臨床精神薬理
Volume 22, Issue 1, 2019
Volumes & issues:
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【展望】
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気分障害の認知機能障害の臨床的意義と治療
22巻1号(2019);View Description Hide Description双極性障害やうつ病などの気分障害における認知機能障害(cognitive impairment in mood disorders:CIMD)が注目を集めている。CIMDは統合失調症の認知機能障害と 比べて一般に軽微とされ,鋭敏に抽出するための神経心理学的評価バッテリーがいくつか 開発されている。また,日常生活における困難を表す機能的転帰との関連が注目されてい る。CIMDの治療法として,薬物,リハビリテーション,ニューロモデュレーションの有 用性が報告されている。本稿では,双極性障害とうつ病における認知機能障害の臨床的意 義と治療法開発の現状を,国際双極性障害学会(International Society for Bipolar Disorders)Cognition Task Forceの活動概要などを交え俯瞰する。CIMDの理解を深めること は,気分障害の原因となる神経生物学的基盤の解明や,日常診療を通じた患者の社会生活 の向上に寄与すると考えられ,この分野におけるさらなる知見の蓄積が望まれる。 臨床精神薬理 22:3-8, 2019 Key words :: bipolar disorder, depression, cognition, neuropsychology, outcomes, treatment
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【特集】気分障害の認知機能障害
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気分障害における認知機能障害の評価法
22巻1号(2019);View Description Hide Description近年,精神疾患で観察される認知機能障害の評価,介入,臨床研究は盛んに行われ るようになってきた。双極性障害,大うつ病性障害についても多数の知見が集積されてき た。大うつ病性障害では寛解期においても処理速度,遂行機能,作業記憶が低下しており 残存する障害と言える。双極性障害では気分安定状態でもほぼ全ての認知領域で中等度に 近い低下が見られ,中核的な障害と言える。それぞれの疾患で認知機能障害は社会生活機 能,特に就労能力と相関することが分かっている。評価法としてはBACS,MCCB, RBANSといった様々な神経心理検査バッテリーが存在し,どれを用いても気分障害の認 知機能障害を評価することができる。また患者自身が日常生活で認知機能低下を自覚して いるかという主観的な神経認知障害の評価も有用である。維持期,寛解期において認知機 能検査を行い,薬物療法の最適化,認知機能改善療法の導入を検討することが強く望まれ る。 臨床精神薬理 22:9-13, 2019 Key words :: bipolar disorder, major depressive disorder, cognitive impairment, neuropsychological test -
うつ病の神経認知機能障害
22巻1号(2019);View Description Hide Descriptionうつ病の神経認知機能障害のエビデンスは豊富に示されているものの,それらから 一定の結論を得ることは容易ではない。その理由として,うつ病は異種性が多いこと,神 経認知検査が研究ごとに様々に用いられるため,研究間の比較が容易でないことがある。 こうした限界を踏まえた上で,総じてうつ病の急性期では認知機能は低下しており,寛解 後も少なくとも一定期間は持続していると言えそうである。また,罹病期間やエピソード 数など,疾患が長引けばそれだけ認知機能も低下しやすい。抗うつ薬等の治療により,多 くの認知ドメインで改善が見られる。一方抗うつ薬の長期使用により認知機能の回復を妨 げる可能性もあり,認知機能低下に影響を与えうる高用量使用や三環系抗うつ薬等の治療 を漫然と行うには注意が必要である。さらに,症状軽快後社会復帰しても,認知機能に問 題を残している可能性があることにも治療上,気を配る必要があるだろう。 臨床精神薬理 22:15-22, 2019 Key words :: acute episode, remission, melancholia, suicidal related behaviors, duration of illness -
双極性障害と認知機能障害
22巻1号(2019);View Description Hide Description双極性障害は,症状寛解期においても認知機能障害を呈し,患者の心理社会機能に 大きな影響を及ぼす。近年,双極性障害の実臨床においても,認知機能に着目することが 重要と考えられるようになってきたが,「双極性障害患者の認知機能を,いつ,どのよう に評価し,どう介入するのか」という点に関して,現段階で明確なコンセンサスは得られ ていない。このような状況で, 2018 年に, International Society for Bipolar Disorders (ISBD) により, 「双極性障害における認知機能評価の臨床的勧告」が示され,臨床医が認知機能 障害に対処することの重要性が指摘された。双極性障害患者の機能回復に向けた治療方針 を検討する上で,症状寛解期に認知機能を適切に評価する必要があり,認知機能障害が存 在する場合には,その原因に応じた介入が必要である。 臨床精神薬理 22:23-39, 2019 Key words :: bipolar disorder, cognitive impairment, screening, remission, functional remediation -
高齢者気分障害における認知機能障害
22巻1号(2019);View Description Hide Description1970 年代より高齢者気分障害の認知機能障害に関する指摘が多く報告されるよう になり,近年では高齢者気分障害の認知機能障害は病相期より存在し,適切な治療により 改善するものの寛解期においても障害を認めるといった点についてコンセンサスが得られ るようになった。高齢者気分障害では若年者気分障害と比較しても重度の認知機能障害を 認め,これらは寛解期にも認められる。さらに高齢発症の気分障害では若年発症のそれに 比べ認知機能がより障害されることを指摘した研究が多く報告されている。高齢者気分障 害における認知機能評価には交絡因子が多く存在するため,今後さらなるエビデンスの積 み重ねや,脳機能画像との関係を含めたより幅広い研究を行う必要があると思われる。 臨床精神薬理 22:31-35, 2019 Key words :: late life depression, over age bipolar disorder, cognitive function, early onset, late onset -
うつ病における認知機能障害の薬物療法
22巻1号(2019);View Description Hide Descriptionうつ病の認知機能障害は症状寛解とはある程度独立して経過する。したがって,症 状がなくなったからといって,認知機能障害もなくなるわけではない。むしろ,症状改善 後に遅れて認知機能障害は改善するのであり,社会機能の回復遅延と認知機能障害は関連 するのかもしれない。うつ病の認知機能を改善する抗うつ薬としてvortioxetineが現在国 際的に注目されている。我が国ではvortioxetineは開発中であり,近い将来臨床に導入さ れるかもしれない。その他の現在日本で使われている抗うつ薬の認知機能改善効果は否定 的であるが,十分に研究が行われていないことが限界点である。認知機能への影響を考え ると,抗コリン作用を有する薬物,ベンゾジアゼピン系薬物(抗不安薬,睡眠薬)はうつ 病治療ではできるかぎり避ける工夫が必要と思われる。 臨床精神薬理 22:37-41, 2019 Key words :: depression, antidepressant, cognitive dysfunction, cognitive impairment, vortioxetine -
認知機能障害に焦点をあてた気分障害のリワーク
22巻1号(2019);View Description Hide Description気分障害の認知機能障害は社会生活機能に密接に関わっていることが想定されてお り,寛解後も残存していることが多いため,その改善のための認知リハビリテーションに 期待が高まっている。特にリワークにおいては職業的能力に基礎的に関わっている点で意 義ある介入と考えられる。当院ではNEARに基づいた認知リハビリテーションをリワー クに取り入れて実施しているが,介入した 17 名では神経認知機能の有意な改善とともに, 高い復職率,就労継続率が示されていた。認知機能は認知的処理のプロセスなど基礎的な 能力の基盤でもあり,単に復職準備性を高めるだけの目的で行うのではなく,他のさまざ まなプログラムと並行して行うことで,互いに効果を高め合い心理教育的気付きが促進さ れる可能性が考えられ,全体的な位置付けに配慮すべきである。 臨床精神薬理 22:43-50, 2019 Key words :: depression, bipolar disorder, cognitive impairment, cognitive remediation, return to work -
気分障害の認知機能障害に対する認知リハビリテーション
22巻1号(2019);View Description Hide Description認知リハビリテーション(cognitive rehabilitation)は,元々高次脳機能障害の認知 機能障害に対して開発され,後に統合失調症や気分障害などの精神疾患に伴う認知機能障 害に対する治療法として応用されるようになった。イタリアのCognitive Remediation Experts Workshop(2012 年)によると,認知リハビリテーションは,「認知機能障害をター ゲットとする介入法で,科学的原理に基づく学習を利用し,機能的転帰の改善を究極的な 目標に置く」と定義され,認知過程の改善を狙い,効果の持続性と日常生活への般化を ゴールに置く介入法である。本稿では,気分障害に先行して統合失調症の認知リハビリ テーションについての研究が盛んに行われていた経緯があるため,まず統合失調症に対す る認知リハビリテーションについて簡単に触れた後,双極性障害と大うつ病性障害とにつ いて個別の研究報告をそれぞれ紹介する。 臨床精神薬理 22:51-57, 2019 Key words :: cognitive rehabilitation, cognitive impairment, mood disorder, depression, bipolar disorders -
薬物の副作用としての認知機能障害
22巻1号(2019);View Description Hide Description薬物療法においては,直接的および/または間接的に認知機能障害を改善させるこ とが期待されるが,その一方で薬物自体が認知機能障害を惹起あるいは悪化させうること を念頭に置いておく必要がある。認知機能障害を来たしやすい薬理作用の代表的なもの に,抗コリン作用,鎮静作用,神経細胞毒性などがある。抗うつ薬,抗不安薬/睡眠薬, 抗精神病薬あるいは気分安定薬/抗てんかん薬などの向精神薬はもとより,抗コリン性の 過活動膀胱薬やパーキンソン病薬など向精神薬以外にも認知機能障害を来たしうる薬物が ある。一般的に,新しい薬ほど受容体選択性が高く,抗コリン作用が少ない傾向にはある が,それでも,それらの使用に際しては認知機能障害を考慮した慎重な使用が望まれる。 精神障害における認知機能改善は必ずしも容易なことではないので,認知機能を悪化させ ないあるいは既存の認知機能障害を和らげる工夫も大事である。 臨床精神薬理 22:59-67, 2019 Key words :: depression, cognitive function, psychotropic drugs, adverse effects, anticholinergic effect -
気分障害における不眠と認知機能障害
22巻1号(2019);View Description Hide Descriptionうつ病は様々な認知機能障害が生じ,その障害が残遺することによる社会機能障害 が寛解後のQOL向上を阻害している。また,うつ病の残遺症状の1つに不眠症状があ る。不眠症も多様な認知機能障害が生じることが示されており,それらの障害のうち記憶 障害と遂行機能障害がうつ病における認知機能障害と共通している。うつ病における認知 機能障害はうつ病とは独立した二次障害であることが示唆されている一方,不眠症におけ る認知機能障害は不眠の改善によって緩和する可能性が示唆されている。以上のことを踏 まえると,うつ病における認知機能障害は不眠症状によって生じていることが考えられる が,この観点から実証した研究はない。うつ病における認知機能障害への治療が確立され ていないことからも,うつ病における認知機能障害に関して不眠症状の観点から整理し検 証する必要があるだろう。 臨床精神薬理 22:69-74, 2019 Key words :: depression, insomnia, cognitive impairment
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【シリーズ】
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【症例報告】
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患者心理に配慮したうつ病の治療終結──中止後症状を認めたが抗うつ薬を, 減量・中止できた2症例から
22巻1号(2019);View Description Hide Descriptionうつ病治療において抗うつ薬は重要な役割を担うが,1)社会機能が回復,2)一 定の寛解維持期間が経過,3)副作用の発現,4)患者からの減量・中止の要望,などの 理由により抗うつ薬の減量・中止を検討する局面が生じる。一方,抗うつ薬の減量・中止 に伴って症状の再燃・悪化や中止後症状などが出現し,減量・中止が思うように進まなく なる状況にしばしば遭遇する。本稿ではparoxetine(PX)の減量・中止が困難な場合に, escitalopram (ESC)を上乗せ・置換することによってPXの減量・中止が可能となり,最 終的に薬物療法を終了できた2症例を提示する。臨床医は,抗うつ薬を継続することのリ スクとベネフィットを見極め,減量・中止の可能性を患者と一緒に探っていくことが必要 であり,また心理教育を併用することが重要な鍵となる。ESCの上乗せ・置換は,PXの 中止後症状を予防・軽減することを可能とし,うつ病の薬物療法を終了するための選択肢 の1つと考えられる。 臨床精神薬理 22:79-85, 2019 Key words :: antidepressant, discontinuation syndrome, paroxetine, escitalopram
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【シリーズ】
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