臨床精神薬理
Volume 22, Issue 4, 2019
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【展望】
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統合失調症薬物治療の新たな原則と注意点
22巻4号(2019);View Description Hide Description医療の質を評価し,改善するための取り組みは,絶え間なく行われている。米国医学研究所(現,全米医学アカデミー)は,医療の質を向上させる目標として,安全性,有効性,患者中心志向性などの 6 項目を挙げて,世に求めている。統合失調症の薬物療法も例外ではなく,これらを志向することが求められる。なかでも安全性は,最優先されるものであるが,すべての医療介入は,侵襲的な要素を含むものであり,安全は期待される効果と有害事象のバランスによってはじめて評価が行われる。また,患者中心志向性に伴い,自己決定を行うためには,期待される効果と有害事象の両方についての適切な情報がなければ,議論はできない。そこで,「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」である診療ガイドラインが求められており,日本では,統合失調症薬物治療ガイドラインが作成されている。統合失調症薬物治療の原則と注意点としては,ガイドラインに記されるような標準的治療を行うが,ガイドラインをどのように適用するのかについては,臨床医の力量が問われる。 臨床精神薬理 22:335-340, 2019Key words ::schizophrenia, pharmacotherapy, clinical practice guideline, drug safety, self-decision making
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【特集】統合失調症薬物治療の新たな原則と注意点
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抗精神病薬によるドパミン D2 受容体の持続的遮断と非持続的遮断
22巻4号(2019);View Description Hide Description統合失調症の治療は,多くの患者において再発予防のために継続的な抗精神病薬の使用が必要である一方で,抗精神病薬のドパミン D2 受容体の持続的遮断により引き起こされるドパミン過感受性と呼ばれる現象は,精神症状の悪化,抗精神病薬の効果減弱,遅発性運動系副作用との関連が示唆されている。こうした “ 副作用 ” を軽減するために,近年注目されているのが,抗精神病薬によるドパミン D2 受容体の非持続的遮断である。抗精神病薬による持続的なドパミン D2 受容体の遮断は,その治療効果の減弱につながる可能性が動物実験で示されており,非持続的遮断はその観点からは優れているかもしれない。治療効果を維持しつつ,副作用をより軽減するという観点から,抗精神病薬によるドパミン D2 受容体の遮断を非持続的にする定期的間歇投与は治療の選択肢になりうる可能性がある。 臨床精神薬理 22:341-346, 2019Key words ::schizophrenia, antipsychotics, dopamine receptor, continuous blockade, non-continuous blockade, intermittent blockade -
統合失調症治療における抗精神病薬の多剤併用の現状
22巻4号(2019);View Description Hide Descriptionわが国では40年以上前から海外よりも統合失調症患者への抗精神病薬の単剤投与率が低いことが批判されてきたが,今世紀に入ってようやく抗精神病薬の単剤投与率が漸増してきた。ところが,その一方で海外では clozapine(以下,CLOZ)に対しても十分な反応を示さない CLOZ 抵抗性患者に対する他の抗精神病薬を追加投与することや,抗精神病薬投与に起因する副作用の改善目的で他の抗精神病薬を追加投与することの是非が問題となって,さまざまなプラセボ対照二重盲検試験が行われるようになっている。これと並行して,抗精神病薬の多剤併用により全体の死亡リスクが増大する可能性に関する議論が行われるなど,抗精神病薬の多剤併用を巡る状況は大きく変化している。そこで,本稿では,①CLOZ 抵抗性患者に対する抗精神病薬の追加投与の是非,②抗精神病薬投与に起因する高プロラクチン血症や CLOZ に起因する代謝系副作用に対する他の抗精神病薬の追加投与の是非,および,③抗精神病薬の多剤併用により全体の死亡リスクが増大する可能性について概説した。 臨床精神薬理 22:347-357, 2019Key words ::antipsychotic polypharmacy, high-dose antipsychotic treatment, mortality, clinicaltrials, hyperprolactinemia, metabolic syndrome -
統合失調症におけるバルプロ酸併用の臨床的ポイント
22巻4号(2019);View Description Hide Description統合失調症治療において,一連の抗精神病薬単剤による治療に対し,十分な治療反応を示さないケースも少なくない。そうした際,いくつかの治療選択肢があり(決定打に乏しいことも意味する),その中の 1 つがバルプロ酸をはじめとする,気分安定薬による増強療法である(保険外適応であることには注意を要する)。異なる 2 剤以上の抗精神病薬単剤治療に反応しない治療抵抗性統合失調症例に適応される clozapine が,依然使用しにくい状況にある本邦においては,とりわけバルプロ酸による増強療法の果たす役割は大きいと推測され,実際にその処方頻度も高い。抗精神病薬のバルプロ酸増強療法に関する高い効果の報告も散見されているが,エビデンスはまだ一貫しておらず不十分であるのが現状である。本稿では統合失調症治療における,抗精神病薬とバルプロ酸併用に関するエビデンスをレビューし,その使用に際しての注意点,今後検討すべき課題に関して概説する。 臨床精神薬理 22:359-363, 2019Key words ::augmentation, mood stabilizers, schizophrenia, valproate -
統合失調症治療におけるベンゾジアゼピン治療
22巻4号(2019);View Description Hide Descriptionベンゾジアゼピン(以下 BZ)は多くの臨床場面で最も頻用される処方薬の 1 つである。統合失調症の治療においても BZ は不安や不眠のような症状を和らげたり,急性期の鎮静やジストニアの低減やカタトニアの治療として長期間処方,短期間処方,屯用処方と多様に用いられている。しかしこれらは必ずしもエビデンスに基づく薬物療法の推奨において第一に挙げられていない場合がある。BZ 投与は短期間の改善はもたらせるものの長期的な投与による副作用も懸念されており,その投与は経時的な妥当性の評価や,心理社会的療法を含む代替案があるかどうかのエビデンスに基づいて決定されるべきである。なかでも,近年統合失調症患者についての複数の大規模研究において,BZ 投与と死亡リスクの増加に関係があることは無視できないものである。本稿では統合失調症治療における BZ 投与について主にレビューを参考としてまとめた。研究ではエビデンスが十分でないものが多く,経験則的な効果を重視するものもあり,すでに BZ を服用している患者の治療代替案については議論が少ない。このことをふまえて,臨床家は統合失調症患者に対する BZ 投与には十分注意を払い,リスクとベネフィットの評価を厳密に行うべきである。 臨床精神薬理 22:365-373, 2019Key words ::schizophrenia, pharmachotherapy, benzodiazepine, review -
抗精神病薬投与と肺炎リスク
22巻4号(2019);View Description Hide Description肺炎は一般人においても頻度が高く,多くは入院を要し,死亡率も低くない重要な疾患である。抗精神病薬投与は肺炎のリスクファクターであり,高齢認知症患者への抗精神病薬投与による死亡リスク増加が指摘されているが,その多くは肺炎による可能性がある。抗精神病薬投与による肺炎リスクの増加は 65 歳未満の症例でも認められ,統合失調症患者や双極性感情障害患者でも抗精神病薬が投与されていると数%に肺炎が生じ,これが繰り返される場合もある。統合失調症患者では肺炎への対応が遅れて重症化しやすいことに注意が必要である。第 1 世代,第 2 世代抗精神病薬のいずれも肺炎リスクを増加させ,その開始後早期( 1 ~ 4 週間)にリスクが高い。特に clozapine では用量依存性の肺炎リスク増加が認められており,肺炎の再発にも関連している。抗精神病薬による肺炎リスク上昇に関連する要因としては,嚥下への影響(喉頭の咳反射への障害,唾液分泌過多,遅発性ジスキネジアなどの錐体外路症状)が考えられるが,これに加えて clozapineでは炎症促進性や免疫機能への影響が関連している可能性がある。臨床精神薬理 22:375-383, 2019Key words ::antipsychotic drug, pneumonia, behavioral and psychological symptoms ofdementia, schizophrenia, clozapine -
第二世代抗精神病薬の時代における悪性症候群
22巻4号(2019);View Description Hide Description抗精神病薬の重篤な副作用に悪性症候群がある。抗精神病薬が第一世代から第二世代が中心となっている現在の精神科薬物治療において,悪性症候群の発症率は低下しており,現時点では,大規模研究の結果からは 0.02~0.03%程度と推定される。悪性症候群の死亡率は,2000 年以降 10%を下回るようになった。特に,第二世代抗精神病薬による悪性症候群の死亡率は低く,おおよそ 5%前後と考えられる。その理由として,医療者の悪性症候群に対する認識の高まりと早期発見,早期対応が関係しているが,第一世代抗精神病薬とは異なった第二世代抗精神病薬のドパミン,セロトニン受容体に対する薬理学的特性も関連している可能性がある。最近の症例分析から,第二世代抗精神病薬の中では,clozapine による悪性症候群は筋強剛や振戦などの錐体外路症状が他の抗精神病薬より出現しにくいという特徴を有する。Aripiprazole による悪性症候群では 38℃以上の発熱と発汗を示しにくいと言われているが,例数が少なく今後さらに検討する必要がある。臨床精神薬理 22:385-393, 2019Key words ::second generation antipsychotics, neuroleptic malignant syndrome -
遅発性ジスキネジアに対する治療戦略
22巻4号(2019);View Description Hide Description遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia, 以下 TD)は,抗精神病薬の投与数ヵ月後から徐々に発症する難治性の異常不随意運動であり,その治療介入としては,①薬物療法の見直し(a.原因となっている抗精神病薬の減量・中止を試みる。b.精神症状の再発・悪化がみられたら,まだ使用していない錐体外路症状が少ない第二世代抗精神病薬への切り替えを行う),それでも改善しない場合には,②clozapine への切り替えや,③TD に有効性が示されている薬剤の追加投与を検討する,という流れになる。それらの薬剤の中には,ビタミン E,clonazepam などのベンゾジアゼピン系薬剤,tetrabenazine などの小胞モノアミントランスポーター 2 型(VMAT2)阻害薬,イチョウ葉(ginkgo biloba)などが含まれる。どの治療ステップを行う際にも患者に対して,それぞれの提唱されている治療アプローチの長所と短所を説明した上で,患者との共有意思決定を尊重して治療をすすめることが望まれる。 臨床精神薬理 22:395-402, 2019Key words ::tardive dyskinesia, treatment, second generation antipsychotics, clozapine -
多飲水・水中毒と抗精神病薬治療
22巻4号(2019);View Description Hide Description多飲水(多飲症)・水中毒は精神科領域でしばしば認められる病態であるが,その発生機序については未だ解明されていない。さらに抗精神病薬が登場してから,その投与により多飲症を引き起こすという報告が数多存在する一方で,多飲症治療として抗精神病薬が有用であるという研究や報告も存在する。多飲水の原因としては定型から非定型抗精神病薬と多岐にわたるが,そのほとんどが症例報告レベルであり,どの種類の薬剤が強く影響しているかはっきりとしない。一方で,多飲症に対する薬物療法として clozapine が現在第 1 選択となっており,その有用性についての前向き研究や症例報告は多く存在している。しかし本分野でのエビデンスは十分とは言えず,その理由に統一された診断基準,症状評価尺度がないことが挙げられるため,それらの作成は急務である。限られたエビデンスを基に薬物療法・行動療法を行いながら,多飲症に立ち向かうことが重要である。臨床精神薬理 22:403-412, 2019Key words ::polydipsia, water intoxication, antipsychotics, clozapine
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【原著論文】
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うつ病に併発した緊張型頭痛の患者に対して使用した venlafaxine の効果の検討
22巻4号(2019);View Description Hide Descriptionうつ病に併発した緊張型頭痛の患者に対してセロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬である venlafaxine を投与し,抑うつ状態だけでなく,頭痛の頻度および強度に対する venlafaxine の効果を検討した。対象患者は 12 名で,venlafaxine 37.5mg を 1 週間投与し,その後は 75mg 以上に増量して,抑うつ状態,頭痛の頻度および強度を評価した。その結果,対象患者12名中 2 名が副作用のため,1 週間以内に脱落し,残り10名については 8 週間以上内服を継続し,抑うつ状態と頭痛について評価した。頭痛の頻度および強度については内服直前に比べ,内服 4 週間後,内服 8 週間後において有意差をもって改善した。また抑うつ状態についても内服直前に比べ,内服 4 週間後,内服 8 週間後において有意差をもって改善した。 臨床精神薬理 22:413-417, 2019Key words ::SNRI, venlafaxine, tension-type headache, depressive disorder, descending controlof pain
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【症例報告】
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Paliperidone から brexpiprazole への切り替えによって陰性症状が著明に改善した統合失調症の 1 例
22巻4号(2019);View Description Hide Description2018年 4 月に上市された brexpiprazole は,ドパミン D2, D3 受容体の部分アゴニスト作用に加え,強力なセロトニン 5-HT1A 受容体部分アゴニスト作用とセロトニン 5-HT2A受容体アンタゴニスト作用を有し,既存の抗精神病薬とは異なった薬理作用による臨床効果が期待される。統合失調症の陰性症状は,生活の質と社会的機能低下に大きく影響する中核的症状であるが,いまだ有効な治療法のない unmet medical needs である。今回我々は,paliperidone から brexpiprazole への切り替えによって,陽性症状の悪化を認めず,陰性症状が著明に改善した慢性の統合失調症の 1 例を経験したので報告する。Brexpiprazoleの副作用は皆無で,自覚的服用感は良好だった。第 2 世代抗精神病薬の単剤投与で陰性症状が優勢な統合失調症患者に対して,brexpiprazole は新たな治療手段の 1 つになる可能性が示唆された。 臨床精神薬理 22:419-423, 2019Key words ::schizophrenia, negative symptoms, paliperidone, brexpiprazole
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【シリーズ】
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