臨床精神薬理

Volume 22, Issue 3, 2019
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【展望】
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精神科医療における過量服薬の現状と課題
22巻3号(2019);View Description
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過量服薬は,2000 年以降,一貫して救急医療的資源を逼迫する問題となっている。 そして,搬送される患者の多くが精神科通院中の者であることから,救急医療関係者の精 神科医療に対する不満を高める要因となっている。本稿では,この過量服薬に対する理解 を深めるために,自己切傷や自殺,さらに物質使用障害との関係から整理した。そのうえ で,過量服薬予防のための留意点として,処方を避けるべき薬剤や患者が常用する市販薬 への配慮,処方薬乱用を惹起しやすい処方行動について概説した。 臨床精神薬理 22:231-241, 2019 Key words :: benzodiazepines, deliberate self-harm, overdose, over-the-counter drug, substance use disorder
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【特集】過量服薬A to Z
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ビッグデータを活用した過量服薬のリアルワールド・エビデンス:疫学,ベンジアゼピン受容体作動薬への曝露と,心理社会的アセスメント
22巻3号(2019);View Description
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本稿では,ビッグデータを活用した過量服薬のリアルワールド・エビデンスを紹介 する。過量服薬による入院患者数は年 21,633 人,入院医療費は年77億円に達する。緊急 入院を要する傷病の中で,過量服薬は,救命救急センターへの搬送率が高い一方で,死亡 率が低いという特異性がある。過量服薬の患者は,一般的にはベンゾジアゼピン受容体作 動薬に曝露する機会の少ない年齢層が大半を占める。それにもかかわらず,過量服薬の起 因物質としてベンゾジアゼピン受容体作動薬がトップとなる理由は,精神科医師の処方行 動が起因している可能性が高い。過量服薬に対する入院中の精神科医師による関与は,再 入院リスク減少に寄与しない。また,退院後に,精神科医師による支援を継続的に受ける 者は,マイノリティに過ぎない。退院後の処方行動が過量服薬による再入院リスクと強く 関連している事実を考慮すると,かかりつけの精神科医師への対策が必要と思われる。 臨床精神薬理 22:243-250, 2019 Key words :: overdose, drug poisoning, real-world evidence, psychosocial assessment, self-harm -
東京都23区内における過量服薬による死亡事例とベゲタミンⓇ所持の近年の傾向
22巻3号(2019);View Description
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過量服薬は公衆衛生上の重要な問題であり,死亡に到った事例も様々な分野から報 告されている。特にchlorpromazine-phenobarbital-promethazineの合剤である,ベゲタ ミンⓇによる過量服薬の危険性は幾度となく指摘されており,それらを受け,製薬会社は 2017 年(平成 29 年)3月より供給を停止している。本調査では,2011 年(平成 23 年)か ら2017 年(平成 29 年)における東京都 23 区の医薬品の過量服用による死亡事例数の推移 とともに,そのうちベゲタミンⓇを所持していた事例数の推移について調査を行った。そ の結果,東京都 23 区内における過量服薬による死亡事例数は,2011 年(平成 23 年)から 2016 年(平成 28 年)の間,減少傾向を認めたが,2017 年(平成 29 年)には上昇傾向に転 じていた。そのうち,ベゲタミンⓇの所持が確認された事例は 2011 年(平成 23 年)の 57 件 から 2017 年(平成 29 年)の8件へと著減していた。すなわち,近年はベゲタミンⓇに代わ る他の薬剤を処方されている事例が過量服薬により死亡していることが示唆された。今後 は新しい傾向の実態解明が強く求められるとともに,過量服薬による死亡事例の減少に は,継続的な調査が必要であるといえる。 臨床精神薬理 22:251-254, 2019 Key words :: drug poisoning, overdose, Vegetamin -
過量服薬と自殺
22巻3号(2019);View Description
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過量服薬は,それ自体では非致死的である場合がほとんどだが,過量服薬に際して 自殺の意図を有するものもあり,また先行研究からは,過量服薬をした人が,自傷・自殺 企図を繰り返した後に自殺により死亡する頻度が高いことも示唆されている。過量服薬患 者への介入については,いくつかの無作為化比較試験は試みられているものの,科学的に 十分検証されてはいない。わが国では,過量服薬患者のアセスメントを行うシステムの確 立や,二次救急における介入方略の開発,そして地域自殺予防対策との連携などの課題が ある。 臨床精神薬理 22:255-259, 2019 Key words :: overdose, suicide, intervention, psychiatric emergency -
過量服薬の心理社会的要因──臨床心理士の視点から──
22巻3号(2019);View Description
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救急医療の現場には,自傷や自殺企図により受傷した患者が日常的に搬送され,そ の多くが過量服薬によるものである。本稿では,まず過量服薬の実態を概括したうえで, 過量服薬に関連する精神的・心理社会的背景と過量服薬の再発予防のための支援につい て,筆者のこれまでの研究成果ならびに国内外における文献をもとに論じた。過量服薬患 者の性別や年代,生活環境,衝動性,本気度が過量服薬に強く関連していることから,服 薬量や身体的重症度により自殺リスクを判断するのではなく,患者一人ひとりへの心理社 会的評価が重要となる。また,身近な人間とのトラブルだけではなく,心身の健康状態に ついての悩みや生活困窮などが過量服薬のきっかけとなっていた。過量服薬の再発を予防 するためには,患者の精神的・心理的側面だけではなく,置かれている環境や生活能力な ども含めた多角的な介入を多職種協働で迅速に行うことが効果的と考えられた。 臨床精神薬理 22:261-268, 2019 Key words :: self-poisoning, psychosocial factors, clinical psychologist, suicidal behaviors -
救命救急センターからみた過量服薬・急性薬物中毒
22巻3号(2019);View Description
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過量服薬・急性薬物中毒は摂取した薬物によっては重症化し得る疾患であり,救命 救急センターに搬送される患者は少なくない。国内外問わず自殺企図患者の半数以上が過 量服薬により救急搬送されており,救命救急センターの業務に従事する医師はその診療に ついて熟知しておく必要がある。意識障害を有する患者では急性薬物中毒の原因薬物の推 定や,急性薬物中毒の診断そのものが困難となることも多く,トキシドロームをもとにし た臨床推論が重要となり,その治療は「全身管理」「吸収の阻害」「排泄の促進」「解毒薬・ 拮抗薬」 「精神科的評価・治療」に基づいて行う。過量服薬患者は搬送先の選定に時間が かかり現場滞在時間が長時間化することが多いが,その主たる原因として精神科疾患の既 往や希死念慮があげられる。入院管理において精神科的疾患の評価と治療も並行して必要 であり,精神科との連携における問題点や課題についても言及する。 臨床精神薬理 22:269-275, 2019 Key words :: overdose, poisoning -
オピオイドの過量服用
22巻3号(2019);View Description
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依存や嗜癖との関係が少ない場合に起こる強オピオイドの過量服薬の要因には,服 用する側の要因(単純な誤用,薬物相互作用によるもの,痛み以外の症状に使用してしま う場合,など)と処方する側の要因(知識・経験不足による患者の「逆選択」など)とが ある。過量服用による強オピオイドの急性中毒(intoxication)では,通常の臨床での使 用時には起こらないような様々な重篤な症状が起こりえ,また,薬物動態にも大きな変化 が生じる。強オピオイドの急性中毒で喫緊に対処すべき症状は呼吸抑制であり,気道確保 を行うとともに,naloxoneによって拮抗することが必須となる。ただ,強オピオイドに 比べてnaloxoneの効果時間は短いので,使用法には注意が必要である。慢性痛診療にお いて,強オピオイドは頻用されるべきものではない。十分な知識と経験をつんだ医師が, 注意深く患者を選択して使用することで,過量服用を起こしにくくすることができる。 臨床精神薬理 22:277-283, 2019 Key words :: opioid, intoxication, chronic pain, naloxone -
過量服薬への予防介入──本邦におけるものを中心に──
22巻3号(2019);View Description
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自殺企図時には患者が過量服薬をしている例が多く,本邦の救命センターで受け入 れる自殺企図患者の半数近くが過量服薬をしていたこと,過量服薬の反復企図例が多いこ とが繰り返し報告されており,また過量服薬は自殺完遂の強力なリスク因子である。本稿 では既報の研究報告の網羅的な文献レビューを行い,主に本邦において過量服薬の予防介 入のためにこれまでに試行されてきた対処法を概観し,国内外の研究報告の結果を交え, その有効性と限界について考察した。結果,過量服薬後の入院中の精神医学的治療介入, 入院後 12 ヵ月のフォローアップ型の心理社会的介入,市販薬の法規制については量的な エビデンスが確認された。そのほかにも背景因子を考慮すると,従来推奨されている一般 的な精神医学的治療,心理社会的介入,過量服薬の手段へのアクセスの制限,ゲートキー パーの教育研修による予防効果には期待できると考えられた。 臨床精神薬理 22:285-292, 2019 Key words :: overdose, self-poisoning, intervention, prevention -
過量服薬に対する薬剤師の役割
22巻3号(2019);View Description
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本稿では,過量服薬を予防するために薬剤師をゲートキーパーとして活用していく ことの意義や課題を処方薬・市販薬の両面から論じた。院外処方化により,過量服薬の対 象となる処方薬(主としてベンゾジアゼピン系薬剤)の多くが,地域の薬局で患者に手渡 されている現状にある中で,身近な医療従事者として薬剤師の果たす役割に期待が寄せら れている。共感的な態度で過量服薬者に応対する薬剤師の姿がみられる一方で,処方医と の疑義照会をめぐるトラブルなどの課題もある。一方,過量服薬の対象となる市販薬(主 として鎮咳薬,総合感冒薬)の多くが,薬剤師による対面販売を必須としない販売方法と なっている。市販薬の販売に従事する薬剤師からは,頻回・大量購入の現状や,市販薬販 売をめぐるジレンマが語られている。 臨床精神薬理 22:293-299, 2019 Key words :: pharmacist, overdose, benzodiazepine, over the counter drugs, gatekeeper
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【原著論文】
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Methylphenidate塩酸塩徐放錠の成人注意欠陥多動性障害患者における12ヵ月間の特定使用成績調査結果
22巻3号(2019);View Description
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Methylphenidate塩酸塩徐放錠(OROS-MPH,コンサータ ® 錠)は,本邦で 2013 年 12 月に成人注意欠陥・多動性障害(ADHD)に対する適応で新たに承認取得した。製造販 売後調査として,OROS-MPHの成人ADHD患者を対象とした臨床使用実態下における 多施設共同,非介入,オープンラベル,12 ヵ月間の前向き調査を実施した。調査では, 使用実態下における患者背景及び有害事象とその因果関係といった安全性情報の収集に加 え,Clinical Global Impressions Scale - improvement(CGI-I)及びConnerʼs Adult ADHD Rating Scales(CAARS)による有効性評価を実施した。また,乱用や依存性のリスクに関 する評価についても経時的に実施した。578 例の患者が登録され,うち安全性解析対象症 例は552例,有効性解析対象症例は 527 例であった。12 ヵ月間の継続率(Kaplan-Meier 法)は57.92%であった。副作用は 149 例(26.99%)に 248 件の発現が認められ,発現頻度 が高いものは食欲減退5.98%,体重減少5.98%,頭痛3.62%であった。CGI-Iの評価が軽 度改善以上を示した患者を有効とした時,3ヵ月で88.03%,12 ヵ月時点で88.65%の患者 が有効と判断された。CAARSスコア(平均値)は投与開始時点の 29.17 から,投与3ヵ月 で 21.15,12 ヵ月で 16.08とそれぞれ有意(p < 0.001)な改善を示した。以上の結果から, OROS-MPHを臨床使用実態下で成人ADHD患者に投与した時の有効性が確認された。 また,本調査の中で,新たな安全性の懸念及び依存リスクは認められなかった。 臨床精神薬理 22:301-316, 2019 Key words :: methylphenidate hydrochloride, extended-release tablet, attention deficit hyperactivity disorder
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【シリーズ】
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