臨床精神薬理
Volume 22, Issue 6, 2019
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【展望】
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今改めて第2世代抗精神病薬の真価を問う
22巻6号(2019);View Description Hide Description第2世代抗精神病薬が統合失調症の臨床に導入されて 20 年余りが経過した。もは や臨床現場になくてはならない薬剤に成長しているが,冷静に振り返ってわれわれはこの 薬剤に関してどれほどの確かな情報を持っているのだろうか。例えば,有効性に関してメ タ解析では第2世代薬間だけでなく,第1世代薬との差異も微々たるものと結果が出てい るが,それは臨床現場の実感と合致するものだろうか。副作用のプロファイルは,薬剤固 有のものと考えるよりは,用量との関係性において柔軟に考えるべきではないのか。そも そも急性期から維持期まで万能に対応できる第2世代薬は存在するのかなど,未解決の臨 床疑問はたくさん存在する。本稿では,それら実臨床での課題を考察することで,第2世 代薬の価値を再考してみたい。 臨床精神薬理 22:539-549, 2019 Key words :: schizophrenia, second- generation antipsychotics, efficacy, effectivenesss, safety
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【特集】 新規抗精神病薬brexpiprazole
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Brexpiprazole(Serotonin-Dopamine Activity Modulator:SDAM)の薬理学的特性
22巻6号(2019);View Description Hide Description大塚製薬が世界で2番目に創製したドパミンD₂ 受容体部分アゴニスト作用を有す る抗精神病薬がbrexpiprazole(レキサルティ ®)である。Aripiprazoleと異なり,brexpiprazoleは強力なセロトニン5-HT₁A 受容体部分アゴニスト作用および5-HT₂A 受容体アンタ ゴニスト作用と,aripiprazoleより小さい固有活性のドパミンD₂ 受容体部分アゴニスト作 用を有することより,セロトニン - ドパミン アクティビティ モジュレーター(SerotoninDopamine Activity Modulator:SDAM)と呼ばれる新しいカテゴリーの薬剤である。各種 動物モデルにおいて,brexpiprazoleは抗精神病様作用だけでなく,認知機能障害に対し てセロトニン系を介する優れた改善作用を示した。また,カタレプシー惹起作用等の動物 モデルの結果から,ドパミンD₂ 受容体遮断性副作用に関して,パーキンソニズム,遅発 性ジスキネジア等の錐体外路症状や高プロラクチン血症が生じにくい可能性が示唆され た。これらの基礎試験成績と得られた臨床試験結果より,brexpiprazoleはaripiprazoleに 比較してより適切な固有活性を有したドパミンD₂ 受容体部分アゴニストであると考えら れる。 臨床精神薬理 22:551-563, 2019 Key words :: aripiprazole, brexpiprazole, dopamine D2 receptor partial agonist, serotonin 5HT1A receptor partial agonist, serotonin 5-HT2A receptor antagonist -
Brexpiprazoleの開発コンセプト──それは検証されたか?
22巻6号(2019);View Description Hide Description抗精神病薬の非定型化の歴史という文脈の中で,brexpiprazole(BREX)の開発コ ンセプトを,ドパミンD2受容体部分アゴニストとしての薬理学的改良手法から始まり, 臨床試験における検証に至るまでの過程として振り返った。BREXはaripiprazoleの弱点 を克服すべく,内因活性を下げ,セロトニン5-HT2A受容体遮断作用を付加するという, 堅実な非定型化の手法を採用し,その仮説は臨床試験の中でほぼ検証され登場した。この 成功譚は,30 年近い非定型化の歴史から蓄積された科学的知見を見事に生かした事例と して,記憶にとどめておくべきである。 臨床精神薬理 22:565-572, 2019 Key words :: brexpiprazole, dopamine partial agonist, strategy of research and development -
本邦におけるbrexpiprazoleの臨床試験成績
22巻6号(2019);View Description Hide Description本邦で実施したbrexpiprazoleの臨床試験の結果を紹介する。日本人統合失調症患 者を対象としたphase Ⅱ ⊘ Ⅲ試験において,brexpiprazole 2mg⊘ 日は急性増悪の統合失調 症患者において有意に精神病症状を改善した。また,長期投与試験において,精神病症状 の改善効果が52週間にわたり維持されることが示された。短期及び長期投与試験の結 果,brexpiprazoleは抗精神病薬で発現しやすい錐体外路症状や過鎮静の発現率は低く, またアカシジアや不眠の発現率も低かった。糖・脂質代謝へ与える影響も少ないことか ら,長期に治療できる薬剤の1つであることが示唆された。筆者自身の経験においても, 本邦の治験結果のように,急性期での症状を改善し,忍容性にも優れている印象を持つ。 6ヵ月間の市販直後調査は終了したが,本邦における本剤の使用経験がまだ限られている ことから,今後の実臨床下での安全性及び有効性情報の集積が必要である。 臨床精神薬理 22:573-582, 2019 Key words :: brexpiprazole, dopamine partial agonist, Serotonin-Dopamine Activity Modulator, clinical trial, Japan -
海外におけるbrexpiprazoleの臨床試験成績
22巻6号(2019);View Description Hide Description2018 年始めに本邦で承認を得たbrexpiprazoleは,aripiprazoleと比してより高親和 性かつ低固有活性のドパミンD2パーシャルアゴニストである。また,セロトニン5HT1A 部分アゴニスト作用,5HT2Aアンタゴニスト作用,アドレナリンα 1 アンタゴニスト作用を 持ち,ムスカリンM1受容体にはほとんど結合しない。このことから,薬理学的にはaripiprazoleと同様に高い忍容性がありながら,抗精神病作用はより強く錐体外路症状はよ り少ないことが期待されている。本稿では海外で行われたbrexpiprazoleの臨床試験を概 観した。統合失調症に対しては,プラセボ対照RCTの結果より,症状に対する効果およ び再発予防効果があり,かつ副作用は少ないことが示唆された。うつ病に対しては,プラ セボ対照RCTの結果より,短期的には症状に対する効果があるものの長期的には明らか でなく,また副作用は統合失調症患者よりも出現しやすいことが示唆された。しかし,現 時点では両疾患とも実薬対照試験が不足しており,今後もさらなる知見とエビデンスの集 積が求められる。 臨床精神薬理 22:583-592, 2019 Key words :: antipsychotics, brexpiprazole, efficacy, safety, schizophrenia -
Brexpiprazoleを使いこなす:急性期治療
22巻6号(2019);View Description Hide DescriptionBrexpiprazoleは,ドパミンD2 受容体およびセロトニン5-HT1A 受容体に部分アゴ ニストとして,また,セロトニン5-HT2A 受容体にはアンタゴニストとして働くという, 新しい薬理作用を有する。Aripiprazoleと比較してドパミンD2 受容体への固有活性が低い ことから,D2 受容体を刺激する作用に起因すると考えられる有害事象の軽減が期待でき, 治療初期の脱落を軽減できる可能性がある。我々は急性期でのbrexpiprazoleの有用性を 検証するため,6週間の観察研究を行った。対象は 2018 年4月から 11 月までの間に桶狭 間病院を受診し,DSM- Ⅳで統合失調症と診断された急性期患者である。有効性評価とし て,Positive and Negative Syndrome Scale(PANSS)による精神症状と治療継続率を,安 全性評価として有害事象の確認を行った。35 例が対象となり,1例は除外となった。6 週目のPANSS総スコアのベースラインからの平均変化では,精神症状の有意な改善を示 し,脱落は1例のみであった。また有害事象も見られなかった。急性期統合失調症に対し brexpiprazoleは有用であると考察する。 臨床精神薬理 22:593-601, 2019 Key words :: brexpiprazole, acute schizophrenia, treatment continuation, agitation, aripiprazole -
Brexpiprazoleを使いこなす──安全な切り替え方法の検討
22巻6号(2019);View Description Hide DescriptionBrexpiprazole(BRX)は,aripiprazole(APZ)に比べドパミンD2 受容体に対する 固有活性が小さく,セロトニン5HT1A⊘2A 受容体への親和性が高いことから,APZで問題に なることがあったアカシジア,不眠などの有害事象の発生リスクならびにこれらによる用 量不足のための効果不十分の改善が期待できる。さらに,APZと同様,ヒスタミンH1 受 容体やムスカリンM1 受容体に対する親和性が低いことから,過鎮静や認知機能障害,体 重増加などの副作用が少ない。BRXへの切り替えは,先行研究や自験例の検討から,上 乗せ後前薬漸減法が適切と考えられた。BRXの薬理学的特性から,多種類の受容体に対 する親和性を有する鎮静系抗精神病薬からの切り替えはより慎重に行う必要がある。BRX への切り替えにより,アカシジア,過鎮静などの副作用の軽減,用量不足による効果不十 分の改善,抗うつ作用,抗不安作用の増強,睡眠改善効果がみられ,統合失調症維持期治 療における有用性が確認された。 臨床精神薬理 22:603-611, 2019 Key words :: brexpiprazole, serotonin-dopamine activity modulator , plateau cross-titration switching, dopamine partial agonist, aripiprazole
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【新薬紹介】
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