臨床精神薬理
Volume 22, Issue 5, 2019
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【展望】
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精神科専門医として身に着けるべき治療技術水準とは ───日本精神神経学会試験委員としての私見
22巻5号(2019);View Description Hide Description精神科専門医とは,十分な臨床技能を満たし,国民目線から安心して受診できる精 神科医を意味する。日本専門医機構(以下,機構)により,19 診療科が基本診療科とし て位置づけられ,従来,各専門学会が認定していた専門医を機構が一括して認定を行う, 新専門医制度に基づく専門医育成が2018年4月に始まった。精神科専門医は,機構の認 定を受け日本精神神経学会が請け負うが,取得のためには,初期研修医として2年間の卒 後研修を受けた後,最低3年間専攻医として研修の認可を受けた施設で研修が義務付けら れている。そして,専門医を取得するためには所定のカリキュラムに沿った研修医プログ ラムを受け,症例報告を提出,筆記試験および面接試験に合格する必要がある。精神科専 門医として学ぶべき基本的治療技術水準を取得するための研修カリキュラムでは,診療に 関わる全ての領域においての最低限の技法の習得が求められている。本稿では,専攻医の 間に身につけるべき薬物療法技術を,日本精神神経学会の専門医教育の成り立ちから考え てみたい。 臨床精神薬理 22:443-449, 2019 Key words :: Japanese Board of Medical Specialties, Japanese Psychiatric Board of the Japanese Society of Psychiatry and Neurology, psychopharmacological treatment, mental disorder
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【特集】 専攻医の間に身に着けるべき薬物治療技術
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専攻医として身に着けるべき統合失調症の薬物療法
22巻5号(2019);View Description Hide Description統合失調症の薬物療法では,①本から学ぶ「エビデンス」と②患者から学ぶ「ナラ ティブ」 ,③エビデンスとナラティブの「統合と共有」の3つの視点を意識したい。①は 文献や成書,ガイドラインなどから学ぶ視点であるが,薬物の知識を薬物療 ・ ・ 法として臨床 現場で適切に生かす技術や抗精神病薬による治療の理論的な限界も考察できるようにした い。②は患者の「価値意識」や「体験」を薬物療法に生かす視点で,これらは薬物療法自 体にもさまざまな修飾を与えることを理解し治療に生かせるようにしたい。③はエビデン スとナラティブを統合し患者や他の医療スタッフと共有する視点で,より質の高い薬物療 法の実践を目指したい。統合失調症の薬物療法はそれ自体単独で完結しうるものではな く,患者の心理や行動,生活,人生の在り方までを含めた支援全体の中に位置づけられる ものである。目標は患者の「リカバリー」に寄与できる薬物療法の習得である。 臨床精神薬理 22:451-456, 2019 Key words :: pharmacological therapy of schizophrenia, evidence, narrative, value-based psychiatry, recovery -
うつ病の薬物療法を理解する──薬剤についての知識だけでは足りない
22巻5号(2019);View Description Hide Description薬物療法は薬物投与のみを意味するものでは決してなく,診断,治療関係の構築, 薬物療法以外の治療技法,心理社会的対応などの全体を踏まえた上,薬物投与をするかし ないか,投与する場合はどう対応するか,という判断を適切に行っていくトータルな行為 である。したがってうつ病の薬物療法には,個々の薬物の知識だけでなく,全体的な治療 計画を適切に策定する方法論が不可欠となる。その観点から本稿では日本うつ病学会のう つ病治療ガイドラインに沿って,薬物投与の前提となる各種の論点を含めて概説する。う つ病の正確な診断,重症度の把握,妥当性の承認に始まる双方向的な治療関係の構築,基 礎的介入(支持的精神療法と心理教育)は全症例において必要となる。軽症うつ病では, 非薬物的な基礎的介入に力点がおかれる一方,中等症・重症うつ病では薬物投与・体系化 された精神療法・電気けいれん療法など,より特異的な治療に重点が移ることに留意され たい。 臨床精神薬理 22:457-464, 2019 Key words :: major depressive disorder, pharmacotherapy, severity, treatment planning, treatment guideline -
専攻医として身に着けるべき双極性障害の薬物療法
22巻5号(2019);View Description Hide Description双極性障害の薬物療法に関して,日本うつ病学会の双極性障害治療ガイドラインを 紹介しつつ,新しい文献を追加し,私見を加えたりしながら,専攻医が習得すべき薬物療 法に言及した。言うまでもないことであるが,このようなガイドラインはあくまでも参考 にすべきものであって,手錠のように拘束されるものでもないし,免罪符のように責任を 免れるものでもない。専攻医はそれぞれがひとりひとりの患者を横断的にも縦断的にもよ く観察し,指導医とともに,その患者に最適の薬物を選択し投与する必要がある。 臨床精神薬理 22:465-470, 2019 Key words :: bipolar disorder, lithium, lamotrigine, quetiapine, guideline -
専攻医として身に着けるべき神経発達症群と併存症の薬物療法
22巻5号(2019);View Description Hide Description神経発達症は生涯にわたりその特性や併存症の影響が持続することも多く,そのた め患者自身や養育者ともに特性の理解や日常・社会生活での工夫を取り入れることが重要 となる。しかし,その特性や多様な精神症状から安易に薬物療法が行われることがあり, そのことが本人だけでなく養育者の本質的な特性の理解や心理社会的支援の妨げにつなが ることがある。神経発達症では生活・社会での不適応の顕在化の時期や程度はそれぞれの 個で異なるため,個々の症例で適切な評価や診断を行い,心理・社会的アプローチを十分 に行った上で薬物療法の使用時期や期間を決定することが重要となる。薬物療法の適切な 使用は各症状に有効であり,目的は症状の緩和により生活への影響が軽減されることであ る。薬物療法の開始の際には,副作用を含めて説明を行い,定期的にモニタリングを行う ことや,漫然と薬物療法を行わないことが大切である。 臨床精神薬理 22:471-476, 2019 Key words :: neurodevelopmental disorder, attention deficit/hyperactivity disorder, autism spectrum disorder, tic disorders, pharmacotherapy 神経発達症は生涯にわたりその特性や併存症の影響が持続することも多く,そのた め患者自身や養育者ともに特性の理解や日常・社会生活での工夫を取り入れることが重要 となる。しかし,その特性や多様な精神症状から安易に薬物療法が行われることがあり, そのことが本人だけでなく養育者の本質的な特性の理解や心理社会的支援の妨げにつなが ることがある。神経発達症では生活・社会での不適応の顕在化の時期や程度はそれぞれの 個で異なるため,個々の症例で適切な評価や診断を行い,心理・社会的アプローチを十分 に行った上で薬物療法の使用時期や期間を決定することが重要となる。薬物療法の適切な 使用は各症状に有効であり,目的は症状の緩和により生活への影響が軽減されることであ る。薬物療法の開始の際には,副作用を含めて説明を行い,定期的にモニタリングを行う ことや,漫然と薬物療法を行わないことが大切である。 臨床精神薬理 22:471-476, 2019 Key words :: neurodevelopmental disorder, attention deficit/hyperactivity disorder, autism spectrum disorder, tic disorders, pharmacotherapy 神経発達症は生涯にわたりその特性や併存症の影響が持続することも多く,そのた め患者自身や養育者ともに特性の理解や日常・社会生活での工夫を取り入れることが重要 となる。しかし,その特性や多様な精神症状から安易に薬物療法が行われることがあり, そのことが本人だけでなく養育者の本質的な特性の理解や心理社会的支援の妨げにつなが ることがある。神経発達症では生活・社会での不適応の顕在化の時期や程度はそれぞれの 個で異なるため,個々の症例で適切な評価や診断を行い,心理・社会的アプローチを十分 に行った上で薬物療法の使用時期や期間を決定することが重要となる。薬物療法の適切な 使用は各症状に有効であり,目的は症状の緩和により生活への影響が軽減されることであ る。薬物療法の開始の際には,副作用を含めて説明を行い,定期的にモニタリングを行う ことや,漫然と薬物療法を行わないことが大切である。 臨床精神薬理 22:471-476, 2019 Key words :: neurodevelopmental disorder, attention deficit/hyperactivity disorder, autism spectrum disorder, tic disorders, pharmacotherapy -
専攻医として身に着けるべき睡眠・覚醒障害の薬物療法
22巻5号(2019);View Description Hide Description成人一般人口を対象とした疫学調査によれば,日本成人のおよそ5人に1人が夜間 の睡眠困難(不眠)を訴え,20 人に1人が過去1ヵ月間に睡眠薬を服用し,50 人に1人 が日中の過剰な眠気に悩んでいる。睡眠障害の症候は,夜間の睡眠困難,日中の過剰な眠 気,睡眠中に起こる異常な精神身体的現象など多彩である。本稿では,睡眠障害をその症 候から夜間の睡眠困難(不眠)を主訴とするもの,日中の過剰な眠気を主訴とするものに 整理し,薬物療法を中心に睡眠障害への対処法についてまとめた。 臨床精神薬理 22:477-484, 2019 Key words :: quality of life, guidance of daily activity, benzodiazepine, melatonin, orexin -
専攻医として身に着けるべき不安症群(強迫症を含む)の薬物療法
22巻5号(2019);View Description Hide Description日本精神神経学会による専攻医研修プログラムによれば,薬物療法の研修目標は, ①向精神薬の効果・副作用・薬理作用を習得し,②患者に対する適切な選択,③副作用の 把握と予防,及び④効果判定ができる,とされる。そしてこの目標は,数字で示したよう に,4つの具体的なスキルに分けることが可能である。つまり,これらが専攻医として身 に着けるべき薬物療法における治療技術水準である。本稿では,ターゲットとする疾患を 不安症群(ADs)と最新のDSM-5では「強迫症および関連症群」として別の大分類に移 行した強迫症(OCD)に限定したため,総論的な内容の①を除いた②~④の内容につい て,筆者らの意見を中心に述べる。なお,紙面の都合もあるため,ここでのADsとは, 特に薬物療法が有効とされる,パニック症(PD),社交不安症(SAD),全般不安症 (GAD)の3疾患に絞り,より詳細に記述することにしたい。 臨床精神薬理 22:485-494, 2019 Key words :: panic disorder, social anxiety disorder, generalized anxiety disorder, obsessive compulsive disorder, depressants -
専攻医として身に着けるべき認知症(BPSD含む)の薬物療法
22巻5号(2019);View Description Hide Description認知症の症状は大きく分けて,認知機能障害と行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD),神経症状に分かれる。認知機能障害につ いては,アルツハイマー病に対してはコリンエステラーゼ阻害薬とmemantine,レビー 小体型認知症に対してはコリンエステラーゼ阻害薬が用いられる。しかしながら,これら の薬剤は認知機能障害の進行を遅らせる効果のみである。BPSDについては,まず,非薬 物療法が第一選択であるが,精神症状が強く,治療に緊急を要する場合や,非薬物療法を 行っても十分に効果が得られない場合に,薬物療法が選択される。様々なBPSDに対し て薬物療法を行う上で重要なことは,有害事象が生じやすいという点である。特にベンゾ ジアゼピン系の薬剤の使用は注意を要する。 臨床精神薬理 22:495-501, 2019 Key words :: cognitive impairment, BPSD, benzodiazepine, non-drug therapy -
専攻医として身に着けるべきせん妄の薬物療法
22巻5号(2019);View Description Hide Descriptionせん妄は身体状態あるいは薬物によって引き起こされる一過性の脳機能不全であ り,注意と意識の障害を中心に,認知障害,知覚障害,気分障害など多彩な精神症状を呈 する症候群である。せん妄への対応を俯瞰すると,まず原因の検索とその解除が最優先で ある。さらに環境調整や安全対策は必須である。その上で,不穏や混乱に対する対症療法 として薬物療法が行われる。薬物療法においては,抗精神病薬が第一選択である。抗精神 病薬の選択は,①可能な投与方法,②既存の身体状態と照らし合わせての禁忌と副作用の 可能性,③薬物動態,の3つがチェックポイントとなる。せん妄の特定の病態・特殊な環 境として,アルコール離脱せん妄,ICUにおけるせん妄などがあり,特有の対応が求めら れる。 臨床精神薬理 22:503-508, 2019 Key words :: delirium, pharmacotherapy, antipsychotics, resident -
精神科医が専攻医として身に着けるべきてんかんの薬物療法
22巻5号(2019);View Description Hide Description今や精神科医の日々の臨床の中に占めるてんかんの比率は小さく,その比率は今後 さらに小さくなりそうな気配もある。精神科臨床において重要ではあるが,多くの人には 比較的優先度の低いてんかんを,とりあえずは6時間程度のタイム・コストで習得でき, 実臨床でも若干は役立つミニマムてんかん学を提供することを試みた。本稿では,Step1 として,てんかん学を学ぶための基本的な原則を,4大てんかん分類プラス2と考え,こ れを習得するために,A)ミニマムてんかん用語として,焦点性発作と全般発作,てんか ん発作・てんかん症候群・てんかん大分類の区別を解説し,次に,B)ミニマムてんかん 学として,年齢依存性焦点性てんかん群,特発性全般てんかん群,年齢非依存性焦点性て んかん群,全般・焦点混合てんかん群を解説する。次にStep2として,精神科医が実際に 遭遇する機会の多い側頭葉てんかん,若年ミオクロニーてんかん,急性症候性発作,非け いれん性発作重積(細川の棘徐波昏迷),心因性非てんかん性発作を解説する。最後に, 自分で脳波を読まない場合も含め,Step3として脳波との付き合い方を概説する。 臨床精神薬理 22:509-514, 2019 Key words :: epilepsy, EEG, temporal lobe epilepsy, juvenile myoclonic epilepsy, acute symptomatic seizure -
指導医に求められる薬物療法の教育方法
22巻5号(2019);View Description Hide Description専門医制度が発足し,専攻医に対する教育が始まっており,その指針も示されてい るが,精神科薬物療法に関して求められる水準は必ずしも具体的に明示されているとは言 えない状況にある。指導医が行うべき専攻医への薬物療法の教育方法についても,同様で ある。本特集では,専攻医の間に身に着けるべき薬物治療技術の水準について,各精神疾 患に対する専攻医教育の指導的立場からの指針が示されている。本稿においては,主に日 本精神神経学会の精神科専門研修指導医マニュアルを紹介する形で,指導医に求められる 薬物療法の教育方法について解説を行う。指導医には薬物療法の教育の前に,専攻医への 一般的な教育が求められるため,最初に教育の一般論について述べ,続いて指導医に求め られる薬物療法の教育方法について述べる。最後に,全国的なガイドラインの教育プログ ラムとして行われているEGUIDEプロジェクトにおいて指導医に求められる理念につい て紹介する。 臨床精神薬理 22:515-519, 2019 Key words :: Certified Senior Psychiatrist of the Japanese Board of Psychiatry, Certified Psychiatrist of the Japanese Board of Psychiatry, Psychopharmacological treatment, education, Mental disorders, EGUIDE project
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【資料 】
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医薬品副作用データベースを用いた遅発性ジスキネジアに関する実態調査
22巻5号(2019);View Description Hide Descriptionわが国における遅発性ジスキネジア(Tardive Dyskinesia:TD)の実態について, Japanese Adverse Drug Event Report database(JADER)への登録情報を用いた調査を実 施した。その結果,わが国では毎年 10 ~数 十 件の重篤なTDの発現例が報告されている こと,抗精神病薬を単剤かつ低用量で投与されていてもTDを発現したケースもあること が示された。また非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬より高用量の投与例での報告が多い こと,さらに高齢者では低用量での発現報告が多いことが明らかとなった。TDは誤嚥に よる窒息や肺炎等を誘発するなど重篤かつ致死的な副作用の原因となり得るため,予防法 や治療法の確立が急務である。 臨床精神薬理 22:521-528, 2019 Key words :: tardive dyskinesia, JADER (Japanese Adverse Drug Event Report database), antipsychotics わが国における遅発性ジスキネジア(Tardive Dyskinesia:TD)の実態について, Japanese Adverse Drug Event Report database(JADER)への登録情報を用いた調査を実 施した。その結果,わが国では毎年 10 ~数 十 件の重篤なTDの発現例が報告されている こと,抗精神病薬を単剤かつ低用量で投与されていてもTDを発現したケースもあること が示された。また非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬より高用量の投与例での報告が多い こと,さらに高齢者では低用量での発現報告が多いことが明らかとなった。TDは誤嚥に よる窒息や肺炎等を誘発するなど重篤かつ致死的な副作用の原因となり得るため,予防法 や治療法の確立が急務である。 臨床精神薬理 22:521-528, 2019 Key words :: tardive dyskinesia, JADER (Japanese Adverse Drug Event Report database), antipsychotics
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【Letters to the edito】
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