改めて確認された。最近の遺伝学的研 究手法の進展により,clozapine誘発性の無顆粒球症ならびに顆粒球減少症の予測もある 程度可能になってきており,これらの結果の実臨床における有効な活用が期待される。し かしながら,わが国において治療抵抗性統合失調症患者にclozapineが十分に利用されて いるとは言い難く,その普及の妨げの要因となっているclozapine導入のしにくさを,安 全性を担保しながら,ひとつずつ解決していくことが今後の課題である。 臨床精神薬理 21:1411-1418, 2018 Key words :: agranulocytosis, clozapine, effectiveness, schizophrenia, suicide
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【特集】Clozapine登場で精神医療は変わったか?
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我が国におけるclozapine使用規制の特徴:諸外国との比較
21巻11号(2018);View Description Hide DescriptionClozapineは,治療抵抗性統合失調症治療のゴールドスタンダードとして知られ, いくつもの国際的なガイドラインにおいて使用が推奨されている。しかし,世界的にその 使用頻度が低いことや,使用開始時期が遅いことが指摘されている。日本ではさらに普及 が遅れ,諸外国と比べてclozapineの使用割合が極めて低い。その理由として,我が国で は世界に類を見ないほどclozapine使用に対して厳しい規制が敷かれていることが挙げら れる。特に,血液学的モニタリングの頻度の高さや入院中にclozapineを導入しなければ ならないことは,患者にとって大きな負担になり,clozapineが受け入れられにくい大き な原因となっていると考えられる。Clozapineの普及は必須の課題であるため,安全性の 担保と患者の負担軽減のバランスを考慮しながら,clozapine使用の規制のあり方につい て検討していくことが必要である。 臨床精神薬理 21:1419-1427, 2018 Key words :: clozapine, treatment-resistant schizophrenia, regulations of clozapine use, monitoring -
クロザリル適正使用委員会の役割と課題
21巻11号(2018);View Description Hide Description我が国では,clozapine(クロザリル ®)の使用にあたっては,クロザリル適正使用 委員会の管理・監督のもとに,定められた運用手順に従って使用することが求められてい る。本稿ではなぜそのような厳正な管理が必要なのか,clozapine使用にあたってどのよ うなことが求められているのか,クロザリル適正使用委員会の役割,CPMS運用手順の 概要,ならびにこれまでの運用状況,今後の課題について述べた。clozapineの安全で適 正な使用により本剤の効能効果がいっそう高まり,結果として受益者の心身の健康増進と QOLの上昇につながることを願っている。 臨床精神薬理 21:1429-1437, 2018 Key words :: The Expert Committee for Clozaril Patient Monitoring Service, CPMS, Registration procedure, Adversive events -
地域におけるclozapine治療ネットワーク――琉球病院を拠点とした沖縄モデル
21巻11号(2018);View Description Hide Description"琉球病院(以下,当院)では 2010 年2月から 2018 年6月までに延べ 238 症 例の治療 抵抗性統合失調症患者に対してclozapine(CLZ)治療を行った。紹介 例は 17 施設からの 121 -
ガイドラインにおけるclozapine
21巻11号(2018);View Description Hide Description「Clozapine =治療抵抗性統合失調症」ということについては,世界中のガイドライ ンにおいて記載されている。日本においてもclozapineが登場してから9年がたったが, 治療抵抗性統合失調症のうちのごく一部しかclozapineは用いられておらず,clozapineの 処方が可能な医療施設も少なく,処方経験のある精神科医も少ない。日本のガイドライン にclozapineの使用について明記されるようになったのは,2015 年に作成された「統合失 調症薬物治療ガイドライン」であり,「治療抵抗性統合失調症におけるクロザピン治療は 有用か?」という臨床疑問において「クロザピンは有用であり強く推奨する」とされてい る。このようなガイドラインは,臨床現場にて患者と医師の共同意思決定を支援するため のものであるが,患者・医師においても普及が十分ではない。よって,患者に対しては, わかりやすく書き下ろした「統合失調症薬物治療ガイド」を作成し,医師に対してはガイ ドラインの普及・教育・検証活動であるEGUIDEプロジェクトがなされており,双方向 での普及・教育を行うことにより,clozapineの適正使用にとどまらず,精神科医療の向 上につながると考えられる。 臨床精神薬理 21:1451-1458, 2018 Key words :: clozapine, treatment resistant schizophrenia, Guideline for Pharmacological Therapy of Schizophrenia, Guide for Pharmacological Therapy of Schizophrenia, EGUIDE project -
Clozapine誘発性無顆粒球症の遺伝的リスク因子
21巻11号(2018);View Description Hide DescriptionClozapineは治療抵抗性統合失調症に有用であるが,世界的にも,また本邦でも十 分に普及しているとは言いがたい。その理由は,clozapine誘発性無顆粒球症という重篤 な副作用が約1%程度認められる事実に起因するであろう。すなわち,無顆粒球症の発症 を予測する方法はないため,患者のみならず精神科医も無顆粒球症の発症を恐れ,clozapineの投与が躊躇されていると予想される。これらを背景に,無顆粒球症の発症予測や 病態解明に繫がる遺伝的リスク因子の同定を目的とした薬理遺伝学研究が行われてきた。 本稿では,近年のclozapine誘発性無顆粒球症の薬理遺伝学研究について述べながら,同 定された遺伝的リスク因子がどの程度,あるいはどのような形で臨床に用いるならば実用 性を持つのか,その可能性について検討したい。 臨床精神薬理 21:1459-1464, 2018 Key words :: clozapine-induced agranulocytosis, HLA, pharmacogenomic test, re-challenge -
Clozapineの基礎薬理学の進展状況:ドパミン仮説/GABA・グルタミン酸仮説におけるclozapineの知見
21巻11号(2018);View Description Hide DescriptionClozapineは,他の抗精神病薬が無効な治療抵抗性統合失調症に有効である。一般 的に抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断作用が主作用と考えられている。Clozapineは, D2受容体遮断作用はごく弱く,多受容体に親和性を持つことが特徴である。しかし,治 療抵抗性の病態,そしてclozapineの「治療抵抗性」に対する作用標的・機序は,未だ明 らかではない。統合失調症の病態には,脳内ドパミン伝達の亢進,そしてGABA・グルタ ミン酸神経の異常が報告されている。Clozapineは,ドパミン仮説とグルタミン酸仮説の 双方の動物モデルに特異的な作用を示す。Clozapineの治療抵抗性に対する治療的作用機 序の解明には,臨床病態解明研究と基礎薬理学的研究をともに必要とすると考えられる。 臨床精神薬理 21:1465-1472, 2018 Key words :: clozapine, treatment refractory schizophrenia, GABA, glutamate, NMDA -
「重度かつ慢性」概念とclozapine
21巻11号(2018);View Description Hide Description精神科医療の「機能分化」に関する議論から浮上した「重度かつ慢性」概念に対 し,精神薬理学の技術開発過程によって世に登場した治療抵抗性統合失調症治療薬clozapineがその薬効による真価をどのように発揮するのかについて,関連基準等の比較を 行ったうえ,自験例を交えて考察した。2つの臨床テーマに元々因果関係はなく,概念成 立過程が異なる別次元のものであるが,関連基準には共通点も多く,特に両者が単なる症 状への着目でなく精神機能全般を視野にしていることは興味深い。自施設経験例をまとめ たところ,効果における多様な可能性が考えられ,今後期待される効果がより具体的に集 約されることで, 「重度かつ慢性」症例に対する積極的な使用や普及につながるかもしれ ない一方で,適正管理のための医療環境には多くの制約が確認され,今後の課題と考えら れた。 臨床精神薬理 21:1473-1480, 2018 Key words :: clozapine, deinstitutionalization, long stay inpatient, treatment-resistant schizophrenia
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【シリーズ・他】
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【原著論文】
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精神科看護者の抗精神病薬持効性注射剤の筋肉注射に関する不安,学習意欲,学習行動,知識,経験との関連性
21巻11号(2018);View Description Hide Description"精神科病院に勤務する抗精神病薬持効性注射剤(LAI)の筋肉注射の経験のある看 護師・准看護師 339 名に質問紙調査を行い,筋肉注射に関する不安と学習意欲,学習行 動,知識および,注射時のトラブル経験の有無との関連性を検討した。不安ありと回答し た人は 251 名(不安あり群,62.9%)であり,不安あり群は学習意欲がある者が有意に多 かった(φ= 0.5,p < 0.01)。不安あり群は,学習行動があり(χ 2 = 9.8,p < 0.01),損傷 リスクのある神経の名称を知っており(三角筋部: χ 2 = 5.8,p<0.05,臀部:χ 2 = 8.8, p < 0.01),筋肉注射のトラブル経験者(χ 2 -
統合失調症患者における第二世代抗精神病薬のasenapine舌下錠の満足度に関する調査
21巻11号(2018);View Description Hide DescriptionAsenapine舌下錠を服用している患者を対象に調査を行い,服用方法や口腔内違和 感等の副作用が患者の満足度や服薬継続意思に及ぼす影響について検討した。2016 年 10 月から 2017 年6月までにasenapine舌下錠を4週間以上継続している統合失調症と診断さ れた入院及び外来患者50名を対象とし,asenapine舌下錠の印象,満足度,継続意思及 びその理由についてアンケート調査を実施した。対象患者 50 名のうち64%がasenapine 舌下錠の治療に満足しており,治療を継続したいと回答した。一方,舌下の服用方法を負 担に感じる患者群の満足度及び継続意思は,負担に感じない患者群のそれよりも有意に低 下し,口腔内違和感の苦味に困っている患者群の満足度及び継続意思の程度は,困ってい ない患者群よりも有意に低下していた。今回の調査からasenapine舌下錠を開始する前 に,asenapine舌下錠の服用に関わる十分な情報提供を行うことが重要であり,これが asenapine舌下錠の高い満足度や継続意思に繋がることが示唆された。 臨床精神薬理 21:1495-1506, 2018 Key words :: asenapine, antipsychotic, satisfaction, compliance, schizophrenia
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【シリーズ・他】
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